表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ワルベント・ルヴァン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

607/741

第281話 作戦立案

 「・・・」


 二人の顔を見たジャックスは、久々に嬉しくなって微笑んでいた。

 他人の為に命を懸ける王。

 若く未熟でありながらも成長しようと努力をする王。

 その両方を見て、自分を戒めていた。


 「よし、いいだろう。余が協力しよう。条件はアーリア王の人質という事にしよう。それで家臣たちを説得する。よいか」

 「ええ。いいですよ」

 「ふっ」


 重たい条件なはずなのに、軽い返事が返ってきて、思わずジャックスは笑ってしまった。

 

 「しかしだ。アーリア王。形的には、あなたに滞在をしてもらうという名目にしたい。だから、そうだな・・・・余の相談役になってもらえるか。アーリア王」

 「相談役ですか?」


 フュンは首を傾げた。


 「あなたには、一年以上この国に滞在してもらうことになるだろうからな。余の相談役にでもなってもらえれば、この城にいても良い事になるだろう。多少は監視役の様な兵士がそばにいるだろうがな。それでも気にせずにいて欲しい所だ」

 「ああ。なるほど。それでいいですよ」

 「うむ。それも家臣たちに伝えておく」

 「ありがとうございます」


 フュンは別に人質になる事に抵抗がない。

 なぜなら一度経験しているからだ。

 しかも今回は自分の意思で人質になっているので、本当に気にしていないのである。

 実の父のアハトに宣告された時の方が、心が苦しかったらしい。

 この時の心情はそう綴られている。

 だから、カラッと明るいのだ。


 「それでは部屋を用意しよう。お二人の部屋は・・」

 「陛下。僕は家臣たちと一緒でもいいです?」

 「え?」

 「僕、広い部屋が苦手でして、もし広い部屋を割り当てられるなら、家臣たちと一緒に入りたいなって・・・お願いできます」

 「は、はぁ」


 誰にも注文されたことのない注文に戸惑った。


 「駄目ですかね。だったらウーゴ君と一緒の部屋でもいいです。本当に一人で大きな部屋は苦手でしてね。息が詰まってね。呼吸も苦しくなりますよ。広い部屋ってね」


 部屋が広いのに?

 ジャックスもウーゴも不思議そうにフュンを見た。


 「家臣は、どれくらい連れてきたのですかな」

 「8ですかね」


 本当は影たちがいるので、人はもっといる。

 でも黙っている。

 誰にも知られずに、この国を調べ上げるのに重要だからだ。


 「わかりました。その方たちと、一緒に入れるようにしよう」

 「ありがとうございます。助かりますね」


 なぜこんなにも明るい。

 不思議すぎて、段々面白くなってきたジャックスだった。


 「それでは策があるようだが、それを全て出してはくれないのだろ」

 「ええ。まだ詰め切っていないので、家臣たちと話してもいいですか。細かい部分を詰めていないんですよ。大まかな流れは作っているんですが」

 「わかった」


 ジャックスが呼び鈴を鳴らす。


 「うむ。それならばすぐに、部屋を用意しよう。おい。誰か・・・」

 「はい。陛下」

 「うむ。レオナに伝えよ。部屋を用意せよとな」

 

 扉を開けてくれた人間に話しかけた。


 「はい」


 返事が返ると、更に続ける。


 「10人が入れる部屋を作れ。客間にベッドを入れ込んでおけ」

 「わかりました」

 

 こうして、三か国会談は終わった。 

 この後はただの世間話程度であり、貴重な会話とはならないが、ウーゴにとっては貴重だった。

 王二人が目の前にいる環境は、勉強になるからだ。

 ここで少し成長したようだと、自分でも感じていたようだ。


 ◇


 その後、用意された部屋にて。


 「さて、上手くいきましたね」

 「ちょっと、いいですか。フュン様」

 「なんですか。ギル」

 「あの。人質の事は上手くいったと言えるのですか? 俺は、なんとなくですけど。それはさすがに・・・」


 失敗では?

 ギルバーンは苦言を呈したい気持ちをかなり抑えていた。

 最後の一言だけは、自分の喉に押し込めた。


 「え? 別にいいでしょう。僕が人質になったら、ウーゴ君が出撃できるんです。だから成功ですよ」 

 

 『それはやっぱり・・・こちらの家臣団としては、交渉失敗では?』


 この思いがギルバーン以外にも出て来る。

 でも、こんな事を言っても無駄な事を知っているので、皆が黙っていた。


 「いいですか。みなさん。彼は必ず勝ちます。ここで作戦を細かく練って、ウーゴ君が戦う意思を見せる。これだけで、絶対に成功します。僕は信じているんです。ここにいるみんなの力。あちらに置いていった仲間たちの力、そしてウーゴ君が持つ力を合わせれば、絶対に成功します! いや、成功させます。力づくで、勝利をもぎ取るんですよ。いいですね!」

 「「「はい」」」

 

 この人に、こう言われたらしょうがない。

 やり切るしかない現状にさせられたら、やるしかないのだ。

 後ろは考えずに前を向いて突き進むしかない。

 フュンの家臣団とは、それを強いられてしまう。

 大変な思いをする部下たちなのだ。


 「では、ギル。君が軍師となり、ウーゴ君を支えてください。あなたがあちらの北側を担当する。南側はクリスとタイムが担当となり、お二人の手にワルベント大陸を確実に渡すのです。ウーゴ君と、ジェシカさんの二人が完全支配する形にしましょう。いいですね」

 「わかりました」

 「ええ。それで、次に僕は相談役とかいうのになったので、ここらを少し探索します。この国、何がそんなに焦る原因なのか。ここが重要ですからね。ライドウたちの調べも欲しいし。僕自身も調べます・・・あの陛下はかなり優秀の方・・・エイナルフ陛下に近い。いや、同じかそれ以上かもしれない。それなのに、あれだけ焦るのは珍しい」


 子供たちに原因があるか。

 領土に原因があるか。

 この二つに一つか、それとも両方か。

 フュンはこの見極めをしっかりしようと思ったのだ。


 「では皆さんも、あまり派手には動かないでくださいよ。でも人付き合いは大切なので頑張りましょう。レベッカ」

 「はい。父上」

 「ええ。君も政治を勉強する時が来ましたので、出来るだけお淑やかに・・でも出来るだけですよ」


 どうせ出来ないので、無理せず頑張れとフュンは言っていた。


 「はい。出来るだけやります」

 「ええ」


 出来ない分野では、無理をさせない。

 それがフュンだ。

 だからウーゴへのあの指導は、彼が出来ると思っているからこその厳しいものだった。

 

 人の限界値を見極める目を持っているのがフュンである。

 だから彼の周りの人々は、どんどん成長していくのだ。

 

 ◇


 その後のフュン。


 「ギル。作戦の基本は、戦いを基準にしてくださいね」

 「わかりました」


 ギルバーンを横に置いて、制圧戦を考えていた。

 最初のシャルノーでの戦いは、戦うことを基本に想定しておいた方が良い。

 味方を撃つ。

 その覚悟を決めて挑んでほしい。

 なぜなら、いざ戦いが始まった時に、味方だから撃てませんと言って、動きを止めてはいけないからだ。


 「それとギル。僕はですね。一つ注文があります」

 「ん。注文ですか。それは、なんでしょうか」

 「ウーゴ君に最初に話をさせてあげてください」

 「話ですか」

 「はい。僕はウーゴ君の素直な気持ちが大切だと思っています」

 「気持ちですか・・なるほど」

 

 ギルバーンは、フュンの言葉に疑問を持った。


 「彼は純真です。綺麗な白い心を持っています。その心を兵にそっくりそのまま届けたい。彼の心で、兵士たちの気持ちを奮い立たせたい。それで、もし戦う事になったとしても、相手は本気で攻撃ができないと思います。それで有利に持っていけると思います」


 その意見は、意外にもシビアだ。

 ギルバーンはそう思った。

 相手の心を攻撃すると言っているのと同じだった。


 「それに僕は、彼の始まりは、気持ちの整理と宣言から始まった方がいい。思いを自分で作って前に進んだ方が、ウーゴ君が成長します。この戦いは、あなたの支えがあっても、ウーゴ君自体の成長がなければ、成功しません」

 「彼の成長・・なるほど。わかりました」


 立派な王になる可能性を秘めたウーゴ。

 それはギルバーンも感じる所だった。


 「そうです。苦難を乗り越えるのは、誰かに頼るんじゃない。協力をしてもらうのは良い事です。ですが、全てを任せて進むのはよくない。僕はそういう風に育ちましたし、どんな人もそうだと思います。困難から逃げたって、次にも困難が来ますからね。だから今の困難に立ち向かったという経験を手に入れた方がいいんだ。ウーゴ君にもその貴重な経験が欲しい。困難に立ち向かっていけたという勇気を手に入れて欲しいんです」


 困難は次から次へとやって来る。

 それでも、どれかに逃げたりでもしたら、自信の欠片を一つ失ってしまう。

 あの時、逃げちゃったんだという気持ちがあると、もしかしたら今後のウーゴの気持ちと成長を縛るかもしれない。

 だから、始まりは自分であるべき。

 成功しても、失敗しても、それは経験となり血肉となる。

 フュンはそういう意味で、作戦を構築したのである。

 全てはウーゴの為で、やはりフュンの人の為の作戦を立てたのだ。


 「いいですか。ギル。基本はウーゴ君です。君は援護です」

 「はい」

 「だから、ウーゴ君にも作戦の全容を伝えてください。決断も彼です・・・ですが、ギル。助言はしてください」

 「わかりました。フュン様」

 「ええ。父親のように接してあげてくださいね。ジル・・・のようにはまずいか。とりあえず優しく指導をしてくださいね。まだ何もわかっていないのですから、少しずつ経験させるのです」

 「はい」


 ジルバーンはあれでいい。

 なぜなら、彼は自分で考えて、自分で自分を成長させることが出来る子供だからだ。

 でも、ウーゴは違う。

 子供の時の環境が、普通の人とは違い、極端におかしいから、一人で自分を成長させることが難しい。

 だから、丁寧に壊れないように指導をし続ける事が肝心である。


 フュンは、子供の特性に応じて、人を育てるのが上手かった・・・。

 人に優しい人物であったのだ。




―――あとがき―――


ここで小噺。

ここの計画は当初なかったです。

ウーゴを攫って、ワルベント大陸を三国時代にするのが、最初の計画でした。

この計画はユーナと考えていた計画です。


しかし、フュンはリーズ外交戦の際に、ウーゴを見て作戦を変えました。

彼の本質が純粋。素朴。

そして会話したことで、人に優しい王であることを知ったので、彼は成長すれば、民の為の政治をする王になるのだと思い。

フュンはここで、強奪からウーゴ帰還計画を立てました。


レガイア王国の真の王になってもらう。

実は、途中で変更した作戦でした。


そして、このウーゴ帰還計画がない場合は、アーリア大陸とルヴァン大陸の同盟を締結しようと思っていました。

この国から、力を借りて、戦艦をもらい、ワルベント大陸を同時に二か国で攻める。

中々えげつない作戦であります。


ちなみに、その時の口実はですね。

三度戦い、三度ともアーリアが勝ったので、あなたたちと協力すれば、ワルベント大陸なんて、あっという間に蹂躙できると皇帝を説得しようとしていました。

そして、それと並行して、この国の内部を破壊するつもりでした。

皇帝陛下の後継者を焚きつけて、内乱状態にして、フュンたちの大陸がどこよりも有利となる。

内乱のないアーリアは、技術さえ学べれば、何処にも負けない。

フュンの自信はそこにありました。


それが、フュンの当初の計画でした。

いずれにしても混沌を狙っていました。

世界の大混乱を目指していたのです。


でも、これも放棄して、今のフュンはルヴァン大陸の為に動いています。

皇帝陛下が立派な人物であるのなら、倒すよりもこの皇帝と仲良くなった方が良い。

それで同盟を結んだ方が良いはずだ。

フュンらしい直感が、新たな考えを導き出したのです。


結局のところ。

フュンは人に優しいのです。

全てを破壊するつもりで、世界に挑んでも。

ナボルのように悪になろうとしても。

アーリアの為に生きようとしていても。

人の為に生きるのが好きな人なのです。


凡庸で、優しい人。それがアーリアの英雄です。


とまあ、ここでタイトル通りでしたという話を終えて、続きを進めます。

世界がどのように変化するかは、フュンとその関わった人次第となります。


アーリアの英雄の物語は、もう少しだけ続きます。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ