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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 いざ決戦へ

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第317話 脱走のきっかけ

 「セブ!? どうやってここに!?」

 「ジュード兄様。その疑問よりもまずはミイの話を聞いてほしいザンス。時間がないザンス」

 「あ、ああ。わかった」


 切り替える力が強い。

 ジュードは疑問を聞く体勢から、話を聞く体勢に入った。


 「ここから皆さんを脱出させるでザンス。おそらく、ロビンはすでにこの帝都の掌握に掛かっているザンス。邪魔する者を次から次へと排除していく可能性があるので・・・ここは皆で帝都を脱出して反撃をする。その体制を整えましょうでザンス」


 ロビンを兄とは思わない。

 セブネスは敵とみなして、呼び方を変えていた。


 「セブネス。どこへ逃げればいいかも考えているってこと?」


 弟には強めに出る。

 クラリスは、セブネスの自信ある表情を見ていた。


 「ええ、クラリス姉様もそのままレオナ姉様を支援するのザンスか?」

 「そう。うちは姉様が良い・・・今は、仕方がない。必ず立ち上がるはず」


 今の消沈した姿は、仮の姿なはず。

 クラリスは姉を信じていた。


 「わかりましたでザンス。ならば、兵を整えるために移動を始めた方が良いザンス。北東に行ってくださいでザンス。あそこならば、ビクストンの次。ノスタール付近には陣を引けるはずザンス。あそこは、ゲンジットの家に近く。マルベーニも近いはずザンス」

  

 北東に移動が出来れば、支援する二人の実家が近い。

 地理的優位も確保できるから防衛には向いている。

 

 「そうか。そういう策か。じゃあ俺は一度レックスに会いたいな。あいつをこっちに引き入れれば、兄貴の方に大将軍は残らん。セブ。エレンラージはどうなっている? あいつ。お前の部下だろ」


 ジュードは、エレンラージがルスバニア出身だと薄々気付いていた。

 だから、お前の部下なはずだと、半分予想で会話をしていた。


 「はい。エレンラージも移動してもらい、あれは、レイの所に預ける予定でザンス」


 彼らには隠す必要がないので、セブネスは答えた。


 「レイだと。あれも反旗を?」

 「そうザンス。レイ。マリア。ミイ。この三人で、ロビンを止める役割をするザンス」

 「止める役割だと。倒すじゃないのか」

 「そうザンス。倒すのはレオナ姉様じゃないといけないザンス。ジュード兄様。センシーノ兄様。クラリス兄様。どうか、皆でレオナ姉様を助けて、ロビンを倒すでザンス」

 

 国家を牛耳ろうとする不届き者を成敗するのは、レオナ姫でなければならない。

 そうすることで、正統後継者としての箔が増すのだ。

 ここは血じゃない。

 実力を示す時だ。

 とセブネスは言っていた。


 「俺たちが、兄貴に勝て・・・そういうことか」

 「そうザンス。ミイらは、守に徹していくザンス。こうなれば、いつかはそちらにチャンスが来るザンス。反撃のタイミング。ここを間違えなければ、必ず勝てるザンス。頑張ってくれザンスよ。兄様方!」

 「わかった。まかせとけ。セブ」

 「ええ。やります」

 「俺もだな。まあ、セブネスに言われずとも、麗しいレオナ姉上を支援するのは、このセンシーノに決まっている。活躍してみせよう。この国の全ての女性の為に」

 

 と三人の意気込みは良いのだが・・・。


 「おい。おれっちは。なんかコロコロっと忘れらてるんだけど・・・」


 皆がギャロルの存在を忘れていたのである。



 ◇


 その後、タイローとサブロウは、全ての兵士らをあえて豪快に倒していった。

 速やかに、静かに、敵を屠っても、死体はそのままにする。

 そうすることで、敵が騒ぎ出す際に、何処へ行けばいいのか分からなくする目的があった。


 牢からの完全脱出をする直前。

 ジュードがセンシーノに話しかける。


 「セン」

 「?」

 「俺は、いったん。レックスの所に行く。先に脱出しろ。クラリスとレオナ。この二人を守れ。いいな」

 「わかりました。おまかせを。このセンシーノ。命に代えても姉上たちをお守りしましょう」

 「ああ。頼んだわ」

 「はい」


 センシーノが真面目な顔をしている。

 それが珍しい事を皆が指摘しないくらいに切羽詰まった状況であった。


 その後、サブロウはセブネスを連れて、一旦部屋に戻り。

 タイローが先導する形で、皆を脱出の方向に向かわせていった。


 そして、ジュードはレックスの元に来ていた。


 ◇


 「おい。レックス」

 「な、なに!? ジュード。無事だったか」


 二人だけが知る秘密の道から、レックスの職場にジュードがやって来た。

 二人とも会話が砕けているのは、親友だからだ。


 「ああ。まあな。おい。こっから逃げるぞ。兄貴にいいように使われちまう。お前がさ」

 「レックス。俺は逃げられない」

 「何言ってんだ。早く逃げんぞ。お前は一番優秀だから、あいつらに狙われるはずさ」

 「出来ない。すまない。俺はこうしてお前と会うのもまずいかもしれない。おそらく・・・あちらにバレてしまえば・・・まずい状況に・・」

 「何言ってんだよ。早く逃げねえと・・・ま、まさか」


 レックスの曇り続ける表情を見て、ジュードは察した。

 どんよりと暗黒の雲が漂う表情になっていった。


 「兄貴が脅してきたか。まさか、彼女を人質に取られたのか!」

 「・・・」


 黙ったままで、レックスは頷いた。


 「クソ。屑が!!! ぶっ殺してやる」

 「待て。ジュード」

 「いいや、刺し違えても殺す。俺はそんな事をする奴を兄貴だと思わん」

 「そんな事をしても、あのクロがいるからな。ミーニャが殺されてしまうのは確実だ」

 「ちっ。野郎・・・ああ、ムカつくぜ」

 「・・・・すまない。そっちにいけたら、どれだけよかったか」

 「じゃあ、何かでお前の責任が生じたらよ。まさか、あいつら、殺すつもりなのか。ミーニャはなんでもないんだぞ。普通の民なんだぞ。ただの普通の可愛らしい子じゃないか!」

 「・・・わからない。でも、あいつらが気にくわないと判断すれば、殺す可能性が出て来るはず。それに、薬を止めれば簡単に死ぬ。三日。あの薬を投与しなければ、死は確実・・・」


 レックスが頭を抱えて、ジュードが頭を掻きむしった。

 イラつきが頂点に達した。


 「ああ。クソが。やっぱりぶっ殺すわ」

 「やめてくれ。ジュード。自分でなんとか解決してみせるから、ここは大人しくさがってほしい。それにすぐに逃げろ。ここに来たと、敵が分かれば・・・ミーニャもどうなるか」

 「わかった。お前の言う通りだわ。俺は逃げる」


 冷静になれば、ジュードでも分かる。

 ここで、ロビンたちに余計な刺激を与える必要がない。

 むしろレックスの状況が悪化することを理解できた。


 「だけどな。何か困ったら俺に言えよ。俺はお前の味方だ。何があろうと。どんなことがあっても。お前の味方だ! いいな!!」

 「ありがとうジュード」

 「ああ。じゃあな。元気でな」

 「ああ・・・またな・・・」


 レックスは悲しげな顔をしてジュードを見送った。


 レックス・バーナードには大切な妹がいる。

 ミーニャ・バーナード。

 彼女は持病を持っていて、ある薬を投与しなければ死んでしまう人間だった。

 レックスが優秀で、大将軍の地位を有しているのに、その生活が質素であった理由。

 それが、彼女の医療費を払い続ける大変さがあったからだ。

 レックスの給与のほとんどが、そこに消えているらしく、彼の仕事帰りが早い理由も、妹のいる病院にほぼ毎日行くからであった。

 妹想いのレックス。

 そこをつけ狙ったのが、ロビンとクロの二人であった。

 妹を人質にして、レックスを駒にする計画を彼らはこの作戦が始まる前から、作り上げていた。

 フュンがそれを知ったのは、彼の妹の周りに、クロの手下たちがいた時だった。

 だから、救う事の出来ない人間となっていたのがレックスとその妹ミーニャである。


 「すまない。ジュード・・・もしかしたら、戦う事になるのかもしれない。それも負けられない戦いをしてしまうかも・・・しれない」


 不本意な戦いに身を投じるかもしれない。

 でもそれで妹が守れるのなら、仕方ない。

 やるしかないと決意を持っていても、レックスは今後を憂いていた。


 「私は・・・親友と戦うのか。命をかけた戦いをしないといけないのか。大事な親友と・・・・・」


 曇り空を見つめて、レックスは悲し気に言葉を発していた。

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