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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ワルベント・ルヴァン編

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第287話 目標があると頑張れたりする

 フュンは彼女を育てながらも、ウーゴもしっかり育てていた。


 「ウーゴ君」

 「はい。アーリア王」 

 「そんなに硬くならずとも、僕と君の仲ではありませんか。なんだか、堅苦しいのですが」 

 「いや、しかし。私はあなたに感謝をしておりますし、どうも、私には柔らかい態度など取れません」

 

 でも大分は柔らかくなっている。

 スラスラと会話が出来るようになったからだ。


 「ではね。そろそろ君はビクストン地域で準備をせねばなりません。それも僕抜きで、ギルを連れてです」

 「あ、アーリア王抜きで・・・」


 ここからフュンがそばにいない事で、不安が募る。

 今まで常に応援してくれて、精神面を支えてくれた人との別れも不安に繋がっていた。


 「ええ。君も自分の力でやるのです。失敗をしてもいい。ギルが必ずあなたを支えるので、勇気を持って進むのですよ。でもね、進むのは、怖いかもしれません。立ち止まりたい。戻りたい。こんな風に思うかもしれません。でも自分で選択した限り。自信を持っていくのです! いいですね。ウーゴ君」

 「・・・はい! 頑張ります」

 「うん。大丈夫。不安になったら思い出してください。ここにいる僕ら、あちらにいる僕らの仲間たち。君は一人じゃないですよ。ワルベント人が周りにいなくて、不安かもしれない。自分がたった一人のように感じるかもしれません。でもそんなときは僕らを思い出してください。僕らは、君を応援していますので、大丈夫。一人じゃない! って思ってください」

 「はい。ありがとうございます。アーリア王」


 『うんうん』とフュンが喜んでくれたのが、何よりもうれしいウーゴであった。


 ◇


 マリアが連れ去られた翌日。

 サブロウがやってきた。


 「サブロウ。どうなりました」

 「予想通りだぞ」

 「監禁?」

 「おうぞ。この城の三階だぞ」

 「なるほど。あそこはたしかに人通りが少ない。部屋に行くまでも迷路の様で、わかりにくいですもんね」


 フュンは、影となってサブロウとこの城を移動していた。

 実際に足で歩いて地図を完成させている。


 「いくかぞ?」

 「ええ。僕はまだいきません。ただ、サブロウ。引き続き監視を。命の危険があれば、救ってあげてください。それ以外は見守る形で」 

 「ん? その時は影を見せてもいいのかぞ?」

 「ええ。いいです。命優先で」 

 「わかったぞ。いってくるぞ」

 「頼みます」


 サブロウを護衛にして、しばらく様子を見る事にしたのだ。


 ◇


 「お母様。出して」

 「・・・・・・・」

 「お母様、外にいないの!」

 「・・・・・・・」

 「お母様!!!」


 マリアは部屋のドアの前で泣き崩れた。

 ドアを叩いても、その向こうから返事が返って来ない。

 誰かがいる気配があるから、誰か見張りだけを置いて、母親はどこかへ行っているのだ。


 「・・・うぇ~ん・・・先生・・・あたし」


 床に手を突いて、うな垂れる。

 その可哀想な嘆きを、サブロウは天井から見ていた。


 三階の隅の部屋。

 その部屋の上部の窓の鍵を開けて、常に出入りが出来るようにして置いたサブロウは、この子が危なくなったら音球と煙幕で救おうと準備だけはしていた。

 ミランダに似ている少女。

 だからなんとなく気にはなってしまう。


 「先生・・・・楽しかったのに・・・・また一人だ」


 懲罰行き。

 何度も経験している事だから分かる。

 しばらくは一人きりになる。

 それと、母親がいつもよりも怒っているから、たぶん一か月近くはここを出られない。

 絶望的な時間に感じる。

 今まで楽しかった分、より一層だ・・・だから。


 「抜け出してやる! こんなところ!」


 と勢いよく立った少女を見て、サブロウは笑って呟いた。


 「ありゃあ。面白い奴だぞ。さっきまで半べそだったのに、今じゃ、プンスカ怒ってるぞ」



 ◇


 その後彼女は、ドアを蹴り破ろうとしたり、天井近くにある窓にまで登って外に出ようとしたり、とにかく抜け出させそうな場所をいったり来たりしていた。

 広い部屋に一人。

 しばらくいると気が狂いそうになるくらいに、寂しい。


 「ああ。もう。出られねえな!!!」


 イライラで言葉も強くなっていた。


 「ぜってえ、この部屋から出てやる。あたしは関係ねえ。イスカルなんて関係ねえんだ」


 イルカル大陸の事なんて、どうでもいい。

 あたしはあたしだ。

 強い意志がミランダに似ている。

 サブロウは微笑みながら彼女を観察していた。


 「でも今日は寝る! 疲れた!!!」


 心を切り替える。明日頑張ればいい。

 彼女の強さの一つである。


 「そうかぞ。じゃあ、フュンに報告するかぞ」


 サブロウはこの部屋から消えた。


 ◇


 「そうですか。いいでしょう。助けに行きますか」

 「ん? もうかぞ。数日見るんじゃなかったのかぞ?」

 「いいえ。彼女の心の中に、反逆の心が芽生えているのなら、僕はいきます」


 彼女がその心を持ったのなら、機会は今であるとフュンは思っていた。

 

 「明日の朝にいきます」

 「了解ぞ」


 今は夜。だから朝に行こうと提案した。


 ◇


 次の日。


 「クソ! 出せえ。あたしをここから出せえ!!!」


 ガンガン扉を蹴るマリアの後ろに光と影が現れる。


 「こらこら。マリアさん。はしたないですよ」

 「ふっ。その暴れ具合。ミラと同じぞな」


 マリアが振り返る。

 しかし誰もいない。


 「先生? え??? 声が聞こえた。幻聴か???」


 先生たちと会いたいと思っていたから、幻聴が消えてきたのかもと、マリアは思った。


 「幻聴じゃありませんよ。僕が来ました。サブロウと一緒にね」


 光と影は表に出てきた。


 「な!? 先生・・・それに誰だ」


 今までフュンと一緒にいて、見た事がない男が一人いた。

 マリアは首を傾げる。


 「この人は僕の影。サブロウです。マリアさん、お久しぶりですね」

 「うん。先生!!!」


 フュンは、スタスタッと走ってくるマリアを抱きかかえた。

  

 「ええ。元気ですね。よかったよかった」

 「うん。先生会いたかった」

 「そうですか。僕もですよ」


 フュンの優しい言葉と声に、マリアは安心感を覚えていた。

 

 「よし。ではお伝えしたい事がありますので、あちらに移動しましょう」


 部屋の奥を指差す。


 「わかった」


 フュンはサブロウに指示を出す。

 

 「サブロウ。こちらから逆に鍵を掛けましょう。ドアに細工を。それと音を遮断で」

 「了解ぞ」


 ドアにはこちらから鍵をかける仕組みがない。

 ドアノブがないのだ。

 だからサブロウは、逆に粘着性の壁紙と、接着剤をドアの隙間に埋め込む。

 サブロウ丸くっつき号である。

 使用用途は、今回ばかりはある!

 なぜなら工作の時に、接着剤が必須アイテムだからだ。

 サブロウの全ての基本の道具である。


 「ではでは。僕はフュン・メイダルフィアと言います」

 「え? 王様は、ロベルト・アーリアじゃないの」

 「そうです。でも僕の本当の名はそちらです。そしてその時の僕はこの力を使えます」

 「き、消えた!?」


 フュンが光となり消えていく。

 太陽の戦士の技だった。

 話すためにもう一度姿を現す。


 「それでね。君にはこれを内緒にしていて欲しい」

 「え・・・あたしとの秘密ってことですか」

 「そうです。そして君にも教えたい。姿を隠して、敵に悟られぬためです」

 「敵に?」

 「ええ。今の君はまだ安全な状態です。しかし、次の君は危ないかもしれない」

 「次の君?」

 「ええ。僕は君に、選挙に出てもらおうと思っています」

 「選挙!?!? って、何だか外が騒がしい・・・あれですか?」


 外が騒がしい。

 その表現の意味は、皆が準備を始めているからだ。


 「そうです。候補者選挙です」

 「あたしが・・・あれを・・・無理じゃ。イスカルの子だよ」


 選挙なんて関係のない話だと思っていた。

 後継者同士の争いで、自分にはその資格がないと思っていたからだ。


 「いえいえ。あなたは皇帝最後の子。イスカルの子だとしても皇帝最後の子です。その称号があれば選挙に出られます」

 「あたしが・・・なんで」

 「ええ。僕としてはね。あのマリアナに君の真の力を叩きつけてやりたい。我が子は、皇女の器じゃない。皇帝の器を持っているとね」

 「え!?」

 「マリアさん、やりますか。あなたの母親に、自分の力を見せつけてやりますか? 選択は君次第。僕は、君が頑張ると決めたら、全てを教えます。心技体をね」

 「・・・あたしが皇帝・・・」

 「ええ。皇帝の候補に必ずなりましょう。絶対に三人に入りましょう」

 「三人に?」

 「そうです。三勢力の一人になるのです。そうすれば、君はこの国で生きていけるはず。どのような形となろうともね」

 

 一国の皇帝になれるのか。

 三勢力に別れるのか。

 それとも、独立できるのか。

 様々な選択肢が生まれるのである。

 三人に選ばれるとなると、勢力を手に入れ、生きる力を得られるのである。


 「あたしが生きられる?」

 「そうです。強く生きられる可能性が出て来る。今のままだと母親の言いなりになったまま。あれでは君の真の力は引き出せない。それと、ここから先。君は真の力を持っていないと、恐らくオスロ帝国では生きていけない。この先にある戦乱。そこを乗り越えられない」


 最後に物悲しそうになった。


 「・・・戦乱が待つ・・・この国に?」

 「ええ。十三人の子。全てが生きている現状では、争いが無くなるとは思えないです。今はそれが見えないのはね。ジャックス陛下が素晴らしい陛下であるからです。力もあり、政治的にも強い。だけど、その後は確実に分裂の道が見える。誰が皇帝になろうともです」

 

 どの子が王になろうとも火種は常に残り続ける。

 家族が一つじゃないからだ。

 それは以前のガルナズン帝国にも起きた現象。

 そして、家族が一つであれば、絶対に起こらない事でもある。


 フュンのアーリア王国はそれとは正反対。

 親族、家族、仲間、弟子。

 これらが一つであるから、アーリア王国は安泰なのだ。

 たとえ反乱する者が現れても、それらを皆で撃退できるのである。


 しかしこの国はそれが出来ない。

 バラバラの方向を向いている家族では、ジャックス亡き後だと争いを始めるに決まっている。  

 これは容易に想像がつくことだ。

 だからフュンとジャックスが苦肉の策を発動させたわけなのだ。

 選挙からの勢力作り。


 この勢力作りが重要となる。

 家族がバラバラなこの国の唯一の繋がりのようになるからだ。

 それらにまとまってくれた家族だけでも、家族らしく協力してくれとの意味。

 本当のところは、フュンもジャックスも、全員を救いたい。

 でもそれが出来ないから、全員が殺し合うよりかはマシな策を発動させたのだ。


 「あたしが皇帝になれば戦乱を止められるのか」

 「いいえ。無理でしょう」

 「え?」

 「それは出来ない。ただ、君が生きていく事が出来る。その可能性を生むということだけです」

 「あたしが生きるため・・・・そのために先生がここに来てくれたの?」

 「そうです。僕は君に生きて欲しいと思ってきました。どうです。やってみますか。それに、お母さんを驚かせてもいい。あのマリアナにね。自分はあなたの考えを押し付けられなくても、生きていけるんだって証明できます。マリアさんは、僕の修行をこなしていけば、マリアさんの意思でこの先を生きていけますよ」

 「・・・・うん! やる。やってみる」


 マリアが答えると、フュンは笑顔になった。


 「よし。ではやりますよ。マリア候補者作戦です! それと並行して修行を開始します」


 ウーゴ帰還計画と並行して、マリア候補者作戦が発動した。

 マリアを皇帝候補者へと成長させる大作戦である。


 

 

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