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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 ワルベント大陸編

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第270話 1月15日からが本番

 アーリア歴6年1月15日。


 軍が引いた理由。

 それはワルベント大陸にとんでもない事が起きていたからだった。


 シャッカル防衛戦争。

 この戦争、アーリア側から見ると、非常に苦しい戦争であった印象が残っている。

 最初に捕虜を失い、そこから死闘続きで、連戦連戦と勝ったような気のしない戦いを続けた。


 しかしこれが、ワルベント大陸側を総合して見ると、そうでもない。

 なぜなら、これ以上に大陸が大混乱していたのだ。

 シャッカル防衛戦争が、大したことないと思えるくらいの混乱は、レガイア王国が大きく揺らいでいた証だった。


 

 ここからは、変化の量に応じて大陸全体を見ておこう。

 まず変化が少ないイバンク家。

 彼女の家はラーンロー、マクスベルの両方を安定化させることに成功していた。

 他家が戦争をしている中で、内政を重視する。

 食料や経済。

 これらの配給バランスと価格のバランスを心掛けて、商人たちの一人勝ちを許さなかった。

 そのおかげで、ラーンローとマクスベルの経済が回りだすと、両都市の民たちは、レガイア王国の時よりも生活がしやすいと思い始めて、段々と前の王国よりもイバンク家が治めてくれた方が良いのではないかと考え始めた。

 民の気持ちがレガイア王国の頃よりも前向きとなっていったのだ。


 だからイバンクは、別に無理に戦争に出て行かずとも基本内政を上手く進めていくだけで、安定していった。

 この戦乱の時代で、内政に大きく舵を取るという大胆さ。

 他の家から見ると、不思議であるとは思うだろうが。

 これもフュンの指示である。

 彼女は、フュンの言う事をしっかり聞いて、民と共に領土の運営に努めていた。

 それに、最重要の線路を完成させたので、運搬が上手くいくようになり、戦争中であるが、二都市は大発展していく基礎を作り上げた。

 


 次に、サイリン家。

 二正面で行動を展開していた彼らは北のリーズ。南のシャッカル。

 この双方で軍事展開をしていた。

 シャッカル方面は、いずれは勝つだろうとの連絡をもらい、リーズ方面は、徐々に周りを削って孤立させることが出来るだろうと睨んでいた。

 グロッソは将として有能で、敵の領土を攻撃することに特化した考えを持っていた。

 

 そして、グロッソは、両方が上手くいく目途が立ったので、目の前のイバンク家の領土を、どうやって飲み込もうかと考えを張り巡らしている最中だった。

 だが、そんな考えなんて、吹き飛んでしまうような大事件が領土内で起きた。


 それが。

 『ピーストゥーの夜』事件である。


 ピーストゥーの夜とは。

 軍事に関する工場が多くある都市ピーストゥー。

 ワルベント大陸の武器生産の約半分を占める場所。

 そんな重要拠点であるピーストゥーで、燃え盛る炎が起きってしまった悲劇の事件の事だ。


 15日の未明。

 列車の部品を製造している工場で、ボヤくらいの火災が起きた。

 イバンク家の列車の策略により、列車を所有できなくなったサイリン家は、新たに一台製造するためにフル稼働状態に入っていた。

 だから、最初はそのフル稼働状態のせいで、火が起きたのだと、認識していた。

 初めは、事故火災かと思ったのだ。


 だがしかし、ここからが本番。

 その消火活動をしているところで、武器生産工場で大規模火災が起きた。

 工場全体が壊れるほどの火力で、とんでもない火だった。

 巻き起こった火災のおかげで、夜が朝に見えるくらいだったのだ。


 だがそこも問題じゃないほどの大問題が起きる。

 この火災から二時間ほどで、また別な場所の工場に異変が起きた。

 それが大火災どころか、大爆発が起きてしまったのである。

 しかも、その工場は、とても重要な場所であった。

 サイリン家の戦略の肝。

 造船工場だったのだ。


 ジャルマ家が支配しているワールグの工場と、こことが、造船が出来る唯一の工場である。

 だから、ここが破壊されるという事は、船はジャルマが支配できることになる。

 船があれば、列車が上手くいかずとも、大量に物資を運ぶことが出来るし、戦闘も出来る。

 なのに船が作れないのなら、ここで戦闘でもジャルマ一強になってしまうのだ。

 現在のシャルノーでの戦闘艦たちは、ルヴァン大陸との戦いに備えるために、絶対に動かすことが出来ないので、新たに作った船が一隻でもあれば、ワルベントを自由に出来るきっかけとなるのに、ここが破壊されるとなると大きな痛手となるのだ。


 だから、サイリン家は大混乱に陥った。

 ボヤ。大火災。そして大爆発。


 三つの流れから考えられるのは明確な攻撃の意図である。

 だからグロッソは怒り狂い、狙いをジャルマにした。

 内政しかしていないイバンクがこんな事をするわけがない。出来るわけがない。

 そして、シャッカルで戦うアーリア大陸の野蛮人だって、その位置からでは、攻撃が出来るわけがない。

 だから彼は、ジャルマ家なら、ジャルマの賛同者を集めて、工場破壊が出来るはずだと考えたのだ。


 これにより、二正面から正面をジャルマに切り替える事にした。

 それで、シャッカル方面の動きを緩めて、多少の軍を置いて圧力をかける事にして、落とすよりも、常に戦争状態になれるように部隊配置だけを済ませたのだ。

 急にはアーリアとの停戦が出来ないので、攻撃の手を緩めた形となった。

 その結果クリスたちの戦争が止まったのだ。


 

 ◇


 しかし、この事件の真相は。

 

 アーリア歴6年1月14日。

 

 イバンク家のお屋敷。

 タイムがイルミネスから聞いた。


 「ノノからですか」

 「そうです。話しますか」

 「はい。無線連絡・・・緊急ですね」


 タイムが無線連絡を受けた。

 ノノは、ピーストゥーに配置された影である。

 滅多にしない秘密回線で、マクスベルに連絡が来たのだ。


 「タイムさん。こちらの工場。造船完了間際かは分からないけど。船の形が出来ています。溶接しています。どうしますか」

 「なるほど。それは緊急ですね」


 造船されると話が変わる。

 タイムたちは海からの攻撃だけは避けないといけなかった。

 シャッカルの海側。

 そこには、何も防御手段がないのだ。

 それにイバンク家も海側の防衛がないために、戦闘艦が一隻でも敵に出来た場合。

 圧倒的に不利となる。

 現在のこの国では造船だけはさせない事になっていた。

 だから、アーリア大陸の影たちは、ピーストゥーだけじゃなく、ワールグにもいる。

 ジャルマ家の船も封じて、サイリン家の船も封じる。

 彼らは、シャルノー以外の箇所に、船を生み出すのを禁じているのだ。

 それには、とあるフュンの目的があるのだ。


 「イルさん。どうします。やりましょうか。決行するタイミングではないと思いますが。船が出来てしまうのは危険だ」

 「・・・そうですね。私もタイミングではないと思いますが、ここでやるしかないかと思います」


 タイムが無線に呼び掛ける。


 「わかりました。ノノ! お願いします。順番を間違えないで、徐々にやるんです。注意をばらけさせて、本命の破壊です」

 「了解です。タイムさん」

 「はい。お願いします」

 

 タイムからの指示により、ピーストゥーの夜事件は起きた。

 サイリン家を怒らせる結果と、混乱を生み結果に満足すると思いきや、彼らは第二段階の計画に入っていた。


 サイリン家が慌てている頃。

 アーリア歴6年1月15日。

 タイムからの緊急連絡を受け取ったのが、サルガオの滝の北西にあるクーロンという大都市。

 海の都市である。

 そこには、ロロがいた。


 「ロロ。ワールグの準備をお願いします」

 「タイムさん。決行ですか」

 「ええ。もう少し後、えっと・・・サイリンが攻勢に出た瞬間にワールグを破壊してください。そこの工場を破壊すれば、恐らく両者は互いを疑い、戦いを激化させるはずです。お願いします」

 「わかりました。情報を手に入れながら、やります。そちらに連絡を入れてみます!」

 「はい。お願いします」


 敵の同士討ち。

 これがフュンが考えている罠の一つ。

 こちらが軍力をあまり使わないで、両者の勢力を削ぐ罠だ。

 ただし、この罠で終わるなんて、そんなぬるい手をあのフュンが思いつくわけがない。

 フュン・メイダルフィアは、百戦錬磨の戦いを繰り広げてきた男。

 ここで、終わるようではアーリア大陸の統一王になる事なんて出来ない。

 ここで、終わるようだったら、あのネアル・ビンジャーが負けるはずがない。

 

 ワルベント大陸で彼が悪魔とも呼ばれている要因。

 それは、この程度の混乱で留まらせずに、ジャルマ。サイリン。

 双方の家を次々と陥れていくからだ。

 彼らの家にとっての悪魔。

 泥沼の地獄へと誘うのである。

 


 ◇


 1月15日頃のジャルマ家は、リーズ付近での戦いに苦戦をしていた。

 それと合わせて、ビクストンの動きも注視していた。

 動きを消していた港側の船が少しずつ稼働しているように思うので、彼らは戦争の準備をしていた。

 でも内戦も戦わないといけなくて、焦る状況に入っていた。

 マキシマムもどちらに力を入れるべきか悩んでいる所に、各都市、町や村で、テロ行為が盛んになっていった。

 家々が破壊されたり、城壁には落書きがあったり、盗みが横行したりと。

 治安が悪くなるような行為が盛んに起きていた。


 そしてそのそばには必ず『アスタリスクの地に帰る』という似たような文章が書かれている。


 これが不気味さを呼び、民たちの不安を駆り立てる事に繋がっていた。

 だからジャルマ家が支配する地域は、勝手に不安定になっていったのだ。


 ミルス・ジャルマには、国を治める力がない。

 この噂が、ワルベント大陸の北に流れるのはあっという間の事だった。


 ここから約二週間後。

 2月1日。

 リーズ付近で大激戦の戦いが起きた。


 ジャルマサイリン戦争である。

 互いの私兵5万同士の戦いで、血みどろの泥沼の戦いを始めた。

 そして、ここから一週間後の2月8日にワールグで事件が起きる。

 それが、ワールグの朝だ。

 今度は、朝に工場が大爆発するという大事件が起きたのだ。

 

 夜に対して朝。

 この明確な反対の行動に、気付いたのがミルス。

 彼は、ピーストゥーの事から自分たちへの当てつけをしてきたと思い込み、リーズに全力を注ぐように軍を派兵した。

 サイリンを完膚なきまでに消滅させようと躍起になったのだ。

 兵士を3万追加して、さらにシャルノーに待機させている兵も5万連れて大攻勢に出た。

 それに対してサイリンも追加投入していく。

 だから、二つの家は首都リーズ付近で大激戦を行ったのだ。

 これにより、シャッカル方面は完全に緩くなり、クリスたちも休息を取れるようになった。


 罠が罠を呼び、互いをぶつけ合わせる。

 やり方は、ほぼナボルと同じ。

 彼らを参考にして、フュンが考えた計略は見事に敵に刺さっていた。


 しかし、フュン・メイダルフィアはナボルじゃない。

 いや、ナボルなんかよりも遥かに優秀で、遥かに悪質である。


 ここから、四カ月後。


 アーリア歴6年6月6日。

 ここからが、ワルベント大陸に真の大混乱が起こる。

 大陸を揺るがす大事件が発生した。

 その衝撃の震源地は、シャルノーだ。

 事件を起こした人物は、ワルベント大陸に住む人間ならば、誰しもが知る人物である。

 大混乱のワルベント大陸を救うために、必要不可欠な人間は勇気を持って立ち上がってくれたのである。

 後の伝説となる進軍は、『真の王の帰還』と呼ばれることになる。




 

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