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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 いざ決戦へ

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第320話 立て 未来を担う若者たちよ

 ダンは、五人のウインド騎士団を連れて、レベッカの指示直後に動き出した。

 東の兵士たちを一掃する動きをして、二方向からの安全を確保。

 レオナ一行の逃げ道を上手く作り上げてから、更に動き出す。


 西の制圧には、レベッカと合流して動き。

 あっという間に兵士たちを全滅させて、彼らは唯一生き残った隊長格の男に水をぶっかけた。


 「ぶっ・・・い、生きている? 私は生きている・・ぐあ。痛みが・・・」


 体中の傷が染みる。

 レベッカに斬られた怪我は、薄皮一枚。

 されど、無数である。


 「ああそうだ。あんたは殺さんよ。この中で一番偉いはずだろ」


 レベッカが、隊長格の男の髪を掴んで、話し出す。


 「ひっ・・ば、化け物」


 隊長格の男の目に、レベッカの姿が映ると怯え始めた。


 「なんだよ。人を見てすぐにそんな事言うなんて。失礼だろ」

 「・・・あ・・・」


 そう言われたら、こちらは、なんて言い返していいのかわからない。

 隊長格の男性は、次の言葉が出なかった。

 そして、目の前の女性が恐ろしい。


 「名前。なんだ?」

 「・・え・・・」

 「いいから、名前を言えよ。面倒なんだ。貴様とかお前とかで、話を進ませたくない」

 「・・っわ・・わ・・・」

 「早く言えよ」

 「ああ・・・ああああ」

 

 レベッカの凄みで、言葉が出て来ない。

 隊長格の男は、泣きそうになった。


 「団長。駄目ですよ。それだと、言葉だけで人が死んじゃいます。それにとりあえず、こちらの皆さんを一時避難させないと。連れてきたウインド騎士団で保護しましょう」

 「ああ。そうだな。じゃあ、この塵。まかせたよ。ダン」

 「わかりました」


 レベッカは、ダンに向かって隊長格の男を放り投げた。

 『人として扱いなさいよ』とはダンは言えない。

 主従関係が完璧であるからだ。


 「ジュード皇子が、こちらの責任者に?」


 レベッカは、皇子と皇女を見て、一番の指揮官になっているのがジュードだと気付いた。

 意気消沈のように、言葉も発さないレオナが気になって見ている。


 「ああ。そうなんだ。にしても、君がなぜここに?」

 「ええ。私は父の意向により、レオナ姫の護衛をします。彼女の為に動け。その命令を受けています」

 「ん? アーリア王がか」

 「はい」

 「死んだのでは?」

 「ええ。死にましたね。表向きは!」

 「表向きだと・・・どういうことだ」

 「私は死んだと思っていませんという事です。では逃げましょう。センシーノと・・・こちらのお二人はどなたでしょうか」


 レベッカは二人と会ったことが無かった。


 「おれっちは、ギャロルです」

 「うちは、クラリスです。姫君」

 「はい。私がレベッカ・ウインドであります。ギャロル皇子。クラリス皇女。よろしくお願いします。私がお守りします」

 「「ありがとうございます」」


 丁寧にあいさつするべき人間には丁寧。

 何とかだけど、レベッカも外交は出来ていた。


 「俺は・・・」


 自己紹介しようとすると、レベッカが手をあげる。


 「センシーノだろ。いらんいらん」

 「おお。俺の名前を覚えてくれるとは、女神よ。俺と結婚してくれ」

 「はいはい。あんたはいいって」


 レベッカが丁寧なのは、ギャロルまで。

 センシーノには冷たかった。


 「では護衛しますのでこちらに」


 少数精鋭のウインド騎士団。

 アーリアに置いてあった予備兵力300を、こちらの大陸にまで長距離輸送艦の第二段で連れてきていた。

 今は、レベッカの速度について来られる40だけが行動を共にしている。


 「あそこの宿にいきましょう。一旦あそこで話をしてですね。今後のことまで話し合っていきましょう」


 レベッカたちの別働隊が、宿を取っていた。


 ◇


 宿にて。


 レベッカたちウインド騎士団の完璧な警備でただの宿が城並みの護衛能力を得ていた。

 もしここに敵が現れても鉄壁となっている。


 「ジュード皇子。なぜこちらに?」

 「ああ。センの故郷がここと近くてな。そちらに一旦連絡をして逃げてきただけで、ジャンバルドの東から軍を確保していきたかったんだが・・・上手くいくかどうかがな」

 「そうですか。兵の確保は難しいですか?」

 「まあ、でもなんとかなるとは思う。ビクストンを味方に出来れば、十万近くは手に入れられるはず。そこからセンの故郷。クラリスの私兵。二つはいいだろう。でも俺の実家はもうないから、兵は無理だ」

 

 ジュードの家『ヤーバン』

 かつてあった貴族で、没落貴族から皇帝に見初められて盛り立ていけるのかと思いきや、廃家となった家だ。

 最後の子であるドンナの死をきっかけにして、ジュードが家を閉じたのだ。

 ジュードは皇帝の系譜に入っているが、本人としては皇帝の系譜よりも単独で生きていこうとしていた。

 大将軍になろうと思った経緯にも少々事情があるのだが、彼は自分の力で、これからを生きていこうとする。

 前を向いている漢なのだ。


 「そうでしたか。まあ大丈夫でしょう。あなたがいれば、ビクストンの兵士たちは言う事を聞くと思いますよ」

 「そうかな。君のような強さは持っていないぞ。俺はさ」

 「いや、あなたは指揮官として優秀です。私のお墨付きですよ。ハハハ」

 「・・・ふっ。君は、優しいんだな。アーリア王に似ているな」


 容姿は違うが、アーリア王の雰囲気が少しある。

 ジュードはレベッカに感謝していた。


 「その言葉。何よりも嬉しい言葉ですね。最高の褒め言葉です。ありがとうございます。ジュード皇子」

 「いや、こちらこそ有り難い。君が戦力になってくれるんだろ」

 「もちろんです。父の命令であります。レオナ姫を守れ。とね」 

 「やはり彼は、この状況になる事を知っていたのか??」


 ジュードと共にクラリスも聞く。


 「あの、この事態を予測していたという事ですか」

 「はい。父はロビン皇子が反乱する可能性を考えていました。ここからは私の予想ですが。ですから父は、マリアを支援して、レオナ姫を応援していました」


 レベッカも父親の考えを考えられるようになってきた。


 「姉上を応援? 変じゃないか。あんたの父親は、マリア支援じゃなかったっけ」


 ギャロルが聞いた。


 「ええ。そうです。ですが、父はそこのレオナ姫が皇帝に相応しいと最初から言っていました」

 「なんと・・・アーリア王が・・・」


 クラリスが驚愕した顔で、悩む。

 自分が票を投じようと考えたのついこの間。 

 なのに、他国の王は、来た当初から応援している?

 目が良過ぎると、クラリスはフュンの事を警戒すべき人だという事を再認識した。


 「それで、私は・・・その前に、納得していない事があります」


 レベッカが不満そうな顔と声で発言した。


 「ん? なんだ。姫?」

 

 ジュードが聞くと、レベッカは、レオナを指差した。


 「この人。なぜさっきから一言も発しないのでしょうか。どうしたんです?」

 「それはな・・・」

 

 曇った表情をしたジュードでは埒が明かない。

 レベッカは一番冷静に話せそうなクラリスを見た。


 「・・・ええ。おそらく、心がね。負担が掛かったみたいで・・・父親と、尊敬する方を失ったのが、よほどのショックだったようでして・・・放心状態が続いています」


 レベッカは、この時に同じ人を尊敬する者同士だと思った。


 「なるほど。それはまた厄介な。でも、私の父のことをそこまで思ってくれていたのですね。自分の父と同様に尊敬しているという話だ。嬉しいですが、今は駄目だ」

 

 その状態、普通の人であれば良し。

 だが、王となろうとする人間であるならば、最悪の立ち止まりである。

 誰かが死ぬ度に、いちいちその場で立ち止まっているようでは、国が前に進まない。

 それをよく知る人物がフュンだ。

 シゲマサやザイオン、多くの仲間を失ってきたフュンならば、それでも進まねばならない事を知っている。

 

 それに、かつて自分も陥った現象だ。

 ミランダを失った時の喪失感。

 あれを体験した時と、彼女の今の状態は同じだろう。

 レベッカは、苦しさを抱え込んでいるレオナを案じて鬼になった。


 「はぁ。仕方ない。ここは荒療治だ」


 レベッカがレオナの前に立った。


 「失礼します」


 張り手一閃。

 叩かれたことも分からない素早い一撃に、音だけが鳴り、痛みがやって来ない。


 「・・・・い・・痛い・・あれ」


 瞳に色が戻り始めると、痛みを感じ始めた。

 レオナは左の頬を押さえた。


 「レオナ姫。あなたはこんなところで立ち止まる気ですか」

 「・・・立ち止まる・・・・え・・・」

 「皇帝ジャックスを失い。アーリア王フュン・ロベルト・アーリアを失ったくらいで、あなたはここで止まるのですか」

 「・・・え・・・」

 「あなたは、自分の精神状態が良くなければ、思考が出来ない人間なんですか」

 「なんですって」


 馬鹿にされたと思い反論しようと立ち上がる。

 だけど、考えればわかる。その通りの状況だった。

 精神的に余裕がある時にだけ、自分なりの考えがまとまる。

 今の余裕のない状況では、脳が動いていない。

 感情に縛られて、弱々しい動きになっていた。


 「逆境。危機。ここを乗り越えてこそです。あなたは、この国の皇帝となれる」

 「・・・・」

 「これらを越えた先に、あなたは誰もが認める。真の皇帝となれるはずです」

 「真の・・・」

 「はい。選挙などまやかしだ。我が父フュン・メイダルフィアが仕掛けた計略は、あなたに仮初の地位を与えたに過ぎない」


 選挙をしよう。

 これは、フュンの単なる思い付きじゃない。

 表向きの目的には、子供たちの全滅を回避させる事と、子供同士の繋がりをはっきりさせる事があった。

 でもこの裏に、真の目的が存在した。

 それが、彼女が本当の本物の皇帝になれるのかである。


 レオナ・ブライルドル。

 殲滅王ジャックの子供で、彼に匹敵する公平性と、先を見通す考えを持つ女性。

 ならば、この子が、この国を継ぐのが一番良い事だ。

 フュンの目は、最初からレオナが皇帝であるべきだと、彼女の姿を映していた。


 「仮初・・・たしかに・・・」


 レベッカは、レオナ姫の為に、言葉を一つ一つ丁寧に出していた。

 

 「そして我が父は、もう一つあなたに与えました」

 「もう一つですか」


 レオナの表情が変わり始めた。

 父とフュンを失った事の悲しみのせいで、塞いでいた気持ちが、大きくここで開かれていくようだった。


 「それは、あなたを信じてくれる人たちですよ」

 「・・・え!?」

 「あなたが、あのまま選挙もなく、皇帝として選ばれていたら、ここにいる人たちは確実にそばにいませんよ。私もですが、ジュード皇子。クラリス皇女。ギャロル皇子。そして、我がウインド騎士団。これらはあなたの元にはいません。だから父は、仲間を与えたのです」

 「仲間・・・たしかに、私はいつも一人でしたから・・・ここに一緒にいてくれる人が。こんなにいるなんて・・・仲間、嬉しいものですね」


 レオナは周りをやっと見る事が出来た。

 意気消沈していた自分を支えてくれて、ここまで共に来てくれたことに感謝した。


 「ええ、そうです。あなたは戦わねばなりません。この国で、王に相応しいのは、あなただと皆に証明してみせねばなりませんよ。それを私も手伝います」


 まるでフュンのようなレベッカに、成長を感じる。

 そばにいるダンも、団長が輝いて見えていた。

 

 「わかりました。ありがとうございます。あなたの言う通りだ。レベッカ殿・・・ありがとう・・・・ありがとう。私はここからですね」


 レベッカの手を握って、何度も感謝するレオナであった。


 「いや、俺は・・・センシーノもいるんですが。姉上を応援しているのは俺もなんですが」


 と悲しい声を出しているセンシーノを見て、皆が笑ったのだった。

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