第332話 四国戦争 ウーゴの決意
マクスベルを守護していたタイムは、大将として都市を守っていた。
だが、四国戦争終盤。一転して攻勢に出る。
それは、全体とタイミングを合わせての進軍だった。
攻略戦を仕掛けていたサイリン軍は面を食らう。
撤退戦を繰り広げながら、兵を減らしてもピーストゥーへと後退していった。
上手く逃げ切れるか。
必死の逃走している訳は、追いかけてくる兵士が速い。
相手が騎馬軍であったのだ。
アーリアの騎馬二万が、とある女性の元で集結していたのである。
「追撃です。まだまだ、敵を驚かせましょう! 追い払うのにちょうどいい」
「「「おお」」」
先頭を駆けるのは、鬼神ゼファーの妻。
『鬼の嫁』ミシェル・ヒューゼンだ。
大将タイムは、攻撃をミシェルに任せて、そのバランスを自分が見るというスタイルにしていた。
彼女の推進力はアーリアでもトップクラス。
マクスベルからの出撃の成功はミシェルのおかげであった。
彼女の軍も、敵の銃撃にあった際、オランジュウォーカー改で防ぐ。
防具の鉄壁さは、ガイア率いる鍛冶職人たちの賜物。
彼のまた新しい製造過程によって、大幅時間短縮に成功していた。
それは、工場のおかげもある。
鉄の強度を生み出す工場がついにササラで完成していたのだ。
これにより、職人が手を加える部分が少なくなって、効率が強化された。
増産により、アーリア人は銃撃戦の中に突っ込むという相手からしたら恐怖しかない事象を起こす事に成功した。
元より、彼らは武人たち。
銃撃に耐えられるのなら、それはもう・・・。
相手を圧倒するしかない。
「走れ! あれがこの前衛の将なはず。追いかけて捕まえます」
普段穏やかで、冷静な分。
皆からは知将と思われるかもしれないミシェル。
しかし彼女の師は、それとかけ離れた人物。ザイオンだ。
単騎で駆けて、敵を屠る猛将。その弟子がミシェル。
ならば、その彼女が先頭に立ち戦いに出られないなんてない!
むしろ、攻撃に踏み切ると判断した彼女は、ザイオンよりも猛将である。
「この目には慣れた! 私は距離感を失わない」
片目を克服した彼女の槍は、息子であるダンの剣にも負けないだろう。
「この人です。連れていきます」
自らが見つけた人物を、自らが斬る。
美しい槍技で、相手を倒した。
「「「おおおおおおおおおおおおお」」」」
彼女の部隊が歓声をあげると。
遠くの本陣で全体を押し上げているタイムが。
「あれは・・・ミシェルですね。相変わらずだ・・・やっぱり僕以外は強いな」
フュンの子供の時からの将は、皆強い。
タイムも決して悪いわけじゃないが、あとの皆が強すぎて、更にアクも強い。
一筋縄ではいかない強烈な個性を持つ集団をまとめたフュンが偉いのである。
◇
マクスベルの進軍。
ピーストゥー周りへの進軍。
イルミネスの補強した進軍。
三つの出来事が重なり、何も出来ない状況にまで追い込まれたサイリン。
籠城の形で、ピーストゥーに閉じこもった。
そこに三国の軍が集まって包囲を仕掛けた。
本陣をウーゴの元に設定した三国は、ウーゴがいる北に集まった。
「クリスは?」
ギルバーンがタイムに聞いた。
「ええ。今、来ますよ。後ろの状態を完璧にしてから来るそうです」
「後ろ?」
「ええ。補給部隊と治安維持部隊ですね。急速に進軍したので、手中に収めた領土の方の管理をしなければなりませんから・・・彼らもご飯がなかったようで」
「なるほど。そうか・・・サイリンは町や村からも、兵糧を取っていったってわけか。戦うためにな」
「そうみたいです。ご飯が無く、食べられない人もいたそうで。おかゆなどを作っていると。ソロン達が救護班になっています」
民たちから強引に徴収して、兵士たちを食べさせて、戦うだけの力を維持した。
やり方は強引だが、負けるよりはマシ。
そういう考えだろう。悪くはない。
でも、そもそも領土の事で戦いだけを考えているのが悪いのだ。
フュン・メイダルフィアに勝てないのは、そこの配慮の面だろうな。
一将軍なら、良しだが、一領主であれば、悪しだろう。
ギルバーンは、グロッソをそう評した。
この戦い。全ての裏にフュンがいる。
つまり、グロッソやミルスが戦っていたのは、目の前の事象との戦いじゃなかったのだ。
フュン・メイダルフィアに勝てねば、このウーゴ王帰還作戦と、四国戦争には勝てなかったのだ。
裏から大陸を操る男に勝つ。
それは中々厳しいものだろう。
顔の見えない相手、ましてや死んだとされた人間相手。
亡霊と戦う羽目になっていたわけだ。
それでどうやって勝てというのだ。
自分も死ねば、同じ土俵に立てるのかと言いたくなるだろう。
「それじゃあ、作戦を出す。俺が・・・」
「あの」
ギルバーンが作戦を発表しようとすると、ウーゴが話し出した。
「ん? なんでしょうか。ウーゴ王」
「ここは私がやってもいいですか」
「え? ウーゴ王が?」
「はい。グロッソと戦うのは、私・・・ウーゴ・トゥーリーズであるべきかと思います」
ウーゴは決心していた。
自分が戦うべきであると!
「これは前からアーリア王と話し合っていたことなんですが」
二人はすでに話し合っていた。
◇
ルヴァン大陸にいた頃のフュンとウーゴ。
「ウーゴ君。君は、グロッソをどうしたいですか?」
フュンとウーゴは、ミルスについては光と闇の牢獄に入れることを決めていた。
それをウーゴも承諾していたわけだが、グロッソの事を、どうするか決めていなかった。
「私は・・・そうですね。出来たら味方になって欲しい」
「なぜです。君を助けなかった人ですよ」
感情的にならずにフュンは淡々と話を聞いてくれた。
「はい。知っています。でも私は、彼からはそんなに悪意を感じていませんでした」
「ほう。ではミルスはどうです」
「あれは・・駄目です。悪意だらけでした。でもあの悪意を育てたのは、私たちトゥーリーズの王家の問題です。そもそも、ソルヴァンス・・・彼を追い出したことがよくなかった。その大きなしっぺ返しとなって現れたのが、あのジャルマです」
「うんうん」
フュンはウーゴの考えを聞いて、納得していた。
因果応報。
してきた事を、されている。
ただそれだけの事。
と反省が出来るウーゴは、やはり偉大な王となる。
その片鱗があった。
「でも、だからこそ、あなたのような人が、アーリアから来てくれた。ソルヴァンスの力の片鱗を見せてくれて、私は心から嬉しく思います。やはり、私は太陽の人がいると思っています。それがあなただと、私は信じています」
フュンに否定されたとしても、自分はこう思う。
考えをはっきり伝えてくれたことで、フュンは微笑む。
「ええ。そうですか。あなたの考えはそこに行き着いたのですね」
「はい。ここは引きませんよ。私は、あなたが太陽の人だと思います」
「ええ。それでいいです。人はそれぞれ考えが違う。それを否定してはいけません。ただね。違う。という事を頭に置いて、相手を尊敬して会話をしていく、そうやって人と付き合っていくのですよ。いいですね。ウーゴ王。これからは、王ですから、そういう場面が多々ありますよ」
「わかりました」
フュンが満面の笑みになる。それが嬉しいウーゴだった。
「では、もう一回戻ります。なぜグロッソを引き入れるのですか」
「はい。私は、自分が至らなかった。その戒めが欲しいと思います。自分が成長していく過程で、傲慢にならないように、私はマキシマム閣下と、グロッソ。この二人を側近にしたいです。二人と共に生きていこうと思います」
「・・・・わかりました。あなたがそう思うのなら、実現できるかどうか。共に考えましょうか」
ウーゴの決意を聞いたフュンは、グロッソを排除しようとしていたが、ここでとある作戦をウーゴにだけ授けていたのだ。
◇
「みなさん。私はグロッソと戦います。私が将として、彼を倒すことで。彼を味方にしたいと思います!」
「「「なに!?」」」
突拍子もない言葉にこの場にいた全員がもれなく驚いたのであった。
一同驚く作戦。
まさしく、この裏にフュンがいる事を確信する家臣団であった。




