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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン・イスカル編

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第306話 フュンの新たな時代を生み出す計画は完璧に機能した

 アーリア歴6年10月。


 フュンの元に知らせが来る。


 「フュンぞ。ウーゴが勝ち切ったようだぞ」

 「リーズまで?」

 「そうみたいぞ。連絡が来たぞ」

 「そうですか。これで僕の人質としての役目は終わりですかね」

 「そうぞな」


 一年でリーズまで奪取できる。

 そう豪語したことが証明された事で、フュンのお役目は、ここで御免であった。

 人質と引き換えの六隻の軍艦だけで、ウーゴがリーズまで掌握したことは偉業である。

 果たして、この結果に猛反論できる者など、オスロ帝国内にいるのだろうか。

 あの時反対を決め込んだ人間たちは、黙るしかないだろう。


 「どれほどの支配規模になったのでしょうか。北の半分くらいを?」

 「そうぞな。リーズの北東と東。ここは敵に奪われているらしく、サイリンが所有しているみたいだぞ」

 「やはりサイリン。最後の敵はあそこですね。でも、次の問題で解決できるタイミングだ」

 「次の問題・・・なんだぞ?」


 すでにフュンは次の計画を立てていた。

 

 「はい。サイリンを抑え込む方法は、兵糧攻めです」

 「ん? 兵糧攻めぞ?」

 「ええ。実はね。攻撃をしない。これを実行すると、サイリンの領土が勝手に死んでいきます」

 「え? どういうことぞ」

 「僕はですね・・・」


 ジェシカに指示を出した通りで。

 ラーンローとマクスベル。

 この双方の都市をガッチリ確保する事が重要であると言った意味がここにあるのだ。

 南の食糧生産の要『マクスベル』

 南の食材を調理できる要の『ラーンロー』

 この二つに比べて、ピーストゥーは軍事基地に近い。

 工場が乱立されている場所なだけで、食糧生産はぼちぼち。

 その周りの市町村も食糧生産は通常。

 豊かな地ではない。


 これが後に影響を及ぼす。

 軍事能力は高く維持が出来ようとも、そのまま行けば、民の食が干上がるのだ。

 だから北からの食料支援を受けないといけない形となるが、それは叶わない。

 北もウーゴが掌握した結果。

 サイリンが補充できる地域がないのだ。


 「つまり、サイリンはこのまま行くとただただ飢えて、負けの二文字が大きくなる時を過ごすだけとなる。こうなると二つの手段が取れます」

 「二つかいぞ・・・ああそうか。死に物狂いで奪取するか。降伏するかの二択ぞな?」

 「ええ。そうです。なので、僕は口を出せませんが、クリス。ギル。タイム。イル。この四人なら僕の考えを理解してくれているはずです。彼ら知恵者が四人。あそこに集まっているのですから、作戦は完璧になりますでしょ」


 フュンは具体的な指示を出さなくても、自分の仲間が正解を導き出すと思っていた。


 「まあ、そうぞな。あいつらもやるからな」

 「はい。僕はクリスらを信じてますよ。遠く離れていてもね。それに僕は、ウーゴ君が最後にドカンと決めてくれると信じてますよ。ハハハ」


 東を見つめて、フュンは仲間たちを応援していた。



 ◇


 リーズに集合したのが、クリス。ギルバーン。タイム。イルミネス。

 それと、ウーゴにジェシカだ。

 最初にギルバーンが盟友の心配をする。


 「おい。クリス。どうした。その腕」

 「ええ。ギル。少々判断を間違えましてね。攻撃をもらいました」

 「治るのか? 大丈夫か」


 クリスの肩から吊るしている包帯が痛々しい。

 長い間放置もしていたので、回復に遅れていた。

 今は処置をして、回復方向に向かっている。


 「ええ。まあ、中身としては骨折であるみたいなんで、しばらくすれば大丈夫かと」

 「そうか。でも無理するな。ここには、イルもタイムもいるんだ。お前は後ろにいても」

 「いいえ。そうはいきませんよ」

 「いや、下がってろ。ウーゴ王にジェシカ殿。二人を最終的に守る軍師のポジションに入ろう。俺たちが最前線を戦うわ。な。タイム。イル」


 ギルバーンの言葉にタイムとイルミネスが頷く。

 仲間の怪我を軽くはみない。

 悪化して倒れられても困る。

 クリスの頭脳は、フュンを超えるとフュンが思っているからだ。

 主の意思をよく知る三人だからこそ、クリスには休んでほしい。


 「ええ。わかりました。最終ラインに入りましょう。私が皆さんの後ろになりますよ」

 「ああ。それがいい」


 次にジェシカがウーゴに跪いた。


 「ウーゴ王。よくぞご無事で・・・今までの非礼。今まで、忠義を示さなかった事。誠に申し訳ありませんでした」

 「いえいえ。ジェシカさん。いいんです。私が弱かった。ただそれだけ、あなたに非はありません」

 「ウーゴ王!?」


 会っていない間に、随分と立派な方になっている!?

 ジェシカは目を丸くして、ウーゴの素晴らしさを感じた。


 「それよりもこれから一緒に頑張りましょう。まずはあなたの国を宣言せねば」

 「わ。私の国!?」

 「あれ。そういう話で、あなたの戦いが続いていたのでは?」

 「いや、それはウーゴ王が生きてくださっているので、そんな話には・・・」


 ウーゴが死んだ場合。

 ジェシカは立つつもりだった。

 フュンと話し合った当初の計画もそのような形であったのだ。


 「いいえ。私と一緒にワルベント大陸を輝かせていきましょう。私が北。あなたが南。半分にして、二人で互いの国を立派な国にしていきましょう」

 「・・・な!? いや、え?」

 「大丈夫。フュン殿が、支えてくれます。私たちをです」

 「アーリア王が!?」

 「はい。だから三人で、少しずつ頑張りましょう」

  

 頑張る事は連鎖する。

 フュンの大切な教えを胸に刻んでいるウーゴだった。


 「わ。わかりました。ウーゴ王。この私が南を治め。あなた様と共にワルベント大陸を発展させます」

 「ええ。そうしましょう。それでですね」


 ウーゴが笑顔で答えていると、ジェシカはずいぶんと眩い光を放っていると思った。

 まるでフュンのような輝きを持っていた。

 

 「ここから、ジェシカさんの国は、アスタリスク王国でどうでしょう」

 「あのアスタリスクですか?」

 「はい。この戦い。古今衆の功績が、深くあります。彼らの反乱のおかげでミルス・ジャルマに勝てた。それをワルベントに周知させます」


 復活したアスタリスクの民が、この大陸を救ってくれた。

 ウーゴは、そういう話に持っていこうとしているのだ。


 「それで、そのまま彼らをジェシカさんに抱き込んでもらい。タツロウ。ライブック。この両名をそちらに送ります。特にライブックは、こちらとそちらの外務大臣にして、兼任の大臣にしましょう。相互協力の礎になってもらいます」

 「なるほど。ライブックをですね。承知しました」


 相互の国で大臣となるライブックは、まさに懸け橋となる男である。


 「ジェシカ宰相。これからはアスタリスク王でありますよ。いいですね」

 「はい。ウーゴ王」

 「ええ。よかった。これでアーリア王の予定通りです」

 「予定通りですか・・・彼の作戦なのですね。今回のも」

 「はい。そうです」


 ここでホッとした表情をウーゴが浮かべた。


 「でもこれでよかったんです。いや危ない所でした。私が、この月までにリーズを奪取できねば、アーリア王の首が飛ぶところでしたからね」

 「え?!」

 「彼は私の為に、オスロ帝国の人質になったのです」

 「な!?」

 「人の為に生きていける。そんな彼のような人に私はなりたい。彼のような強さを持つ人間になりたいと、私は思っています。なので、協力し合いましょう。ジェシカ王」

 「・・・そうですね。私もそうでありたい。ええ、そうなれるように、私も頑張ります」


 ジェシカ・イバンク。

 アスタリスク王国の初代国王。

 受け継いだ血にトゥーリーズの系譜もない。

 だから正統な王とは言えないかもしれない。

 でも、そんな女王でも、人々の為に動いた女王であった。

 内政の能力が三宰相の中でも桁違いであり、彼女が治める事になるワルベント大陸南側は大発展をすることになる。

 特にシャッカル。

 ここはとある薬草を育てる。

 大規模農場となるのだ。

 軍事基地で何も資源のなかったその場所は、薬草で有名な生産地になり、化粧品の一大メーカーが出来る。

 国王が持つ会社、イバンク商会が出来上がるのだ。


 そして、彼女の子。

 第二代国王アーニャ・イバンクは、ロイド・クラリオンと結婚するので、第三代国王クラウド・イバンクは、トゥーリーズを継ぐ者として、正統性が加味されることになった。

 なので、アスタリスク王国は、完全にレガイア王国の兄弟国のような形の国となる。

 さらにこうなると、アーリア王国もその血に加える事が出来て、トゥーリーズの家系が治める国が世界で三つとなり、トゥーリーズ同盟の力が、益々強まり、世界にも影響を与える同盟となるのだ。


 今の困難を武力で解決しなかったフュン・メイダルフィア。

 その計略は、お見事であった。

 未来の為に築いた同盟は、果たしてこの先どのような展開をするのか。

 それは未来の人にしか分からない事。

 でも、間違いなく過去の人たちは、自分たちの先の未来が平和である事を期待している。

 フュン・メイダルフィアが描く理想は、この時から希望として芽生えていたのだ・・・。



 


 

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