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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン大陸編

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第298話 マリアの帝国改革宣言

 6月25日

 最後の演説が始まった。

 皇子、皇女らは、年齢の順番で挨拶をしていく。

 城の展覧場と呼ばれる。

 バルコニーよりもさらに大きな都市を一望できるスペースで一人一人が演説をするのだ。


 ロビン。

 彼は、自分が皇帝になれば、このままの強き国が維持されると言い。


 ジュード。

 彼は、自分は皇帝にはならない。ただ、俺の強さは知っておくべきだと言い。


 レオナ。

 彼女は、もし自分が皇帝となれるのなら、この国を強化していく宣言をした。


 センシーノ。

 彼は・・・・いいでしょう。

 要約すると、俺の手で女性たちを幸せにしてみせると言っていた。


 クロ。

 彼は、自分が成長をするために、この選挙に参加できてよかったと言った。


 そして最後に、マリア。

 ここでの彼女の演説は、のちの伝説となっている。


 『マリアの帝国改革宣言』


 と呼ばれる演説だ。


 彼女一人が、会場に立つ。   

 フュンをそばにも置かずに、一人での演説だった。

 

 フュンは、城下で民たちと一緒に聞いていた。


 ◇


 


 「あたしは、マリア・ブライルドル。またの名を、マリア・ミラー・イスカルだ。名が二つある。だから属国の出身だ。皆も知っていると思う。でも、あたしはこの名を恥じていない。二つの顔を持って、あたしは生きている」


 滅多にいない名前の二つ持ち。

 それを強調した。

 

 「結論から言う!」


 マリアの自信のある声が帝都に響く。


 「あたしが皇帝になったら、今までの皇帝をやめる!!!」


 この宣言にどよめくのは、民たちだった。

 帝都の民は、マリアになんて、何も期待していない。

 だから、彼女の声なんて、ほとんどが聞いていなかった。

 さっきまでは手を止めて話を聞いていたのに、今では自分がしていたお仕事を再開させるくらいに彼女の話を聞いてなかった。


 ロビンや、レオナの時とは違い、彼女になった途端に無視をする。

 でもそれは仕方ない。

 彼女が属国の姫の子供だからだ。

 フュンも子供の頃はこんな感じで、話さえ聞いてもらえなかった時もあった。

 馬鹿にしてくるような視線だってあった。

 それは属国という重たい鎖がついていたからだ。


 だからフュンは、この民の反応を想定して、最初にインパクトのある言葉で、勝負を仕掛けた。


 民よ聞け。

 ここからの話の展開を。

 お前たちの国の革命であるぞ。

 聞き逃したら勿体ない。

 マリアの渾身の言葉だ。


 と原案を作成している段階で思っていた。


 ◇


 マリアはインパクトのある一言の後に間を置いた。そして・・・。


 「どういう事だろうと思うはず。でもこれは、今までの古い慣習を捨てて、新しい皇帝になる事を意味する」


 実際にやめるのではなく、生まれ変わる意味で使っていた。

 皆の頭に言葉が残りやすくするためにやめると言っていた。


 「あたしが皇帝になったら! 今選挙をしている18エリアで、一人の代表者を選挙で選ぶことにする。それで、皆の意見をまとめ上げる代表者を誕生させて、私は、彼ら18名と共にこの国を世界最強国家に導く!!」


 感嘆の声が各地でチラホラと出てきた。

 フュンは彼女の演説が徐々に受け入れられている雰囲気を感じる。


 「新たなオスロ帝国は、誰もが意見を言える国家にする。皇帝一人。その発言で国を導くんじゃない。国にいる一人一人が、国をよくするための意見を言って、共に考えて、国を導くんだ」


 実はこの演説の中身。

 これは、フュンがやりたい事であった。

 フュンが大元帥の時代。

 二大国の戦いが終わり、ガルナズン帝国とイーナミア王国が融合する時に、この案でアーリア大陸を平和にしようとしていた。

 ガルナズン帝国のシルヴィアを頂点において、自分とネアル。

 その他の領主又は選挙で代表者を選び、全体で話し合って国家を決める仕組みを取ろうとしたのだ。


 だが、それは叶わずに。

 フュンが王となり、新国家が誕生した。

 だから彼は、この方式を取りたかったが、取りやめる事とした。

 なぜなら、この方式では不安定になってしまうのだ。

 アーリアが一つになったばかりの初代王でこの方式。

 国の根幹を崩す事に繋がるからだ。

 元より安定した国家からなら、この変貌が出来ただろう。


 そして、この考えの基礎は、ササラにある。

 ここの領主と市長は、同時に存在しても、問題のない都市であった。

 だから、これを国家に置き換えて考えた案だった。


 皇帝と、選挙で選ばれた代表者が、共に国家を動かす。

 大勢で考える政策は、議題を進ませにくい問題が発生するかもしれない。

 しかし、全てが巨大化している国にとって、この方式は、それぞれの意見をまとめて、皆で国を動かせるのだ。

 そうした方が、民の不満だって散らしやすい。

 皇帝一人に敵意を向けられる恐れは少なくなる。

 なにせ、政策に不満があるのなら、4年、5年。

 これくらいの期間を置いてする選挙で、その代表者を落選させればいいからだ。


 「皇帝も一人の人間。一人の人間がする行為なんて、些細な事しか出来ない。人は一人じゃ生きられない。誰かと共に生きていかなきゃならない。なのに、皇帝一人の意見で、この大国を動かすのはおかしい。あたしは、皆の為に、皆と共に生きる事を誓う。だから、共に生きるために、協力をしてほしいんだ!」


 この言葉が出てきた瞬間。

 彼女の後ろに控えているロビンの眉は動き、ジュードは笑っていて、センシーノは話を真剣に聞き、クロは無表情だった。


 そして、レオナはというと、彼女だけは深く感心していた。

 たしかに、その方式の方が効率は悪いが、不満が少ないと。

 それも属国からの不満が出にくいシステムだ。

 そうなると国家を安定的に運営をするという意味では、非常に重要かもしれない。

 内乱を未然に防ぐ事が出来るかもしれない。

 三つの国家を従えているオスロ帝国において、この方式は面白い。


 レオナは、自分の考えがすべて正しいと思う人間じゃなく、良い意見は良いと頭を切り替える事が出来る人間なのだ。


 「新しいオスロ帝国は、みんなで生きる! このスローガンを持って、あたしたちは生きていこう。今、世界が近くなった。技術の発展により、世界の距離は近くなったんだ。これは、ルヴァン・イスカル間の問題じゃない。ワルベント・アーリアにも、あたしたちは近くなった。それで、あたしらは、今後彼らと戦う事になるのか、それとも協力することになるのか。それはまだ。この先の事になるからわからない」


 分からない事は分からないと言う。

 そこを正直であれば、伝え想いは伝わるはず。

 フュンとマリアの想いはここに集約されていた。


 「だから! わからないから、準備する。あたしらは、一つでいなければ、その他の国家に狙われる恐れがあるんだ。だからあたしたちは、真の意味で一つになろう。オスロもルスバニアもギーロンもイスカルも。どこも一緒に。一つの国としてやっていくんだ。今のままじゃ、オスロ帝国は一つじゃない。だからあたしが目指す国は・・・」


 いつのまにか民たちも真剣に話を聞いていた。

 小娘如き、何が言えるんだと最初は舐めていたはずなのに。

 演説の最後の方では、帝都民のほぼ全員が彼女の話を聞いている。


 マリアは最後の発言をする。

 皆に届けと願いを込めて・・・。


 「オスロ連合国だ!!!!」

 

 マリアが提示したオスロ帝国の新しい形は、オスロ連合国。

 全ての国を平等に、大陸に住む人々が全員参加する政治体制。

 この原案を考えたのがフュン・メイダルフィア。

 世界史に現れた救世主フュンは、歴史の重要分岐点となる裏側には、必ず存在している。


 サナリアの終焉。

 ガルナズンの改革。 

 アーリアの誕生。

 レガイアの復活。

 そして、オスロの変革。


 アーリアを照らした男は、世界の太陽でもあった。

 人々を照らすために、努力する男である。

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