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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 いざ決戦へ

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第323話 ん? 反乱軍じゃない!?

 ギーロン王国の徹底抗戦は、オスロ帝国側にとって予想外であった。

 霊峰ハザンからの侵略が難しい事は、百も承知でロビンは戦争を仕掛けている。

 だから、ここは正面突破。

 二方向にある防砦をどちらかを攻略して、その先にある王都ニャルコメルを攻略する。

 南か東。

 どちらか一方でも攻略すればいいだけと割り切った考えをせずに、双方を同時に攻めて、敵の兵数を分散させれば、敵の方が兵数が少ないので、対処が出来なくなるだろう。

 単純な物量作戦だけで、ギーロン王国が簡単に苦しむはずだった。


 帝国が持つ兵数は、この時点だと80万強。

 予備を加えるともう少しいる。

 内ロビンの元にいるのが最多で、60万ほど。

 

 レオナの革命軍には15万。

 ギーロン王国は6万。

 ルスバニア王国は2万。

 

 ただし、セブネスは強かなので、帝国に申告していない隠しの兵がいる。

 これがプラスで4万あって、ルスバニア軍も6万だった。

 このほかにイスカルの1万がある。


 それでも、革命軍と反乱軍を足しても、28万しかおらず、軍量が圧倒的に違う。

 さらに大将軍レックスが強い。

 彼を筆頭に、ロビンの隠している将たちもいるから、余裕で勝てるだろうと睨んでいた。

 恐らくは一年もあれば、全ての敵軍を鎮圧出来ると思っていた。


 ただ、それが上手くいかない。

 ギーロン王国を最初に狙った理由は、海の攻略戦をする必要がないからで、レオナとセブネスを倒すと考えると、当然海戦まで視野に入れないといけない。

 

 でも海での戦闘を最初にするのは難しい。

 向こうの方が艦隊が多いからだ。

 レオナが、ビクストンを保有している状態なのが、ロビンにとっての難しい攻略戦の盤上となった。

 だから、電光石火でギーロンを落として、あとは二方向だけを気にすれば良しにしたかった。

 なのに、このギーロンが落ちないとなると、予定は狂う。


 

 「どういうことだ。バングからの連絡と、シュルートからの連絡。双方で、落とせないと来たぞ」


 机を叩いたロビンは、戦況の悪さに苛立つ。


 「兄さん。シュルート閣下の相手が、エレンラージ将軍だそうで」

 「ああ。聞いている。なぜエレンラージが? どういう経緯なんだ・・・」


 エレンラージは帝国の将なはず。

 なのに、ギーロンに味方している理由が二人には分からなかった。

 彼らはこちら側の内情を詳しくは知らない。

 エレンラージの出身がルスバニアで、セブネスの命でギーロンの守護者になっていることをだ。


 「まあでも、エレンラージ将軍ならば、シュルート閣下が勝てないのも・・・」

 「当然か。さすがにな。大将軍相手ではな。奴も難しいだろう。しかし、バングがなぜ勝てん。もう一方向は、手薄になるだろうに・・・」

 

 南側にエレンラージ。東側に謎の女性。

 落とすならそちらの東側なのに、なかなか落ちない。

 それは何故かと二人は悩んでいた。


 「クロ。聞いているか」

 「はい。連絡してきた兵士は、『メイファ』と言っていました」

 「メイファ? 聞いたことがないな」

 「真偽はたしかではないのですが、アーリア王の配下だと言っていたそうです」

 「アーリア王のだと。奴のか」


 死んだ男の部下が、戦争に参加している。

 意味のある行為だと思えない。

 理解不能だと二人の思考は止まりかけた。


 「何故ここで軍事を・・・そういえば、あの文書」


 ロビンは最初にこの部屋に来た時の違和感を思い出した。

 皇帝の執務室に飾ってある文書を見る。

 幾重にも鍵がかかった厳重なケースの中に、それがある。

 一見すると、賞状を飾るためのものに見えるが、それは違う。

 部屋の上部の壁に埋め込まれているように、飾ってあるのだ。

 他の文書は、戸棚にしまってあるのに、これだけが異例の扱いだった。

 鍵を開けずとも、中身の文章が見えるようにしてあるので、なんだか、ここに来た者に自慢しているかのようにも思う。


 「これか。まさか。この約定が発動しているというのか」

 

 フュン・メイダルフィア又はゼファー・ヒューゼンが生きていた場合。

 現皇帝又は次の皇帝の間で戦乱となった時に、アーリア人たちが軍となって参戦できる。


 この文章、オスロ側、特に帝国軍ロビン側にとって、絶妙に嫌な文章だった。

 ロビンはこれのおかげで、アーリア人たちがこの帝国内で自由を得ていることが不満だった。


 「くそ。ゼファーという男はどこにいる。クロ。奴を殺さねば、まさかだが・・・このままだと、奴の家臣たちが、私たちを常に邪魔する気か」

 

 レオナ。セブネス。この両方を攻めようとしていたロビン。

 でもそれをいちいちアーリア人が邪魔してくる可能性が出てきた。

 アーリア王を殺したとしても、その部下たちが、どこかの場面でやって来るとなると厄介だ。

 ロビンやクロも、レックスたちの特訓の噂は聞いた。

 実際に見に行くことはなかったが、こちら側が負けたという情報だけは手にしていた。


 レックス対ゼファー。

 レックス対レベッカ。

 

 ここらが互角でも、ジュードは敗れているし、エレンラージも敗れている。

 そして更なる噂だが、彼らの他にも、強い将軍がまだいるらしい。

 その中の一人が、そのメイファという人間じゃないのか。

 ロビンはその予測をしていた。

 

 

 「まずいぞ。どこにゼファーという男がいるんだ」

 「ど、どうしました。兄さん」

 「クロ。ゼファーを探せ。奴を殺さねば、正統な軍となってしまう」

 「ん? 意味が分かりませんが・・・」

 「見ろ。この軍という所だ」


 ロビンが文章を指差した。

 皇帝の約定の中にある皇帝と同等の軍事権を所持する。という部分だ。


 「私たちとは違う。別な意味が込められる軍。という事になると、奴らの軍も正式な軍となってしまう。アーリア人たちが参加している軍がな」

 「・・・・あ。まさか」

 「そうだ。奴らがもし各国の味方をしていたら、配置されている軍は、正式な軍となってしまう。この文章のせいでな」


 ギーロン。ルスバニア。イスカル。

 どこかに、アーリア人がいれば、その軍が正式な軍となる。

 ロビンが焦る理由は一つ。

 真っ当そうな言い訳を持って、今の自分は継承権第一位の力を使って、皇帝の代わりを務めている。

 そんな状態であるから、実際は不安定な状態であるのだ。


 後継者はレオナなはずだと結託されると困る。

 帝国の人間は、選挙の結果を知っている。

 ジャックスの家臣団を大方排除できても、その下の人間までは排除できないので。

 選挙の結果が確定している現在では、いくら継承権第一位でも、正統な後継者であるレオナが生きている状況であれば、ただの継承権第一位という事になる。

 優先順位が選挙で決まっているのだ。

 ロビンはどう転んでもレオナの次。


 それに、皇帝を殺した犯人だと言っても、その確たる証拠がなく、犯人の言動を聞いたというロビンの曖昧な言葉だけで、帝国はレオナを犯人だと確定させている。

 しかしここで少し考えれば分かるのだが。

 この状況だと、皇帝殺害などよく分からない話で終わっても良いのだ。


 ここをロビンが上手くまとめているから、多少強引に国家運営が出来ている。

 しかし、レオナの仕業じゃないと、部下たちが疑問に思った瞬間に、ロビンの状況はたちまち悪くなる。

 だからロビンは、次々と討伐戦争に出ていた。

 内政は自分が部下を見れるから良しとして、軍務全体は難しいので、考えさせないつもりで出陣させているのだ。

 今、この文章が公に出れば、勝手に軍を動かしているのは、ロビンだということに軍務でもなるだろう。

 そうなると、味方の中からも、この話の展開をすることが可能だから、ここに誰かが気付いて、声高に叫ばれてしまうと、ロビンの正当性が落ちていくのだ。

 そこが恐ろしい。

 今はフュンが死んでいるので、ゼファーを殺せば約定は放棄できる。

 前皇帝がした約束の効力を完全に放棄できれば、安心であるから、是が非でもゼファーを殺さねばならない。


 だがしかし、相手が鬼である事をこの二人は知らない。

 鬼神ゼファー。

 たとえ、発見できたとしても、戦って勝つまでは分からないと言える。

 なぜなら、実力がレックスと同等という噂があるのだ。


 だが、その実力が真の実力なのか。

 模擬戦如きでは、ゼファー・ヒューゼンの力を語る事が出来ない。

 レックスの模擬戦後の証言で、そのような言葉を残した。

 英雄フュン・メイダルフィアの半身である彼を戦場で破るのは、雲を掴むくらいに難しい。



 「クロ。探せ。奴を探して殺すしかない。こちらの今後の為に、この文章の効力をなかったことにしよう」

 

 ここから、ロビンたちは、ゼファーを躍起になって探すことになった。



 ◇


 ギーロンでの戦いが続いている状態と並行して、ゼファーを探していたクロ。

 彼の部下たちは、実に優秀な諜報員だ。

 ボリス家の全面協力で動いている裏の部隊で、その部隊は、主に各地の情報を取って、一つ信憑性の高いものを選ぶ。

 それは南に移動するセブネスの隣に槍を持った大柄の男がいたとの話だった。

 その後に、アイショルダの駅でも目撃情報があった。

 だから、ゼファー・ヒューゼンはルスバニア王国にいるのだと予測を立てた。


 「兄さん。ルスバニアにいるらしいです」

 「そうか。どれくらいの確率だ」

 「9割方」

 「十分だな。軍を出す。ついでにセブネスを殺す」

 「はい」

 「量は・・・20万で十分だな。セブネスが強かで、準備をしても、10万も兵を持っていないだろう」


 もう一つの大決戦が始まろうとしていた。

 ルスバニア王国対オスロ帝国。

 それは、オスロ帝国の運命を決する戦いの第二戦であった。

 




ここから、ラストまで。

一気に展開しますので、よろしくお願いします。


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