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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 いざ決戦へ

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第316話 反撃の話し合い

 押し込められて部屋に閉じ込めれた三人衆は至って冷静。


 「先生。ほんとに死んじゃったのかな」

 「マリア。ロビンの言う事だけを信じるザンスか?」

 「いや、だってさ」


 さすがに、具体的な証言の数々ではフュンが死んだと思ってもおかしくない。


 「あの方は、ロビンが行動に出ると予測をしていたでありんすよ。という事は無策であるはずがないでありんす。恐ろしい人でありんすからね。自分が死ぬことだって、可能でありんすよ」


 扇子を扇ぐ彼女は、フュンが死んだとは思っていなかった。


 「でもさ。他の兵士たちも胸を撃たれて死んでたって、言ってたんだよ。ロビンと同じことを言っているんだよ」

 「まあそうでありんすがね・・・それでも信じられないのが、わっちの本音でありんす。殺しても死なないような人でありんすよ」


 三人が会話を進めていた所に、光と影が現れる。


 「あ。あなたは。ゼファーさんに、サブロウさん」

 「マリア殿」「おうぞマリア」


 マリアの前に現れたのはゼファーとサブロウ。


 「あ、あなた・・メイファ様」

 「ええ。レイちゃん。どうも」


 レイの前に現れたのがメイファ。彼女に優しく手を振る。


 「・・・あれ。ユウは、タイロー殿ザンス?」

 「はい。殿下」


 タイローは、セブネスの前に現れた。

 太陽王の配下たちが、属国を守るための動きをし始めたのだ。


 ◇

 

 「なんで。サブロウさんたちが?」

 「おうぞ。マリア。フュンからの伝言ぞ」

 「先生から!」


 フュンからの言葉があれば安心する。

 マリアは目を輝かせた。


 「僕が死んでも気にしない。君は君の道を進むのです。僕の仲間を置いていくので、協力して進んでくださいね・・・だそうだぞ」


 声真似も込みでサブロウが再現してくれた。


 「せ・・・先生。死んじゃうことを知っていたの・・・え・・・」


 そんな馬鹿なと、がっかりしていた。

 

 「ふん。マリアぞ。死んだと思っているのかぞ?」

 「え?」

 「あいつが、死ぬなんてぞ。無理があるぞ。この程度の事だったら死ぬわけないぞ」

 「え。だって銃で撃たれたって」

 「ああ。そうぞ。でもだぞ。その程度で死んでいたら、お前と出会う前に、フュンはこの世にいないぞ」

 「え・・・銃で撃たれるよりも危険だったの!」

 「そうぞ。あいつの人生。今度聞いてみるといいぞ」

 「いやだって。もういないんじゃ」


 困った表情の彼女に対してゼファーが言う。


 「殿下は、我らにあなたを託しました。この時が来たら、全力で動けとの命令があります」

 「ぜ。全力で動け?」

 「殿下が誰にも悟られずにこの国で自由に行動するには、死ぬ必要がある。そういう意味だと我らは認識しています。殿下は今回。肝心部分の作戦を教えてくれませんでした。珍しいです。いつもなら、戦い前には教えてくれるはずですがね」


 今回のフュンは、マリアたちを仲間に託しただけで消えた。

 死ぬことは想定内。

 では、どうやって死んだのかもわからないし、どのように動けとの命令もないのも珍しい。

 それに、サブロウも知らないのが珍しい事だった。

 どんな時でも、フュンはサブロウにだけは全ての作戦を知らせているからだ。


 「我らたちに自由に動けとの命令。こう解釈して我らはあなたたちを救います。では逃げましょう。準備を始めます」

 「準備?」


 マリアの疑問を遮るようにして、ゼファーが指示を出す。


 「メイファ殿。お願いします」

 「ええわかりました。それじゃあね。私が作戦を考えましたので、こちらを見てくださいね」


 難しい戦略をこの中で組めるのはメイファだけ。

 軍師適性もある女性なのだ。

 ギルバーン並みの思考展開力を持つ。


 「ではね。まず、牢に囚われた皇女様たちを救出します。その理由は、敵のやりたい事を封殺することが目的です。それに彼らの命が危険となりますので、脱出をしてもらいましょう。タイロー殿とセブネス殿で動いていきます。レオナ姫とその周りの皇女を帝都から外へ・・・北へ逃げてもらいましょうかね」


 地図に指を置いてから、メイファは指を上に上げていく。


 「北でザンスか」

 「はい。ビクストンを保持しながらもう少し西寄りに陣を構えましょう。そうすれば、方向が分散しますのでね」

 「・・ああ、なるほどザンス」


 セブネスはメイファの意図を理解した。


 「そうですよ。さすがはセブネス殿下。いいですか。レオナ姫には大陸の北東。セブネス殿下とマリア姫には大陸の南。レイ姫には大陸の北西に行ってもらう。こうすることで、帝都を掌握しようとするロビン皇子を孤立化させます。戦争をしかけたくても、何処へ行くべきか悩む状態にしますよ」

 「三方向。その構えで戦うのでありんすね」


 レイも、説明を聞いて即理解した。


 「そうです。あなたたち属国の意地を。ここでみせましょう。この大陸にいるオスロ帝国の人間に分かってもらいましょうか。人は等しく皆が平等だという事をね。宗主国と属国なんて関係ない。我が主フュン・メイダルフィア様もまた属国出身の英雄です。だからこそ、人は身分で決まらないのですよ。特に今から起きるだろう戦乱の時代ではね。人の称号など無意味で無価値です!」


 実力が物を言う。

 それが混乱の時代の決まり事。

 だから、目に物を見せるつもりで、属国の三人衆は戦いに出る。


 「これは面白い。良いでありんすね。実力社会にわっちらの力を見せつける時が来たのでありんすね」

 「その通りですよ。あなたは、私と共にです。いいですか」

 「ええ。ありがとうでありんす。わっちはメイファ様に感謝しているでありんす」

 「そうですか。私も娘が出来たみたいで楽しいですよ。言う事を聞かない息子しかいなくて、嬉しいですわね」

 

 たまに微笑んでくれるメイファが好きだった。

 母を亡くしてるレイ。 

 メイファを自分に寄越してくれた事。

 こればかりはフュンに感謝している。


 「次にセブネス殿下は皇女たちを救ったら、マリア殿と共に自国に戻りましょう。そちらも戦争準備です。いつでも戦えるようにしておいて、牙を研いでください」

 「わかったでザンス・・・でもどうやってここから抜け出すザンス?」

 「大丈夫よ。私たちは視線誘導も出来る。あなただけならば、知られずに移動できるから。どこの牢にいるかを探りながら進んで」


 影の力を使わずとも、視線誘導を行い、セブネスを兵らに見せずに、牢まで進める事が出来る。

 

 「うん。わかったでザンス。やるでザンス」


 セブネスの口が重要となるために、皇女たちの元へと連れていく事にしていた。


 「では動きます。最初にタイローとサブロウ殿で、セブネス殿下を送ります。なので、ここで二人で待ってください。見張りの兵にはこの人形を見せて、殿下が奥で寝ているようにみせてください」


 セブネスそっくりの人形をこの場に置いた。


 「「「な!?」」」


 三人がその精巧さに驚く。


 「これはサブロウ殿の作品です。でも元はナボルという組織が作った人形ですよ。人そっくりなのでね。簡単に騙せるでしょう。遠めならバレる事はないはずよ」

 「そ、そうなんだぁ。凄い。これ。セブネスそっくりだ・・」


 マリアは人形を見て言っていた。


 「なんか気持ち悪いでザンスね。自分を見ているようで・・」


 セブネスは自分を見て気持ち悪がった。


 「まあ。ここの人形のことはいいでしょう。では早速動きましょう。私たちが動いて、この国の闇を噴出させます。戦いの始まりを、相手にさせましょう」

 「「「わかりました」」」



 属国三人衆が返事をした事で、作戦が始まった。



 ◇


 帝都の中でも脱獄不可と言われる帝都城の地下牢に閉じ込められた皇女と皇子たち。


 「クソ。あの兄貴! 俺たちごとここにかよ。容赦がねえ」


 同じ牢に一緒くたにされていた。

 ジュードは、牢に入れられてからずっと下を向き続けているレオナを確認してから、兄に文句を言った。

 落ち込んでいる彼女を無理に励ますことをしなかったのだ。


 「ジュー兄」

 「なんだ。セン?」

 「これはロビン兄上の計略のひとつだろう」

 「計略?」

 「ああ。間違いない。俺の勘が、ロビン兄上の仕業だと言っているのさ」 

 「・・・あの兄貴の計略だと・・・何の計略だ」

 「そいつは、なんとなくでしかわからん」


 ここでクラリスが続く。

 センシーノの意見に同意した。


 「センシーノと同じ意見なのは癪に障るが・・・うちも同じですね。ジュード兄様」


 センシーノには横柄だが、ジュードには丁寧。

 クラリスはジュードを尊敬していた。


 「クラリスもか。兄貴が何を企んでいるんだ。票くらいだろ。企んでいたのはさ」

 「いいえ。ロビンは、おそらく自分に近寄る貴族や、軍長らを集める事に躍起になっていて、それを邪魔するような存在を消していきたいのではないかと思います」

 「なんだと。貴族と軍を集めるだと。反乱じゃないのか。そんなもん!」

 「はい」


 クラリスの思考はいつも先を読む。


 「ロビンは以前ですね。うちに庶子の子につく気なのかと聞いて来ました。これから予想できることは、仲間にしたい人物は貴族。血統を重視するのだと思います」

 「・・・は。だからお前にか。狙いがマルベーニ家か!」

 「はい。兄様は? 勧誘を受けていませんか。票を入れろなどと・・・」

 「・・・んんん。あ。俺もそういえばな。あったな」


 選挙戦の最初の頃に一度会話をした事を思い出した。

 

 「やはり。ジュード兄様の家もですよね」

 「そうかよ。家かよ。でも俺の家はもうねえんだぞ。それでも欲しかったのか・・・あいつが俺を誘った理由がそれだったら、じゃあ、あいつらが誘われないのはそういうことか」

 

 属国の二人が眼中にない。

 セブネスとレイ。双方に興味もなさそうだった理由がここで分かった。


 「ああ。だから、ナルセスか・・・それにセンシーノもいらない理由も・・」


 ジュードは、ネーブルとリュシエを思い出してから、センシーノを見た。

 センシーノは戦士一族の子供。

 貴族ではなくて、戦士として優秀な一族の子供なので、ロビンは興味がないのだろう。

 

 「クラリスは味方に入れられなかった・・・ギャロルもか。そういや、なんでギャロルがこっちに来てんだ?」

 「おれっち。ロビン兄さんに入れようかと悩んでいたら、姉さんにこってり、こてこて搾られちまったのさ。ボロボロのボロ雑巾のようにさ。それじゃあしょうがねえ。レオナ姉さんに入れるしかねえのさ」

 「ああ。そいつは災難だったな」

 

 ジュードは、肩を落としたギャロルを慰めた。


 「じゃあ。シュルツは。どうなんだあいつは?」

 「うちが勧誘を受けた時には、シュルツが自分に入れると、ロビン自身が言っていました」

 「そうか・・・いや、待てよ。そしたら変だぜ。あの投票結果が正しければ、あいつ。マリアに入れたのかよ!」


 今、この牢にいる人間が全員レオナに投票したと考えると、シュルツの投票先はマリアで確定だった。

 

 「なぜだ。あいつがマリアと親しくしている所なんて見た事がないぞ。入れる理由が分からん」

 「ええ。それに、彼は今はいないのでしょ。何を考えているのやら・・・」


 クラリスとジュードが悩んでいるとセンシーノが出て来る。


 「あれは天才ですからな。ジュー兄もクラリス姉上も知らないでしょ」

 「ん? なんか知っているのか。セン?」

 「ええ。シュルツは今も戦えるはずです。これは間違いないです」

 「なんだと。あいつが兵士訓練をした所なんて・・・見たことがねえぞ」

 「ジュー兄が見てなくても、俺は見ています。あれが子供の頃にゲンジットの家で訓練をしていました」

 「なんだと。あいつが兵訓練だと」

 「ええ。知見を得たいとの話で。まず戦い自体を学んで、指揮も学んでいきました」

 「・・・そんな事・・・なぜする必要がある? あいつの家は。ミューズスター家だぞ」


 オスロ帝国の皇帝。

 ブライルドル家よりも古い家ミューズスター。

 名家というよりも、伝統ある家として、この国で存在感のある家だ。

 ミューズスターと言えば、誰もが知っている。

 オスロ戦記初期に出て来るシュナイダー・ミューズスターが有名だ。

 戦神として崇められている彼は、ブライルドル家と共にオスロ帝国を作り、強くしていったのだ。


 「そうか・・・へぇ」


 クラリスがなるほどと頷く。

 ここまで皆で会話をしているように見えて、一人だけ会話をしていない人物がいた。

 

 牢の奥で静かに泣いていたレオナだった。

 

 「陛下・・・アーリア王。お二人が亡くなった? なんで・・・どうして・・・私は・・・どうしたら・・・いいの」


 生きる指針のような尊敬していた人物が亡くなってしまったことで、心にぽっかり穴が開いた状態となっていた。

 動揺して、今を見失っていた。

 誰もが今の状況把握に努めているというのに、彼女だけは意外にも動きを止めていた。

 思いが止まり、思考が止まり、行動が止まる。

 彼女は、実は人を大切にする。

 人に対して思いの強い。 

 優しい人物だった。

 

 ◇


 話し合いが落ち着いた頃に、とある人物の声が地下牢に響く。


 「いや、疲れたでザンス。皆さん、ここにいたでザンスね」

 

 地下牢の鍵を持ったセブネスが登場したのであった。


 

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