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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ルヴァン大陸編

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第291話 選挙開始 決意表明

 アーリア歴6年1月1日。

 世界初の選挙戦が始まる。

 皇帝候補者選挙(又は後継者候補選挙)である。


 立候補者は、新年会で発表となったので、国の重鎮たちが集まる中での選挙戦の始まりだった。

 皇帝の一段下の段に、立候補者たちが並ぶ。


 「リューク。頼む」

 「はっ。陛下」

 

 リューク・ジョンド

 オスロ帝国の内務大臣。

 しっかり者の彼が司会進行を務める。

 それと彼が選挙管理の長として、公平な選挙作りを担っている。

 ジャックスの内政面の片腕らしく、彼同様、公平で公正な男性だ。


 「では、ご兄弟の上から順番にご紹介します。第一皇子 ロビン殿」

 「はい」


 歳の順で呼び出しが始まった。


 「次に第二皇子ジュード殿」

 「おう」


 堂々と返事を返す。

 その姿を見て、もう少ししっかり返事をしなさいよと、頭を抱えるのはレックスだった。


 「第一皇女 レオナ殿」

 「はい」

  

 最初の登壇から無表情のままで彼女は答えた。


 「第三皇子 センシーノ殿」

 「はいは~い」

 

 軽薄な感じで、皆に手を振り続ける。


 「第六皇子 クロ殿」

 「うん」


 若い青年が出てきた。

 

 「第六・・・ん?」


 一人足りない。

 リュークは紹介を止めて、読み上げていた資料から目を離して、周りを見た。

 立候補者を探している。


 「リューク。どうした」

 「ええ。陛下。もう一人いるのですが。まだいないようでして・・・」 

 「もう一人だと、余は知らんが」


 陛下が知るのはこの五人まで。

 最後の一人を知らなかった。


 「誰だ・・そやつは・・」


 ジャックスが最後の一人の名を聞こうとした瞬間、扉が開いた。


 「ああ。遅れちゃいました。ごめんなさい。間に合いますか!」


 なぜかフュンが出てきた。


 「ん。アーリア王。いないと思ったら、今来たのか」

 「ええ。遅れてごめんなさいね。皇帝陛下。僕ちょっと彼女を連れてくるのに時間がかかりましてね」

 「彼女?」


 フュンがリュークに手を振る。


 「リュークさん。こちら準備が出来ました。この子を呼んでください」

 「わかりました。第六皇女 マリア殿」


 リュークが呼ぶと。


 「「「なに!?!??!」」」


 会場全体が驚く。

 フュンの後ろから少女が出て行く。


 「はい」


 マリアがお淑やかな返事をして、前へと進んだ。

 会場にいる皆の視線が彼女の集まった。


 マリアを見ていると、レオナが珍しく笑った。


 『これがあの人が言っていた面白い事・・・たしかに、面白いです。本当に変わった御方ですね。フュン殿』


 暴れん坊との噂しか聞こえてこない少女が、誰よりも立派な姿で優雅に歩く。

 ドレスを着こなすほどに歩き方も綺麗だった。

 その劇的な印象の変化に、皆は驚くしか出来ない。

 

 ◇


 マリアは自分が立つべき場所に向かう途中で、歩きを止められた。


 「な。何をしているのです。マリア!」

 「お母様。私も立候補者ですよ」

 「な、何を勝手に・・・それにどうやってあそこから」

 「私は堂々とこちらに来ました。お母様、どいてくださりますか」

 「何を言って。やめなさい。こんな事は! 余計な事をすれば」


 イスカルが危険になる。

 そう思ったマリアナは、彼女の肩を掴もうと動き出した。

  

 母の右手が自分の右肩に。

 マリアは無駄のない動きで、手の甲同士を当ててから、相手の勢いを利用して払う。

 力が弱くても受け流しの動作であれば大人にも負けない。

 レベッカ直伝の動きだった。


 「な!? マリア。何を」

 「無駄です。お母様。今の私には触れらませんよ」

 「ぐっ」


 母親を軽くあしらう。体捌きが見事だった。

 その実力を見極めたのは皇帝とジュードとセンシーノ。

 三人が同時に一言唸った。

 

 「「「ほう」」」


 マリアの行く道を邪魔してはいけないジャックスが指示を出す。


 「マリアナ!」

 「は。はい。陛下」


 マリアナが、後ろを振り返った。


 「下がりなさい。今のマリアの邪魔をしてはいけない」

 「で。ですが、陛下。私は、こんな事を許していなくて・・・」

 「この選挙。出たい者が出よ。と余は言った。だから、出たい者が出ている。マリアが誰かに言われて、出たわけでもないだろう。自分の意思で出ているはずだ」


 実際はフュンの入れ知恵があるが、そこは内緒だ。


 「・・しかし・・そんなの」

 「いいから。マリアの好きにさせなさい!」

 「は、はい」


 皇帝は、マリアナの言葉を一刀両断にした。

 子がやりたいと思う事をやらせるべきである。

 ここはフュンと同じ考えを持っていたのだ。


 すました顔をしてマリアは母親の脇を通り抜けて、立候補の壇上に上がった。

 兄妹たちと並ぶと明らかにまだ子供である。


 「リューク。これで全員か?」

 「はい。陛下」

 「よい。ならば、決意を言いなさい。皇帝となろうと思うのなら、決意表明からだ」

 「「「はっ!」」」


 六人の子供が頭を下げた。

 歳の順番で始まる。


 ◇


 選挙戦は、軽い決意表明から始まる。


 「私は第一皇子ロビン・ブライルドルです。私が皇帝になります。国家安定に向けて、平穏な生活を目指します」


 ロビンは、現状維持の政策を言った。

 

 「俺は第二皇子ジュード・ブライルドルだ。皇帝になろうとは思わない。ただ、俺は強くありたい。国家も・・・そして自分もな」

 

 ジュードは正直に話した。


 「私は第一皇女レオナ・ブライルドルです。皇帝選挙では、オスロ帝国の内政を強化する政策を発表していきます。同盟を維持している間に力をつけて、この国を世界一の技術国にすれば、ここ数十年は安泰となるでしょう。今の間に、数十年分の技術差を生むために国家総動員で頑張る時です」


 レオナは具体的な案を言っていた。


 「俺はセンシーノ。とにかく目立ちたい。俺が皇帝になろうとも、ならずとも。俺のカッコよさを、この世の女性に届けよう! 幸せになるぞ・・・俺が!」


 センシーノは、自分勝手な思いであった。

 

 「僕はクロ・ブライルドルです。兄様、姉様方に勝てるように頑張ります。自分の力がどこまで通用するかを試したいです」


 クロは、競争に勝とうと思っていた。


 「私は・・・」

 

 マリアは止まった。

 ドレスの中に仕込んだ剣を取り出して、上に掲げる。


 「違うな! あたしは、マリアだ! あたしが皇帝になったら好きなようにする。あたしは、みんなの力を合わせて、この国を強い国にするんだ! オスロ。ギーロン。ルスバニア。イスカル。各国家の力を合わせて、あたしが世界最強の国にしてやる。どうだ!!!」


 さっきまでのお淑やかな女性はどこへいったのか。

 でも堂々と宣言する姿はなんとも勇ましいものだった。



 どんな時でも、微笑んでくれるフュンがいる。

 それがとても心強い。

 マリアの自信が増していく理由は、そばにフュンがいるからだった。


 ここから、大胆不敵な彼女の戦いが始まった。


 オスロ帝国には、属国がある。

 ギーロン王国。ルスバニア王国。イスカル王国。

 三つの王国が、帝国の下にあるのだ。

 彼女はそれすらも抱き込んで、強国にしようとした。


 『マリア・ブライルドル』

 

 帝国に新たな道を示そうとした人物。

 フュン・メイダルフィアを師として尊敬し、帝国では異色の皇女となる女性。

 才はあるゆる分野にある。

 開花する時期は、いつとなるのか。

 それはまだ本人でも分からない。

 しかし、彼女の力の片鱗は、この時点でも漏れ出していた。



 こうして、各候補者は集まった。

 二大陸を揺るがす選挙が始まる。

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