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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン・イスカル編

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第307話 英雄の頭脳 クリス・サイモン再び

 「では作戦を考えました。よろしいでしょうか」


 クリス・サイモンが進言をした。


 「いいです。お願いします」

 「私もお願いします」


 ウーゴとジェシカが同意したので、クリスは作戦を説明する。


 「では、作戦はですね。サイリンを干上がらせます!」

 「「え!?」」

 「フュン様の作戦の主な部分。それを読み解けば、これが一番であると思います。サイリン家が持つ最大領土は、ピーストゥーのみ。後は、細々とした村や町。この範囲の領土では、全てを養うのは不可能。そして、海戦をしたくても、不可能。それは」


 それは、艦隊を7もウーゴが所有しているので、1隻や2隻程度の船を造船しようが意味がない。

 海も封じられているサイリンの領土なのだ。

 だから、次にやれることは、食糧確保だ。

 彼らが出来る食糧確保と言えば、ラーンローかマクスベル。

 それか、ワールグの東にあるミルロという大都市だ。

 領土を潤すほどの食料があるのは、この三つしかない。

 その中で狙いやすいのが、マクスベルだ。

 ピーストゥーに近く、支配域にも近いので、狙い目である。


 「なので、私は防衛戦争を仕掛けます。三つの場所の防備を厳重にしますが、特にマクスベルは強固にします。サイリン。あの家は軍略だけは素晴らしいものを持っています。だから逆手に取って、戦うのです」


 防衛戦争を仕掛ける。

 言葉としてはおかしい。

 戦争を仕掛けるなんて、攻撃をする側が使用する言葉だからだ。

 でも仕掛けるのだ。

 サイリンには、それしか選択できないように追い込むからである。

 

 「クリス殿、上手くいきますか」


 ジェシカが聞いた。


 「いきます。奴らの食料。戦闘をしたらおそらく一年持たない。無駄に食料だけが減っていく状態を放置できなくなると思いますね。それにこれはフュン様の考えです。絶対に成功します」

 

 神の思考にも近いフュンの思考。

 そんな風に思っているクリスは、この考えが彼の考えだと確信している。

 

 「兵士がたくさん居ようが。武器を十分に持とうが。お腹いっぱい食べられる食料が無ければ、それを活かすことが出来ない。あくまでも人に注目する。それが、フュン様の考えです。完璧です」

 

 クリスは、ここで一つ思い出していた。

 僕の考えを考えてはいけませんと、フュンに怒られたことがあるが、ここは自分の考えとも一致しているから、この考えを押しきろうとしていた。

 なぜなら、勝率が最も高い作戦がこれだからである。


 「それで、まずこのマクスベルにタイム殿を配置したい。この中で最も防衛が上手いのがタイム殿です。ですから、防御をお願いしたいです」

 「ええ。いいですよ。僕にお任せを」


 作戦の要の将をタイムに設定。

 四人の中で最もバランスを取るのが上手いタイムが大将を務める。


 「次に、マクスベルと決めているとはいえ、他の箇所にも攻撃が来るかもしれません。そこで、各地に将を配置します。リーズに私とギルが入りますが、軍の指揮はギルです。いいですか。ギル」

 「ああ。まかせろ」

 「周辺地域に攻撃に出てもいいはずなので。その時の判断はよろしくお願いします」

 「ああ」


 ギルバーンがウーゴの軍。レガイア王国軍を指揮する。

 

 「次にラーンロー。ここも状況判断の良いイルミネス殿に任せます。よろしいですか」

 「はい。頑張ります」

 「ラーンローは難しい立ち位置にいます。前にでもいいし、後ろにいてもいいのですが、状況がつかめないと思いますので、都度連絡をします」

 「はい。わかっていますよ」

 

 ラーンローはリーズにも近いので、連動しないといけない。

 前に出過ぎても良くないし、後ろに下がり続けてもリーズを孤立させてしまうかもしれないのだ。 

 非常に難しいバランスを取っていかないといけないが、イルミネスはそこが上手いので何とかなるとクリスも人材配置が上手かった。


 「それと、シャッカルは彼女に。ここにはいないんですが。サナ殿にお任せするので、大丈夫だと思います。彼女は歴戦の将です。独自の判断も素晴らしいし、副将に入るマルクスさんも意見を言えるはず」


 今のサナとマルクスは、シャッカルの防衛に当てているので、こちらの会議には参加できなかった。

 でも二人が守ってくれているからこそ、クリスが安心してリーズにまで来られたのである。


 「それで、マクスベルが防衛に入って、防御に専念したとしても、他と連動しなければマクスベルが危険となります。なので攻勢に出る部分を作りましょう。一番に前に出るべきなのが、ギルのリーズです。ここで周辺地域を治めた方がいい。リーズの北東から南東までの進軍をして、圧力をお願いします」

 「ああ。わかってる。俺がやろう」

 「はい。それに合わせて、イルミネス殿がラーンローから出撃してもいいです。こうすることで、徐々にサイリンにプレッシャーを与えるのです。防衛戦争の間に、領土を削る作戦です」


 実に厭らしい。

 クリスもフュンのような作戦を思いついていた。


 「クリス。その時、お前はどこに?」


 ギルバーンが聞いた。

 

 「私は、マクスベルに移動すると思います。タイム殿が前線の塹壕にいてもらうので、私は全体と無線を繋いで連携を取ります。それで地図を広げて戦況を確認します。ジェシカさんと共にですね」

 「わ、私もですか」

 「ええ。もちろん。ジェシカ殿がいなければ、詳しい地形が分かりませんからね」

 「あ。なるほど。そうですわよね」


 詳しい地形を知る者がそばに欲しい。

 クリスの戦略は細かい部分も視野に入れていた。


 「それでまだピーストゥーにはノノがいますので、影の仕事は終わっていません。私は物資確認をしたいと思っています。影で敵の情報を得て、戦争を継続できる日数を計算しながらここは戦います」


 情報を得ながら、敵を見極める。

 クリスの戦略もフュンらしい戦い方だった。


 「では、この布陣でいきます。これでサイリン家を滅ぼします。新たな世に、彼のような方は厳しい。野心溢れる方も重要ですが、今、この時の世には要りません。フュン様の計画だと。世界のバランスを取る事が大切ですからね。彼を排除して、ワルベント大陸を平定しましょう」


 クリスは皆を見て、宣言する。


 「ここにアーリアとワルベント。この両大陸が協力し合える体制を作りましょう。我々の力を合わせて! 頑張っていきましょう」

 「「「おおおおおおおお」」」


 皆と共に、生きるために。

 これからのアーリアとワルベントは、大陸間戦争じゃなくて、手を取り合う。

 その最初の一歩が、四国戦争であった。

 三国対一家の大陸の覇権を握る戦い。

 それがいよいよ開戦となるところであった。

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