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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン大陸編

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第296話 暗躍は、跳躍のきっかけ

 フュンの説得により、マリアとセブネスは会談をした。

 その席に、同席したのが各国家の重要人物。

 ルスバニア王国は、セブネス。キャリー。エレンラージ。テルト。マチルダ。

 イスカル大陸は、マリア。ライス。ジミー。


 ◇


 ジミー・ヘンドリクス。

 この男は、マリアナの側近で、イスカル王国で内政をしている男だった。

 しかし今は、マリアナの側近の振りをしてもらって、マリアの支持者に変わってもらった。

 これは、フュンが説得して寝返らせたのだ。


 彼は、人を誑かす悪魔。

 裏で暗躍するには、敵の牙城を崩すことが良い。

 それを口で出来るのが強い。

 フュンはマリアの最大の敵を、他の立候補じゃなく、マリアナに設定しているために、フュンは徹底的にマリアナをイスカルの政治から除外する動きをしていた。

 イスカル王国は、新たな時代に突入しないと、この先を生きていけない。

 だから、ここでマリアナを排除しても、イスカルの舵取りをマリアとジミーに移すべき時なのだ。

 可哀想だがマリアナの現在は、ほとんどお飾りになっている。

 舵を取っているような雰囲気だけがあるが、裏で動き出しているのは、別な動きであった。

 マリアナにはとんでもない仕打ちをしているように思う。

 だけど、彼女がいると進むものも進まないので、この対応はしょうがないのである。

 全てはイスカルの未来を守るためなのだ。


 ◇


 この会談の結果。

 決まったことが秘密同盟の締結。

 選挙協力を中心に、その後に起きるかもしれない戦いの際に相互で援助することが確定した。

 支え合うことを決めた理由は、フュンの説得にあった。

 互いの国は同じ立場であるのだから、共に支え合うべきであるという理論は、決して間違いじゃないはず。


 そして、会議で決まった事がもう一つある。

 それが、長距離輸送実験である。

 遠い大陸へ、一度に大量の物資を運ぶ。

 交易の為には欠かせない実験だ。

 

 長距離で移動するためには、海と船をよく知る人物が必要だ。

 そこで、ライス将軍が指揮官となり、アーリア大陸を目指すことになった。

 こちらのアーリア側で、艦に同乗するのがリエスタとジーヴァの二人。

 この二人には、アイスのいるルコットに行ってもらい、彼女への指示を出して、アーリアの特産物を持って来てくれとの指令を出すことにしていた。


 それで、ここから数日で、彼らに指示を出す時が来た。


 ◇


 「リティ。ジーヴァ」

 「叔父上。なんでしょう」「はい。フュン様」 

 

 仲良し夫婦に対して指示を出す。

 

 「ごめんなさいね。ロイと離れ離れになってしまっていてね。ちょうどいいので、会ってきたらいいと思いますよ」

 「いえ。叔父上。少々会わずとも大丈夫でしょう。父上がいますから」

 「スクナロ様も、寂しいと思っているに決まっていますからね。ロイにも会いましょうよ。母も父もいないのですから・・・んん。ジーヴァ。そこもお願いします」

  

 フュンは、ロイの心配をしていた。


 「はい。フュン様。しかしそれよりも、フュン様が懸念していた方・・・たぶん」

 

 ジーヴァの顔色が悪い。

 予想していた事が起こりそうだと危惧していた。


 「そうですか。反乱がありえるかもしれないと・・・」

 「はい。リティが、表に出て調べている隙に、僕が裏から調べてみたのですが・・・おそらくは、怪しいかと、戦闘準備ではないかと思いますね。隠しの兵もいるみたいで。それと、中にまでは入り込めませんでしたので、かなりの警戒度です。凄いですよ。影でも中に入れないのは初めてです」



 ジーヴァは発言しながら驚いていた。

 

 「・・・わかりました。警戒はしておきましょう。マリアさんにはお伝えしておきますね。ジーヴァ。ありがとう」

 「いいえ。フュン様」

 

 照れながらジーヴァが答えた後。


 「それとフュン様。敵の闇が濃い。その可能性があります。これは僕の月の戦士としての勘です。二重スパイをしていましたから・・・なんとなく」

 「そうですね。僕もそう思いました。あの頃の・・ウィルベル様みたいな雰囲気がありましたね・・・ナボルの頃のね・・・」


 フュンは天井を見つめて、深いため息をついた。

 誰かを思って、ウィルベルの過去を思い出す。

 それは、かつての闇の時代を思い出していたのだ。


 「やはり、ジャックス陛下の光が強いから。心に闇が生まれたのでしょう。そして徐々にこの国に闇をばら撒こうとしていますしね・・・僕らも早めの動きを視野に入れないといけないかもしれない。それ程の戦いが迫っているかもしれませんね」


 選挙だけじゃない。

 この国にある闇の部分が溢れ出すのも時間の問題。

 フュンの予想は、勘である。

 でもこの予想のほとんどが経験から来ている。

 苦しい時代をいくつも乗り越えて、困難をいくつも跳ね除けてきた。

 そんなフュンだから感じる。

 戦いの予兆のような闇。

 

 警戒をしないといけないと思い、二人に指示を出した。


 「ではリティ。ジーヴァ。ライス将軍と共にアーリアに帰りましょう。しばらくアーリアで休んで、ライス将軍を接待してください。それとキャリーさんもですね。彼女にもアーリアは良きところだと知ってもらいましょう。それと、この手紙類をドンと渡してもらえると嬉しいですね」


 フュンが手紙を取り出すと、机の上にドサッと音が出るくらいの量で置いた。

 全部で百通以上はありそうな数だった。


 「マメですね。フュン様は」


 ジーヴァが言った。


 「まあ、趣味ですね。それぞれに書いていましてね。指示の手紙もあるので、こちらの赤い手紙が指示書です。これだけでも、必ず渡してください」

 「わかりました。僕がやります」

 「ええ。お願いしますね」


 二人に手紙を託していた。

 アーリアに自分の生存を知らせる手紙でもある。


 ◇


 アーリア歴6年5月11日

 ルスバニアから、イスカルへ。

 イスカルから、アーリアへ。

 大移動をする実験が始まった。

 長距離輸送艦ミクラン。

 これが成功すると、大陸間で交易が出来る画期的な輸送艦となる。

 軍事利用だけでなく、平和利用できる輸送艦は、この上ない素晴らしい発明であった。


 その翌日。

 輸送艦が出発した後に、フュンは皇帝と会っていた。



 ◇


 皇帝の自室で、ゆったりとしたお茶会が始まる。

 会話の先手は、フュンからだった。


 「陛下。お知らせしてもいいですか」


 飲んでいた紅茶をテーブルに置いて話す。


 「うむ」

 「じゃあ、こうなりました」


 フュンは包み隠さず、今までの情報を流した。

 この意図はもちろん、皇帝ならば、それすらも受け入れる度量があるからだ。

 そして、皇帝の協力を得られると確信しているのである。


 「なに!? そんなことを」

 「はい。それで陛下には黙認してもらおうかと思いまして、話しました」

 「なるほど。その話がどこかで漏れても、あとで余が口添えをしろか・・・フハハハ」


 思わず笑う。

 持っていた紅茶のカップを置いて、口を押さえた。


 「さすがだ。フュン殿。このオスロ帝国の皇帝。ジャックス。殲滅王ジャックを顎で使うか」

 「ええ。そうなっちゃいますね。結果的にね」

 「ハハハハ」


 大胆な男だ。

 ジャックスは心の底から笑っていた。

 誰かに使われるなど、皇帝になってからだと、初めてだろう。

 でも悪い気はしない。協力に何の不満もないのだ。

 これは不思議な感覚だと、ジャックスは思ってしまった。


 「彼らの秘密同盟。これがこの大陸を救うかもしれない。もしかしたら、あなたの子供たちの争いを食い止めるきっかけになる可能性が出ましたよ」

 「うむ。そうだな。一方が攻撃をしても、一方が攻撃に来るのなら、そもそもその攻撃をやめようとする。バランスを取る動きが働くという事か・・・」

 「そうです。この国を、三国時代のようにします。三国があれば、勢力を生き残らせるにも生かす道が多く出るはずです」

 「わかった。協力はしよう。ただし、選挙関連で、マリアに票を入れる事を約束しない。余はそれだけはしないぞ」

 「もちろん。あなたには、心で入れてもらいます」

 「なに?!」


 自分は入れないと言ったのに、あなたには入れてもらうと言い返してきた。

 その言葉の切り返しには、驚くしかない。

 話を聞いていないのかと思うばかりだ。


 「密約なんかで、あなたの票が欲しいとは思わない。あなたは、心から彼女に一票を投じたいってね。そう思わせてみせますから、安心してくださいよ」

 「・・・・・・ハハハ」


 どこまでいっても面白い。

 フュンという男は、どんな時でも楽しませてくれるのだ。

 ここに気付くのは、ジャックスとネアルくらいだろう。


 「しかし、本当に争いは起こるか」

 「起こりますね。間違いない。あなたのお子さんたちは、才気溢れる方が多い」

 「全部調べたのか」

 「はい。全部見ました。見たうえで、確認が取れています。可能性があるのは二人。ただ、一人はないと、僕は思っています。ただただ天才なんでしょうね。彼はね・・・」


 反乱候補者は二人。

 誰かは分からないが一人を天才と称した。

 フュンが手放しで褒める人物はクリス以来である。


 「ほう。それならば、その可能性のある人は誰だ?」

 「言ってもいいんですか。聞いて後悔しません?」

 「よい」

 「それじゃあ・・・」


 フュンは、とある人物たちを、皇帝に示した。


 「まさか・・・する必要があるのか。表で頑張れば、皇帝になれるじゃないか」

 「はい。そうですが。僕の情報網と、僕の勘がね。彼だと」

 「・・・勘・・・どのあたりでわかる。それは」

 「僕はかつてですね。似たような目と態度と、雰囲気を感じた事があります」

 「ほう。経験から来る答えか」

 「そうです。その方は、闇の組織に所属されていました。自分の兄妹を殺そうと動いたのですね」

 「なに!? 殺したのか」


 皇帝が驚きで前のめりになる。


 「いいえ。殺そうと動いてたのを止めました、僕が全部殺させませんでした。ですが、僕が止めねば殺していたでしょうね。ですから、今回。その人を止めないといけないと思いましてね。陛下も気をつけてください。あなたを狙う可能性もある」

 「なに。余もか」

 「はい。三つ巴になった後は特に気をつけてください」

 「わかった。注意しよう」

 「ええ。警戒はしておいた方がいい。この国は動く。間違いない。それが、あなたの死から始まるのではなく、この選挙がきっかけになると思います。いいえ。きっかけにしないといけないのかもしれない。今、この瞬間にでも・・・決着を着けた方が良い」


 むしろ、この偉大な皇帝が生きている内に、この問題を解決した方が良い。

 フュンの考えは、ここに辿り着いていた。

 今ある問題を全て表に出してから、膿を出しきるようにして、この大陸を良き方向に導く事。

 それが、自分のすべきことだとフュンが考えていた。

 フュンは他大陸の問題なのに、自分の事のようにジャックスを心配していたのである。


 

 

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