第331話 四国戦争 選択
「ミルス」
ウーゴの声に無念さが残る。目の前の男の醜悪さを憐んでいた。
「・・・き・・・貴様は・・・う・・・ウーゴ。なぜ生きて」
王が生きていることが不思議。
あの時、滝に落ちたはず。
アーリア王と共に消えていたはずなのに、まさか生きているなんて。
「私はアーリア王に救われて、今があります」
「・・・・死んでないのか。奴も・・・」
「ええ。そうです。アーリア王だけじゃない。私もクラリオンもリーガムも。全部が生きています」
「・・・な・・・なんだと!?」
死んでいたと思っていた。
ウーゴも、フュンも。全部。邪魔する者は全て消したと思っていた。
だけど生きている。その事に悔しさを覚える。
王に就任できた理由は、ウーゴが亡くなったから。
それとクラリオンらの親族も亡くなったからだ。
でも生きているのなら、継承権もない。正当性もない。ただの裸の王様が生まれただけだ。
王様の意味を持たない人間が、王として振舞う。
その馬鹿さ加減が、歴史に刻まれた事を理解した。
「あなたは、国を私物化し。私を、心の牢獄に閉じ込めました・・・でも仕方ないと思います」
「なに!?」
「あなたの父君。あなたの祖父。あれらがあなたを作ったのです。私はそう思います。あなたは意思を受け継いだんですよ。彼らからね。自分で作った意思じゃない」
人の意思を受け継ぐ。
それは重要な事だと思うが、正しい意志を受け取らないと、間違った方向に育つに決まっている。
ウーゴはそう思っていた。
フュンの配下の人たちは、皆が人に優しかった。
それは彼の意思を受け取ったからで、ここは血じゃない。人に対する思いだった。
大切な思いを次の人たちに渡す。近くにいる人に伝える。
この行為を、ミルスの家系ジャルマ家がして来なかっただけ。
ただそれだけの事。
だから・・・。
「私は別にあなたを恨んじゃいない。私が非力だった。これが全て悪いと思っています」
「・・・・」
「あなたの力を助長した一因に、私がいるのだから。その責任を取ります。あなたがしてしまった政治を、私が必ず正していきます。民には幸せになって欲しいので、頑張ります・・・なので、あなたも自分を正しましょう」
「なに!? ど、どういう意味だ」
殺される。
そう思っていたミルスは、ここで素直に聞き返していた。
「あなたは残りの人生を反省に費やしてください。サナリアに連れていきます!」
「・・・なに!?」
サナリアへ追放。
犯罪者の流刑地。
究極の牢獄光と闇の牢獄にて、全ての罪を償う。
それが、フュンとウーゴが考えていたミルスを捕まえた時の罰だった。
生涯見知らぬ土地で、心身を鍛えて、生を精一杯生きる。
それが究極の罰である。
贅沢も出来ない環境にいること自体が、ミルスには大きな罰であろう。
「そこの環境は過酷だそうです。でも自分の努力で生きていける。素晴らしい場所らしいので反省してください。レガイアの民を苦しめた事。必ず後悔して、そして、前を向いて生きてください」
自分を苦しめた事よりも民を苦しめた事を後悔して欲しい。
反省して欲しい。
優しい王ウーゴの願いだった。
「・・・か・・・完敗か・・・私の」
体を起こせないミルスは仰向けになって、涙も拭けずに空を見上げた。
若き王に全ての面において敗北した。
それを悟ったミルスは、最後は大人しくなっていた。
◇
「ウーゴ王。進軍します。ですが、何処まで行きましょうか。このままピーストゥーまで押し込む形で?」
ギルバーンが聞いた。
「はい。私は、このまま先にまで進んでいって、サイリンにも停戦命令を出したいと思います。ただ、止まるとは思えない。彼は引けないのだと思います」
「引けないですか?」
「はい。今引っ込めたら、体裁がね・・・一度振り上げた拳を降ろせない。私が死んだと思って行動を起こしているからなおさらだ」
死んだから内戦となっている現状。
ウーゴを待っていた宰相は、ジェシカ一人だけで、他の二人は、王になろうと動いていた。
なので、二人がウーゴが出てきても戦っていた理由としては、王を王として認めずにいる間に、ウーゴらしき人物を排除すれば、あとはどうとでもなると考えたのだろう。
サイリンは、自尊心が高い。
ジャルマにあれこれ言われて、腹を立てている顔を見ていたウーゴは、グロッソをそう評価していた。
「ですから、呼び掛けて・・・でも無理だろうから、彼の意を汲みます。正面からで破りましょう。私はそちらの方が、彼が後悔しないと思います」
「なるほど。計略じゃなく、真正面から戦うと」
「はい。そうです」
「わかりました。やってみますか」
ギルバーンは、ウーゴの為に作戦展開を変えた。
このままサイリンを押す際に、全てを丸裸にしようと、裏から手を回すつもりだった。
ピーストゥーを攻めるフリをして、横の町々を次々に落とす作戦もあったのだが、ここでやめて、直接ピーストゥーに進軍する計画に切り替えた。
「では、連絡をします。タイム殿。イル。クリスに出します」
作戦展開は全体の共通意識へとなる。
◇
ギルバーンたちは無線会談をした。
混線させないように、いくつかで結んで声を一か所に集める方式だった。
「タイム殿。そちらは・・・」
ギルバーンの声に。
「こちらは大丈夫。守り切れます。少々強めの展開でしたが、今は落ち着いています。そちらの猛攻が気になっているのかもしれません。イルさん、何かしましたか?」
タイムが答えた。彼の疑問は、ギルバーンの進軍よりもイルミネスの動きだ。
ギルバーンとウーゴは素直に北から南を制圧しているが、その横にいたイルミネスの方は少々不明な点が多い。
「はい」
「なにを?」
「私たちは進軍速度に合わせて、近隣を小突きました。あちらの町や村に、食糧を小分けに渡してです」
「なるほど」
タイムは、イルミネスのやり口を理解した。
彼は戦わないで、武力をちらつかせて、食糧を配っているだけにしていた。
でもこの食糧を配るというやり方が微妙に厭らしい。
こちらに参加してもらえれば、あなたたちはご飯を食べられます。
マクスベル、ラーンローの双方があるジェシカ・イバンクの領土の人間になれれば、今よりも多くの食事にありつけるのですという宣伝を、戦いの中に入れこんでいたのだ。
「ということは、靡いている?」
「そうです。ギルの近くで反乱は起こっていないはず。どうです。ギル?」
「ああ。そうだな。スムーズにここまで進軍が出来ている。そうか。イルの計略があったか」
「はい。上手くいっているのならそれで良さそうですね。とりあえず、ピーストゥーだけにした方が良さそうだ」
大都市以外をその方式で落とす。
イルミネスは戦う計略じゃない物を選択していた。
「まあでも、ウーゴ王が戦うと言っている」
「ん? レガイア王がですか」
「ああ。そっちの方がグロッソが諦めてくれるとさ」
「なるほど・・・その考えもいいですね」
イルミネスは、相手の考えを否定しない。それがフュンと出会ってからの変化だった。
彼もまた否定はしない。
受け入れて、考えて、話し合いをする。
そこが美しいとイルミネスは思ったので、フュンと同じような事をしようと努力をしている。
「クリス。どうだ。やってみてもいいか」
「ええ。わかりました。ピーストゥー以外を瞬時に落として、そこだけにした後に、ウーゴ王に出てもらいましょうか」
「わかった。じゃあ、イル。北西から頼む。俺たちは北東から入っていくわ。そこから東を全体的に支配して、タイム殿が南西から進んでもらえれば、完全包囲です。これでいける。クリスどうだ。これでよ」
「わかりました。ギル。お願いします。私もタイム殿と一緒に進軍を開始します」
作戦は決まった。
四国戦争最終局面は、正面衝突の大激突である。




