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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン・イスカル編

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第312話 シュルツ・ブライルドル

 時は来た。

 選挙戦最終日。

 皇帝の子らが、投票場の帝国第二会議場に集まった。


 「皆が集まるとは、何年ぶりだ。なかなかない事だ」


 第一皇子ロビンが言うと。


 「そうですね」


 第六皇子クロが続いて会話をする。この二人はいつでも一緒だった。


 そのやや後方では。


 「いやあ、オレっちは早く帰りたい」


 第二皇女クラリスが第四皇子ギャロルの肩を思いっきり叩く。

 ここで不満を口にするなと、正す気である。


 「何を言っている。馬鹿弟」


 速い手の振りで、鋭い一撃となる。

 肩がミシッと鳴った。


 「いった! 姉さん、あんたの力は化け物なんだから、やめてくれよ。オレっちの肩が壊れちまう」

 「ふん。この程度で壊れる。そんな弱々しい弟なのが悪いわ」

 「言い方キツイぜ。本当に全姉なのかよ」

 「お前が本当にうちの全弟なのかが怪しいな」

 「あ。オレっちの方が疑われてるのね」

 「当然」


 クラリスとギャロルは、母が同じ。

 ネーブルとリュシエと同じ環境だ。


 「皆が集まると、さすがにうるさいザンスね。ガヤガヤしているでザンス」

 「おい。セブネス。ここでは口を慎めよ」

 

 第六皇女マリアが、第五皇子セブネスに注意した。

 意外に常識的に振舞ったのがマリアだった。


 「マリア。いいじゃないでありんすか。兄様、姉様。皆が浮足立っているのでありんすよ。わっちらのように落ち着いてられないのでありんす。そこが珍しいから、この状況が面白いでありんすよ」


 第五皇女レイが扇子を扇ぎながら、ニヤニヤして挑発する。

 堂々たる従属国三人衆だった。


 「落ち着いているって、あたしらって緊張してないのか・・・」

 「ん。マリアは緊張しているでザンスか?」

 「してない。あたし的には、あんたら二人が緊張してるのかと思ったのさ」

 「舐めているでザンスね。ユウの為に、ミイが緊張する必要なんてないザンス」

 「わっちも右に同じく。どうせ、マリア如きでは、兄様、姉様には勝てないでありんす」

 「ん!? この野郎・・・」


 仲が良いのか。悪いのか。

 この三人はよく口喧嘩をする。


 ◇


 「リュシエ。緊張しますね」

 「はい・・・私たちも投票する時が・・・」


 ネーブル・リュシエ姉妹が、隅でオドオドしていると、その隣に歯がやけに白い男性が来た。

 白い歯を見せびらかすかのような笑顔での会話だ。


 「ネーブル姉さん。リュシエ。相変わらずお美しいです。それに、このセンシーノに一票を入れてくれると・・・」

 「「はいぃ??」」

 

 意味の分からない発言に、二人が首を傾げた。

 あなたはもう立候補者じゃないでしょ。とツッコミを入れたかった。

 

 「あなたたち、お二人の声援があれば、このセンシーノ。必ず世の女性の為に動くのです」

 「「はぁ?」」


 相変わらず意味が分からない。

 センシーノは、とにかく自由人である。


 「おい。セン!」

 「ぬ?」


 第三皇子センシーノが振り向くと、第二皇子ジュードがいた。


 「相変わらずだな」

 「おお。ジュー兄ではないですか。お久しぶりです」

 「なあ、どうだ。この後、久しぶりに戦うか?」

 「・・・んんん。そうですね。今日は遠慮しておきます」

 「なに。珍しいな」


 意外だろうが、ジュードとセンシーノは仲が良い。

 共に戦士の心を持つ二人だからである。


 「ええ。姉さんの晴れ舞台となるでしょうからね。お祝いをせねばね」


 第三皇子センシーノ。

 お茶らけている姿しか見た事が無いと巷では言われる男だ。

 でも真の彼は別人のように大人である。

 彼はレオナが勝つと信じている。


 「そうか。そいつは俺も、祝わないとな」

 「ええ。その時は一緒に飲みましょう。ジュー兄」


 センシーノは、ジュードであればレオナに票を投じると信じている。


 「ああ。いいぜ。浴びるほど飲もうか」


 皇帝の兄弟たちは、各々で見るとそれほど仲が悪くない。



 ◇


 会議場の中央にぼうっと立っていた男の子に、レオナは話しかけた。


 「シュルツ。どうかしましたか?」

 「はい。レオナ姉さん・・・・」


 応答反応が悪い。 

 でもこれはいつもの事なので、レオナは気にしない。


 「緊張しているのです?」

 「はい・・・・私は、この後でですね」

 「この後?」

 「はい・・・・レオナ姉さん。この後の時代・・・それはどのようにして動くのでしょうか。この国・・・・この時代・・・この世界・・・面白いですね。そろそろ私が動く時ですかね」


 シュルツが何かを噛み締めて言葉を発していた。

 相変わらず考えていることが分かりにくい男だと、レオナは思う。

 

 「え、動く。ですか?」

 「はい。難しい分、面白い。私は、あの方がどのような細工を施しているのかを研究したいと思います。人としても面白い人ですから、客観的立場から眺めておきたい」


 シュルツの目は、今を映していないようだった。

 先を見据えている。

 そんな気がしたレオナだった。


 ◇

 

 会場にリュークが登場する。


 「みなさん、お集まりになられましたね」


 皇帝の子らが頭を軽く下げた。


 「はい。ではこれより、お一人ずつ、あちらのカーテンで仕切られた場所で、ご自身がこの人が皇帝で良いとする人間の名前を書いてもらいます。この選挙の投票で、不正は絶対にできません。お渡しするペンと紙は特殊なものですし、私が書くところを見るので、何も仕掛ける事は出来ませんのでご安心を。これまでとは違います」


 これまでとは違う。

 その意味は、ここまでのやり方に不正が生じていると、リュークが指摘していた。

 彼は、ロビンを見て、マリアを見たのだ。


 こちらが指定したやり方があったのだが、隠れて子供同士のやり取りをしている者がいる。

 例えば、ロビン。マリア。

 この二人は、時間外で子供たち同士の接触をしていた。

 それが、不正と言えば、不正であるからだ。

 票を入れろという脅しをしないマリアもという所に、リュークの公平性があった。


 「それでは、ロビン皇子からどうぞ」

 「わかった」

 「はい。ではこちらへ」


 投票権は本人にもある。

 自分を選んでもいいが、選ばなくてもいい。

 自由にしろという意味で、フュンとジャックスが提案した部分だ。


 次々と、リュークの前で皇帝の子らが投票していく。

 順調に書いていく者がいれば、少し悩んで書く者もいる。

 自分の一票が次の皇帝を決める。

 責任重大な一票だったからだ。


 そこでマリアの前。

 第七皇子シュルツの番が来た。


 ◇


 「シュルツ皇子」

 「はい」

 「こちらの紙にどうぞ。皇帝に相応しいと思う人物に一票を」

 

 リュークから紙とペンをもらったシュルツは、その場で停止した。


 「ど、どうしました。シュルツ皇子」


 動きが無くなり、心配になったリュークが聞いた。


 「ええ。少し悩みますね」

 「な、ここまでに、決めていらっしゃらないので?」

 「はい」

 「・・あなたはロビン皇子に入れるのでは?」


 リュークは、公平性を保つために皇帝の諜報機関を駆使して、情報を取得していた。

 シュルツを仲間に加えようと動くロビンとクロを知っているのだ。


 「いいえ。私は、兄様に入れるかで悩んでいない」

 「な!?」

 「私は、マリアに期待するかで悩んでいます」

 「・・・え?」


 シュルツ・ブライルドル。

 のちに、先見の明のシュルツと呼ばれる男性で、この時若干15歳。

 フュン・メイダルフィアに近いもしくは同等くらいの政治的センスと勘を持つ。

 なにせこの時、ロビンが裏で票を獲得しようと動き出していたことを知っていた。

 それを知って、あえて、兄に票を入れるのでと一言だけ言って、その後の煩わしい話し合いを断っていたのだ。

 だから、シュルツは選挙期間中でロビンに一度しか会っておらず、彼の監視対象から外れていたのだ。

 全てはこの期間を自由に動くためにだ。


 「私の情報では、レオナ姉様がいい。これは間違いないです。姉様なら、この国を維持できる」

 「・・・そうですね。ではレオナ皇女を?」

 「気持ちはそうです。ですが、私の勘がですね。マリアの方がこの国を発展させられるのではないかと囁いています」

 「マリア姫が・・・なぜ?」

 「今、彼女の裏にいる男。フュン殿。うん、アーリア王ですね。彼の知恵をもらえている彼女たちであれば、この国を維持ではなく、発展の方に動かすことが出来ると睨んでいます」

 「なるほど」


 リュークの内心は。

 『この男の方が皇帝に相応しいのではないか』

 全ての情報を得て、悩む部分が的確。

 もしかしたら三候補よりも、遥か高みの位置から物事を見ている気がしたのだ。


 「私はこの先の世界に、融合の時代が一度訪れるのだと思っています」

 「・・ゆ、融合とは何ですか?」


 この男の考えが気になり、選挙管理委員なのに、知らない内にリュークは、一歩踏み込んで聞いてしまっていた。


 「これまでの戦いの歴史がいったん止まり、文化や技術の交流が始まります。それぞれがそれぞれの特色を生かす形で発展していく。そんな新たな時代が訪れる。その後で戦いの時代が訪れたとしても、その前の段階の技術交流が間違いなく行われるのだと思います。あの男・・」


 リュークが彼の話の途中なのに、ついつい言葉を出してしまった。


 「こ、交流ですか!?」

 「ええ。そうです。交流が始まります。あの男・・・」


 そんな疑問にも丁寧に答える糸目のシュルツの目が見開いた。


 「フュン・ロベルト・アーリアの口によってです!」

 

 この言葉には自信が溢れていた。

 リュークにはそう感じられた瞬間だった。


 フュンがやろうとしていることを見抜く天才は、ここにいた。

 ジャックス。マリアたちとは違い。 

 フュンとは何も接触したことのない人物であるのにもかかわらずだ。

 オスロ帝国の皇帝の子らは優秀な子が多かったのだ。


 

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