第266話 変化していく
サナリア軍と共に進軍しているアインが、リンドーアの前で気付く。
北門の前に母がいた。
「ん? 母さん?!」
アインの目には、手を振るシルヴィアがハッキリと見えていた。
「おお。じゃあ、やはり・・・」
隣にいるファルコはアインの言葉で想像がついた。
やはりユーナリアが全てを解決してくれたのだ。
彼女であれば、少数の兵でも勝つ策を考える。
自分が負けるとしたら、太陽王とユーナリアだけ。
ファルコはユーナリアの事を高く評価していた。
「ユーナさんですね。さすがだ」
◇
城門の下で親子は再会する。
「母さん。お体は?」
「ええ。大丈夫。みなさんのおかげで無事です。アイン。それにしてもあなたが直接こちらに来たのですね」
「はい。ビンジャー卿と一緒に」
「そうですね。ビンジャー卿。お互い、大変な目に遭いましたね」
シルヴィアは、アインの隣にいたネアルを見た。
「王妃様、申し訳ありません。あなた様を巻き込んだ形に・・・私に罰を・・」
ネアルが跪いて許しを乞う。
王妃を罠に嵌めた罪があると思っていた。
「いえいえ。私のせいでもあります。申し訳ない。あなたの文章のおかしさを読み取ればよかったんです。私も軽率でした」
「しかし」
「ええ。でもこの子らが立派に働きましたよ。ほら、ビンジャー卿。あちらにどうぞ。ブルー。ダンテ。ジュナンが待っていますから。家族の元へ。心配していましたでしょ」
「・・・ありがとうございます。王妃様」
「いえいえ」
シルヴィアはネアルに家族を大切にと、そちらの方に促した。
◇
「ブルーすまない。私がふがいないばかりに・・・」
「ネアル様。よくぞ、ご無事で・・・よかった。心配していました・・・よかったです」
ブルーはネアルの前で泣き。
「そうか。すまない。ダンテ。ジュナン。お前たちも・・・」
「・・・」「ネアル様!!!」
テンションが一人だけ低いダンテはネアルの横に立ち。
何故かジュナンの方が娘のようにネアルに飛びついた。
「お。おお。ジュナン。ありがとう。君のおかげで、ダンテが無傷だ」
すっぽり自分の胸の中に収まるジュナンを、ネアルが優しく撫でた。
「はい。お守りします。これからもです。ネアル様」
「おお。そうか。ありがとうジュナン・・・」
この子も我が子と同じ。
ネアルはジュナンも大切にしてくれたのだった。
◇
「アイン。よく頑張りましたね」
「いえ。僕よりも、彼が・・・」
「ん。おお。ファルコですね」
「はい。王妃様」
アインに紹介されたファルコは、シルヴィアに頭を下げた。
「母さん・・・無事でよかったです」
「いえ。それは彼女のおかげです。あなたもお礼を言っておきなさい」
「はい。それはもちろんです。最初から言うつもりでした」
「そうですか。ならば良しです」
互いが話す相手を変えた。
◇
「ありがとう。ユーナ。君のおかげだ」
「いえ。別になにも」
「違うよ。僕は君がいなかったら・・・助からなかったんだ。君のおかげでサナリア軍が来たんだよ」
「いや、それは。私だけじゃ・・・」
「ありがとう。やっぱり、君は大切な仲間だよ」
「え?」
アインがユーナリアの手を握る。
「うん。ありがとう。助かりました。ユーナ。本当にありがとう。本当に・・・」
アインは誠心誠意、一生懸命ユーナリアに話しかけていた。
「あ・・いや・・え、あ、はい」
すると彼女は恥ずかしそうにして、返事を返したのだ。
破軍星ユーナリアには、もう一つの名がある・・・。
それが、第二代国王アイン・ロベルト・アーリアの妻。
王妃ユーナリア・ロベルト・アーリアである。
念願の大陸統一を果たしたアーリア王国にとって、この二人は新たな時代の象徴。
それは、誰もが自由に、自分の人生を選択できる先駆けとなるのだ。
元を辿れば、奴隷の子。
その女の子が、大陸の王子と結婚することになる。
この国には、位の高い人物が妻とならねばならない決まりなんてないのだ。
そんな慣習なんて、必要なのか?
そんな慣習なんて、そもそもいらないだろう。
身分の全てを否定する。
それが、フュンが作ったアーリア王国なのだ。
それは、まさに新時代の幕開けと呼ぶべき事だろう。
アーリア王国は世界に類を見ない。
平等の精神が根付く国家となる。
◇
「ではファルコ。あなたの考えは?」
「はい王妃様。この私で、よろしいので。まさか後処理を一任するのですか?」
「・・・いえ、意見を聞きます」
賢者の意見を聞いておこうとシルヴィアはファルコに意見を求めた。
「では、端的に・・・ほぼ殺します。情報を出さない人間は切り捨てていき、重要人物をそれで脅して、更に隠れているかもしれない内部の敵を炙りだして、消します。潜在的な敵となり得る者を消し去りたいです。今が不安定な時期。国家を安定させることを最優先にしたい。今回は、アーリア王がいないために起きた事件と言えるので、ここで強硬策に出たいです。アイン様が次代の王としているためには、余計な事をする人間を一人たりとも生かす必要がありません。皆殺しです」
「・・・・」
シルヴィアが黙る。
自分が思うよりも遥かに上の強硬策だった。
ファルコ・サイモンの強さが出た意見だ。
「しかし、この案は、私のみ。王妃様と殿下に全てをお任せします。私はこの意見である。と言うだけです。それに家臣でもないので、出過ぎた意見ですので、これは一個人の意見としてください」
「そうですね。あなたはまだ学生の身分。ただ、サイモンの力がありますからね。多少は皆よりも優位」
「わかっています。今回は出過ぎました。申し訳ありません」
「いえ。あなたがいなければ、アインがまずかったでしょう。よくやりました。ファルコ」
「はっ。ありがとうございます。もったいないお言葉を・・」
その丁寧な部分すらも恐ろしさがある。
クリスにも似ているようで、ソロンにも似ていない。
若干不気味であるが、ファルコは有能だった。
「そうですね。たしかにあなたの意見が正しい部分があります。これは次の世代には残せませんね」
シルヴィアはネアルと相談することを決めた。
◇
「いやぁ。よかったな。アイン・・・んでいつまで手を握ってんの?」
二人の前にジルバーンが来た。
「え? あ、ごめんなさい。ユーナ・・・ん???」
ユーナリアの手を離したアインは、ジルバーンがここにいる事を疑問に思う。
「何故ジョーが? あれ???」
「よ。アイン」
「ジル。なんで、出てきたの」
ジルバーンは出来る限りアインの前に姿を出さない方が良い。
だからユーナリアは注意したのだが、ジルバーンは気にせず表に出た。
「ユーナちゃん。もうちょっとアインの手を触っていたかったのかな?」
「ち、違うよ。なんで、出てきたの。アイン様の前だよ」
「いや、だって。あんまりにも君たちが嬉しそうだったからね。友人代表としては嬉しい限りさ」
ジルバーンは、この二人が仲良くなったことを祝福していた。
学校時代はあまり良い仲じゃなかったので、一安心したのだ。
「・・・ジル??? ジョーじゃ?」
ここでは、アインだけが知らない。
「いや、俺ジルなのよ」
ジルバーンは、飄々としていた。
「え?・・・ジョーがジル? どういう略で???」
「俺の名は、ジルバーン・リューゲンだ。ジョーじゃないのよ。すまんね。アイン」
「・・・・・・・・・」
耳の良いアインに聞こえていないわけがない。
でも反応がなかった。
「ジルバーンだから、ジル! よろしくアイン」
「・・・・・・・・・リューゲン!??!?」
反応があった。
「あなたは・・・ギルバーンの子?!」
「そう! 俺はそういう事」
「な、なんで嘘を?」
「まあ、これには深い事情がね。それは追々教えてやるからさ。とりあえず、俺はジルよ」
とジルバーンはアインに本名を語ったのが、この時であった。
結局、その追々は、しばらくやって来なかったのは、この後の話である。
アーリアの時代は、ここから次世代を中心に回り始める。
◇
そして、この頃の世界はというと。
ワルベント大陸シャッカル・・・。
シャッカルの壁の前の塹壕にて。
アーリアにとっての一大決戦が、すでに始まっていて、大激戦の最中だった。
B地点付近の兵に指示を出すクリスは、C地点にいながら、無線を繋いで各地区に指示を出していた。
彼の腕には包帯が巻かれていて、動かない右腕は完全固定されていた。
「まだです。引いてはいけません。相手が乗り込んで来ようとしていますから。撃ち合いに負けないでください。A。B。C。D。それぞれの地点の近接地域に入ったら、究極武装歩兵に任せてください。狭い所で勝負です。近距離でお願いします」
クリス率いるアーリア大陸軍は、奪った地シャッカルにて、サイリン軍との戦いを繰り広げていた。
泥沼の銃撃戦に加えて、塹壕の内部での罠としての究極武装歩兵で敵との戦いに挑んでいたのだ。
『無数の銃弾 対 近接戦闘』
が勝負の分かれ目になる激戦の戦闘である。
アーリア大陸軍の内訳は、ロベルトの戦士。ウインド騎士団。ゼファー軍。
これで計3万。それに合わせて、捕虜3万。
総合で6万の大軍がシャッカルを守る兵士たちであった。
銃を扱う現代戦を戦いながら究極武装歩兵を上手く使って敵を撃退。
クリスの知略と、皆の勇気で、圧倒的戦力差を互角にまで持っていったのだ。
フュンがいなくとも、彼らは奮闘していたのである。
ワルベント大陸が変わっていく戦いはすでに始まっていたのだ。
戦いはワルベント大陸へ。
あちらはすでに激動の時代に入っていました。
内乱に入りそうだったアーリア。
内乱にすでに入っていたワルベント。
違いはここから出てきます。
ここで解説じゃないですけど、次世代の小噺。
まずヘンリーについてです。
子供たちの活躍の中で、いまいち実力を発揮できなかった理由。
それは彼のみ。温室で育ちました。
シルヴィアも、厳しく指導をしていますが、訓練が実践向きじゃなかったのです。
だから他の子らよりも圧倒的に実戦経験に乏しかったのです。
しかし間違いなく実力はあります。
彼本人は、かなり強い方なのですが、その実践部分で次世代の中で輝きが少なかったです。
ですが彼はこの戦いを経て、強くなります。
足りない部分を見つめ直すのです。
ここらは小説には入りませんので、説明しますが。
彼は、のちに近衛兵の長になります。アインとユーナリアのです。
ジルバーン。
彼はメイファのせいで実践に近い訓練をしています。
彼女はスパルタでしたので、ジルとしては大変な思いをしています。
怖いと言っていたのはそのせいです。
でも彼女としては息子が心配で、フュンに紹介した時も、自分の息子にもフュン様の仕事をさせたい。
役に立ってほしいとの、一途な思いでありました。
それとジルは、のちに大軍師となり、貴族らしい役割も果たします
デルトア。
彼は、シュガの訓練のおかげで、実践訓練のような修行をいくつもこなしていました。
だから今回の戦いでも活躍しています
それと、シュガとシガーの親子に加えて、フィアーナからも鍛えてもらっているので、実践不足にはなりにくいです。
フィアーナの特訓なんて、あのリアリスが根をあげるくらいのですからね。
実践経験が足りないなんて言わせません。
それと彼は後にサナリアの大将軍。
ツェンを守護する最強の武人系の将となります。直感型の将です。
ルライアとキリとガイア
この三人は小説に書いた通りです。
運輸大臣と、経済関連にブライト家の当主と、ビクトニー家の当主です。
付け足して説明すると運輸大臣は鉄道も入ります。
あと工場の管理をガイアがします。
職人の仕事の傍らに工場の仕事もやります
ファルコ・サイモン。
彼は異質です。
人の気持ちも知っています。努力の大切さも。友情の大切さもです。
ですが、仕事の時には、情を切り捨てて考える事が出来る怪物です。
アインが出来ない闇の部分をひっそりと請け負います。
それと王であるアインに、厳しい苦言も難なく言えます。
甘い考えを持った時に一喝する場面が、後にはたびたび出てきます。
小説後の話ですけどね。
彼は、大宰相として、大賢者として、アインを支えます。
危うい雰囲気がありますが、彼は至って冷静にアインのそばにいます。
人から勘違いされやすいですが、本当にアインの事を尊敬しています。
ユーナリア
彼女も小説の通りです。
のちにアインの妻として、アーリアの基礎を築く女性です。
平等の精神の象徴となります。
偉大な初代王の弟子で、王の妻。
これ以上ない称号と共に、アーリア王国で平和に暮らします
ダンテ
知勇兼備の冷静沈着の勇猛果敢の大将軍です。
アーリア大陸の大将軍の地位にまでなります。
彼がいれば、王都は絶対に守護できる
という風に、誰もが自信満々に言い切るくらいの怪物となります。
ネアルを超える男で、もしフュンとネアルの時代にいたら彼が全てを制します。
次世代でも、最強と言えばダンテとなります。
理性と直感の融合の将。
デュランダルの上位版のような存在となります。
これに加えて、今のお話にはいなかった次世代。
クロム・スターシャ
彼も優秀な武将となります。
でも意外ですが理性型です
サナ。ハルク。この二人の直感型とは違い。
ここはマルクスの冷静な部分を継承したようです。
ダンテの右腕のような存在になります
アルマ・スカラ
次期ロベルトの戦士長です。
タイローよりも、足の速度はないが、打撃が強い。
圧倒的な手数による攻撃をします。
それと、銃が使えます。
近代戦闘を織り交ぜた兵士ですね。
エリン・ブランカ
ドリュースの娘で、お淑やかで綺麗です。
彼女は、才色兼備でクロムを支えます。
なので、ドリュースも貴族の仲間入りをすることになります。
スターシャ家に入ります。
作者個人として。
自分はエクリプスに思い入れがあり、好きだったもので、こうなって嬉しいと思っています。
しかし、この二人の祖父は殺し合った仲なので、結婚まではロミオとジュリエットみたいな感じです。
それと出会いは学校で隣同士でした。
ロイ・ターク
太陽の戦士。騎士団団長の子。
この二つを持って、なぜか彼は将軍でありながら影になります。
表向きは将軍。
裏は影です。サブロウとカゲロイの技を継承します。
誰の影になるかというと、ユーナリアです。
彼女の裏の部分を担当します。
ユーナリアの裏の顔は、平和を見守る役目をしています。
それはアインを守るためでもあります。
ここはですね。アインが、馬鹿じゃないんですけど、そういう部分が苦手なんです。
ここがフュンとも違う部分であります。
彼は表も裏も得意です。
ですが、息子のアインは苦手であります。
嘘をついたり、騙すことがとても苦手です。
顔にも出ます。
これはおそらく、育った環境の違いによる親子の性格の違いです。
優しさは同じ。人に対する思いも同じ。
でも裏の部分を作るのが苦手。
この違いですね。
何が何でも生きないといけなかった。
そんな環境のフュンは色んな手段を使う事にためらいがありませんからね。
アナベル。
彼が工場の管理人になって、工場長がガイアになる感じです
歳を取っても優秀なので、ドルフィン家は引き続きアーリア王国で重要な役割をします。
ナナイとシック
この二人は小説にはほとんど出て来ません。
リアリスの弟子になります。
とある武器の扱いをマスターしたリアリスが、彼女たちを最強に仕上げる形です
恐らく現代戦であれば、彼女たちが世界最強です。
個人戦であればですけど。
他にもたくさんいます。
この後でも、出す人がいるのでここらで、紹介を切り上げます。
まあ、ここらは小説後の話ですから、知りたい人も少ないと思いますし、ここらで終わります。
では次から舞台が戻ります。
ワルベント編はちょっと短いですが、またあとで、話が合流していきますので、ご了承ください。
ではまたお会いしましょう~




