第314話 真の戦いへ 太陽王暗殺事件
パーティーが終わった後。
フュンは一人で、自室にいた。
周りには誰も置かずにいるのは珍しい。
暗闇の中で、明かりもつけずに、部屋にいる。
「さてと・・・うん。ここで来ましたか。思ったよりも早い。せっかちですね。皇子たちは!」
空を見るために、フュンが窓を見たのかと思いきや違う。
そこから訪問者がやって来ることを察知したから、椅子に座る体を反対に向けた。
『バリン・・・パラパラ』
ガラスが割れて、粉々になった破片が部屋の方に入る。
「来ましたね。クロ皇子ですか! それと、ドアからはロビン皇子ですよね」
『ガチャ』
正式な入口からロビンがやって来た。
「不埒者の癖に・・・まさか、私たちが来ることを予測していたのか」
「ええ。当然。あなたの考えは読んでいます。単純です」
フュンは堂々と受け答えをしていた。
「ほう。こちらの行動を読んでいて、一人でいた。なぜだ。周りに護衛を置くだろう。普通は・・・貴様、馬鹿なのか」
「ええ。そうですよ。僕って馬鹿なんですよね。それと、お答えします。一人の方が都合がいいからですね」
「なに?」
「あなたたちの証拠隠しが楽でしょ。そちらの方がシナリオがいいはずですよね。乗ってあげますよ。僕は大人だからね」
子供のおままごとに参加してあげるような言い方だった。
「な。なに??」
そちらの意に沿っているはず。フュンは不敵に笑った。
「それで、僕の所に来るのが一番先ですか?」
「・・そ、そうだ」
「ふ~ん。ならシナリオは、連続暗殺か・・・なんだ。取る手段が単純で強引だな。もっと良い手段があるのにな」
自分なら別な手を考える。
フュンは相手の立場に常に立つ。
それが、彼のやり口だからだ。
「・・・いや、どこかを複雑化しているのか・・・この手段を取るならね」
思った以上の強硬策。
だから、フュンの中では想定外でもあったのだ。でもこの落ち着きようである。
「「なぜ!?」」
フュンが暗殺と言った直後に、二人が固まる。
なぜそれをと思った。
「あなたの考えに、この子の考え。いやはや、中々単純だな・・・ナボルと同程度とみていい。それで僕を欺くつもりですか。なるほどなるほど」
あなたたちよりも、経験してきた策略の数が違う。
回答に自信があった。
「まったく、その程度で、僕に勝つ気ですか。他には、どのような戦略がありますか。聞いておきましょう」
「聞いてどうする。今から死ぬ男が聞いても、仕方のない事だろう」
「ええ。そうですね。でも冥土の土産に聞いておきたいですね。これから亡くなる方たちと会話しておきたいですからね。情報を共有しておきたい」
死ぬのに共有とは何事だ。
ロビンは、相手の言葉を断つ。
「・・・貴様はこれから死ぬ。ただ、それだけだ」
「そうですか」
「ん・・・」
殺すと言われているのに他人の事のように無関心。
その感覚のおかしさに、ロビンは戸惑った。
「それで。他には、レオナ姫も殺すのですか」
「奴は殺さん。あれには抱き抱えてもらってから、殺さないといけないからな」
「・・・ああ、なるほどね。あなたの反対側の勢力となる大臣。武官。双方を消したいのですね」
「当り前だ。邪魔だからな」
「じゃあ、マリアさんたちもですね。属国たちも?」
「当然だ」
フュンは、予測通りの動きだと思った。
あとの細かい部分が聞きたいが、悦に入っているロビンから、これ以上は聞けないと判断したので、銃を持つクロに聞いた。
「クロ皇子」
「なんでしょう」
「あなたが、なぜロビン皇子に肩入れするんですか?」
「え? それを聞いて何になるのです」
「いや、僕はね。君のその判断がよく分からない。これが唯一分からない部分だ。他の皇子や皇女たちの行動原理は理解しているのですがね。あなただけよく分からない」
「あなたには、教えるつもりがない」
「そうですか。脅されているわけじゃないのにね。あなたは、なんだか自主的に見えるな・・・」
フュンは、暗闇の中。
銃を突き付けている男の顔を見て、感情と思考を読み取っていた。
この男に恐怖心はないのか。
銃を持つ手が震えるのは初めてだ。
クロの方が逆に恐怖に駆り立てられていた。
「この感じ・・・まさか、あなたたち。血が繋がっている?」
「それは兄弟だから当然だ。陛下の血で一緒だ」
「いいえ。そうじゃない。この感じだと、あなたのお母さん・・母方がどこかで繋がっているのか」
「「!?!?」」
一瞬の表情の変化。
フュンは見逃さない。
「そうですか。わかりました。いいでしょう。納得しましたよ。これでスッキリ解決。腑に落ちましたね。僕らが戦うべき相手は、あなた方の血か・・・それとあなたとその後ろだな」
フュンは納得した表情をした。
堂々と頷いているのがまた余裕の心持ちを示していた。
「き、貴様。死ぬのが怖くないのか」
クロがフュンに近づけるように銃を一つ前に出していく。
しかしフュンは一切恐怖せずに、言い返す。
「クロ皇子。僕を殺す。そうなると、破滅が待っていますよ。それでもやりますか」
「なに!?」
「ええ。僕を殺して次の人も消すつもりでしょうけど。二人をこの世界から排除するとなると、この国が混乱します。まあ、それがあなたたちのシナリオなんでしょうけどね。いいんですか。僕はそのシナリオ通りに動きませんけど、いいのでしょうかね? ここは殺さない方があなたたちにとっては、楽ですよ。僕がシナリオを邪魔しにくいんですけど。それでもいいのですかね?」
「ん・・・な、何を言っているんだ。今から死ぬのに動くだと・・・死体になっても動くか気か。こ、この男は」
意味不明な事を言ってくるのが恐ろしい。
この圧倒的有利な状況にいるのに、クロは自分が後退りしていくような状態になっていると錯覚していた。
「ロビン皇子。君もそれでよろしいのですか」
「負け惜しみか。それとも悪あがきか。殺さないで欲しいと命乞いをしているつもりか」
「いいえ。まったく。あなたに命乞いなんてしませんよ。しても意味がありません。だって、君らが僕を撃つ。その瞬間に僕の勝利が確定ですからね」
「ふん。やはり、負け惜しみじゃないか。クロ。やれ」
ロビンは迷わずに指示を出した。
「し、しかし。兄さん・・・殺しても、本当にいいのでしょうか・・・なんだか・・・」
不安になってきた。
クロの震える手に合わせて、感情も震えていた。
「うん。君もいい勘をしていたのにね。ロビン皇子がお兄さんじゃなければね。まともな道を進めたかもしれないですね。その裏の仕事。活かす道を作ればよかったのにね」
フュンはクロには優しく呼び掛けていた。
「た、他国の王の癖に。兄さんを馬鹿にするな。」
「ええ。他国の王ですけど。僕はこの国が好きですよ。陛下が大好きですからね」
「ち、父上まで語るか。この!!」
「はい。当然です。語りますよ、僕は友人を自慢したいだけです」
フュン・メイダルフィアが王となって、初めて出来た友人が、ジャックス・ブライルドルである。
歳は離れているけれど、王の苦悩を知る仲間であるのだ。
「き。貴様。小国の王の癖に!!! 僕たちを馬鹿にして!」
『バン』
銃声が一発鳴ると同時に金属音も鳴り、フュンの胸から血が飛び出る。
暗闇でも見える鮮血が、辺りに飛び散った。
狙いは頭であったが、震える手が邪魔をした。
しかし、クロの運が良くて、弾がフュンの心臓に入っていたようだ。
「ぐふっ」
フュンの口からも赤い血が出た。
「・・・この行為・・・あなたたち、後悔しますよ。い・・・いいんですね」
胸を押さえたフュンが、睨みつけた。
撃たれたのに、まだ力強さがある。
「ああ。当然だ。負け惜しみを最後までいえるとはな。立派な心持ちだ」
ロビンが続けて指示を出す。
「クロ。こいつが死んだら、私の所に戻って来い。計画を進めていくぞ」
「は、はい」
ロビンが出て行くと、間もなくしてフュンの意識が無くなる。
「・・く、クロ皇子・・・」
「な、なんだ。まだ死んでいない!?」
「あなたのこれからの戦い。かなり厳しいものとなる・・・でしょう。だからね。どうやって生き残るのかを考えなさいね・・・これが最後の忠告だ・・・因果は必ず巡る。だから出来るだけ、人に優しくあるべきですよ・・・最後の・・・こと・・・ば・・・です」
フュンが胸を押さえて倒れた。
クロがフュンの脈を確認する。
「し、死んだのか・・・脈は・・・ない」
止まっている。なのに、この恐怖感が拭えない。
恐ろしい。睨まれてもいないのに、恐怖を感じる。
「・・・この男、最後まで不気味だった。見た時から怪し気だったけど、最後までその感覚は取れなかった・・・恐ろしい人だ」
印象から、存在感まで、全てが怖い。
皇帝陛下よりも遥かにだ。
クロは直感でフュンを警戒していた。
「でも、始めねば。邪魔な者を消していき、次にもまた・・・それで進まないと。ボリス家は前には進めない。過去に囚われてしまう」
使用した銃をフュンのそばに置いて、クロは次の計画に移る。
大混乱の始まりは、フュン・メイダルフィアの死からである。




