第276話 人生の目標『世界連盟』
「ではここからの計画の中身ですね。これをお伝えします」
フルートの近くの山で、フュンは、ウーゴと皆に計画の流れを伝える事になった。
「まず。ウーゴ君を真の王にする計画です。僕は本来ここの考えがありませんでした。ウーゴ王を強奪することは最初の計画では考えてなくてですね。奪えたらいいなくらいの軽い考えでしたね。まあ、彼を奪えちゃえば、ワルベント大陸は勝手に内乱を始めますからね。そこに関しては、それくらい大雑把でしたね」
とんでもない衝撃告白にウーゴも驚くけど、皆も驚いている。
「しかしね。ウーゴ君に初めてお会いした時にね。ウーゴ君の顔を見たら一発で分かったのです。これは相当な操り人形になってしまっているぞってね。だから正直あのリーズでの外交の時は、かなり怒ってましてね。ミルスを潰す策を考えながら、あそこでは激怒しないように抑えていましたね」
フュンは会話をしながら、作戦を徐々に変更していた。
ウーゴ強奪を確定にしたのだ。
策の始まりとしては、ウーゴを人質にして、ワルベント大陸を割る事を考えたのだが、それはせずに、ウーゴの力を見抜いたので、ウーゴを盗むことに切り替えたのだ。
「だから僕はミルスを挑発しまくったんですね。無礼なほどに焚きつけて、こちらを攻撃する態勢にさせた。これでウーゴ君の守りが薄くなりましたから、そこがチャンスでした。タイローさんも奪いやすかったでしょ」
フュンはわざとあの外交をしていた。
普通の人間ならあそこで縮こまって会話するというのに。
フュンは、敵地のど真ん中で堂々と、国を牛耳っている大宰相を挑発したことになる。
度胸レベルが桁違いの男なのだ。
「ええ。あの人もですが、周りの衛兵たちもフュンさんしか見ていませんでしたからね。楽でしたよ」
「そうでしょ。なかなか上手くいきましたでしょ。あははは」
思考回路がぶっ飛んでいる。
フュンとゼファー以外の人間はそう思った。
「それでですね。ウーゴ君が真の王となってくれるという事で、僕らはウーゴ君を全面支援します。良いですね!」
「「「はい。フュン様」」」
「ええ。みなさんなら賛成してくれると思っていましたよ。そこでウーゴ君を真の王にするための作戦として、僕らはルヴァン大陸に行きます!」
「「「はぁ!?!??!」」」
皆が驚いた声を上げる中で、フュンだけが笑顔である。
「もともと行くつもりだったんですけど、ウーゴ君がここに加わる事で、成功率が上がりそうです」
「成功率? それはどういうですか。フュン様」
ギルバーンが聞いた。
「ええ。僕の計画。最初は世界をぐちゃぐちゃにする計画だったんですけど・・・まあ、今もその計画ではあるんですけどね。でも僕はここで、別な策でもいけると考えを変更しています」
「別なですか?」
以前の計画を聞いていたギルバーンが戸惑った。
「はい。世界分裂。これが僕の目指した最初の計画でした。各大陸を分裂させて、力を分散させる計画です。でもこれだと難しい。なので、僕はこうすることに決めました。世界連携です。世界に混乱を作ってから、秩序を生み出します」
「連携に、混乱ですか。なるほど・・・」
フュンの言葉にギルバーンでも驚いていた。
「ええ。いま、僕はイバンク。そしてウーゴ君とも同盟を結びました。こうなると、同盟を各地で結ばせて、世界を結んで、何処も戦争をさせない形にします。戦争を仕掛けた国に対して、同盟が歯止めを効かせる。これが、この世界では最も良い形かと思います」
世界に戦争が無くなる事を想定したわけじゃなく。
世界に戦いが起きても、国同士が連携して、戦いを即座に止めさせるきっかけにする。
世界連携という言葉はそういう意味で言っていた。
「アーリアが攻撃を受けそうになっても、イバンクが守ってくれる。イバンクが攻撃を受けそうになったら、レガイアが守る。レガイアが攻撃を受けても、アーリアが支援すると言ったように、相互が連携すれば、各国が無事になる」
ウーゴが聞いてきた。
「それは、ルヴァンが攻めてきた場合という事ですよね・・・しかし、レガイアの国が分裂したら、対抗するにも力が弱くなってしまうのでは?」
よい質問だと言ってからフュンが答える。
「そうですよ。ですが、僕はワルベントは二つで良いと思っています」
「ワルベントがですか」
「ええ。ワルベント大陸は大きいので、一括管理よりも、北側にレガイア王国でウーゴ君。南側にイバンク家の国でジェシカさん。この両者でワルベントを守るのがいい」
「ふたつで・・・なるほど」
フュンはここで、二か国で大陸を守る案を提案した。
意外にもこれが理に適っているのだ。
大きすぎる大陸を守るに一か国よりも二か国の方が効率が良い面がある。
「そこで、ウーゴ君にはもう一つ同盟して欲しい国があります」
「も、もう一つ!?」
「はい。オスロ帝国。こことレガイア王国が同盟を結んでほしいんです」
「「「は!?!?!?!?」」」
これには全員が驚いた。
今まさに戦っている相手に対して同盟をしろ。
この考えがよく分からないのだ。
「僕は、今からオスロ帝国に行って、話し合いに行きます。向こうの皇帝さんとね」
「そ・・・それは危険では」
ウーゴが聞いた。
「ええ。危険です。ですが、ここを乗り越えないと世界は平和にならない。平和へのきっかけの一つがオスロ・レガイアの同盟となるんですよ。ここが重要です。それと僕の予想ですが、オスロ帝国がこちらに攻勢を仕掛けている理由があるはずです」
「ん? それはどういう意味でしょう。フュン様?」
ギルバーンが聞いた。
「はい。近年あの国は、凄い勢いでワルベント大陸側に攻撃を仕掛けています。この理由を二つで予想していました」
「理由が二つ・・・どういう事でしょうか?」
タイローが聞いた。
「ええ。一つ目の予想は、イスカル大陸の制覇によって、楽になったから。これが単純理由です」
シンプルに攻勢に出やすい状況だから戦っている。
でもこれで、あの攻勢は考えられない。
あちらの攻撃は、どこか急いでいる雰囲気があるのだ。
「ですが僕はこっちだと思います。内部に不安がある。これが複雑理由です。二つ目の予想ですね」
「内部に不安・・・・まさか、フュン様」
「お。ギル。気付きました?」
「まさか。皇位継承ですか」
「ええ、おそらくそうです」
フュンとギルバーンが辿り着いた答えが皇位継承問題だった。
「内部が分裂。またはそれに近しい問題が起こるかもしれない。と予測した皇帝が慌ててワルベント大陸を攻撃している。これが原因だと思っています。先回りで問題を解決しようとしているのですよ」
フュンの予測を皆が静かに聞き始めた。
「いいですか。今のルヴァン大陸はイスカルを従属させたから二正面じゃない。なのに、攻勢を強めている。海を挟んでいる大陸に対してです。これがちょっとおかしい。別にあんなに攻撃に出なくても問題がないでしょ。二大陸も制覇したのに」
自分の立場から予想すると、『無理をしている』と思うのだ。
「なのに無理に攻撃に出るってことはですね。ワルベント大陸側に拠点を作って、本土では二か国間の戦いが起きないようにしたいのかなって僕は思いますね。被害が出る土地を敵側だけにしたい。こういう意図だと思います」
王位継承の争いで、本土が荒れてしまうことが予測されるから、先にワルベント側に拠点を作って、そこで戦えばいいとする考えが、オスロ帝国側にあるとフュンは考えていた。
これはまさに、かつてのガルナズンとイーナミアの戦いにもあった。
フュンの時代の前に、似たような事象があったのだ。
フュンは歴史からの予測をしていた。
「それと僕は、両大陸が戦いでしかコミュニケーションを取っていないのが悪いと思っています。それで、ここに目を着けたのです。オスロ帝国が今どういう形であるのかは分かりませんが、僕は敵地に乗り込んで交渉します。ウーゴ王に協力してくれませんかと」
「「「な!?」」」
相手の皇帝に?
皆の疑問は同時に沸き起こった。
「ウーゴ王が国を取り戻したら、同盟を結びたい。新たな国となるレガイア王国は感謝の意味で、絆の同盟を結びますと」
「なるほど。しかし、それだと、新しいレガイア王国が危険になるのでは」
ギルバーンが聞いた。
「はい。そうです。対等な力じゃないので、レガイアは危険になります。そこでジェシカさんのイバンク家の支援を入れます。それと僕らも支援を入れます。でも、僕はそこで満足しません」
「はい?」
「僕は、ルヴァン大陸のその皇位継承。ここを激化させるつもりです」
「な!?」
「その大陸も分裂させて、何より僕はイスカル大陸を独立させます。これにより、世界は大分裂をします」
国家を破壊して、国家を生み出す。
フュンは世を乱す悪魔でありながら、もう一つ計画がある。
それが・・・・・・・。
「もしこの分裂が上手くいけば、各国が同盟を組んでいき、逆に世界が安定する。それで世界連盟を生み出せます。各大陸に王か代表者を置いて、世界を安定させるのですよ。いいですか。どこでも戦いは起きてしまうのです。戦争って始まるのは簡単なのに、止める事が難しい」
フュンはしみじみと言った。
「でも、これは仕方ない。では済ませたくない。だから、起こさない努力をしよう。それで皆で話し合いが出来る場を整えるのです! 戦いが起きにくい仕組みを作るのですよ。そして起きてしまっても、同盟同士の連携で止めやすくするんです」
皆がフュンの話を聞き入っていた。
「それにね。僕らには口があるんですよ。言葉でコミュニケーションを取らないなんてもったいない。力でコミュニケーションを取るなんてね。それこそ原始人ですよね。武器が進化したってね、それじゃあ人が進化してないのと同じです。でも僕は、人って変わらないと思うんですよ。想いを伝えて、丁寧に話し合っていけば、必ず分かり合える。でも、それでも戦いたいってなったら、世界でバランスを取ってそこを叩きます。戦いたい国を複数で止めます!」
世界連盟。
世界にある国が、個別で同盟と同盟を結んでいき、争いを起こしにくい環境に持っていく。
世界の争いをコントロールする仕組みをこの時のフュンが提唱したのだ。
アーリアの小さな王が、世界を平和に導くために考えた。
苦肉の策ではあるが、もし成功したら、大陸間を救う大作戦となるものである。




