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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 ルスバニア攻防戦と四国戦争

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第326話 ルスバニア攻防戦 英雄の半身の進言

 初日の初回とは呼べない。

 前座戦のような出来事。

 それが、鬼神ゼファーの鬼の一撃であった。

 初撃での戦果は、大きすぎる成果。

 敵左翼軍の将リグルスの撃破であった。

 こちら側が、圧倒的に数が少ないために、この結果は大きい。

 

 『そう簡単には・・・。お前たちの思い通りにはいってやらん』


 というゼファーの無言の意志が見える。

 そんな一撃だった。

 この一撃にはもう一つ。


 『宗主国よ。属国を甘く見るなよ。我らは命懸けで国を守る』


 この強烈なメッセージもあった。

 これが味方にも敵にも多大な影響を与えた。



 味方には士気向上。

 敵には戦意低下。

 双方の好影響と悪影響は、この先の展開を左右すると見ていい。



 そして、ゼファーたちは相手の一万の兵を撃破して、残りはわざと敗走させた。

 その意図は、もう一度挑んでくる勇気があるのなら、かかってこいである。

 命が助かっただけでも良かったと思っている兵士たちの想いが、他の兵士たちに伝播するのは目に見えている。

 次戦への小さな不安が、大きな不安となれと、ゼファーが考えていたのだ。


 ◇


 悠々と帰ってくるゼファーたちは、塹壕の中に入って、途中から迷路となっていない巨大な中央の通り道から、ルスバニアの防砦の中に帰った。


 セブネスとマリアが、ゼファーを迎える。

 属国の二人は、大きな勝利を手に入れて上機嫌だった。


 「さすがでザンスね」「うんすげえ。先生の将軍。すげえ!!」

 「セブネス皇子。マリア皇女。まだまだでありますぞ。これからです」

 「・・・これが名将というものザンスね」


 セブネスはしみじみと言った。

 エレンラージは、癖のある将軍で、どちらかというと自分と似ていて、謀略型の将なので、相手を粉砕して戦場を支配するタイプではない。

 だから、セブネスは初めて自らが先頭に立ち、相手を圧倒する将を見たのだ。

 皆が、猛将と呼ぶ人物を目の当たりにして、内心喜んでいた。


 「ゼファーさん。最初の勝利は大きいザンスよね」

 「ええ。ですが、我はここから一つ仕掛けをしたいのですが。セブネス皇子、あなたの許可をよろしいでしょうか」

 「ん? なんのザンス」

 

 ゼファーは、この戦いでは、独自に行動をしない事を決めていた。

 フュンから託されたマリアとセブネス、この二人が大将。

 ならば、この二人を殿下と同等の扱いにするべきだと、意識を統一していた。


 「・・・はい。我がリグルスという男を返しに行きたいと思います」

 「ん!?」

 「我は敵将を見たいのです。この国を詳しく知らない我では、戦いの際に人読みが出来ない。それでは勝機を掴むのに難しいので、総大将を見てみたいのですよ」

 「・・・なんとそれは・・・あなたが殺される恐れが、あるザンスよ。許可は難しいザンス」


 セブネスは自慢の扇子をゼファーに向けた。


 「ええ。当然。そのリスクも承知の上。ですが、我はですね。敵はこちらを殺さぬと思っています。セブネス皇子。相手は20万の兵を持っているのです。それにあちらは、オスロ帝国の正当な支配者が、自分たちだと思い込んでいる」


 本当は、オスロ帝国の軍ではない。

 なぜならロビンが正式な王じゃないからだ。

 でも相手の言い分では王の代理という事になっているので、ゼファーは曖昧な言い方をした。


 「うん・・・そうザンスね」

 「ということは、その看板を背負っておいてです。話し合いをしたいと、こちらが白旗を挙げていったのに、その人間を、単純に殺すとは考えにくい。もしそれで、我らを殺したら、あの男は生涯の恥を得るだけです。一生言われますぞ。使者殺しだとね」


 ゼファーの意見。

 たしかにそうかもしれない。

 面子にこだわりがあるのがロビンだ。

 だから今まで、表では動かず、裏でコソコソと企んできた。

 失敗した時に、表沙汰にならないためだろう。


 ならば、その側近であるジャンならば、使者を殺すことはないかもしれない。

 でもかもしれないで、こちらの切り札とも言うべき鬼神を送り出すのもリスクがある。


 「ですが、さすがに・・・ザンスね」

 「セブネス皇子」

 「うん」


 ゼファーの意見は素直に頷くのがセブネスである。

 彼の将軍としての力を信じているからだった。


 「ここは普通に戦うと、我らは負けるのが鉄則」

 「・・・そうザンスね。この数の違いは大きいザンス」

 「そうです。ですが、我は数だけで戦争が決まるとは思っていない。我らは、こんな差くらいは、いつも跳ね返してきました。我は殿下と共に、戦場を回っています。それで、この程度の出来事は死地にならない。我は敵陣深くで、挨拶に行って、ご飯を食べたこともあります」

 「え?」


 ゼファーの懐かしい思い出の一つに、ネアルの本陣に行って、食事をした事がある。

 敵のど真ん中。

 いつ、どこで、殺されてもおかしくない地で、ゼファーとクリスは堂々と食事を楽しんだのである。

 それと同じことを今やろうと思っていた。

 ただし今は、クリスがいない。

 あの時の彼と同じような事は出来ないが、それでもゼファーは敵を知ろうとしていた。

 歳を重ねて、ただの戦うだけの武将では終わらない。

 ゼファーは、しっかり軍大将としての器を磨いていたのだ。

 だから、ゼファーが英雄の半身と呼ばれているのである。


 「セブネス皇子。我らは、思っていないが、実質は格下なのです。だから、あらゆる手を使って勝ちを得ないといけない。どんな事をしてもです」

 「うん。そうザンスね」


 フュンの考えの一つに、自分よりも同等又は格下の人間であれば堂々と戦うべき。

 だけど、格上が相手ならば、ここは是が非でも勝ちにいくべきである。

 どんな手を使っても、勝利を目指すためには、相手を騙さないといけないのだ。


 「はい。それには、リスクを恐れてはいけない。勝ちをもぎ取る。その気合いで、相手を圧倒しないといけない・・・と我は思うのです。皇子。負けと勝ちを天秤にかけるのではなく、これをしたら死ぬかもしれない。でも大勝ちするかもしれない。それくらいの博打を幾度もすることで、この困難を乗り切るのですぞ。我はこの戦いをそう見ます!」


 リスクは承知の上。元より、死と隣り合わせの大戦場。

 相手が数で圧倒しているのならば、ここは、結束力と人読みが必要になってくる。

 フュンの半身として、彼に誠心誠意、身を粉にして仕えたゼファーは、対戦相手が人であることを良く知っている人物だ。


 ただの獣と戦っているわけじゃない。相手は人なのだ。

 だから、相手の考えから、強さを知ろうとする。

 それはフュンと同じ戦略なのだ。


 「なるほど・・・そうザンスね。ここは勝負の時、いかなる状態でも、こちらは不利ザンスもんね」

 「そうです。でも、状況が不利なだけであります。心は相手も負けておりません。我らは、この大軍が相手でも、敵に負けるつもりがありませんよ。皆の顔を見ていますか。立派な顔つきです」


 苦しい状況が辛いだけ。ただそれだけの事。

 ここにいる兵士たちはセブネスとマリアの演説で、力が漲っている。

 ゼファーは勝利しか見えていない。


 「ええ。あなたの言う通りザンス。不利なだけで、負けていないザンス。良いザンス。許可するザンス。ただし、ゼファー殿。死なないでくださいザンスよ。あなたを頼りにしているでザンス。帰ってきてください」

 「はい。セブネス皇子。ここは我におまかせを。我が交渉に行きます」



 こうして、初日の初戦で、いきなりの大将同士の話し合いが始まったのだ・・・。



 

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