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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ワルベント・ルヴァン編

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第282話 皇帝の悩み

 帝国の会議は、紛糾していた。

 フュンを食客として招くまでは良しとしよう。

 だが、相談役にまでした事が、言い争いの元になっていた。 

 それと力のない敵との同盟までしたこと。

 これが良くないと、ジャックスの家臣団たちは考えていた。



 最初のジャックスの意思表示から徐々に家臣団もヒートアップ。

 三日後には激論。

 一週間後には大激論。

 10日目あたりでは、憤慨する人物もいたらしい。

 しかし、最後に皇帝が一喝した。

 『余が決めた事だ!』

 この一言で、強引に事が収まる。


 でも、家臣団の反対理由は明確だった。

 それは、何の力も持たないウーゴを支援するメリットのなさに加えて、格落ちのアーリア王の処遇が気に入らないのである。

 小大陸の王など眼中にないとしたい思惑があった。


 紛糾した会議の唯一の収穫。

 それが、この同盟のメリットに気付く人物たちがいる事をジャックスが知った事だ。

 

 成功した時に、強固な同盟を組める事。

 しかも、それが若き王であるから、上手くいけばこちら側が、相手の国を操る事が可能となる事。

 ここに気付く人間は、非常に優秀であった。


 それで、気付く人間と、気付かない人物とに、別れる形になったことで、ジャックスの心としては次の後継者候補が決まる。

 それはレオナである。

 彼女はフュンの提案に大賛成で、余計な力を使わずに、しかもワルベント側を平定してくれて、強固な同盟まで結んでくれるなら、それは有り難いという発言をしたのだ。

 自分と似た思考。

 それに合わせて、感情の損得ではなく、国の利害で考えられる思考にジャックスは満足していた。



 「しかし、レオナにすればまずい事もある」


 玉座に深々と座る皇帝は、天井を見上げて呟いた。


 それが悩みの種。

 皇帝の悩みは、後継者問題である。


 ◇


 作戦が発動する月の前。

 アーリア歴5年9月。


 フュンは皇帝の自室に呼ばれた。

 この頃のフュンはすでに、この皇帝とは友達のような関係になっていた。

 相談役を越えて、親密な関係になれるのは、フュンの特技である。 

 それにジャックスはエイナルフと似ている点があり、話が合うのだ。

 エイナルフと共に色々策謀を張り巡らしてきたからこそ、ジャックスとも上手くやっていけるのだ。


 「なんでしょうか?」

 「まあ、座って欲しい。アーリア王」

 「ええ。どうしましたか。お悩みですね」

 「む。なぜ分かる」

 「いや、もう一か月くらいこちらにいますからね。僕は大体人の顔を覚えてからだと、異常に速いですからね。人の表情の変化に気付くのが!」


 自分で言うのも何だか。

 その人が言いたい事が顔に出ているのが分かるのだ。

 フュンは特殊能力持ちである。


 「余は、後継者に悩んでいるのだ」

 「でしょうね。お子さんがたくさんだ」


 フュンはこの時には、各皇子、皇女たちを調べている。

 完璧とは言えないが、大体の性格を掴んでいた。

 それで、『これだと大変だな』とジャックスの立場に立ち、色々と考えていた。


 「アーリア王は決まっているのか」

 「ええ。決まっています」

 「その若さで?」

 「当然です」


 若い王なのに後継者が確定している。

 その事にジャックスが驚いた。


 「あのレベッカ嬢か?」

 「いいえ。王は、アインという第一王子がなります」

 「なに。その子が長兄か」

 「いいえ。レベッカが長女です」

 「・・・・そうか」


 今の会話で、フュンはジャックスの言いたい事が分かった。

 この皇帝一家で一番の優秀な人物、それが第一皇女レオナ姫である。

 彼女を、後継者にしたい

 でも、第一皇子ロビンが、長兄であるのだ。


 「もしや、ロビン殿にしなければと思っていますか」

 「ん・・・それは・・・」

 「悩んでいるのはそこですね」

 「うむ。そうなのだ。一番上が皇帝となった方が、国としてはよいのか。それとも一番優秀な者が上に立った方がいいのか・・・アーリア王は何故アイン王子を指名したのだ」


 素朴に聞いてきたから、相手から感情が伝わった。

 皇帝としての焦りが見え隠れする。

 だからフュンは、素直に正直に話すことにした。

 

 「ええ。僕はですね。子供たちの性格や特性から彼にしました」

 「特性?」

 「はい。レベッカは、自由が一番です。狭い王宮内に閉じ込めるのは難しい。それに彼女の夢は、アーリア一の剣士になる事と、アーリア一の軍を作り上げる事ですから。王にしてしまうと夢が叶わず、可哀想ですね」

 「なるほど。なんとも勇ましい子ですな。面白い」

 「ええ。楽しい子です。でもそこは困ってますね。子供の頃は大変でした」 


 レベッカ・ウインドの性格と夢で、彼女を王にはしなかった。


 「それで、次に。ツェンという子がいます。この子は凄く良い子です。優しくて、素敵な男性になります。ですが、彼は駄目です。能力がない。何をするにも力がないので、今二代目としてやっていくのは難しい。これが五代目、六代目あたりだったら、彼は王に向いているかもしれないです」


 ツェンは弱い事が向かない理由。

 二代目は強くないといけない。

 国としての安定感がない今の時期に弱い王はいけない。

 だから五代目六代目あたりの安定した国家の時であれば、王になってもいい人であるかもしれない。


 「そして、最後の子に、フィアという女の子がいます。この子もいい子ですが。基本は人を操ろうとします。やりたい事に一直線になりやすく、一つの事に集中すれば、に目もくれない上に、手段まで選ばない。こういう感じで二代目になってしまうのは、とても危険です。二代目は強硬手段と、安定政策の両面で動かないと危険ですからね」


 フィアは思想と行動が危険。

 二代目はバランスもとらないといけないのだ。


 「それで、アインです。でも消極的理由で彼じゃありません。彼は強いです。知も武も。そして何より民を大切に思ってくれて、家族を大切に思ってくれて、仲間を大切にします。なので、彼がいいです。二代目としての力強さ。それと柔軟な発想力。これらで彼にしています。立派な王になると信じています。我が子ですからね」


 アインにした理由は、彼の性格、能力。

 それら全てが二代目としてやっていけるから。

 だからフュンは実力と特性で、後継者を指名していたのだ。


 「そうか。余もどうするべきか・・・」

 「ええ。陛下の場合は非常に難しい。子が多いですからね。そうだ。仲はどうです。僕の所はとても良くて・・ここが良ければなんとかうまく・・・」


 四姉弟はとても仲が良い。

 レベッカを中心にしてよくまとまっているからだ。

 彼女が権力というものに興味がなく、自分の強さにしか興味がないから。

 アインの権力が強まろうが、ツェンやフィアの影響力が自分よりも大きくなろうが。

 そこは、別にどうでもいいと思ってくれているようで、その事で兄弟間でぶつかり合う事が全くないのだ。

 それに、他の子らがぶつかりそうになっても、レベッカの一喝が入ってくれるだろう。

 彼女は長女として上手く機能している。


 「無理だな。余の所は仲が悪い。いや、悪くなるに決まっているか。別な国の出身もいて、そして数が多いのだからな」

 「そうですね。そうなると難しいですね」


 国が分裂する。

 その危機がここにある。

 自分が生きている間は、自分がいるから分裂はない。 

 でも、死ねば必ず起こる内乱となるだろう。

 これを丸く治める方法が今のところない。

 あとは、お前たちの勝手にしろなんて、親としても、皇帝としても、無責任には言えない。

 二大陸を支配する人間としての責務がここにあるから、常に悩んでいたのだ。

 ここで、もし内乱となれば、その際に子供たちの大半が死ぬだろう。

 そこが皇帝の未来への恐怖に繋がっている。

 生きていて欲しいと願っているから、その事を想像するのが怖いのである。


 「二つ手段があります。でもそれは、全滅を避けるだけの策です」

 「それでもいい。アーリア王。どんなものだ?」

 「一つ。僕はレオナ姫が良いと思います」

 「やはりか」

 

 レオナが皇帝となれば国は安泰である。

 それは、ジャックスも思う事だ。


 「はい。レオナ姫は素敵な人だと思います。国家をいい方向に向かわせる計算が立つ。ですが、彼女は極端な公平性があるために、あなたの家臣団と上手くいくかわかりません。それと、他の子たちの中で、邪魔をしてくるような子は確実に排除するでしょうね」

 「!?!?」

 「ええ。彼女は冷静すぎます。状況判断も良い。だから無駄を嫌い。一気に敵となる子供を始末するかもしれません」

 「・・・・」

 「こうなるとなかなか厳しいものですね。どれくらい生き残るのかがわからない」


 フュンは至って冷静な分析をして、教えてあげていた。

 本来はこの国を分裂させてやろうとしてこちらに乗り込んだのだが。

 ここに来て、この皇帝の事を信用したので、若干路線変更をしている。


 「それで、ロビン皇子が皇帝になった場合はですね。これまた大変です。彼も優秀だ。お仕事も出来る感じです。でも、あれだと、他の子が俺も私も僕もとなりますでしょ。それに僕は、彼の雰囲気が・・・いや、いいでしょう」


 何かを思うフュンは、最後に言い淀んでいた。


 「うむ・・・それは想像がつくな」


 長男が皇帝になっても、他の子らが暴れる可能性がある。


 「ええ。そうでしょう。となると、後継者指名。これをすると、どのルートを辿っても大変です。下手をすると泥沼の全滅ルートになります」


 この相談役となった期間で、フュンはこの国の子供たちを調べあげていた。

 ライドウたちの調べと、帝都にいて会える子供には会っている。

 それで分かる。

 確実に、内乱は起きてしまうと。

 これは直感でもあった。

 皇帝の子は、皆才気溢れる人物だからだ。


 「・・・・」


 黙って頷くジャックスは、フュンの意見に賛成だった。

 相談役にした意味がここにあると思った。


 「それでですね。一つの案がありまして。かなり苦しい案です。それでもお聞きします?」

 「うむ。お願いしたい。どんなものだ」


 ジャックスは器が大きい人物だ。 

 フュンに対して教えを乞いたいと頭を下げた。


 「僕は後継者候補選挙・・・名称はこっちでもいいです。皇帝候補選挙でもいいです。これをした方がいいんじゃないかと思います」

 「後継者候補選挙?」

 「ええ。これだと全滅を避けられますし、上手くいくと、子供たちが生き残る可能性が増えます」

 「ん?」

 「陛下。いいですか。子供たちの中で、皇帝になりたい人に立候補させるんです。それで、私が一番王に相応しいと選挙させることで、あえて子供たちを戦わせます。しかしこれは公平な選挙をして戦わせるのです」


 フュンの言葉には驚きしかない。

 さすがのジャックスでも声に出して驚いていた。


 「な。なに!? 公平な選挙だ・・・と???」

 「はい。あなたの子たちは、バラバラだ。だから内乱が起きた際に泥沼化する恐れがある」


 子同士の繋がりが薄い。

 フュンは、そこを見抜いていた。

 

 「僕は最終的に三極。三つ巴にしてから最終選挙を行い。勢力を三分割することにします。こうなれば、勢力同士が拮抗して、容易には手を出せないように出来るし、誰が敵になるのかも、ハッキリします」


 あえて、敵を作る。

 でも、個人同士の戦いよりかはマシである。

 十三人がバラバラに戦いあえば、この大陸に大戦乱の時代がやってきてしまうからだ。


 「こうなると、上手く嵌ってくれると誰も死ななくて済みますし。もしダメで戦いになっても、一つの勢力が残ります。子供たちの全滅を回避できます! 争う事が前提になりますが、これが、この国が維持されるきっかけになると思います」

 「!?」


 とんでもない提案ではあるが、生き残れる可能性がある提案であった。


 『後継者選挙』


 この世界で初の選挙により後継者が選ばれる。

 異例の出来事が起きたのが、ルヴァン大陸のオスロ帝国である。

 歴史的な事件とも言える出来事の裏には、フュン・メイダルフィアがいたのであった。


 


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