第272話 ウーゴは本物の王になると誓う
シャルノーの港で、真の王を迎えたのがオリバルト。
敵の艦隊から降りて来るウーゴを最初から見つめていた。
深くお辞儀するために、片膝を地面に着けていた。
「う、ウーゴ王。申し訳ありませんでした。あなた様に攻撃をするなど・・・」
味方が敵船に乗っているなど、誰も想像出来ないから、ウーゴとしては、オリバルトが攻撃してきた事をまったく気にしていない。
それよりもこの人物の名を思い出していた。
「・・え、えっと、あなたはたしか、オリバルト殿ですね」
「え? 私なんかを?? 知っ・・・ている?」
「はい。オリバルト・エンタール殿ですね」
「なぜ私を一回くらいしかお会いしておらず。しかも任命式なので一瞬で・・・」
その時の任命式では、ミルスからの任命であった。
ウーゴはただ席に座っていて、しかも遠目にいただけだったのに。
とオリバルトは思っていた。
しかし、彼は、人を覚える事と顔を覚える事が得意であった。
それは味方になってくれる人が、いつかどこかで現れてくれるかもしれないと、必死に人を覚えていたのだ。
だから後天的に得た特技である。
ウーゴもフュンと似ていたのだ。
幼い頃の環境により得た特殊な力である。
「私に協力してもらえるかな。このまま、この軍を私が指揮してもいいですか?」
「あ。はい。ウーゴ王。もちろんです。ですが・・・そちらは敵軍なのでは?」
「そうなんです。でも。この人たちはここまでで。ここを抑えておいてくれます」
「な? ここを・・・ですか?」
「はい。この軍は、三万いますので。ここにレガイア軍三万を置いて置けば、安心です。そして残りを私と共に進軍で」
「え・・後方軍をという事ですか」
「そうですね・・・・そうでしたよね。ギルバーン殿」
ウーゴの斜め後ろにいたのが、ギルバーンであった。
ウーゴ王の進軍作戦を担当しているのだ。
「そうですね。大丈夫。あっておりますよ。ウーゴ王」
ギルバーンは、不安そうな顔をしたウーゴに優しく答えた。
「ありがとうございます。なのでオリバルト殿。お願いします」
「わ、わかりました。調整します。あの、こちらの方は・・・」
オリバルトが、カゲロイがあなたのなんなのかと聞きたかったのだが。
ウーゴはただ笑顔でカゲロイに話しかけた。
「ああ。カゲロイ殿です。お久しぶりですね」
カゲロイも笑顔を見せて頭を下げる。
「はい」
するとウーゴがオリバルトに言う。
「オリバルト殿。大丈夫です。これは予定通りですから」
「よ、予定通りですか・・・」
「はい。そうです。まずは、色々お伝えしたいので指令室へいきましょう」
「は、はい」
ウーゴたちは指令室へと向かった。
◇
最初にウーゴから始まる。
「では、私たちの予定はこのままワールグとリーズまでいきます。現在。この国の内戦はどのように? オリバルト殿はご存じですか?」
「それが、詳しくは耳に入って来ず。マキシマム閣下がその連絡だけはしていないようで、恐らく前線に不安を残さないために、連絡を遮断しているのかもしれません」
オリバルトは、レガイア王国の状態を知らなかった。
前線の兵たちに不安を残すような言葉を残さない配慮があったらしい。
「んじゃ。俺が言うよ。知らないんだろ」
「え。あ。はい」
カゲロイが出てきた。
「現在。この国は、駄目だな。ボコボコよ。オリバルトも聞いておいた方がいい。ただ覚悟はしてくれ。まあまあ酷いからよ」
「わかりました」
「ああ。まずはな。ミルスが国王になった。勝手に玉璽を使って、自分が王だと名乗っている。でもあれ、偽物だからな。めちゃくちゃ意味がねえ! あいつ、偽物を使って王になったんだぜ。かなりのマヌケだよな」
「「「「 なに!?!?!? 」」」」
司令部にいたレガイア兵たちが全員驚いた。
そこまで前線には話が来ていなかった。
「それでな。奴のその態度に腹を立てたサイリンが戦争をして、この国は内戦に入った。ジャルマ。サイリン。イバンク。この三つ巴に。アーリア大陸の軍も加わって四つの勢力が戦っている」
実際は三勢力である。
ジャルマ。サイリン。アーバンク同盟となっている。
しかし、ここでは、カゲロイたちはアスタリスクの民のフリをしているので、アーリアとは無関係と装っているのだ。
「そこで、ウーゴ王がこの西から、ワールグとリーズまで一気に制圧していく事が重要だと思う。今はリーズ付近でジャルマとサイリンが決戦をしているから、ジャルマ家を倒すチャンスになる。こっちを警戒していないからな」
「なるほど」
「それと俺は、ウーゴ王の呼びかけも重要だと思う。ジャルマについているマキシマム。あれも出来たらこっちに来るような気がするんだよな。寝返らせるのが一番だと思う」
カゲロイもフュンと似たような思考をし始めた。
これが友であるからこその思考のトレースであった。
タイムと同様のことをして、フュンを真似ている。
「・・私もそう思います。あのお方はウーゴ王に忠誠を誓っているはず・・・だと」
少し心配しながらオリバルトが答えた。
「私が重要になりますか・・・それは事前の通りの・・・」
ウーゴがギルバーンを見ると、彼は黙って頷いた。
「そうですよね。計画通りとなるのですね」
ギルバーンの反応に喜んでウーゴが話を続ける。
「では、進軍しましょう。私が解放していきますよ。ミルスの圧政からです!」
レガイア王国を解放する。
真の王の手によって。
この御旗はとても良き物であった。
◇
レガイア軍は予備兵をフルに使って、怒涛の展開を繰り広げた。
シャルノーの手前のルルノーズ地域を支配して、そこから北と南に別れて、北側はワールグを狙い、南側はリーズを狙い始めた。
二軍編成で、次々と都市を落とす。
この都市を落とす際も、古今衆と呼ばれる人間たちが暴れ回っていた。
真の王が帰って来たと、都市内で言いふらすことで、民たちが兵士たちに全面降伏を促すように動き出すというなかなか防御側には判断に難しい状況が生まれ続けたのだ。
そして、そこから掌握を兼ねながら、南の軍がリーズ周辺まで行くのに、3カ月を要した。
ギルバーンとウーゴは、リーズ手前で会話をした。
「ギルバーンさん。時間が・・・」
「そうですね。あと1カ月で、リーズを奪取しないといけませんね」
「はい。まずいですよね。アーリア王のお命が」
ウーゴは困った表情をしていた。
「ええ。ですが、間に合うでしょう。今はリーズ南東に軍を差し向けているジャルマが、どのような対応をするかで、ここをすぐに落とせますよ」
「・・・はい・・・頑張ります」
ウーゴが不安げに答える。
「ええ。大丈夫。ウーゴ王。フュン様との約束を覚えていますか」
ギルバーンが優しく諭した。
「はい、覚えています。頑張ります」
「ええ。だから大丈夫です。あなたも立派な王。やれるはずです。あなたもトゥーリーズですからね」
「はい!!」
首都リーズに軍を展開したウーゴはリーズの民たちに語り掛ける。
こちらの拡声器に、サブロウ丸シリーズの改となる。
ウーゴは|大拡張音声《この声をあなたに届けるんだ》を使用した。
「リーズの民よ。私は、ウーゴ・トゥーリーズだ。そこにいる王と名乗るミルス・ジャルマによって、私は死んだことにされているだろう。でもそれは間違いだ。私は、生きている! アーリア大陸の王フュン・ロベルト・アーリア殿が、そこのミルス・ジャルマの魔の手から、私を助けてくれたのだ。今、私に命があるのは、アーリア王のおかげである!」
アーリア王は自分を誘拐したんじゃない。
ミルス・ジャルマが殺そうとしてきたから、攫って救ってくれたのだ。
とんでもない言い訳のように聞こえる。でもこれはあながち嘘じゃない。
なぜなら、ウーゴが消えてすぐにミルスが王になっているのだ。
ウーゴが死んだとして、ミルスが勝手に王になっている現状では、ウーゴの言葉の方が信用に足るものだった。
「私はレガイア王国をあるべき姿に戻すために、戦いに来たのです。皆を救うため。私は戦います。アーリア王はそれを支援してくれると言ってくれました。だから、私はここまで進軍して来れたのです。みなさん、そこにいる王は偽りの王だ。正統な血統。トゥーリーズの血を一滴も持たないジャルマです」
正しき血を持つ人間はここにいる。
なのに、今王と名乗っているのはミルスである。
そこは許せないと言い切った。
「ミルスは、長年。私を囲っていました。会議の時。訪問者が来てくれた時。お祝いの時。色々な時に奴は私に黙れと命じてきました。私は言われたがままに大人しくしていたのです。その理由は、父と母のようになりたくなかったからです。ジャルマは、父と母を殺しました・・・だから私はいつかジャルマから政権を取り戻すと決めていました。そして今、この時が、取り返す最大の好機!」
聞こえているか。
ミルス。そして、マキシマム。
ウーゴは、自分の声が届けと一生懸命話していた。
「私は、何も出来ない王かもしれない。何かが出来る王でもないかもしれない。でも私は、何かをしようと努力をする王にはなれる!」
フュンがそう教えてくれたのだ。
『太陽の人なんて者は、この世界にいないんですよ。
もしいたとしたら、それはこれだと思うんです。
何かをするために努力する人。それを見て、周りで応援してくれる人。
そしたらその人もまた努力をして、そこからまた・・・
というこの連動でしょうね。
これこそが太陽の人の原点だと思うんです。
太陽の力は、これが源なはず。
人と人が普通に生きるんじゃなくて、支えあって生きる時の力が太陽の力。
だから、君にもできるはず。
だって、こんな事はね。皆が人を大切に思いあえば、誰にだって出来る事なんだよ。
これはきっと特別じゃない。大丈夫。君にもできるはずさ』
この温かい言葉を生涯忘れないとウーゴは固く誓っている。
フュンは、誰も味方のいなかったウーゴを少しの旅の間に励ましていたのだ。
その時間で二人は、親子のような関係になっていた。
教えを大切にしてウーゴは話す。
「私の。態度や、知識や、経験が・・・まだ王じゃないかもしれない。でも、私は王として頑張ることを決めたのです。未熟であろうとも、王になろうと努力すると決めたのです。地位や血が、王だから王になるんじゃない。王となろうと頑張るから王になる!」
フュンもそうだと言っていた。
王の器じゃないけど、王にはなろうと努力をしていると。
「・・・私は、民と共に成長する王となる事をここで誓う! だからリーズの諸君。私と共にミルス・ジャルマを討とう。悪しき政治はここから排除するんだ。戦うんだ。本当のレガイア王国になるために・・・このウーゴ・トゥーリーズと共に・・・レガイア王国の民よ。私と共に成長していこう!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
ウーゴが指揮していた軍の声から遅れて、もう一つ声が響く。
「「「あああああああああああああああああああ」」」
リーズからも声が帰って来たのだ。
つまり・・・。
首都リーズは、レガイア王国の王はウーゴであると認めたのだ。
ウーゴ・トゥーリーズ。
レガイア王国の王となるべく、努力を続ける王。
フュン・メイダルフィアを実の父のように尊敬している男である。
それは同じトゥーリーズの血を持つからじゃない。
心から彼の事を尊敬しているのだ。




