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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 アーリア大陸編

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第263話 師の大切なものは、弟子にだって大切なもの

 アインが出立した直後。

 フィアが南門で見送りをし終えて、城に戻ろうとしたとき。

 二人の男性がやって来た。


 「はぁはぁ・・・・ん? あれはフィアか!?」

 「おお! フィア!!」

 「あ、ウィルベル様。スクナロ様」

 

 走り疲れているウィルベルと、長い距離を走ってもへっちゃらなスクナロがやってきた。


 「あれ、どこにいらしていたんです?」

 「学校だ。皆で子供たちと籠城態勢を取っていた」

 「お二人は、さすがですね」

 「私も王都にいればよかったのだが、たまたまスクナロと兄妹たちとな。相談している時に敵が来たものだからな」

 

 ウィルベルは、王都の仕事の一つで、学校との連携を模索している時にちょうど王都襲撃にあったのだ。

 だからまさしく、次世代のみでこの王都防衛戦争を乗り越えたのだ。


 「まあまあ兄上落ち着いて。アインがやったようだぞ」

 「ああ。そうだな。さすがだ。アナベルもササラに行かせなければな・・・」

 

 この次世代の中に入れたのに。

 ウィルベルはそこだけを残念がった。


 現在アナベルはササラで造船関係の調整をしていたのだ。

 だから、ちょうどこの現場にいなかった。

 ちなみにササラでの造船は、今作る計画ではなく、フュンがやろうとしている一大事業。

 ササラ工場を目指しているのだ。

 ここを、新たな技術革命の地にもしようとしている。

 その責任者がアナベルで、ササラの市長も協力関係となって計画が進んでいる。


 「スクナロ様。子供たちは?」


 フィアが聞いた。


 「大丈夫だ。勇ましい子たちでな。戦う気だったぞ。こっちに来たらな」

 「そうですか。さすがですね。子供たちも・・・」


 アーリアの子供たちは、ここからはアーリアの為に生きていける。

 新世代にわだかまりなんてない。

 親が教育をしっかりしておけばの話だが。


 「あいつらのような・・・恨みや妬みの教育を受けなければ・・・この国も大丈夫・・・お父さんの国だもん・・・これからは大丈夫なはず」


 フィアは、門の上で磔になっているシャオラたちを見上げて言った。


 ◇


  

 ユーナリアは、本陣で会議を開いていた。


 「私は、敵が二万なら、ここで倒そうと思います」

 「こちらは一万ですよ。違いがありますが、大丈夫ですか?」


 シルヴィアが聞いた。


 「出来ます。相手は弱い。演技をすれば簡単にいけますね」

 「演技???」

 「はい。一万の兵で城壁を囲い。そして攻めます。それは、一つの門を狙います」

 「ひとつだけですか」

 「はい。最初、全体でグルグル走りながら圧力をかけて、途中途中で、梯子で登る振りをして全部に梯子をかけます」

 「なるほど。それで?」

 「それで、次に。門で大敗走をします。相手にやられて、引いていく。矢を受けたり、武器でやられたり。色々偽装工作をします。ジルが」

 「え!? 俺が??」


 急に話を振られてジルバーンが驚いた。


 「はい。この演技はズルいジルにしか出来ないです。演技してもらいます」

 「ひでえ言い方だな。ユーナちゃん」

 「この敗走で、たぶん敵は追いかけてきます」

 「追いかける??? ユーナさん。それはありえるんですか。相手は城壁にいるのですよ」


 ブルーが聞いた。


 「はい。私は、パルルークと言う人が相手なら、それが出来ると思っています。ジルと私は同じ箇所にいますので、ジルがやられ始めたら、私の声で退却を指示します」

 「ふむふむ。面白い。それで?」


 シルヴィアはユーナリアの自信のある顔を見ていた。


 「そして、その男なら私たちがおめおめと逃げる姿を見たら、絶対に門を開けて突撃してきます。二度。私たちは彼を騙し討ちにしていますからね。ここは是が非でも、裏にいる人にアピールしたいと思っている。それと恨みを晴らしたいと思っている」


 自分の株をあげたい。下がりすぎた株をあげて、信用を取り戻したいと。

 あの男なら思ってくれるだろう。

 ユーナリアは敵の考えを想像した。


 「そうか。ユーナちゃん。だからあの人を」

 「そうです。リースレット閣下」

 「うんうん。殺さない範囲で追いかけろってのも・・・惨めな思いをさせる為?」

 「そうです。それに無能な敵は、最大の味方です。大切にしなければなりませんよ。こちらの切り札とも言えます」


 リースレットもその考えを理解できた。

 彼女も成長していたのだ。

 

 「そうですか・・・ユーナ!」


 シルヴィアは作戦に納得してからユーナを呼んだ。


 「はい。王妃様」

 「ということは、あなたが追いかけられている間は、目の前の門を襲うふりをして戦え。そして合図をもう一度出す時には、全ての兵があなたの所へ走れ。ってことですね」

 「はい。王妃様。そうです。全体が騎馬でありますから、ぐるりと走り続けて、こちらに来てほしいです。それとヘンリーさんには走り続けてもらって、挟めるのなら挟みます」

 「・・わかりました。いいでしょう。その作戦でいきましょう」

 

 フュンがそばにいるみたい。

 敵の気持ちを折りに行くスタイルは、まさしく我が夫フュン。

 その弟子である彼女の成長を頼もしく思うシルヴィアであった。


 ◇


 アーリア歴6年1月6日


 ユーナリアは、西の門の前に布陣した位置から少し前に出た。

 味方から離れて、敵に話しかける。


 「失礼します。リンドーアに隠れてしまっている。亡国の赤隊(メラロード)の方々の内。

作戦を考えている方。あなたはもう敗北していますよ。表に出て、こちらで会話をしませんか」


 一万の騎馬隊を、リンドーアの西門に集結させている彼女は、門の上にいる人物の中に、隊長のような軍を引っ張っている人物がいないと判断していた。

 ユーナリアは、敵のほとんどが間抜けであると感じている。

 この中に優秀な人物は絶対にいないと思っていた。


 それはなぜかというと。

 アーリア大陸にいて優秀な人物であるならば、我が師『太陽王』に仕えたいと思うからだ。

 彼の力を見極められないような人間は、馬鹿か間抜け。

 それ以外だとしたら、卑怯者か臆病者であると思う。

 なにせ、支配者として優秀だったネアルが、太陽王の元では家臣なのだ。

 彼ほどの男でも、フュンが王であるのなら、配下になりたいと思うのに、この亡国の赤隊(メラロード)の連中は、そうは思わないらしい。

 だったら絶対に優秀な奴じゃない。

 そして、この表にも出てこない奴は特に卑怯だと思う。

 ブルーとダンテを使ってネアルを操り、王妃を捕まえて、王子を殺そうとする。

 このやり方がそもそも卑怯だ。

 そんな事をするよりも、自分が表に出てきて、自分が王にでもなればいいじゃないか。

 正々堂々と、『王になるぞ』と宣言した方が、まだ潔くて清々しい。

 なのに、亡国の赤隊(メラロード)は、ネアルを裏で使おうとしているのだ。

 

 そこが気に食わない。

 ユーナリアは、正直者が好き。嘘つきは嫌い。卑怯者はもっと嫌い。


 だから、太陽王が大好きなのだ。

 彼はいつも人に優しい。そして正直に話してくれる。

 ちょっと嘘をついても、それは優しさから来るもの。

 だから何をしていても、許せるんだ。


 「出て来ませんか? 私は怒っていますよ。すみません、私は怒ると危ないらしいです・・・このままだと、あなたたちを完全破壊します。その決断をすでにここでしていますので、会ってくれれば、その怒りもだいぶ和らいで、全てまでは破壊しないと思いますが・・・・」

 「・・・・・・」

 

 誰も返事を返さない。

 だから気付く。責任者がいない。

 亡国の赤隊(メラロード)。この組織には明確な上がいない。

 

 「無責任じゃないですか。あなたたち!」


 だから、ユーナリアは、徐々に間を取りながら怒り出した。


 「国を乱す。でも、自分たちは関係ない! 実際の反乱は金で雇った兵たちだ」


 「国を乗っ取る。だけど。ネアル王を使って裏で操ろう」


 「国を治める。しかし、実際は、自分たちにとってだけ良いような政治にしよう」


 そんな思いが見え隠れするのが気にくわない!

 ユーナリアは更に声を大きくして、口調が変わった。


 「おい! 全ての責任を取る覚悟もない奴が! 反旗を翻すな! 覚悟のない者が人の上に立とうと思うな」


 その通りであると、ユーナリアの後ろにいる人間たちが頷いた。


 「結果は、自分の責任にしろ。そしたら私は、お前を認めてやる。反逆者としても、人としてもだ!!!」


 まだ姿を現さない敵に向かって言っていた。


 「この国は! 自分の人生を自分で選べる国なんだ。このアーリア王国は、王様がそういう願いを込めて作った素晴らしい国なんだ! お前らが考えている国は、お前らだけが幸せな国だ!」


 師が愛している国を乱しやがって。


 「それに、自分がしでかした事の責任を取れない奴が、国の責任を背負えるわけがないだろうが! ふざけてんのか。お前は!」


 だからぶち殺す。という勢いを持ってユーナリアは宣言していた。


 「国を守るため。大陸を救うため。そのために、私たちの王。フュン・ロベルト・アーリアは敵の大陸にまで乗り込んだんだぞ。その身一つで!!! 危険な場所なのに!!! 死を覚悟してまでも、私たちの為にだ!」


 愛する師は、大切な者を守るために。

 命懸けの綱渡りをしている最中なのだ。

 絶望的で、圧倒的な戦力差の中で、王は、一生懸命考えた苦肉の策を発動させている。

 戦うようで、戦わない。戦わないようで、戦う。

 この絶妙な感覚で、力の差がある世界を渡り歩く。

 こんな卑怯な事しか考えられないお前らにはそれが分からないだろう。

 

 それに、裏に隠れるだけで、コソコソしている連中は、何をしているつもりなのだ。

 だったらせめて、お前らも命を懸けて戦ってみろ。

 前に出てきて戦え。


 それが、ユーナリアの魂の叫びだった。


 「私たちを奴隷にさせない。国を従属の道に行かせない。そのために王様は頑張っているんだ・・・・それをお前らは踏みにじる気なんだな・・・いい加減に出てこいよ。最後まで顔を見せないつもりか!・・・」


 少し待ったが返事がない。


 「いいだろう。お前の運命は、今、ここで決まった!」


 ユーナリアは、最後に宣言した。


 「太陽王フュン・ロベルト・アーリアの一番弟子ユーナリアが。必ずお前に、罰を与える。今! ここで表に出ないような人間に。この私が負けるわけがない・・・人の上に立つ責任を・・・その責任を背負う覚悟のない無責任な反逆者ども! 覚悟しろ」

 

 渾身の叫びも追加された。


 「アーリア軍。全軍、突撃だ」

 「「「おおおおおおおおおおおお」」」

  

 破軍星ユーナリアの戦いで、最も有名な戦い。

 第二次リンドーア決戦である。


 太陽王の次に、リンドーアで戦ったのは、太陽王の愛弟子であった。

 

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