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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン・イスカル編

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第311話 クラリス・ブライルドル

 アーリア歴6年12月5日。

 選挙戦も終盤。

 来年一月一日に発表とするために、十二月三十一日に投票となるので、ここが追い込みどころだった。


 レオナの選挙戦は、通常通りに設けられた面談会という時間を使って、兄弟たちと会話をしていた。

 面談会とは、1対1又は1対複数でもいいのだが、本人が兄弟たちと会話をして、この先の帝国の為にどのように動くのかの話し合いをするのだ。

 レオナは公平な女性なので、それ以外の時間は絶対に説得には使わないで、会いたいときは勉強会と称して、相手から教えをもらおうと動いて、積極的なコミュニ―ケーションを取ってきた。

 その行為の全てが正々堂々だった。



 マリアの選挙戦は、その面談会も使わずに、セブネスとレイとべったり遊んでいた。

 雑談したり、今後のことを話し合ったりと、兄妹らしく、自由な時間を過ごしていた。

 この指示は、フュンの指示で、彼女にはこれ以上の票が必要ないので、無理に動くことを辞めて、三人が積極的に仲良くなるべきであるとした教えがこのような行動に直結していた。

 事実、セブネス、レイ、マリアは、兄弟間の中でもかなり仲が良くなった。



 ロビンの選挙戦は、このような行為を無視して、何やら企んでいるようだった。

 クロを使い。選挙の票をかき集める動きをしていた。

 それで勧誘して賛成を決めたのが、ネーブル。リュシエ。シュルツ。この三名を手にした。

 ギャロルがどちらにいくのか悩んでいるので、それを切り捨てるわけではないが、対処を後回しにした。

 センシーノは最初から除外。

 ジュードは以前の問答でいらないと判断していた。

 だから、最後の一人クラリスをどうするかでロビンとクロは悩んでいたわけだが。

 彼女をここに呼んで話をすべきかどうかでも悩んでいた。


 「クロ。どうする」

 「はい。ロビン兄さん。クラリス姉様は危険かと。抱き込むのは・・・難しいのでは」

 「そうだな。奴を手にしても、制御しにくいだろう」

 「はい。姉様はアクが強い・・・」


 おべっかが効かない相手。制御をしにくい相手を仲間にしては、後々が大変だろうと除外しようかと思ったが、ギャロルを手に入れられない場合に、皇帝の後継者にはなれない。 

 票が足りないので、手に入れるしかないのも事実だ。


 「しょうがないか。クラリスを呼べ。票を入れてもらおう」

 「わかりました」


 手探りでもいいので、彼らはクラリスと会う事に決めた。


 ◇


 後日。


 「クラリス。久しぶりだな」

 「・・・・」


 彼女が、仏頂面の無言で頷いた。

 不機嫌なのではなく、そういう女性である。


 「・・・・」


 続く言葉がない。

 ロビンの方が話に困った。


 「何の用?」

 

 時間を置いてから、クラリスの一刀両断するかのような鋭い言葉が出てきた。 

 しかし、これも不機嫌じゃない。

 通常状態である。


 「結論を言う。私に票を入れろ」


 ロビンが強めに言うと、それ以上にクラリスが強めに言う。


 「なんで?」

 「お前、レオナに入れる気か?」

 「知らん」

 「知らん? お前の票だぞ。お前が決めるんだろ?」

 「今から決める考えがなかった」

 「な!?」


 最後の瞬間。投票をする時に、投票する先を決める。

 彼女は、そう思っていたらしい。


 「お前、レオナでいいのか。奴は庶子の子だぞ」

 「庶子?」

 「知らんのか。奴は半貴族の子だ」

 「へえ」


 なるほどという意味で『へえ』と使う。

 興味がないみたいに聞こえるが、実際は感心している。

 庶子の血を持ちながら、あれほどに優秀な人であるのかと、クラリスは逆にレオナを高く評価した。


 「いいのか。お前は貴族の子だろう」

 「うん」


 大貴族マルベーニ家の出身。

 クラリスは、名門の出である。


 「貴族中心でいた方がいいだろ。次の皇帝はな」

 「そんな事知らん」

 「なに?!」

 「次の皇帝は、貴族とかどうでもいい。次は、とにかく強くないといけない。じゃないと、あの男に勝てない」

 「あの男?」

 「フュン・ロベルト・アーリア。あの男の口に勝てねば、オスロは敗北する」

 「なんだと」


 突然の宣言にロビンは驚いた。

 自国内の選挙ではなく、彼女が指摘したのは未来のオスロ帝国の行く末だった。


 「そんなこともわからん?」

 「なに。馬鹿にする気か。クラリス」

 「馬鹿にはしていない。ただ、そこに気付かないのかと言っている」

 「奴など、殺せばいいではないか。私が王になったら即刻殺す。今でもいい。殺してみせる」

 「は?」


 一言が返す。

 その時の顔が思いっきり馬鹿にした顔だった。

 殺すという言葉を短絡的に使って来たから、馬鹿だと思った。


 「クラリス。馬鹿にするなら貴様も殺すぞ」

 「いい。やってみろ」

 「なに?」

 「ぬるい考えしか持たない王の元では、国なんて消滅するだけだ」

 「貴様。私を馬鹿にする気満々ではないか」

 「そう思いたければ、そう思えばいい。それにしても、ずいぶんと自分に自信がないようだな」


 クラリスの方が、兄よりも堂々としていた。


 「あの男に勝てねば、オスロが敗北する。その答えを知らない者に、うちは投票することはないだろうな。サラバだ。兄」

 「ま、待て」


 踵を返した彼女は、そのまま部屋を後にしようとすると、顔だけを振り向かせて言う。


 「クロ。お前がそこから矢を放とうと思っても無駄だ。無音系統のクロスボウか・・・それで殺せば音もなく殺れると思っているのだろうが、うちには通用せんよ。お前、世の中をなめていると、痛い目に遭うぞ」


 ロビンの背後にいるクロに対して堂々と宣言したのだ。


 「な!?!?」

 

 なぜそれをと、クロが固まっている間に、クラリスは退出した。


 ◇


 その直後にクラリスは、レオナとの面談会があった。

 正式な依頼だったので、遅れないようにしてクラリスはレオナの元に来た。


 「クラリス」

 「レオナ姉さん。お久しぶりです」


 クラリスは、言葉遣いがはっきり分かれている人だった。

 丁寧にあいさつを交わした。


 「ええ。お久しぶりですね。どうぞ。座って。お茶にしましょう」

 「ありがとうございます」


 クラリスは、素直に席に座ると、彼女が用意してくれる姿を見つめた。

 

 「姉さんが、作ってくれるのですか」

 「はい。あまり上手じゃないですけどね」

 「いえ。嬉しいです。ありがとうございます」


 レオナが紅茶を入れて、二つ分をテーブルに置く。


 「はい。どうぞ」

 「ありがとうございます」


 二人で一緒に飲み、その後は雑談から入り、談笑した後。

 時間が来たので、そろそろとレオナの方から終わりを宣言する。

 彼女は律儀なので、時間を守ろうとするのだ。


 「姉さん」

 「なんですか?」

 「最後に質問を良いですか」

 「はい。どうぞ」

 「アーリア王に勝てねば、オスロは敗北する。この意味を理解できますか」

 「ちょっと待ってください。少し時間をもらってもいいですか」

 「はい。待ってます」


 質問に真摯に答えようとするのが、レオナである。

 真剣に悩んで、ある答えを出した。


 「そうですね。負けますね」

 「その真意は?」

 「彼がまだ45歳。父が60歳。ロビン兄様が35歳。私が30歳・・・考えたくはないですが、陛下が亡くなっても、フュン様は生きていらっしゃる。私たちと10歳ほどしか違いがないので、彼に口で勝てねば、世界の主導権は取れないでしょうね」


 歳がまだ自分たちの方に近い。

 もう少し離れていたら、警戒をしなくても良かった。


 「それに戦争は駄目です。彼は天才的な軍略家でありながら、すでに同盟を二つも結んでいます。ええ。彼はワルベント大陸を掌握していると言ってもいい。だから超危険人物でもあります。なので、私たちがあちらの二大陸との戦争をする考えは持ってはいけません。出来る限り、彼とは口でやり取りをしたい。それに、クラリス。彼の部下の事を知っていますか?」

 「ええ。当然。うちも見学に行きました」

 「ああ、あれを見てきたのですね」

 「はい。化け物を二人も見てしまいました。うち、あの時は震えが止まりませんでしたよ」

 「ええ。私も見ました。鬼神と戦いの女神だそうですよ。彼らはそう呼ばれているらしい」


 レックスとジュード。ゼファーとレベッカの模擬戦闘が、この選挙期間中にあった。

 あのレックスが、個人戦闘で膝をついたのは初。

 集団戦闘でも、五分五分の結果だったのが初だった。


 ありえない強さを持つ鬼に、個人の強さなら世界でも一二を争う女性。

 あの二人を見てしまったら、戦おうとしてはいけない。

 しかもアーリア王が存命の時にはなおさらだ。

 彼を守るために鬼は真の鬼になり、女神は戦いの神へと変貌するだろう。

 あの模擬戦はまだまだ本気じゃない。

 本気が見えた時、その時、ルヴァン大陸の兵士たちは震え上がるだろう。


 そうなれば、ワルベント大陸の技術支援を得た軍が、こちらのルヴァン大陸を蹂躙する恐れがあるのだ。

 それを危惧しているのがクラリスであった。

 彼女が大局を見る事が出来る人物だとフュンが見抜いているのは、この力を持っているから。

 駒じゃない。

 指揮官側の思考を持つ女性。

 それがクラリスである。


 「しかもですよ。クラリス」

 「はい。なんでしょう」

 「あの二人以外に同等の人が、三人いるみたいです」

 「え?」

 「メイファ。タイロー。ネアル。この三名が同じくらいの実力者なのだそうです。アーリア王が言っていました。珍しく自信満々にです」


 フュンの顔をよく見ていたので、レオナはそう彼の感情を捉えていた。


 「な!? や、やはり、戦ってはいけませんよ。姉さん」

 「ええ。もちろん。私は最初からフュン様とは戦う気がありません。このまま同盟を結んで、末永く二国間では平和に過ごしたいと思っています」

 「よ。よかった。それがいい」


 クラリスは、ほっと一安心した。


 「あと、戦いには生産性がないのもいけないですね。私はもう少し、世界の距離を縮める何かを作りたいと思っています」

 「世界の距離?」

 「はい。高速輸送艦を作りたいですね」

 「高速ですか」

 「ええ。高速船で、大陸間を移動したい。私はもっと、大陸間で交流をしていった方が良いと思います。自由に行き来していける世がくれば、面白いかなって思います」

 「・・・へぇ」


 この人は先を見ている。

 今度は本当に感心した言葉が出ていた。


 「わかりました。姉さん」

 「はい?」


 レオナは、急に立ち上がったクラリスに驚いた。


 「うちは、姉さんに票を入れます。姉さんに皇帝になって欲しい。以上です」

 「は、はい・・え?」


 今の問答で何が良かったのか。

 正直分からないけど、妹が応援してくれるなら嬉しいと思った。


 「うん。そうか、クラリス。応援してくれてありがとう。頑張ります」


 だから最後は笑顔で、レオナは答えたのだ。

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