表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン・イスカル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

626/741

第301話 土台作り

 票取り合戦となる三人の候補者たち。

 子供同士での人付き合いが始まる。


 それは面談会と呼ばれる既定の時間。

 この人と数時間話すことが出来る時間が設けられているのだ。

 でも、マリアはそこでは何もせずに、勝手にセブネスとの連携を強めていた。


 「セブネス」

 「なんザンス? マリア?」

 「本当に協力してくれんだろうな」

 「なに。仲間となる兄を疑っているザンスか」


 セブネスは、扇子を広げて自分を扇ぐ。


 「セブネスはさ・・・めっちゃ胡散臭い」

 「言うてくれるザンスな。小娘」

 「あたし的には、商人に見える。損得で来るタイプだ」

 「そのとおりザンスよ」

 「だったら何であたしなんだ。兄上や姉上の方がいいじゃんか。得するはず」


 兄妹として協力するにも、弱い自分なんかよりも、あっちの二人の方が良いじゃないか。

 マリアの疑問はごもっともだった。


 「うん。良い感覚を持っているザンス。だから、ミイはマリアに協力するザンス」

 「・・・え? なんで」

 「ミイは、あのフュンとかいう男に言われて、気付いたザンス。兄妹は協力した方が良い事と、それともう一つ。立地ザンス」

 「立地?」

 「ミイの国は、帝都に遠いザンス。ギーロン王国のレイのように、帝都に近い属国ならば、帝都重視の皇帝重視の政策を取れるザンス。でもミイとユウは、無理ザンス。この国家の端と別な大陸。これは厳しいザンス・・・皇帝の影響下にも入れないザンス」

 「確かにな。距離に無理があるな」


 二つの国はオスロ帝国の端の国。

 だから、ちゃんとした皇帝が治めている時代でなければ、生きていくのが難しい。

 次代の王が、ロビン、レオナ。

 どちらか良いだとか、悪いとかいう話じゃない。

 ジャックスが偉大過ぎて、何も困難に陥らずに済んだことが悪い。

 死んだあと、というのが難点になってしまう。

 彼が死ねば、確実に問題が噴出していくだろう。

 その時、どちらかについていれば、戦地になるのは間違いない。

 でも、どちらかに偏っていると、お取り潰しにあう恐れがある。

 ならば最初からこの二か国が協力関係であればよい。

 割り切った考えであった。


 「だからザンスね。ミイは、独自で生き残る方法があった方が良いと思ったザンス。イスカルの力を借りながら、ルスバニア王国を守り切る。二国連携の態勢の方が姉上と兄上の二人の影響を取り除いた存在になれるザンス。いざどちらかが生き残った時。その時は交渉次第で、影響力大でザンス」

 

 つまり、二人の皇帝争いの中で独自路線を貫くという事だった。


 「じゃあ、あんた。その時裏切る気か」

 「そうザンス。イスカルを切っても、ルスバニアだけは生き残るザンスよ」


 冗談半分で答えた。 

 扇子で隠している顔が笑っていた。


 「はっ。いいなそれ」

 「なに?」

 

 まさかの返答にセブネスは扇子を落としそうになった。

 

 「いや、これであんたがあたしに協力してくれる理由が分かった。そっちの方がいい。漠然とした協力関係よりも信頼できる。要は、あっちの戦いが終わるまでは絶対にあたしらは同盟関係。そういうことだろ」

 「そうザンス」

 「ならいい。あたしは、セブネスを信じた。これで疑わねえ」

 「面白い女ザンスね」

 

 セブネスは、マリアの事を一人前と認めた。

 兄弟の中で一番下の少女。

 しかも別大陸の出身で、苦しい立場である。

 ここは是が非でも同盟維持を願う立場だろうに、それでも関係がハッキリした方が良いと割り切る度胸は他の姉弟にはないものだった。

 ここは元々持っていた彼女の性質と、フュンの教えの部分が大きい。

 立場が弱い者が生き残るには、賭けに近い勝負をしなければならない。

 フュンの持論が、彼女の中に芽生え始めていた。


 「あたしは、イスカルを守る。あんたはルスバニア。それがこのオスロを救う事になるんだろ。先生が言うには」

 「そうらしいザンス。何かの秘策があるような言い方だったザンスね。あの男・・・」


 フュンを信じる二人は、時を待つ。


 ◇


 これより一か月前。

 アーリア歴6年6月4日。


 アーリア大陸のルコット。

 この北西の大都市を守護していたアイスは、いつものように監視塔から仕事を始めた。

 北東のロベルトでは、デュランダルがここと同じように守護している。

 しかしあちらは、シャッカルの救援体制を整えているので、警戒度は高め。

 なので、こちらは、ユルユルな警戒をしていると、そちらにも悪いので、緊張感を作りながら、アイスは兵の引き締めをしていた。

 ここで警戒を忘れない事。それが大切なのだ。


 

 でも、彼女の副官のリースレットは、今日は寝坊をしている。

 『一緒に回りましょうね』

 なんて昨夜言っていた癖に、今は監視塔に来てもいない。

 ちょっぴり怒っていて、やっぱりねと思っているアイスであった。


 「どうです。敵は来ていますか」


 兵に聞くと。


 「そうですね。北東方面に異常はないです」

 「よかったです。それなら、今日も大丈夫ですね」

 

 安全確認をしていると、下から『ドタバタ』と音が鳴る。


 「ん?」

 「はぁはぁ」


 リースレットにしては珍しく息が切れていた。


 「あ! リースレット。あなた、今起きたの・・・ってなんで寝巻のままなんですか!」


 薄着で肌が見える。

 はしたない格好であるけども、それどころじゃない。

 慌てているので、声が震えている。


 「それが、アイス様。あっち。あっち。あたし、見えたんですよ。あの船見て。みんな。あっち」

 「え? そんなに慌てないでくださいよ。朝だから静かにしてください」

 「アイス様。北東じゃないの。北西なの! みんな。あの向こうだよ!」

 

 リースレットが指を指す方向は反対方向。

 アイスや、その部下の監視塔のメンバーは皆北東に体を向けていた。

 なぜなら敵が来るとしたら、北東しかありえないからだ。

 北西から船が現れるとは誰も思わない。


 「え?・・・な!? 本当だ・・・アイス閣下。船です」

 「なんですって」


 アイスが驚いていると。


 「ほら。言ったでしょ。あたしだって、驚いているんですよ。この服で来るくらいに!」


 というリースレットは、さっき起きたばかりである。

 

 「しかし、白旗が揚がっているのは何故でしょう。見た事のない船。明らかに別な国のもの・・でも最初から白旗?」


 アイスの疑問は二時間後に解決する。


 「アイス! リースレット。いるか」


 二人は、謎の船からの連絡に戸惑うと同時に聞き覚えのある声にも驚いている。


 「あの声は・・・」

 「リティ様だ!!!」


 二人が望遠鏡で敵の船の甲板を見た。


 ◇


 輸送艦の甲板にいたのは、リエスタともう一人優しげな表情のジーヴァである。


 「お~い。アイス。リールレット。いないのか? どういうことだ。ジーヴァ? ここの配属は二人で合ってるよな」

 「ええ、リティ。合っていますよ」


 穏やかな受け答えをするジーヴァに安心して再度リエスタは声掛けをする。


 「港を開けてくれ。この船は攻撃をしないんだ! アイス。リースレット。どちらかいないのか?」


 交戦目的がないので、必死にアピールしないといけない。

 向こうの態勢としては警戒しているに決まっているからだ。


 「リティ、僕がやりますか?」

 「うん。ジーヴァ。頼むよ」


 リエスタは、ジーヴァの前だと素直な人である。


 「アイス将軍。リースレット将軍。こちら、ジーヴァ・タークです! こちらの艦。攻撃目的がありません。砲台もありませんから、当然に砲弾も持っていません。なので、安心して港を開けてください」


 落ち着いた声での呼びかけに。


 「ジーヴァ殿! アイスです。なぜこちらに? それにそれは・・・」


 返答が帰って来た。

 だから、リエスタの頬が膨らむ。


 「なんだよ。私の時には、返事をしないのに! なんで、ジーヴァの時は!!!」


 リエスタは続けて、右足を軽く振り子のようにして拗ねた。


 「まあまあ。準備が出来ただけですよ。きっとね」

 「んだよ・・・ちぇ・・・」


 拗ねている彼女の頭を撫でて、ジーヴァはもう一度連絡をする。


 「僕らはフュン様の指令により、交易船と共に帰還しました。アイス将軍、こちらは長距離輸送艦と呼ばれるもので、ルヴァン大陸の船です」

 「な!? ルヴァン大陸ですって??」

 「はい、アイス将軍。忘れないで。これはフュン様のすることですよ」

 「ああ。そうですね。それなら、驚いてはいけませんね」

 「そうです。なので、開けてください」

 「わかりました。攻撃態勢を解きます。港を解放しますので、少々お待ちを」

 「ありがとうございます」


 フュンがすることを、いちいち驚いていてはいけない。

 身が持たなくなるからだ。

 それがフュンの家臣団の合い言葉であった。


 ◇


 陸に上がった後。

 ルヴァン大陸側の人間と共に、ジーヴァとリエスタは、アイスたちと会話になった。


 「アイス。リースレット。久しぶりだな」 

 「はい。リエスタ様。お元気そうでなによりです」

 「リティ様! お久しぶりですよ」


 二人との挨拶の後、ジーヴァが紹介する。


 「えっと。こちらがですね。イスカル大陸の将軍、ライス将軍でして。この艦の艦長さんです」


 ジーヴァが右手で紹介すると、ライスは頭を下げた。


 「オスロ帝国将軍ライス・キーブスです」

 「あ、はい。私はアーリア王国将軍アイスと、こちらが副将のリースレットです」


 アイスはこういう時の為にリースレットに話をさせずに、自分で紹介する癖をつけていた。

 彼女に政治的な話をさせるのが難しいからである。


 「アイス殿。リースレット殿ですね。よろしくお願いします」


 二人に挨拶をしてくれた後に、ジーヴァがもう一人を紹介する。

 左手を出す。


 「それでこちらがキャリーさんです。ルスバニア王国のセブネス皇子の片腕の方で、今回の交易の責任者さんです」

 「キャリー・シーズですわ。よろしゅう」

 「はい。キャリーさんですね。アイスです」

 

 二人が握手を交わすと、親睦会が始まった。


 ◇


 しばらく会話をすると、ジーヴァが本件を言う。


 「アイス将軍。連絡を王都に出して欲しいです。僕とライス将軍。それとキャリーさんで王都に行きますので、光信号で連絡をお願いします。それと、あちらの船にいる方たちとは交流会もしておいてください。ルコットの民にも周知して、こちらとの交流を促してください」

 「わかりました。やっておきます」

 「はい。お願いします」


 ジーヴァたちの目的は交流。

 フュンの計画の土台で、同盟から信頼を得ていき、未来永劫とはいかなくても、数十年の同盟を結ぶのが目的。

 この数十年がキーワードである。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ