第328話 ルスバニア攻防戦 セブネスの決断
アーリア歴7年3月18日。
ゼファーが攻めないと断言した日は、昨日まで。
ここからは戦闘をしても良い。だからと言って、ルスバニア王国側から攻撃に出る事はない。
なぜなら、相手の兵を1万屠っても、まだ19万の兵士たちが、目前に控えているからだ。
ゼファーらが所持しているのが、半分以下の8万前後で、一度に稼働できるのは6万弱程度。
その理由は、後衛。防砦。塹壕。
部隊は交代制となっているので、常にフル稼働できる状態ではないからだ。
単純に戦うと、物量作戦で負けるから、兵士たちの体力管理をしっかりしなければならない。
ルスバニアは色々と考えて戦争をしなくてはいけない。
◇
「ユーナ。どうだ」
「はい。ゼファー様。こちらの右翼にいるようです。サブロウさんから連絡が来ました」
ユーナリアとゼファーは砦の司令部で話し合いをしていた。
監視塔も兼ねているので、相手の配置が見えている。
「そうか。どのようにするといいんだろうか。我はわからん。細かい作戦は苦手だ」
「はい。今回やれることは少ない。塹壕戦が基準で、入り込んできた敵を少しずつ倒していくしかないです」
「そうか。我らの出番はないのか」
「そうですね。サナリア軍の機動力はここでは必要ないかと思います。ですが、ゼファー様たちは、奥の手の時の為に控えてもらいたい。そこで、ゼファー様の軍も半分に割って、交代制にして、歩兵となって、ここです」
ユーナリアは塹壕地図の巨大空間を指差した。
あなたの戦場はここです。ここを絶対死守でお願いしますと。
「塹壕中央の迷宮の中にいてください。ここに敵を誘い込みます。私が作った戦闘マニュアルによって、ルスバニア兵の皆さんが誘導をしますので、ここで迎え撃ちましょう」
この時の為に温めていた作戦があった。
ユーナリア渾身の迷宮戦法である。
敵が、塹壕に入れる箇所は7カ所。
その7カ所すべてが、中央地帯に繋がっている。
しかし、そこに行かなくてもいいようになっているのだが、彼女の部隊配置がそこに向かうように誘導配置されているのだ。
敵を進ませたくない場所に銃撃戦を仕掛けて、突破をさせず。
迂回させることで、中央に連れこむ形を取る。
それも敵が知らぬ内だ。なぜなら中は迷宮。
ルスバニア兵でも、地図が無ければ、迷うような道であるから、誘導されていることも気付かないだろう。
そしてそこには、オランジュウォーカーを配備したサナリア軍を配置する事とした。
鬼神ゼファーがいれば、侵入してきた相手を狩りきる事が出来るのではと。
ユーナリアが考えた作戦は、ゼファー頼みでもあった。
「うむ。やろう。我が押し切る!」
「はい。お願いします。無線はセブネス殿下に」
「ん? ユーナはどうする気だ」
「私はそろそろイスカルに行ってから、全体を把握します。王様がいないので、その役割を私がしようかと思います」
「全体だと?」
「はい。ルヴァン大陸全体をカバーする動きをしたい。だから、ヴァン様と一緒に海に出ます」
「ん?・・・ん???」
彼女の言葉が分からず、ゼファーは普通に悩んだ。
「大丈夫です。ゼファー様。こちらの全体の作戦は、セブネス殿下とマリアに預けたので、こちらは乗り越えられるはずです」
「そうか」
「はい。それにここには、王様の最大の懐刀。ゼファー・ヒューゼン様がいるのですよ。ここは大丈夫なはずです」
「ふっ。ユーナ。無理に褒めなくてもいいぞ」
「いえ。無理じゃありません。私は王様の弟子です。あなたがどれだけ素晴らしい将かをね。王様からコンコンと教えられてますよ。最大のご友人だとね」
「殿下らしい。まだ我の事を友人だと・・・まったく懲りない人だ」
我は従者。
最後の時まで、あなたを守る守護者であると。
何度も言っているのに、友人だと言い張ってくる。
フュン・メイダルフィアにとってのゼファーは、従者兼、守護者兼、友人兼、最強の将軍であるのだ。
「王様って、頑固ですよね」
「そうだぞ」
「絶対にゼファー様を友人の席から立たせるつもりがないですよ」
「そうだな」
「じゃあ、もう。座り続けるしかないですよね。ゼファー様」
「ああ。そうだな。殿下の為に座らんとな」
最後にユーナリアとゼファーは、笑いあった。
「ユーナ」
「はい」
「お前も殿下の弟子の席に座り続けるしかないぞ」
「私はそのつもりです。私にとって王様は、とても大切な人ですから。何があっても裏切るような真似はしません。王様が愛しているものを私も愛していきます」
「うむ。お前のような弟子を取る。さすがだ。殿下は・・・」
ちゃんと自分の意志を継ぐ者を選んだ。
人との繋がりを大切にする主君の人を見極める目は正しい。
ゼファーは、生涯を捧げた人物を間違えなかったと、自分を褒めた。
◇
ここから帝国軍は、猛攻を仕掛ける。
7カ所ある入口から次々と兵士を投入。
最初は、2万前後の兵を送りだした。
入口から進み、曲がり角に兵士がいたり、そこを何とか突破しても、開けた箇所には土嚢があって、銃撃部隊が待ち構えていて、また前の道に戻り別な個所へ移動。
という一連の流れがどこでも起きて、最終的には塹壕中央に呼ばれていく。
最後に到達した広い部屋には、当然に彼がいた。
「我。ゼファー・ヒューゼン。ここを通らせるわけにはいかない。よって、殲滅を開始する。逃げたくば、来た道を帰れ。帝国軍よ!」
歩兵であろうとも、サナリア軍は強い。
元々が個人戦の強さを持っているからだ。
敵の銃撃を盾で防ぎながら前進して、近距離になったら襲い掛かる。
この恐怖の押し出しが、ルスバニア側の戦闘形式だった。
おめおめと逃げ帰る事が出来た兵士たちは1万。
半数を減らした大激戦が、初戦に起きた。
大敗北に近い結果に、ジャンは焦らずに分析していた。
彼が静かに会議をしたいというのに、一人勝手に憤慨したのが、スマルだ。
まんまとしてやられているではないかとジャンを叱責していた。
しかし、ジャンは、一番やられているのはあなたの部隊でしょと、気にもせずに次の事を考える。
帝国の将として、ジャンは有能であった。
だが、足を引っ張るような人間を持って、この戦いに臨むのは厳しい。
なぜなら、ルスバニア王国側は、一枚岩。
誰一人、作戦に口答えをするような配下がいないからだ。
一致団結。
国を守るため。誇りを守るため。
セブネスとマリアを中心に強い組織であったのだ。
◇
だが、ジャンが有能だという言葉を忘れてはいけない。
勝てぬなら、勝たない。
進めないならば進まない。
この戦略を取り、銃撃戦だけを仕掛けた。
最初に出くわす部隊に対して、攻勢を仕掛ける。
粘られても、根気よく倒すことで、ゼファーを無視する形で、兵士たちを減らす。
ジャンの粘りの戦いにより、ルスバニア側は苦戦を強いられたのだ。
見事な敵の戦略で、ジリ貧になる。
戦いから3カ月で、半数近くの3万の兵を失った。
防衛ラインを維持できないくらいの痛手を負ったのだった。
アーリア歴7年6月22日。
ゼファーを無視するという見事な戦略を仕掛けられ、苦しい状況となったルスバニア陣営は、作戦会議を開いた。
「ミイはそろそろ来ると思うでザンス。だから、仕掛けるザンス」
「セブネス皇子。やりますか」
ゼファーが聞いた。
「うん。やるでザンス。ここは、勝つための秘策でザンス」
扇子を広げたセブネスは、とある決断をした。
覚悟ある表情に皆が緊張する。
「セブネス。やるって・・・あれか?」
「そうザンス。マリア。ユウは、イスカルに下がれザンス」
「え」
「ここからは死闘ザンス。もし、ミイの国が駄目になっても、イスカルがあれば大丈夫ザンス。国民の大半を移動させることは成功しているザンス。だから、お前がミイの替わりをやって欲しいザンス」
「駄目だ。それじゃあ、セブネスが死ぬみたいじゃないか」
「そうザンス。その覚悟で、ミイは、この国で戦うザンス」
「セブネス・・・お前」
マリアを真っ直ぐ見つめるセブネスは微笑んでいた。
この時、マリアは、セブネスの覚悟を受け止めた。
目に宿っている力は、戦う意思がある。
商売人と称されようが、傲慢に商談をまとめる守銭奴と言われようが。
その心は、この国を愛する一人の王である。
従属国の皇子。
現在の立ち位置が、低い位置だとしても、ルスバニアを守るためならば、命をかける男。
それが、セブネス・ブライルドル。
戦う商売人セブネス・ジャルク・ルスバニアである。
「。皆、申し訳ないが、ここからは決死の戦いザンス。命を落とす覚悟も必須。でも協力して欲しいザンス。ミイと、ミイの愛する国の為に!」
「「「もちろん」」」
セブネスは感謝して。
「みんな、ありがとうザンス。じゃあ、ここからが本番」
作戦を発動する。
「落日作戦を発動する・・・ザンスよ!」
フュン・メイダルフィアの計略。
落日作戦が発動となった。




