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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン大陸編

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第295話 セブネス・ブライルドル

 ルスバニア王国。

 それは、イスカル大陸が従属する前に、オスロ帝国に屈した国の名だ。

 

 かの国は、ルヴァン大陸の最南端。

 ワルベント大陸で言えば、シャッカルと同じ位置にある。

 なので、位置関係で言えば、ルスバニア王国とイスカル大陸の関係は、シャッカルとアーリア大陸と同じなのだ。


 だから、フュンは、この二か国がそもそも強い連携を得た方が良いと思っている。

 でも、こちらの属国は属国同士の繋がりが薄い。

 共に手を取り合って生きていない。

 バラバラなのだ。

 それはかつての、サナリア。シンドラ。ラーゼ。

 この三つと同じような関係であった。


 しかし、フュンたちは、この関係を乗り越えて、友として三人は協力し合い。

 ガルナズン帝国を支え、アーリア王国の基礎となった。

 元属国の人質三人の内、二人が『十三騎士の一員』になり、一人が王となるなんて。

 三人のあの頃を知る者たちであれば、誰も想像できないだろう。

 本人たちでも思っていない。


 

 ◇


 セブネス・ブライルドル。

 オスロ帝国第五皇子。

 ルスバニア王国の王となれる優秀な皇子だ。


 ルスバニア王国は資源大国。

 戦闘艦、輸送艦。

 双方の燃料である『オルビオル』と呼ばれる液体燃料を保有する国で、こちらの資源を獲得するためにオスロ帝国も攻撃をしたという経緯がある。

 ただ、当時。

 この資源のおかげで、ルスバニア王国は戦争をしても抵抗が上手くいっていて、相手の物量作戦がなければ、ルスバニア王国は小さくとも負けずに済んだくらいの戦闘継続力を持っていたのだ。

 しかし、敵の圧倒的な量には勝てず、落ちた。

 だから、イスカル大陸をも、オスロ帝国が落とせたのだ。

 こういう経緯で、二大陸はオスロ帝国支配の時代を迎えた。

 

 

 そして捕捉だがイスカル大陸にも資源があり、『ロロッコ』という鉄が、戦闘艦の装甲強化に繋がっていて、長距離輸送艦を作るのに、こちらの鉄を使用していたりする。

 そんな小さなやりとりが多少あっても、互いに交流があまりなく協力関係ではない。

 ここが良くない点であるとフュンは思っている。


 「さて、今からお会いできるという事で・・・楽しみですね」


 フュンは部屋の前に立った。


 ◇


 「失礼します」

 「どうぞ」


 中から女性の声が聞こえてから、フュンが部屋に入った。


 「よろしくお願いします。失礼します」

 「アーリア王。こちらにどうぞ」


 正面の机の脇にいる女性がフュンを案内した。

 彼女は、セブネスの秘書のような女性だった。

 肝心の男性は、席に座っている。

 小さめの体の青年だ。


 「ユウがアーリア王?」

 「はい。そうです。フュンです」


 セブネスはフュンを


 「ふ~ん・・・しょぼいザンス」


 酷評した。しかし。


 「ええ。そうですよね。自分でも思いますよ」


 フュンは気にもしない。

 自分よりも二回り以上年下の子に何を言われようとも、正直な意見の方が嬉しい。

 変わった男なのだ。


 「ん?」

 

 だから、セブネスが止まった。

 彼の考えを読めない。


 「どうしました? セブネス殿下?」

 「変わった男ザンス」

 「そうですか。どこも変わってませんがね」

 「いえ。変わっているザンス」

 

 否定的意見を言われても承諾している。

 そこもまた変わっていた。


 「それで、何の用ザンス」

 「ん。お聞きしてない? マチルダさんとテルトさんからは?」

 「大体は聞いているザンス。でもユウの口から、ミイは聞きたいザンス」

 「それはそうですね。それじゃあ。僕に協力してください」

 「ちょ・・・直球・・・ザンス」


 用件が願いに近い上に、ほぼ直球。

 セブネスは、端折りすぎだと思った。


 「え。いや、あなたの感じ。即断即決でしょ」

 「何故分かるのザンス!」

 「それはわかりますよ。僕、色んな人を見て来ましたからね。大体、一目見ればわかります。ええ、ええ。そうでしょ。あなたは頭の回転が早い!」

 

 フュンはズルい人でもある。

 それは、この言葉にも嘘はないが、実際は彼の影『目と耳』の情報を手に入れているからだ。

 彼らがその人物のやり取りをメモして、それを資料として読む。

 その情報を得て実際の人物に当てはめる事で、フュンはその人物の性格を掴んでいるのだ。


 これがジェシカ・イバンク。ウーゴ・トゥーリーズにも刺さっていた。

 タツロウの資料のおかげもあり、彼は二人を味方に引き込んだ。

 それと同じことを今しようとしている。


 「こちらのキャリーさん。この方も優秀な人だ。あなたを補佐するに素晴らしい才がある。本国との調整役として重宝しているのでしょ」


 フュンはセブネスの隣に立つ眼鏡の秘書の女性に微笑んだ。

 すると、ちょっと照れた彼女が、頬を赤く染めて俯いた。

 フュンの笑顔が眩しくて、直視できなかったらしい。

 慎ましい女性である。


 「・・・んんん。凄いザンス・・・この人」


 認識が変わるのも一瞬。

 即断即決の性格に、せっかちな人間でもある。


 「僕はね。結論から言います」

 「うん。結論ザンスね」

 「協力してください。僕と、マリアさんに!」

 「は?」

 「この選挙後。あなたが生きる道は、イスカル大陸と連携を取る事です」

 「・・・・まさか。ユウ!」


 速攻で計算が立つセブネスは、やはり優秀だった。

 フュンの少ない言葉で、その真意に気付いた。


 「ええ。そうです。イスカル・ルスバニアで秘密同盟を結びなさい。そうじゃないとあなたたちは共に世界から消え失せる運命が持っています。あなたが単独で動くのには限界がある。人は一人じゃ生きられない。国は一つでも生きていけない。互いを支えねば、生きていけないのですよ。セブネス殿下」

 「・・・・・」


 セブネスが黙ったのには意味がある。

 『こちらの計画を知っている!?』

 この考えで止まっていた。


 「あなたの交易の戦略。それは素晴らしい。自分の国が単独で生きていく事が出来ない事をよく知っている。経済を一つの国で回す考えじゃなくて、他の国と共に頑張ろうとする精神は良きこと。しかし、その先は軍事的に言って難しい。あなた。大将軍エレンラージさんを使って守りきろうとしています? 無理ですよ」

 「!?!?」


 『なぜそれを』

 口に出さないが、若干顔にその言葉が出ていた。

 まだ若さがある。

 フュンはそう思った。


 「エレンラージさんの出自がこちらなんでしょう。凄いですよね。自分の実力一つで大出世ですよ。出自を隠してね。これは素晴らしい。それに、マチルダさんやテルトさんもだ。少しずつ帝国の幹部に、ルスバニア出身を作る。その政治的センスは天才的だ。あなた・・・いや、あなたの母親とその周りは非常に優秀でしたね。長い時をかけての人的侵略と言ってもいい。良い戦略だ」

 

 三大将軍の一人『エレンラージ・トルート』

 ルスバニアの出身であるが、出自を隠して出世した天才。

 ジュード。レックス。エレンラージ。

 この三名は指揮官として最高クラスの実力者だ。


 「でもあなた。もし帝国と事を構えるのであれば、想定として、ジュード皇子。レックス大将軍。この双方と戦う決意を持たないといけません。これは、物量計算よりも人の計算が必須となります」

 「な・・物よりも・・・人? ザンス??」

 「ええ。そうです。あなたは指揮官の強さを計算できますか」

 

 セブネスは首を横に振った。

 

 「そうですか。では計算をしてあげましょう」


 フュンはこの国の戦力を知っていた。


 「まず、この国の一番は、レックス大将軍です。これが間違いない」

 「なんですと!? そんなわけはないザンス・・・エレンラージだって三大将軍の一人ザンス。同じくらい優秀ザンス!」


 自分の部下だって強いはず。

 そう思いたいのは分かるが、フュンの人を見極める目は、究極である。

 神に近しい能力と言ってもいいのだ。ほぼ間違いがない。


 「いいえ。エレンラージさんは、残念ながらこの国で四番目です」

 「四!?」

 「それはジュード皇子も一緒です」

 「なに。その二人よりも上がいるザンス? 大将軍でもないのにザンスか!?」

 「ええ、そうです。います。彼らよりも上なのが・・・」

 

 フュンは軍事的な力ではなく指揮官としての力を答える。


 「二番目は、レオナ姫です。三番目はライス将軍とクラリス姫です」

 「な・・レオナ姉様とクラリス姉様ザンスか!?」

 「そうですよ。彼女たちは万能なんです。特にレオナ姫。彼女は優秀な指揮官でありながら、天才的な政治家でもある。だからこそ、この国の皇帝には、彼女が相応しい」

 「なに!?」


 選挙中で、しかもマリアを後押ししているのに、フュンが断言してきた。

 あまりにも大胆過ぎる。

 

 「しかし僕は、意外にもレオナ姫は苦戦すると思います。それと僕はこの選挙。このままだと、レオナ姫とロビン皇子の一騎打ちになり、そこから三番目の勢力が意味ないものになってしまうと思っています」

 「ああ、候補者制度ザンスね」


 セブネスは、なぜ選挙の話になったのかと思った。


 「そうです。子供たちが三つの勢力じゃなくて、二つの勢力になってしまう。それは駄目だ。この国が全面衝突での戦争に突入するからです」


 三つにならねばならないのに、ここで二つになったら選挙が無意味になる。

 ただの二つの国家に別れるだけとなる。

 だから三つ必要。

 そこでフュンは、セブネスに目をつけた。


 「セブネス殿下。あなたがマリアさんを押しなさい」

 「なに・・・ミイが!?」

 「ええ。そうです。あなたが、第三勢力を生みだして、この国を拮抗状態に持っていくのです」

 「・・・・それは・・・どうやってザンス」


 気持ちが傾いている。

 フュンはセブネスの顔の変化に気付いた。


 「この場合。僕の予想では、レックス将軍とジュード皇子。双方がどこにいっても、おかしくない。そうなると二人がロビン皇子についた場合。これは苦しい。この二人を相手に、属国が一か国で対抗。ほぼ死です。戦う意味がない」

 「・・・・」


 セブネスは、ハッキリ言われて黙るしかなかった。


 「次に。レオナ姫に二人の将軍の内どちらかがついた場合。ほぼ死です。こちらも戦う意味がない。エレンラージさんだけでは対抗できないからです。あなたの国としての大きさからいって、勝てないのです」

 「・・・・・・」


 ここもハッキリ言われて黙るしかなかった。


 「しかし、ここにマリアさんのイスカルが入ると別です。彼女のイスカル大陸の支援に加えて、彼女の大陸の将軍ライス将軍は、強い。エレンラージ将軍と協力関係になれれば、守り切れる可能性が出て来る。少なくとも負けるまで時間を稼げる可能性があります」

 「時間を稼ぐザンス?」

 「そうです。時間を稼ぐと、どうなるかわかりますか?」

 「・・・・」


 この黙り具合で、軍事的戦略がない事が証明された。

 フュンは、経済と軍事。 

 双方を考えねば、国を守る事が出来ないと思っている人間だ。

 これは、サナリア王国、ガルナズン帝国、アーリア王国と、転々として動いた。

 環境の変化から気付いていた事だ。

 どちらか一つでも欠けると、国なんて維持ができない。


 「時間を稼ぐとですね。残りの二つが争いを始めるのです」

 「え? なんでザンス?」

 「ええ。例えば、ロビン皇子が攻勢に出てきたとする。そこをルスバニアが防衛していく。一カ月。二か月と時間をかけるように戦うと、これは経済の観点からどうなります?」

 「それは苦しい懐事情になるザンス。武器や、食糧・・・馬鹿にならない費用が・・・あ!?」


 質問に答えながら、途中でセブネスが気付いた。


 「そうでしょ。敵が苦しい時。それが攻め時になる。そうなるとレオナ姫は抜け目がない。彼女は間違いなくロビン皇子の領土に攻撃に出ます。こうなると、逆にあなたの所には攻撃が薄くなり防衛が出来る可能性が出ます。いいですか。敵の敵は味方となるポジションに入るのです。あなたとマリアさんはね」

 「なるほどザンス・・・それは正しい予測・・・ミイが生きるのにも、マリアが生きるのにもザンス」

 「そうですよ。選挙後に、真の皇帝が誕生するまでの間。あなたたちが生き抜くには。二人が協力する。だから選挙では、あなたはマリアさんを支持する事が重要だ。だから協力しなさい。二か国で秘密同盟です」

 「・・・・」


 選挙なんて、意味がない。

 興味がないとも思っていた。

 それが、ここに来て、自分が生き残るために必須の行事になるとは。

 まさかここまで大事になる事だったとは。

 セブネスは、内心で驚いていた。

 

 ここまでの自分の計算が狂う事も驚きに入るが、それよりもこのフュンという男が言っている自分たちの分析が正確である事に度肝を抜かれている。


 「良いザンス。やってみるでザンス。マリアに会い。ライスにも会うザンス!」

 「ええ。それがよろしい。新たな時代を生み出すのですよ。兄妹でね」


 兄妹は力を合わせるべき。 

 家族は力を合わせるべき。

 フュン・メイダルフィアの格言のような事が、ここでも起きたのだった。

 

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