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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン・イスカル編

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第304話 思い描く形

 オスロ帝国には、皇帝ジャックスの子が13名。

 仮初の継承権順位は、ただの年齢順である。

 皇子から順に。


 第一皇子 ロビン    継承権1位

 第二皇子 ジュード   継承権2位

 第三皇子 センシーノ  継承権6位

 第四皇子 ギャロル   継承権8位

 第五皇子 セブネス   継承権10位

 第六皇子 クロ     継承権9位 

 第七皇子 シュルツ   継承権12位

 

 第一皇女 レオナ    継承権3位

 第二皇女 クラリス   継承権4位

 第三皇女 ネーブル   継承権5位

 第四皇女 リュシエ   継承権7位

 第五皇女 レイ     継承権11位

 第六皇女 マリア    継承権13位


 大所帯となっている。

 フュンはそれぞれを目視で観察したことで、彼らの血気盛んで才気あふれる様子に、ジャックス亡き後。

 死後の闘争が避けられないと判断していた。


 彼らはそれぞれブライルドルを使用している。

 それは、我が子の立場を分けて考えないとするジャックスの配慮があったわけだが。

 ここにきて、それがいい作用になったかは分からない。

 母方の動きが制限されたりするからだ。


 この中で属国出身は三名。

 第五皇子セブネス――ルスバニア王国

 第五皇女レイ――――ギーロン王国

 第六皇女マリア―――イスカル王国

 三名は、それぞれの名を持っていながらもオスロ帝国に属している。


 属国の皇子セブネスがこの中で長兄であり、彼が非常に優秀な男であることも、マリアにとっては大きな力の一つとなっている。

 それで、彼はもう一人を説得していたのだ。 



 ◇


 帝都のとある場所で。


 「レイ。ミイらに協力するザンス」

 「わっちが・・・お兄様とでありんすか?」

 「そうザンス。マリアに協力しなさいザンス」

 「んんん・・・」


 扇子を持つのはセブネスだけでなく、レイもだ。

 彼女のものは、ピンクの花柄の女の子用だった。

 しなやかな手で自分を扇ぐ。


 「悩むザンスか?」

 「もちろんでありんす。わっち。ここから一歩。踏み出す方向を間違えれば、即死でありんす」 

 「うん。その感覚。さすがレイでザンス。だからこっちにこいザンス」

 「そちらに? わっちらがでありんすか?」

 「うん。ギーロンは静観するという立場に入るといいザンス」

 「静観・・・」


 干渉しないという立場にいた方が、生き残れる可能性がある。

 ロビン。レオナ。

 双方の陣営に入った場合、難しい立場になる。

 それは属国であるからこその難しい立場なのだ。

 これが、ただの皇帝の子であれば、何の考えもなしにどちらかに傾いてもいいが、属国の彼らは搾取されるだけの存在になる恐れがあるのだ。


 「セブネス兄様」

 「なんザンス。レイ」


 二人で同時に紅茶を飲んだ。

 話をいったん落ち着かせた。


 「わっちら。マリアの陣営に入ったら不味いありんす。領土が難しい場所にあるために、間違いなく攻撃が来る・・・それは双方から来る可能性がありんす。兄様は端だから、気をつけるのは一方向でありんすが、わっちは厳しい。南東に霊峰があるからまだいいでありんすが。基本は、東と南の二方向になるでありんす」

 「そうザンスな」

 「それでも、わっちは、マリアについた方がいいのでありんすか?」

 「そうザンス!」


 セブネスが言い切った。

 これが珍しい。

 セブネスという男は、商売気質があって、断定して物事を進めない。

 はぐらかして、話を進めていき、勝負所で会話を誘導していくタイプなのだ。

 それをよく知るレイは、珍しい兄の様子に驚いている。


 「・・・根拠は?」

 「ミイは、兄妹は協力した方が良いと思う事にしたザンス」

 「・・・兄様らしくない・・・変でありんす」

 「うん。ミイでも思うザンス。でも、あのフュンという男に言われたザンス」

 「フュン・・・例のあの男でありんすね」


 レイは自分の扇子を顔の前に広げて表情を隠した。

 気になる男の名が出てきたからだ。

 

 「あの男の言っている事。正しいザンス。ミイらが生きていくには、力を合わせないと駄目ザンス」

 「属国同士で・・・と言う事でありんすね」

 「そうザンス。ここを強固な同盟で結んでおかないと、三人とも自国が消えるザンス。レイは、ミイと同じで母がいないザンス。ユウ一人で決定せねばならないザンス。その重荷を、三人で背負うのザンス。分け合うでザンス」

 「三人でありんすか?」

 「三人で協力して決めていくザンス」

 「その考えは・・・あのオスロ連合国という考えからでありんすか」

 「そうザンス。あれを実現するために、ミイらは協力するザンス」

 「・・・・」

 

 レイも、現地でマリアの演説を聞いていた。

 心が震えた瞬間でもあった。

 あれが成功すれば、間違いなく自分の大切な故郷が救われる。

 この大陸の中で生き残れる可能性が大となるのだ。

 あれほど素晴らしい提案は、他にないだろう。

 だが、それが上手くいくとは思えない。

 争いが待っているはず。

 皇帝選挙は、皇帝の子らにとっては真剣勝負となる。

 だから、皇帝の子であっても属国出身の三人にとっては、地獄の選択肢を突き付けられる出来事だ。

 どちらかを選ばねば、死。どちらかを選ばなくても、死。

 そんな選択がこの先に待っている気がする。


 「兄様。わっちが、加入するメリットはありんすか」

 「あるザンス」

 「なにでありんすか?」

 「エレンラージを貸すザンス」

 「な!?」


 三大将軍の一人を貸すというのは、大盤振る舞いにも程がある。

 破格の事で、レイは扇子を落としそうになった。


 「それともう一人、協力を確約してくれると、こちらの女性を貸すザンス。このお人は、アーリア王のとある軍の副長さんらしいザンス」

 「副長??」


 暗い部屋の奥から、女性が現れた。

 美しい顔立ちの彼女はスラリと伸びた足が綺麗に映える妖艶なドレス姿でやって来た。


 「どうも。私はメイファ・リューゲンと申しますよ」

 「な!? は、母上!?・・・に、似ているでありんす」


 一瞬自分の母に見えてしまい、レイは動揺した。

 美しい顔立ちに、闇が似合う姿が記憶の中の母と重なったのだ。


 「あら、私にもあなたくらいの子供がいるわ。それにあなた、可愛らしい子ですね」


 驚いた表情が可愛いと、メイファはレイを褒めて微笑んだ。


 「こ・・こちらの方・・・お強いのでありんすか?」

 「うん!」


 セブネスは首が取れるくらいに激しく上下に頷いた。


 「ど、どれほどでしょう」


 兄が自信満々なので緊張してきた。


 「エレンラージが負けたでザンス」

 「はい?」


 天下の大将軍の一人が!?

 レイの目が点になった。


 「模擬戦を10戦して、2勝8敗ザンス」

 「あのエレンラージ将軍が、たったの2勝だけ???」

 「そうザンス。レックス将軍以来に大負けザンス」


 ちなみに、レックス対エレンラージは、レックスが全勝である。


 「個人戦? 団体戦? どっちでありんすか?」

 「両方ザンス。両方やって、その結果ザンス」

 「はぁ!?」


 普通に戦って、この女性が勝った。

 信じられないとして、メイファを見つめると、レイの前でも堂々としている彼女は、こちらに向かって、右手を滑らかに動かして、笑顔を作ってくれた。

 やはりその雰囲気が母に似ているのだ。

 だから、レイは少しだけ照れていた。


 「アーリア大陸には、この方と同じ実力者があと四人いるらしいザンス」

 「な、なんですって!? そ、それは・・・こちらの大陸よりも強いという事じゃ・・・」


 アーリア大陸は人材の宝庫である。


 メイファ。ゼファー。ネアル。タイロー。レベッカ。

 最強の五人の将。

 これに加えて、クリス。ギルバーン。フュン。

 大局を考える事が出来る指揮官も存在する。


 このほかにも、タイム。イルミネス。デュランダル。アイス。

 などなどフュンの配下は、アーリア大陸の歴史史上最強の布陣だ。

 さらに、次世代もいるので、未来にも人材に困る事はない。


 武器が弱くとも、人は強い。

 技術が無くとも、間違いなく人が強い。

 

 だから、アーリアは人材を提供する気である。

 来るべき戦乱の時代に備えた。

 戦争請負人。

 世界を動かす人材派遣である。


 これに成功すると、間違いなくルヴァン大陸の人間は、アーリアを攻めたいとは思わないだろう。

 遠くの大陸に強者たちがずらりと並ぶ。

 ここを攻めて、もし返り討ちに遭ったら、大損どころか、国の存亡に関わる被害を被るだろうからだ。


 フュンの計略の一つ。

 他人の地で、他人の技術を活用して、味方をしてくれるだろう陣営を勝たせる。

 これが、フュンの作戦の中に組み込まれている事だった。

 これが非常に上手い作戦である。 

 なぜなら、アーリアの地が戦場にならずに済む上に、時間を稼げるのだ。

 

 フュンの思う時間とは、世界の技術に追い付くまでの時間の事。

 アーリアが、他国の技術に追いついてしまえば、他の大陸に負ける可能性を減らせる。

 だから、フュンが生きている時代に、なんとかして世界に対して、アーリア大陸の影響力を強めていけば、アーリア王国は対外政策に置いて安泰になるのだ。

 という事は、内面も盤石になりつつあるアーリアは、世界でも輝きを放つことが出来る。


 フュンが最終的に実行しようとした作戦は、見事な戦略であったのだ。


 彼の戦略の肝。

 それが。

 人、人、人。

 全ては人で始まり、人で終わる。

 フュン・メイダルフィアの大局図。

 誰にも真似が出来ない戦略だった。


 「わかりました。セブネス兄様。わっち。協力するでありんす。そちらのメイファさん・・・よろしくお願いします」

 「ええ。こちらこそ、よろしくお願いしますね。お嬢さん」

 「お嬢さん・・・ふふ。久しぶりに言われたでありんす。懐かしいでありんす」



 ここに三国同盟がなる。


 イスカル。ルスバニア。ギーロン。

 別名、三重同盟。

 新たな時代を乗り越えるために従属国三つが協力していく形がここで成ったのだ。


 

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