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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 ルスバニア攻防戦と四国戦争

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第324話 ルスバニア攻防戦 歴史の一ページ

 アーリア歴7年3月15日。


 帝国全土を手中に治めたいロビンは怒涛の展開をしてきたが、ここで止まる。

 それは攻め込んでいった軍が、ギーロンを2カ月経っても落とせずにいたからだった。

 あの軍がギーロンを落としてくれれば、他への軍事展開も余裕であるのに、最初の一歩目が上手くいかなかった。

 ロビンたちは、ギーロンはすぐにでも落とせるものだと計算をしていたために、当てが外れた形となったのだ。


 今の帝国軍のギーロンでの戦況は。

 南側が、エレンラージの搦め手によって、雁字搦めになって動きを止めてしまい。

 東側は、メイファという女性の軍運用に翻弄されている。

 彼女がのらりくらりと兵を動かして、こちらのやりたい事を躱されている状況だった。


 帝国軍が、押し出すように攻撃に出てていくと、反乱軍はまるでスポンジのように攻撃を吸収して、完全な防御体勢を崩さず、逆に帝国軍が一時休憩に入ろうとすると、反乱軍は砦から出て攻撃に出てくる。

 押しては引き。引いては押してくる。

 実に厭らしい戦術で、反乱軍は動けていたのだ。

 メイファという女性の戦略がとてもうまく機能していたのだ。



 バングも良き将であるが、メイファには敵わない。

 それをバング自身も気付いている。

 彼女の思考の鋭さと、こちら側の弱点が、どこかのタイミングで、必ずバレているのだ。

 移動の遅い部隊を狙い撃ちに出来たり、銃の扱いが上手くない所から切り崩されたりと、とにかくメイファという女性の観察眼が素晴らしいものだった。

 でもそこに気付くバングも良き将である。

 だから無理には攻めないという判断を取ったことが良かった。

 彼らは負け続けていても、兵があまり削れていない。

 継戦は可能であることがバングが有能な将の証だった。


 なので、ここでロビンは、ギーロンが落とせないのなら、ルスバニアを崩した方が良いだろうと考えた。

 北ではなく、一転して南へ。

 ルスバニアを主力で屠る事にした。

 レックスをジュードに当てるために、彼は帝都に置いて戦力として温存。

 ルスバニアを目指したのは、ロビンの懐刀『ジャン・ラヤン』である。

 

 

 ◇


 昼。

 ルスバニア国境付近。

 大軍で押し寄せたことで、慌てている防砦の上の兵士たち。

 彼らを見て、冷静さを失わなずにいたのがジャンである。


 「ゼファー。この人がいれば良しですね。いないとなると、無理に攻めずとも良いかな」


 ジャンの目的の一つが、ゼファー・ヒューゼンを殺すことである。

 そうすることで、ルスバニアが完全な反乱軍であることを証明するのだ。

 そのため、ここに彼がいないのであれば、じっくりルスバニアを抹殺すればいいと思っている。

 この冷静な判断を取れる事が、ジャンが優秀な証だった。


 「まず、呼びかけをしましょうか。ウルーチス。声を出します」

 「はっ。閣下」

 「いきます」


 ◇


 戦争の名は『ルスバニア攻防戦』

 オスロ帝国の内乱史上最大級の死傷者を出した戦いだ。

 帝国の歴史に、死者数が刻まれた貴重な戦略の戦い。

 その始まりは、意外にも反乱軍ではなく、帝国軍ジャンの声からである。


 「ルスバニアの諸君。反乱をしてはいけませんぞ。大人しくロビン殿下の元に下りなさい。余計な事をしなければ、あなた方は生きられるのです」

 「そうでザンスね」


 敵に話をさせないとして、出てきたのが、セブネス。

 威風堂々と砦の上で、彼は敵を待っていた。

 事前に情報をもらっていたので、すぐ近くで待機していたのである。

 国家を守るために最前線に出て来る皇子セブネスは、速攻で言葉を返すことで、属国としても戦う意思を兵士たちに見せていた。

 反旗を翻す。しかもこちらの兵数も足りない。そんな状況なのだ。

 だから、せめて士気だけでも落としたくない。


 ここは損得勘定じゃない。真に人を思っての事。

 殿下セブネス・ブライルドルは、戦う殿下であったのだ。


 「なに!? 殿下がそこにおられるのですか」

 「当然でザンス。ミイが、自分の意思で戦うと決めたザンス。勇敢なルスバニアの兵。ミイは、彼らと共に、ここで戦うザンス」


 少しでもいいから、ルスバニアの兵に戦う勇気を与えたい!

 セブネスは鼓舞付きの返事をした。


 「な!? あなたのような優秀な方がなぜ。こんなにも無謀な戦いを・・・」


 ジャンの戸惑いの声が不安を煽りそうなので、セブネスはその言葉を遮断する。


 「ユウ! ジャンでザンスね」

 「はい。殿下」

 「ジャン将軍! あなたに下り、兄様に下る。そうなると、この国とミイがどうなるか分かるでザンスか」

 「それはそのままのお立場でいられますよ。当然です。反旗の旗を降ろせば、殿下は許してくれます。今は亡き陛下の名代なのですから。安定した政治を・・・」


 ここで、セブネスが言葉を遮った。


 「甘いザンス。ジャン将軍」


 びしゃりと相手の意見を否定する。


 「その流れは、ちゃんちゃらおかしいザンスよ」

 「おかしい。どういうことですか」

 「ロビンは、そんな男ではない! あの男は、そんな風にミイら兄弟を見ていないザンス! 奴は陛下の跡目に相応しくない!」

 「いいえ。あの方は、びょ・・」


 とにかく要らぬ反論は遮断する。

 セブネスはせっかちなのだ。


 「平等? ありえんザンス。奴が一番、兄妹の中で不平等ザンス」

  

 セブネスが扇子を広げて、自分を扇いだ。

 敵に向かって、自分はここにいるぞとのアピールだった。


 「奴は、自分が優秀だと自負しているザンス。今まで、全ての出来事で強かに自分を隠し、実力を隠し、戦力を隠していた。来るべき時に備えて、奴は動き出すつもりだったザンス」


 そうフュンが行動を起こさずとも、ロビンはどこかで動き出すつもりだった。

 皇帝がレオナを指名したら、レオナを除外すればいい。

 皇帝がそのまま自分を指名したら、付き従わない兄弟を除外すればいい。

 このように考えていたのだ。

 だから、選挙が邪魔であった。

 フュンがいなければもっと上手くやれたのに、あの行為のおかげで誤算が生まれていたのだ。

 選挙活動の方に力を入れねば、権力を得られぬやり方は彼が今後にやろうと動き出す方法よりも難しかった。


 でもこの選挙のおかげで、ロビンの野望の最大の障壁が生まれたのだ。

 それが・・・。

 

 「そう我ら兄弟が結束できるきっかけとなったのも、ロビンの野心のおかげザンス。ある意味では感謝しているザンスよ」


 兄弟間の結束だった。

 フュンの考えた通りに、ブライルドルの兄弟は、ロビンとクロを除いて、力を合わせる事となったのだ。


 「野心ですと! 殿下に野心なんてない。私欲のない方だ」

 「それは騙されていて、可哀そうザンスね。ジャン将軍! 奴は野心の塊。それを見抜いたアーリア王が、あの選挙を仕組んだのザンスよ! あれのおかげで奴は本性を早く出した。そして、ミイら兄弟は結束したのザンス」

 「アーリア王がですと。そんな馬鹿な。他国の王の分際で、我が国に計略なんて出来ないはずです」


 小さな国の王が、大国家とその家族を操るなど出来るはずがない。

 ジャンの思考は普通の人間の物。 

 彼を馬鹿にすることはできない。

 むしろここは、フュンがおかしいのである。

 フュンが思うままにジャックスとジャックスの子供たちを操ったのが凄すぎたのだ。

 

 「あるのザンス。彼は、怪物ザンス。ミイが出会った人物の中で、最も優しい人間が彼で、最も恐ろしい人間が彼ザンス。未来を見通す目。人物の性格から行動予測をする達人。それが彼ザンス。彼の計略にまんまと引っ掛かったのがロビンザンス! 間抜けであったザンスね。気付かない内に彼の手の中にいた事も知らないで・・・馬鹿ザンス。なまじ優秀だと思い込んでいる分、余計に馬鹿ザンス。ロビンは!」


 兄を兄とも思わない。

 セブネスは鼻で笑いながら、ジャンたちに話しかけていた。


 「くっ。殿下。ロビン様を馬鹿にするのもた・・」

 

 せっかちだから話をぶった切る。

 相手の言いたい事を即座に理解してしまうがゆえに、セブネスが話を聞かない人間に見えてしまう。

 しかししょうがない。

 彼は頭の回転が早すぎて、相手の言いたい事が分かると話したくなるのだ。

 無駄のある会話が苦手である。

 だからフュンとの会話は有意義だった。

 彼は無駄を極力省いた会話をしてくれるからだ。

 実はセブネスはフュンとの会話を楽しんでいた。


 「馬鹿にしてはいないザンス。事実を述べているザンス・・・・ジャン将軍。ユウが率いてきた20万の大軍。実に壮観ザンスね。素晴らしい数ザンス」


 防壁を囲う20万の大軍。

 端が見えないくらいに遠い距離にまで人がいる。

 東の山、タロイス山脈の麓の方にまで、人がいるのは初めてだろう。


 「しかし、ジャン将軍。ユウは、大軍指揮は初ではないザンスか?」

 「・・・ええ、それはそうです」

 

 正直に答える所が誠実な人だと、セブネスは微笑んだ。


 「それでは勝てないザンスよ」

 「いや、さすがに勝てます。殿下の所には4万くらいの兵士なはずです・・・五倍差がある。ここは押し切れます」

 「ええ。そうでザンス。ミイらはユウの半分以下の兵士しかいないザンス」

 

 セブネスが本当の事を言うか・・・・否である。

 実際はまだいる。それは。


 「こっちは、ユウらの度肝を抜く隠し玉がいるザンス」

 「え? 隠し玉」

 「いけザンス」


 セブネスが発した後、彼の隣に勢いよく、少女が飛び出した。

 

 「ジャン! あんたは勝てんよ! あたしらがいるからな、こっちが負けるわけねえ」

 「そ、その声は・・・マリア様!?」

 「ルスバニア。イスカル。両国の力を持って、あんたらには負けねえ。その宣言をしてやるよ。いいか。あたしらはここで、勝つのよ」


 マリアが、砦のその縁に立つ。

 腕組みをして、相手を挑発する姿は、まさしくミランダに似ていた。

 彼女の影にいるサブロウは昔に戻ったような感覚に陥って、喜びに溢れていた。


 「んじゃ! さっさと来いや。帝国軍。あたしら、連合軍。兄妹で力を合わせてっからさ。絶対に負けねえんだよ」


 ここに来ての更なる挑発、驚きの声しかジャンらは出せなかった。


 「よっしゃ。かかってこい! オスロ帝国!!!」

 

 大胆不敵な挑発が、ルスバニア攻防戦の開戦合図だった。

 ルスバニア対オスロ。

 

 のように見える戦いの裏には、彼らがいるのである。

 太陽王に照らされている彼らが・・・。

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