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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン大陸編

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第294話 強かなフュン・メイダルフィア

 帝都にある。

 とあるレストランの個室にて。

 

 あの質素なフュンが、珍しくも豪華な料理を前にして話をしていた。


 「どうもどうも。テルトさんと、マチルダさんですね」

 「は、はい。そうです」

 「マチルダです。よろしくお願いします」


 二人が深々と頭を下げると、フュンも同じくらいに頭を下げた。


 「いえいえ。ご丁寧に。ここは無礼講でいいんです。僕はただの相談役なのでね。一般人と変わらないですよ」

 

 それはさすがにありえない。

 二人はその感想を口に出さなかったが、言いたくて仕方ない。

 この人物は皇帝の信頼を完璧に得ている。

 役職は相談役だとしても、同じ大臣クラスの価値があるに決まっているのだ。


 そして、ここからは普通の食事会だった。

 一通り楽しんで、雑談も上手なフュンに、二人もついつい気を許していた。

 人当たりの良さ。会話の上手さ。

 これらの力が群を抜いている。

 交渉のように見せない人付き合いが、彼らを油断させていたのだ。


 「それでですね。お二人はどなたに投票をするおつもりなんですか」

 「え?」

 「いや、さすがに言えませんよ」

 

 二人は対照的に言った。

 テルトが答えられず、マチルダがスパッと言う。


 「はい。でもですね。ここは内緒のお話で。僕とお二人の仲じゃありませんか」


 実際に仲良くなっているので、二人は、『どんな仲だよ』とも言えない。

 

 「いや・・・え?・・・いや」

 「そこは無理ですよ。アーリア王。ここは投票先を言えません」


 戸惑うテルトと、きっぱりと意思表示が出来るマチルダ。

 だから、フュンはマチルダを狙い撃つ。

 

 「そうですか。残念ですね。僕はお二人と協力しておきたくてですね。う~ん」

 「協力?」

 「はい。僕は、この国とはですね。交易をしたくてですね。何かいいものをこちらから送りたかったのですがね。それで投票先を知れれば、協力出来るかなって」

 「・・・ん? どういう事でしょうか。賄賂でも送ろうと?・・・私たち程度の者にですか?」

 「いえいえ。賄賂なんてしませんよ。僕はただ普通の交易をしたい。それもイスカルを通じてです」

 「え?」

 「イスカル大陸を通じて、僕らアーリア大陸は交易をする。これが良いかなって思いますね。船でのやり取りをしたい」

 

 イスカルとアーリア間で、交易をする。

 それは何を意味するかと言うと。


 「あなた方の長距離輸送艦の実験をしてみません?」

 「「な!?」」

 

 『なぜそれを』とは言えずに驚いたまま二人が固まった。


 「僕、皆さんに内緒にしておくので、実験してみませんか。そうですね。レックス大将軍の片腕ライス将軍のお力をお借りして、長距離実験をしてみません? イスカル・アーリア間は遠いです」


 世界の端と端。

 反対周りで行こうとも、距離は確実に遠い。

 ビクストン・シャルノー間とは、距離の桁が違う。


 「でも、あなたたちが頑張って作った船なら、安全にアーリアにまで行けますよね。ですから、アーリアにいきませんか。僕らと交易実権をするんです。有意義なものになりますよ。こちらの特産品をお渡しします。それだと、成果が分かりやすくなります。どうでしょうか?」

 「「・・・・・・」」


 二人は、フュンからの提案がまさか過ぎて黙ったままであった。


 「お二人とも、船を作りましたでしょ。ルスバニア王国でね」

 「「!?!?!?!?」」


 それは誰も知らないはず。

 二人は雷にうたれたように全身に電流が走った。


 「あれ。違いましたか?」


 二人の表情を見ているのに、フュンは自分が間違っているような口ぶりで話す。


 「おかしいな。そういう話をお聞きしたんですけどね」

 「ど、どうしてそれを・・・」


 動揺しながらもテルトが聞いた。

 

 「ええ。そちらのお話をとある方から聞いたのですが・・・」


 とある方は嘘だ。

 これは、直接本人たちの会話で聞いている。


 しかしその話を聞いたのは、フュンの特殊影部隊『目と耳』だ。

 彼らは、敵を一切攻撃しないことが義務付けられた珍しい影。

 諜報部隊の影である。

 その部隊の人間は、光と影の力を持つ者たちで構成されていて、ジーヴァがここの長である。

 彼はただひっそりと情報を聞くのも、見るのも上手い。

 フュンのそばにいながら、フュンに気付かれずに、月の戦士と太陽の戦士を両立させたからだ。


 ジーヴァとその仲間たちの行動の上手さは何と言っても、何処にでも潜んで、影としても人としても生きられる事だ。

 フュンが指示した場所に、両方の役目をしながらいる事が出来る。

 貴重な情報源となるのだ。


 とある人にくっつけと指令を出せば、その人の歩く影に入って、その人が聞いたこと、見た事を報告するだけの影ともなれるし、その周りの人間になりきって、周辺の情報も手に入れる事が出来る。

 ただし、彼らは攻撃をしない。

 本当に何もない影になるだけだ。

 でもこれが非常に重要で、彼らからの情報はフュンの力の源と言ってもいい。

 

 現在。彼の目と耳は10名。

 このオスロ帝国のどこかに配属されている。

 その中で、マチルダたちの会話を聞いた影が、フュンに話を伝えたのだ。

 又聞き状態だが、あたかも自分が直接聞いたような口ぶりでフュンが話している。


 「とある方・・・誰ですか。私たちだけの秘密・・・」


 なはずなのにと、マチルダは困惑していた。


 「人のうわさってのはどこにでもあるんですよ。マチルダさん」

 「・・・口止めをしても止められない。そういうことですか」

 「ええ。そういうことです」


 いいえ。違います。

 実際には、口を止める事が出来ていました。

 マチルダとテルト。

 この二人の情報管理は素晴らしく。

 帝国の官僚たち。

 その中の誰にも知られずに長距離輸送艦を完成させているのです。


 ではなぜ、誰にも知られずに、輸送艦を作成できているのかと言うと。


 「それで、その艦。ルスバニア王国に隠しているのですよね」

 「「!?!?!?!!?」」


 また二人は、雷の直撃にあった。

 今度は表情も固まった。

 

 「ルスバニア王国。ここから出航する計画でしたよね。僕のアーリアか。またはワルベントのシャッカルの近く辺りに探索でもする予定でしたか? たぶん南側の移動を目的にするはずだ」

 「ど。どうして・・それを!?」

 「いや、だから聞いたんですよ。とある方から」


 二人は、そのとある方が知りたくてどうしようもない。

 でも、そんな人がいないので、フュンとしても教えられない。


 「でもルスバニア単体では危険だと思いますよ。僕は共犯者がいた方が良いと思います。どうです?」

 「・・・共犯者?」

 「はい。隠し事を共有する! そうです。一緒にその実験を隠してくれる人を持つのが良いと思いますよ」

 「な!? あ、だ、だから、イスカル出身の将軍ライス様をと?」

 「ええ、そうです。彼と協力して、僕とも協力して、アーリアと国交樹立するのはどうです」


 従属国を巻き込む。

 フュンの考えが少しずつ見えてくる会話だった。


 「待ってください。あなたは、こちらの従属国と結んでもよろしいのですか。あなた。そんな事をして・・・・いや、皇帝陛下の相談役をしているのに?」


 背信行為とまではいかずとも、それに似ているような事では。

 マチルダはフュンの考えに困った。


 「ええ。いいですよ。たぶんバレても、皇帝陛下はこれくらいでは怒りませんね。むしろ、長距離輸送が出来るようになったのかと喜ぶでしょう。あとバレた場合に、僕が交渉します。僕が強引に行った実験でしたと言い切りますよ」

 「まさか・・・責任を持つと?」

 「はい。おまかせください。僕って、口は上手いらしいですよ。自分ではわかりませんけどね」


 交渉事で負けた事がない。

 フュンの唯一の自信がある部分だ。


 「た、たしかに・・・私たちの責任になりにくく、思いっきり実験が出来る・・・好条件・・・ですね」


 マチルダは、この艦隊が完成してから悩んでいた。

 本当はすぐにでも実験したくて仕方ない部分があった。

 これで、世界との交易が始まり、もしかしたら属国からでも力をつける事が出来るかもしれないから、力を研ぎ澄ましていきたい思いがあったのだ。


 「僕はですね。イスカルとルスバニアは協力した方が良いと思いますよ」

 「「え?」」

 「属国の中でもこの二つは距離が近い。大陸が違いますが、位置的には目と鼻の先にいます。魔の海域が邪魔をしているとはいえ、こちらの戦闘艦、輸送艦は、方向を見失うような性能じゃないので、余裕で突破できますでしょ」

 「はい。もちろん。航行能力だけは、ワルベントよりも上です」

 「ですよね!」


 ワルベント大陸とルヴァン大陸の船の違いは、航行能力。

 武器などはほぼ互角でも、この力が圧倒的に違う。

 だから彼らは、潜水艦を作らずにイスカル大陸を従属させたのだ。

 そのために、ワルベントよりも一足早く、イスカルを屈服させた。


 「それで、その力を使って僕のアーリアへね。ちょちょいっと行ってもらえればね。嬉しいですね。どのくらいでいけますかね。向こうまで」

 「えっと・・・そうですね。おそらく、三週間? 余裕を持って航行すると思いますので、そのくらいかと」

 「なるほど。そんな短くていいのか・・・」


 フュンは、もっと時間がかかるかと思っていた。


 「それじゃあ、僕の部下も乗せますので、やってみません?」

 「いいんですか」

 「はい。やってみましょう」

 

 マチルダが隣に聞く。


 「・・・いや。どうなんでしょう。私はいいけど・・・テルト。どう思いますか」

 「俺は、たしかにアーリア王のお誘いが嬉しいんですけどね。あの皇子を説得できるかが問題になると思うんです」

 「皇子ですか?」

 

 フュンが聞いた。


 「ええ、セブネス皇子です。彼の許可がないと難しい問題かと思います」

 「なるほど。皇子が主導者でしたか」

 「はい。そうなんです」

 「では会えますかね。その第五皇子セブネス・ブライルドルさんに!」

 

 ここで、目的に辿り着いた。

 最初からフュンはこのセブネス・ブライルドルに会いたくて、この二人の大臣を食事に誘ったのだ。


 

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