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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ワルベント・ルヴァン編

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第278話 外交決戦 この男は何者?

 帝都スティブール。

 水の都と呼ばれる大都市である。

 

 大きな湖が都市の真ん中にある王都アーリアとは違い。

 この都市は、近くの川から水を引っ張って、人工的な水路を張り巡らせている。

 なので都市内の移動では、船を使用することが可能となっている。


 それと、高低差のある作りもしていて、お城の位置は、かなりの高台に設置されている。

 街に入るとすぐに城が見えるのだが、空に浮かんでいるような錯覚に陥る。


 「おお。ここがですか。では、早速行きますよ」


 敵国の中でも堂々と街に入る。

 フュンの抜群の度胸のおかげで、周りにいる皆も緊張せずにいた。


 フュンが、門番の人に、レガイア王国の玉璽を見せると、すぐに兵士たちは確認をした。

 彼らもその本物具合に驚きを隠せずにいた。

 かつての停戦時での文書でのやり取りの記録を引っ張り出して、何度も確認するが本物だったのだ。

 

 そう、本当にこれは本物なのだ。

 実は今。

 レガイア王国にある玉璽の方が偽物となっている。

 それは、メイファが盗みに働き、本物とすり替えているからだ。

 なので、現在ジャルマが使用しているものが偽物。

 それを知らず知らずで使っている可哀想なミルスでもある。

 しかし、偽の王だから、良しとしよう。

 間抜けである事も罪なのだ。



 ◇

 

 当然のことで、オスロ帝国の宮中は混乱していた。

 現在交戦中の真っただ中の敵国の王が、こちらに面会に来たこと。

 それも事前の打ち合わせもなしにだ。

 亡命か。それとも交渉か。

 どちらとも想像が着く事であるが、普通に考えると、どちらもあり得ない事である。


 オスロ帝国皇帝『ジャックス・ブライルドル』


 殲滅王ジャックと呼ばれた破壊的な攻撃展開をして、他国を圧倒した王だ。

 若い頃は、敵国の兵を狩り尽くしたとまで言われたほどに恐れられた。

 今は59歳で、その頃の圧力は消えたが、それでも当時を覚えている人間にとっては恐怖の対象であるらしい。

 彼と対峙してしまうと、会話の出だしを話せなくなるくらいに震えあがると言われている。

 

 

 「通せ。こんな機会はないだろうから、余が直接話そう」

 「はっ。陛下。お連れします」


 相手が突然来ても慌てずに対応をする。

 実は、この状況ジャックスにとっては、大変面白い状況だと思っていた。

 上手くいけばここから色んなことが出来るぞと、自国の有利な状況を作ろうと最初は思っていたのだ。

 しかし、相手が曲者である事を知らなかった。

 これが命取りであった。

 

 ◇

 

 扉から出てきたのは、若い青年二人。

 一人はオドオドしていて、もう一人は光輝いていた。

 光を身に纏うその姿。

 眩しさがあって、ジャックスの興味はそちらの男性に向いていた。

 だが、話すのはオドオドしている方だった。


 「わ、私は、レガイア王国の王ウーゴ・トゥーリーズです。ジャックス陛下。突然の訪問。申し訳ありません。それでも、会っていただきありがとうございます」

 「うむ」


 弱々しい青年の方が先に挨拶をしてきた。

 その後に、こちらの男が挨拶をするのかと思いきや、後ろにいたままだった。


 「そ、それで、私・・」

 「待って頂きたい。レガイア王」

 「は、はい」

 

 我慢できないジャックスは、どうしても気になるから話を遮ってまで、後ろの青年に話しかけた。


 「そちらのお若いのは? どなただ?」

 「こ。こちらの方は・・・」


 困った顔をしたまま青年が後ろを振り向く。

 

 「余は気になる。そちらの男がな」


 ジャックスは彼の異質な存在に気付いていた。

 明らかに、他とは違う雰囲気がある。

 強者とも違う。

 なんだか別な風格が漂う。

 皇帝としての勘が、こちらの人物を警戒せよと伝えてきた。


 ◇


 フュンは、もう少しジャックスを観察したかった。 

 迫力のある。威厳のあるその雰囲気。

 でも何だか懐かしいなと思いながら、フュンは言葉を発する。


 「はい。皇帝陛下。私の名は、フュン・ロベルト・アーリアです」


 普段通りの声の張りで返事を返す。

 取り繕った姿で、陛下と問答を繰り返すよりも良いはず。

 フュンは相手の性格を見定めていた。


 「・・・アーリア。聞いたことがあるな。イスカルに似たような・・・反対側の小大陸の名じゃないのか」

 「はい。その通りです。私はそのアーリアの統一王であります」

 「統一王だと!?」


 アーリアの存在は知っている。

 しかし、そこに統一した王がいるとは知らなかった。

 情報は、四十年前のものだが、その時は国は二つ以上あったはずだと記憶していた。


 「そうか。王だったか。しかし、若いのに、なぜそのような風格がある。おかしいな」

 「いえ。風格は全然ありませんよ。それにです。もう若くありませんよ。僕、四十を超えています」


 フュンはかまをかけていた。

 色々な自分を見せる事で、どの程度で相手が不機嫌になったり怒ったりするかをだ。

 私と僕が交差している。


 「なに!? その容姿でか」


 二十代だと思った。

 信じられんと口が開いた。


 「はい」

 「年を取っておらんのでは?」


 ジャックスは不思議そうにしていて、フュンの方はじっくりと観察していた。


 この皇帝には噂通りの威圧感のような部分がある。

 しかし、話が通じる相手であるのはたしかだ。

 フュンは、感覚的に敵を見極めた。

 しかも、この対峙した感覚がエイナルフに似ていたから、対処方法がよくわかる。


 「それで、二つの国の王が、余に何の用なのだ。余もこの事態。よほどの事だと思い、来たわけだが・・・」


 この国では、最初から皇帝に会えることが珍しい。

 何段階かで出会えるのが普通だからだ。


 「はい。陛下。僕はですね。あなたのお力をお借りしたくてですね」

 「余の力だと」

 「はい。偉大な皇帝陛下であるあなたならば、このお困りのウーゴ王に力を貸して下さると思いましてね。こちらにはるばる旅に来ましたよ。ええ」


 相手が、素晴らしい皇帝陛下であることが分かる。

 心の位置はど真ん中。

 色は灰色。

 酸いも甘いも知っている。

 善も悪もだ。

 だからこそ、この言い方であれば驚いてくれる。


 「それで、あなた様のお力をお借りして、僕らはワルベント大陸を平定したいのです」

 「なに? どういうことだ」

 「残念ながら、現在ですね。レガイア王国には悪しき大宰相がいましてね。ミルス・ジャルマというどうしようもない男です。無能。我儘。圧政。どこから評価を下しても最低であります。その屑男がレガイア王国を牛耳ろうとしているのです」

 「ほう。聞いたことがあるな。ジャルマか・・・」


 フュンのジャルマ評価は最低ランク。

 ナボルのノイン。弟のズィーベ。

 この両者に肩を並べる。

 三大最低野郎の一人となっていた。


 「それで、貴殿がなぜ話す? そちらのレガイア王が話すべきじゃ」

 「ええ。そうなのですが。まあ、後見人みたいな役割をしている僕からお話します」


 ウーゴはまだこの皇帝と渡り歩く話術がない。

 だからフュンが表に出てきていた。


 「彼はですね。命を狙われて危険な目に遭ったのです」

 「ん?」

 「わかりやすい位置から説明しますと・・・私の国と、レガイア王国は停戦を結ぶところでした」


 フュンは、説明すべき時は私を使用した。

 使い分けで、勝負をする。


 「なに!? 停戦だと、アーリア大陸と戦争をしていたのか。どういうことだ」


 ワルベント対アーリア。

 その戦争の情報はこちらにまで入って来なかった。

 それは、シャルノーも知らない事実だからだ。

 あそこも知らなければ、ビクストンが知る事もないのである。


 「ええ。私は、三度。レガイア王国と戦いました」

 「・・ほう。それで」

 

 三度戦い。停戦へと向かう。

 弱小が停戦交渉に辿り着ける。という事はだ・・・。


 ジャックスは事情を予測できていたから、フュンに話を促した。


 「はい。それで私は、レガイア王国の宰相殿。ジェシカ殿と停戦交渉をしたのです」


 フュンは、ジャックスが自分たちの勝利に気付いているので、余計な説明に入らなかった。

 この男は無駄を嫌う。でも寛大でもありそうだ。

 まさしく、名君のエイナルフと同じであった。


 「そこで、上手く話がまとまり、私は首都リーズでの話し合いに入ったのです」

 「ほう。そこまでいったか・・・」


 凄い手腕だ。

 小さな大陸の方が、大きな大陸に勝ち、話し合いの場まで行く。

 それはこちらでは、考えられない事だった。

 イスカル大陸は、完膚なきまでにオスロ帝国に負けたのだ。

 アーリアと大陸の大きさがほぼ同じ、ならば戦争条件もほぼ同じだろう。

 なのに、アーリアは勝ったというのだ。

 とんでもない事をこの男がしている。


 顔には何も表情を出さないジャックス。

 内心では驚愕していたのだ。


 「しかし、私は、その首都リーズで、全てを反故にされました。そうです、あの瞬間には、私とウーゴ王は、同盟寸前までいっていたのです」

 

 フュンは、嘘を言っているわけでもない。

 半分は本当だ。

 あの時にも、同盟の話をしているからだ。

 

 「同盟だと!?・・・いや、なくもないか・・・」


 小さな大陸と大きな大陸が同盟。

 これは、ありえない話だと思ったが、実際に勝った国があるのだから、ありえなくもない。

 とジャックスは、切り替えて考えた。


 「はい。同盟です。世界と対抗するための同盟。あなた方に負けないための同盟ですよ。理由を説明しなくても、それくらいはお判りになるでしょう。陛下ならね」

 「なんと・・・ここで・・・」


 それをここで言うのか。貴殿は!?

 ジャックスは、心の中で笑っていた。

 敵国のど真ん中。

 皇帝陛下を前にして。

 二大大陸の覇者に対して、宣戦布告に近い発言。

 自国の者でも震え上がると言われる人物の前で、堂々としているこの男。

 面白過ぎる。

 興味がどんどん沸いていき、ジャックスの目が釘付けになった。


 「しかしですね。それを不服に思ったミルスという馬鹿な男がいましてね。世界を広く見る事が出来ない男ですよね。まったく」


 どうしようもない男だ。

 アーリアとワルベントが協力すれば、ルヴァンとイスカルに負けない同盟となれたはず。

 これも理解できないのは、頭がお花畑であると言ってもよかった。


 「そこから僕とウーゴ王が同盟の調印をしようと動いたところで、彼が交渉の場を荒らしました。私を殺そうとして、ウーゴ王までも殺そうとしたのです」


 という半分本当で、本文嘘を言ったのだった。

 フュンの話しぶりは、まるで詐欺師のようであった。


 「あと一歩で殺されそうになった私は、同じく殺されそうになったウーゴ王を必死になって、救いながら首都を脱出しまして。その流れで、レガイア王国を離れて、こちらにやって来たのですよ」

 「なるほど・・・わかった」


 ジャックスは今の話でフュンが次に話したい事が分かった。


 「それで、余の力を借りて、ミルス・ジャルマを倒したい。そういうことだな」

 「そうです」

 

 フュンはすぐに返答をした。


 「駄目だな」


 この一言で、話し合いが遮断されたのであった。

 

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