第273話 真の王ウーゴ帰還
衝撃の語り掛けに揺れるリーズ。
ミルスに反逆の心を持った熱気のある民たちは、王城を囲おうと動き出した。
このままでは、民によって殺される。
恐れ戦いたミルスは、脱出を図る事にした。
「ま。マキシマム。逃げるぞ」
「なぜ?」
「何!?」
ミルスは、マキシマムからの返事が疑問であることに驚いた。
「王が帰って来たのに、逃げる必要などありません」
「なんだと!!」
「私は国に忠誠を誓っています。逃げたければどうぞお一人で」
「貴様! 私を捨てるつもりか」
「捨てるも。捨てないも。私は国家に身を捧げているのです。あなたではありません」
「なんだと。今まで便宜を図ってやったというのに」
王の間で、言い合いになるが、時間がないのも事実。
その内、民たちがここを制圧するのだ。
「最後ですよ。ここで罪を。反省すれば、生きられるかと・・・・しかし、逃げたければ逃がします。私は、あなたを殺すことはできない。今までの事がありますから・・・それに裁きを下すのは私ではない。王でなければ・・」
「なんだと!? 貴様」
「・・逃げるなら、逃げなさい! どこへ行けるかは知りませんが!」
「くっ・・・」
ミルスは、王城を脱出した。
秘密の地下通路を利用して、都市の外へと出る。
この道を知る者はジャルマ家のみ。
作成したのが二代前のジャルマが一子相伝の道としたからだ。
大宰相が王の立場を乗っ取る。
その際に、色々な所から恨みを受ける事を予測したダリス・ジャルマが作ったのだ。
彼は優秀であった。
いや、優秀じゃなければ、大国でジャルマ一強など作れないのだ。
王の間に一人となったマキシマムは呟いた。
「そうか・・・あの男・・・この時を予言していたのか。これはまさか・・・あの男が、全てを仕組んでいるのか。内乱・・・戦争・・・宰相を割る・・・まさか。ここまでこの国を操っているのか?」
表に出ているのはウーゴ王。
だけど、この裏にいるのは、アーリア王フュン・ロベルト・アーリアの仕業じゃないのか。
ワルベント大陸側のフュンの味方以外の人間で一番早くその事に気付いたのが、マキシマムだった。
『あなたには選択する時がやって来る』
『その時、誰を選ぶのかを楽しみにしている』
『それは生死を左右する選択である。だから慎重に選べ』
今、この時に彼の言葉が反芻されていた。
◇
『真の王の行進』
そう呼ばれる出来事がこの時起きた。
首都リーズにいた2万のジャルマ兵。
これが一切抵抗せずに、民たちと共に北の門を開けて、王を出迎えた。
そこから入場するウーゴは、そのまま真っ直ぐ王城を目指していく。
歩いている一行には、民たちから拍手の出迎えがあった。
ジャルマの圧政に悩んでいた彼ら。
その不満を口に出せば、消される恐れがあったから、彼らは何も言えずにいた。
でも今、この時は真の王がそれを正してくれるはずだと、淡い期待があった。
しかしそれでも、淡いのだ。
なぜなら、彼は弱い王だったから。
望みとしては、薄い。
でも今よりも良くなるのかも。
そんな弱い期待なのだ。
しかし、先程のウーゴの言葉にあった。
皆で成長をしよう。
この言葉に感銘を受けて、少しの期待でもしてくれた。
マイナススタートだったウーゴの期待値を、ウーゴは自分の言葉でゼロスタートに持ってきたのであった。
これから頑張る王。
それをこれから応援する民となる。
レガイア王国はここから生まれ変わろうとしていた。
◇
王の間に辿り着いたウーゴは、部屋に入る前から跪いて頭を下げていた男を見た。
「マキシマム将軍!?」
「ウーゴ王・・・私を許さないで欲しいです。申し訳ありません」
「・・・???」
ウーゴはその言葉の意味が分からなかった。
だから、ギルバーンの顔を見たが、ギルバーンは笑顔で、彼の言葉を聞いてあげてくださいと、マキシマムに向かって手を出していた。
自分に聞くんじゃなくて、ウーゴ王自身が考えてください。
相手の気持ちを大切にする。
それをフュンが教えてくれたはずだから。
ギルバーンが優しい無言の対応をしてくれたのだ。
「将軍、何の事でしょうか?」
「それは私があなた様を信じず。お支えもせず。お帰りも待たなかった。そんな男が・・・この国の将軍など・・それに私はミルスを逃がしました」
「え!?」
「ここで奴を殺して、あなたに取り入ろうとは思いませんでした。私は罪があるのです。あなた様をお支えしなかったのですから」
裁きをください。
その意味で頭を下げてきている。
「・・・・」
一瞬、ギルバーンを見たが、彼は答えを言わない。
作戦や、指令を出す時はすぐに相談に乗ってくれるギルバーンが、ここでは答えを断固として言わない。
だから、自分で考えろと言っているのだ。
「そ、そうですか。でもあなたが私を支えなかったのは・・・私が、情けない王だからだ」
「な!? い。いえ。違います。私がわる・・」
ウーゴが手を前に出した。
黙っていてくれ。まだ話すよという合図だった。
「私が弱く。それにそんな私を支えても、国を支えられなかったからだ。だから、あなたはなにも悪くない。悪いのは私だ。弱い私がいけなかった。ジャルマに負けていた私が悪いのだ。だから、一緒に頑張りましょう。ここからは、一から進んでいきましょう・・・とても弱い王ですが、いいでしょうか。マキシマム将軍」
「・・・う、ウーゴ王・・・こ、こんな私に、機会を与えてくださると?」
「与えるもなにも、私はあなたがいないと国を引っ張っていく事が出来ません。私と一緒にお願いします」
「・・・あ、ありがとうございます。ウーゴ王。生涯ついていきます。絶対にあなた様を裏切りません」
ウーゴ王に、マキシマム。
この二人が軸となり、レガイア王国は新しく始まっていく。
二人の出来事の直後に現れたのが、ライブックだった。
「ついに、ここに来てくれましたか。ギルバーン殿」
「あ!? あ、あなたはライブック殿で」
「はい」
「よかった。各地のアスタリスクの民。ありがとうございました」
「ええ。大丈夫でしたか」
「はい。タツロウ殿と連携した援護。助かりましたよ」
「ええ。よかった。アーリア王の作戦展開に合っていたのかが不安でしてね」
この二人の会話を一番疑問視するのが、マキシマムであった。
「待ってください。アスタリスクの民ですと!?」
「ああ。あなたも仲間になるなら、お伝えしましょうか。どうです。ウーゴ王。彼にも教えますか」
ギルバーンが聞くと、ウーゴは「ぜひ」と言って頭を下げた。
「では、お伝えします。今、古今衆と呼ばれる集団が暴れていると思います」
「ええ。手を焼かされましたよ」
「あれは、各地にいるアスタリスクの民たちが主な活動員です。俺たちの影。それと連携して、各地で暴れ回っています。それで、ウーゴ王が進軍するところに、無線破壊。暴動。この双方で乱した後に進軍。こちらが少ない軍でもジャルマ家を劣勢に持っていった要因ですね。マキシマム将軍も、こちらの情報をあまり知らないのでは?」
マキシマムは深く頷いた。
「はい。まったく知りませんでした。西側の敗北はほとんど知りません。シャルノーからの無線だけがこちらに来ていまして・・・ルヴァン大陸からの攻撃はないと」
「ええ。それは嘘です。俺たちが流している無線に惑わされているだけですね」
「な!?」
「情報が戦争を有利にする。これが我らの王フュン・メイダルフィアの戦い方ですからね」
フュンは、合戦時の諜報戦で負けた事がほぼない。
二大国英雄戦争。ラーゼ防衛戦争。シンドラの戦い。アージス大戦。サナリア平原の戦い。
色々な戦いをしてきたフュン。
それでも、相手に情報においてだけ、後手に回ったことがないのだ。
だから今回も敵の情報を丸裸にして、偽の情報を流布して、攪乱して敵を圧倒した。
少ない兵しか持たないウーゴを支援する形となっている。
フュンはこの大陸にいないのに、この大陸の戦争の情報を握っていたのだ。
「なるほど。私なんかでは勝てるわけがない。ましてや、ジャルマでは勝てるわけがない」
奴は短絡的すぎる。
目先の利益に飛びつきやすいために、サイリンにも負け始めたのだ。
マキシマムが進言しても、結局は彼が決めてしまうから戦争も勝てなかった。
ジャルマ・サイリン戦争は取って取られての大激戦であった。
「では、ここからどうするのですか? 皆様方?」
「ええ。ここからはですね」
ギルバーンが説明に出た。
彼がウーゴの軍師としてここまでの進軍を支えてきたのだ。
「ジャルマがどうするかは知りませんが、サイリンは押し切ります。奴はこの国にいては駄目だと。我が主がおっしゃっているので、ここは締め出す形でいきます。そこで、イバンクと、我らアーリアの連携をみせます。それで、三国の協力で押し切ります」
「三国!? イバンクが国ってことですか」
「ええ。そうです。フュン様の計画では、ジェシカ・イバンクにも王となってもらいます」
「なに!?・・・王にだと」
作戦は、既にこの大陸を掌握するために進んでいた。
どうやってここまでの事態になったのかというと。
やはり、この裏にはフュンがいたのだ。
フュン・メイダルフィア。
彼が裏から世界を操っていたのだ。
その最初の出来事まで・・・。
少しだけ時を巻き戻そう。




