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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 いざ決戦へ

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第322話 機先を制する

 アーリア歴7年2月1日。


 オスロ帝国ジュード軍は、ジュードが不在であっても、攻撃を仕掛けるために、展開してきた。

 帝国の軍隊は、急激な状況の変化で、混乱をしないために、軍運用はそのままの形で行う事が決まっていたために、ジュード不在でも名称がジュード軍だった。

 

 ちなみに、軍の兵士たちには、ジュードが帝都にいない事を伏せて、ジュード軍が運用されている。

 彼の軍は帝都よりも南の地域で、グロスベルという場所が主体の軍であるので、帝都から距離が離れていたために、帝都で起きた事件の詳細を知らなかった。

 ジュードが消えた事。

 それだけは、幹部たちが知っているが、レオナと共に消えたとはロビンたちからは教えられず。

 ロビンは、とにかくレオナ一人を狙い撃ちにして、もし味方をしている皇子や皇女がいれば殺すとしていた。

 だから、ジュード軍への命令は、ギーロン王国内に、レオナがいるかもしれないから、言う事を聞かない場合は攻撃をしても良いとした。

 それか、ギーロンに反逆の意思がある場合も、交戦してよいとの命令を出していた。

 

 現在のロビンの周りには、味方だらけで、反ロビン派のような人間が少ない。

 唯一、彼と距離を置いているのは、リュークだけ。

 なぜ残った。

 と、ロビンが率いている家臣団が思うほどに不可思議な事で、想定外の出来事だった。

 公平性を持っていた家臣の一人で、ロビンの皇帝のような振る舞いを良く思わないはず。

 それなのに、彼はロビン側に立った。

 そこの気持ちが、ロビン陣営の誰もが理解できなかった。


 

 この日、ついに帝国軍と反帝国軍が激突する。

 反帝国軍とは、三重同盟の人間たちを指す。

 この内乱は、のちにオスロ戦記とアーリア戦記では、覇者戦争と呼ばれるものとなり。


 各軍の名称として。

 帝国軍が、ロビン。

 反帝国軍又は反乱軍が、マリアら。

 真の帝国軍又は革命軍が、レオナとなっている。


 三国に別れるような形になっているわけだが。

 これが、フュンがこちらの大陸に来る前に考えていたことだった。

 それが起きてしまった。

 起こさないように注意はしていたが、こうなってしまってはしょうがない。

 彼は、この状態になった時の為の準備をしていた。


 反帝国軍には、次世代たちではなく、超一流の指揮官たちを置いていたのだ。

 フュンと同じ世代の人間で構成する。

 その理由は、守備にあるからだ。

 レオナたちは攻撃に出る。しかしマリアたちは守備に回る。

 だから、一手間違うと大敗北間違いなしの戦場。

 ここに送り込むには、幾度も困難を乗り越えてきた経験が必要だ。

 だから、フュンは、自分の世代の将を貸し出したのである。


 『メイファ・リューゲン』

 ギルバーンの妻にして、過去は月の戦士の副長で、今はロベルトの戦士の副長。

 旦那であるギルバーン曰く。


 「俺よりも強い。これは間違いない。何が強いって・・・全部だよ。全部」


 と投げやりな回答が来る。

 彼女は、知略。武。双方で最強クラスの人間だ。

 ジルバーンの基礎を作ったのも彼女で、教育も上手である。

 月の戦士たちから言わせると、彼女は皆の姉御である。



 ◇

 

 戦いの前、メイファは、砦の上にて目下の敵を見つめた。


 「これは・・・さすがは足ですわね。軍の列に乱れがない」


 並んでいる敵兵たちに乱れが生じていない。

 銃を持っているので、ワルベント方式で来るのかと思いきや、どちらかというと、アーリア寄りの戦闘形式を持っていると思った。

 

 「どれが、バングでしょう?」


 ジュードの足を探した・・・。


 ◇


 「ん? 見た事がない女性がいるな。あんなのがいたか。この国に・・・いや、待てよ」


 バングは軍中央の位置から、砦の上を見た。


 「スーザン様か!?」


 ギーロン王国最後の姫『スーザン・ベルク・ギーロン』

 レイ・ブライルドルの母で、女傑。

 ジャックスの片腕と呼ばれた女性で、リカルドと双璧だった。

 武はリカルド。知はスーザン。

 三大将軍誕生前のジャックスは、二人を重宝して、軍運用をしていた。


 「いや、ありえん。スーザン様は亡くなったはず・・しかし、あの姿は」


 遠くに見える姿でも妖艶な雰囲気がある。

 あの際立つ美の風格は、スーザンに見えてしまう。

 でも仕方ない。

 なにせ、あの実子であるレイの目にも母と見えるくらいに、メイファは似ているのだ。


 ◇


 「さてさて。そちらの中に、バングという殿方がいるとの話ですが。どなたでしょうか?」


 優雅にゆったりとメイファは、会話をしようと試みる。


 「私です。あなたは、誰ですか! スーザン様・・ではないですよね」


 バングは念のために丁寧に出る。


 「はい。私はそちらの方を存じていません。私はメイファ・リューゲンです」

 「メイファ? 聞いたことがありませんね。どちらの方で? レックス軍。エレンラージ軍にもいないはずだ」

 「はいもちろん。私の主は、太陽の人フュン・ロベルト・アーリア様でありますから、皆さま方が私を知らないのは当然のことです」

 「フュンだと」


 皇帝陛下の相談役!?

 バングは直接見た事がないが、名前だけは知っていた。


 「待て。そちら側の人間がなぜ、この国の事態に首を突っ込む」


 完全な敵だと認識したので、言葉がやや強く出ていた。


 「ええ。それはもちろん。我らの主。フュン様がこの国を救うために立ち上がっているからですよ」

 「なんだと。他国の分際で、武力介入をする気か。何の権利で、戦う気だ。貴様らは」


 元々ギーロンを屈服させるために戦場に来たわけだが、この徹底抗戦の構えを見て、バングの態度が徐々に強くなっていく。

 ギーロンの砦の上の兵士たちが万全な状態で待機しているのだ。

 ここで戦うのだという想いが見える。


 「はい。それはあなた方の皇帝ジャックス・ブライルドル陛下のご意向です。あなたは、ご存じない」

 「陛下の意向だと」

 「ええ。あなたの皇帝は、我が主。フュン様とある同盟を結びました。その同盟の中に特殊な権利を持ったアーリア軍の結成を許しているのです」 

 「な、他国に・・軍事権!?」

 「このルヴァン大陸では、フュン様のアーリア軍の展開が許されています」

 

 メイファの一言に。


 「「「は!?」」」


 ジュード軍全体が騒然となった。


 「我が主フュン様は、友ジャックス陛下の為に、この大陸の安寧を願い。動きます」


 メイファの声が一つ覇気のあるものに変わる。


 「我ら、アーリア軍は、オスロに、真の皇帝を誕生させるために、殲滅王ジャックの剣になる事を、ここに誓おう。各地に散らばった我らは、ここで帝国を取り戻す・・・・我らは、我が物顔で帝国を牛耳ろうとするロビンを成敗する。そして、あなた方が偽りの皇帝を支援することを止めてみせるのです!」

 「い、偽りだと。ロビン様以外に、誰が王を名乗れるのだ。この状況だぞ。レオナが裏切った状況で、一体誰が?」


 ロビン以外にいるのか。

 レオナが前皇帝を殺し、他の皇子や皇女はいなくなり、従属関係の子らは帝都から逃げ出した。

 こうなれば残された選択肢はロビンだけじゃないか。

 誰もが思う事である。


 「当然。レオナ・ブライルドルであろうに、そんな事もお忘れでしょうか。選挙で正式に王の後継者になられたはず」

 「馬鹿な。そいつに陛下は殺されたのだ。本物の王になどなれるわけがない」

 「いいえ。あなたに命令をした皇子が、皇帝となる事だけは避けねばなりません。それを自覚してもらいましょうかね。あなたたち、死に物狂いで、私に挑んできなさい。でも、可愛い坊たちでは、私のこの足も掴めやしないわ!」


 メイファは、更に声が変わった。腹の底に響く良き声だった。


 「聞け。ギーロン兵よ。我らアーリア軍は、真の皇帝を支援する軍で、オスロ帝国の皇帝陛下の意向に従い、この国を守る一員となっている。ということはだ。我らと共に、あなたたちが戦うというのなら、あなたたちもまた皇帝を支援する軍となる。だから、従属国とはいえ、重大な役目を担うことになる。それは、いずれ来る真の王が立ち上がった時。彼女は、あなたたちを従属国のままになどさせない。彼女はこの国を独立させ、レイお嬢さんと共に、連合を目指しているからです」


 この国の解放者となるのは、レオナ。

 従属という名を解き放ってくれるだろう真の王の名はレオナである。

 この国の王となるレイ姫と共に、未来へ向かうのだ。

 っとメイファは味方を鼓舞した。


 「いいでしょうか。みなさん。これから、こちらを攻めて来るこの方たちは、偽の帝国軍ですよ。この軍の侵略を防ぐだけで!・・・・あなたたちは正式に市民権を得る。お得じゃありませんか」


 真の皇帝の味方となれば、当然属国のままなわけがない。

 オスロ帝国の一部、又は完全同盟国にでも昇格だろう。


 「あなたたちが、ここで国を守れば! この大陸で、自分がギーロン出身だと、胸を張って言える日が来るのだ。皆の者よ。大いなるご褒美だろう。これで、戦えるだろう。どうだ。ギーロンの戦士たちよ!!!」

 「「「おおおおおおおおおおおおおお」」」

 「よい。でもまだまだだ。まだまだ声が出るぞ。喉からじゃない。お腹から出しましょう。さあ、いきますよ」


 メイファは、皆の呼吸の間を取るために、言葉を更に掛けた。


 「真の皇帝の為に、ここで戦えるだろう。ギーロン王国よ」

 「「「ああああああああああああああ」」」


 この意味の無さそうな防衛戦争には、最大のご褒美がある。

 それが、独立と自立である。


 ギーロン王国が、本国との完全連携を果たし、さらに国民たちが、民としての権利を得る。

 これこそが、フュン・メイダルフィアの全員が勝ち状態の意味だった。

 

 そこを深く理解していたメイファは、ギーロンの兵士たちの心に火を点けたのだ。

 目の色が変わった兵士たちを相手にする。

 これがいかに難しい事かを、バングは深く理解していた。


 「まずいな・・・この士気・・・・あちらが防衛だぞ。ここはさらに難しい戦場になった」


 ジュードの部下以前から、幾度も戦った経験が、この戦いの難しさを感じる要因だった。

 

 「それでは、いつでもどうぞ。ジュード軍。主無き軍であるのに、我らに勝てるというのでしょうかね。甚だ疑問ですが。ええ、バング殿。勝てる自信を持てたら、どうぞご自由に攻撃をしてみてください。太陽王の軍師ギルバーンの妻、ロベルトの戦士副長メイファ・リューゲンが、あなた方の遊び相手になってあげましょうか? 私は《《優しい》》ので、あなた方を構ってあげますよ。これで主がいなくても、寂しくないでしょ」


 メイファの余裕綽々の言葉に、腹を立ててもすぐには行動に移せないジュード軍だった。



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