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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 アーリア大陸編

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第258話 ユーナリアの情報合戦

 アーリア歴6年1月1日。


 新年を迎えている王都アーリアは敵に囲まれている。

 とんでもない状態での新しい一年。

 しかし、アインは意外と充実していた。

 それは、仲間たちと共に計画を立てていたからである。


 「私は、チャンスがあると思っていますね」

 「何のです。ファルコ」

 「はい。今、フィア様とキリさんとルライアさんの情報が完成すると思いますので、内部に潜む者を破壊しきったら反撃が可能かと思います」

 「・・・え・・反撃ですか。ここから攻撃に出るんですか?」

 「そうです。それもタイミングを合わせますので、信じてください。殿下」

 「・・タイミング? なんのでしょう・・・え???」


 ファルコは淡々と反撃の計画を立てていた。

 敵の攻撃は二日おきに来ていた。

 毎日来ない理由はよく分からないが、恐らく内部の人間に、早く門を開けろとの催促のような行動だと思っている。

 だが、それを読んでいるファルコは四方の門に、王都が保有するすべての影を配置していて、許可なく門を開ける装置に近づいた人間を処理していた。

 それが冤罪になっても、ならなくても。

 とにかく近づいた人間は全員牢屋にぶち込むという緊急事態措置を取っていたのだ。


 これはアインでは決断できない。

 ファルコであるから決断できることだった。


 「潜在的に、この都市にも敵がいる。それを一掃せねば、良い一年にはなりませんね。ああ、塵と一緒に、ここで年を越してしまった・・・それが残念ですね。殿下。晴れやかな朝日を浴びれませんでしたよ。これは急がねば、せめて数日中には、掃除をせねば・・・身も心も綺麗にして、朝日を浴びましょう・・・・でないと、新年を迎えた気になれないです」


 相変わらず恐ろしい事を平然と言う男である。

 アインはリアクションに困るのだ。


 「そ、そうですね・・・」

 

 ◇


 その頃のフィアたちは、忙しさの中にいた。 

 関連する人物から、派生していくたびに、新たな書類が運び込まれて、ルライアとキリ、それと彼女らの同僚で構成されたチームで、資料を精査していく。


 「ああ。もう。これじゃない・・・あれはあそこにある資料だ」

 

 探し回りすぎて、泣きそうなキリに。


 「んんん。これがこっちに。それがこっちで。移動しているから。この人が犯人だ」


 ルライアが真剣な表情で整理していた。

 そして、フィアは。


 「ショーツ。それを寄こして」

 「は、はい」

 「レミーナが持っているのも」

 「わかりました」


 指示を出して、全体を調整していた。

 彼女が統率してくれているので、何とかうまく回る状態であった。

 

 「こいつ。それとこいつ。それと・・・近しいな。これも、どういう結びつきだ。こいつら・・・学校?? でも一期生と二期生だ・・・」


 敵であろう人間を特定していくフィアは、仲間が判断していることを更に精査するため、必要な資料を持つ人間に指示を出す。

 

 「ニールズ。そこの資料を」


 フィアの発言の後。


 「・・・」


 目はこちらを向いているのに、返事が来ない。


 「おい。ニールズ。その資料は?」

 「・・あ、これは必要ないと思います」


 なぜか渡してこなかった。


 「ん? それを決めるのは私だ! いいから寄越せ」

 

 フィアは、ニールズの対応にイラつき怒鳴った。


 「わ。わかりました」

 「早く渡せ」


 フィアは、ニールズが渡す直前、机の下に資料を一瞬下げた事を見逃さない。


 「は、はい」

 「あとは、ルライアからの資料をここに。いいな」

 「はい」


 変わらずフィアの指示は、続いていたが、彼女の視線だけは変化する。

 ニールズを視野の端に入れ続けた。


 ◇


 アーリア歴6年1月2日。


 この日リンドーアに到着したのが、ウルタス軍だった。

 パルルークは、例の人物に報告する。


 「ただ今戻りました・・・クシャラ様」

 「ん? 戻った? なぜ、お前が守っていない! こちらになぜ来た」


 赤い鉢巻をしている男性で最も位の高い人物クシャラ。

 ここまで裏に潜んでいて、実行部隊を各地に派遣していた男は、リンドーアのネアルの屋敷で待機していた。

 ネアルと交渉していた男はこの男ではなく、他の者たちにやらせていた。

 それくらいこの男は全てに警戒して、全てを裏で操っていた。


 「はい。リンドーアが攻め込まれると」

 「は?」

 「ですから。王都アーリアを攻めるのは失敗したと」

 「何を言っている?」

 「え? だから、イズル様から連絡が」

 「イズルはミコットにいるだろう。ウルタスになど連絡するはずがない」

 「え?」


 パルルークは知らない。

 彼女がもたらした情報全てが、嘘である事をだ。

 そしてクシャラも知らないのだ。

 イズルが倒されていて、ミコットが落ちていることをだ。

 なぜなら、情報を封鎖するように、ユーナリアが大移動をしているためだ。

 ミコットから、リンドーアに移動しながらウルタスに移動するという高速大移動。

 遠回りの移動なのに、彼女が決断した意味は、リンドーアに敵の情報を入れさせない事が目的だった。

 双方の都市を封鎖していた反乱軍の状況を、逆手に取った作戦展開をユーナリアがしていた。

 既に本拠地として機能していたリンドーアとの情報合戦をしていたわけだ。

 彼女の策略と、情報封鎖の大移動で、反乱軍と亡国の赤隊(メラロード)は自分たちが南西地域のど真ん中で孤立していることを知らない。

 

 「兵をまさか全部連れてきたのか」

 「え。いや、話の分かる敵がいまして、ウルタスと交換してやると」

 「貴様。まさか。明け渡したというのか」

 「は、はい。り、リンドーアが危険になるので」

 「騙されているわ。この・・・馬鹿者が」


 クシャラは、持っていたワイングラスを、パルルークの足元に投げつけた。


 「で、ですが。イズル様がやって来て・・・」

 「イズルはまだミコットにいるだろうが。馬鹿なのか。貴様は」

 「で、ですが・・・本当で」

 「いいから、早く帰れ。ウルタスを奪われるなど。マヌケめ!!! とっとと奪い返して来い」

 「は、はい」


 ウルタスへ帰れ。

 二日半の寝ずの大移動をしてからの再び戻れの命令。

 ウルタスを担当した反乱軍は、相当な疲れを持ったまま引き返すことになった。


 ◇


 アーリア歴6年1月3日


 急ぎウルタスに戻っている反乱軍は、リンドーアとウルタスの間で、最悪の形で彼女と出会う。

 

 「あら。お久しぶりですね。ちょうどお会いしたかった。あなたのお名前を聞き忘れていましたよ」

 「き、貴様! ユーナリア!!!」


 破軍星ユーナリアと出会ったのだ。


 「はい。そうです。それであなたのお名前は?」


 ユーナリアは努めて明るく答える。


 「貴様。私を騙したな」


 パルルークは、名前を答えるよりも怒りで先に聞きたい事を聞いていた。


 「騙した?」

 「何がリンドーアに攻撃が来るだ。嘘をついたな。この嘘つき女め」

 「嘘?」


 ユーナリアは馬鹿にするつもりで言っている。

 

 「貴様のような奴は・・・卑怯者だ! 屑だ。屑! 詐欺師だ」

 「卑怯者。詐欺師? さあ、何の事をおっしゃっているのか。訳が分かりません。嘘も言ってませんし。騙してもいませんし。卑怯でもありませんよ」

 「なんだと貴様」


 パルルークは、怒りで手が震えていた。

 

 「今からですね。リンドーアを包囲するところですので、嘘ではないでしょ」

 「は?」

 「ですから、今から私たちがリンドーアを包囲しますので、嘘はついていません。リンドーアに攻撃が来ますと、あなたにお知らせしましたでしょ」

 「な、何を」

 「ですから、耳がないのでしょうか。リンドーアには今から攻撃が来ますよ。私たちの!」


 敵の顔が紅潮していく。

 だから同じ言葉を重ねた。

 頭に来てもらった方が楽だからだ。


 「き、貴様・・・減らず口だな。この・・・」


 歯ぎしりで歯が折れそう。

 パルルークの怒りは頂点に達していた。


 「さあ、どうします。戦うのですか。それとも、ウルタスにお戻りに?」

 「何を。貴様など。ここで殺す!」

 「そうですか。この一万の騎馬。それに対して、一万の歩兵で?」

 「同数だ。勝ってみせるわ」


 騎馬と歩兵。しかも同数。それで勝つ。

 ちゃんちゃらおかしいと、ユーナリアは鼻で笑っていた。


 「わかりましたよ。ですが、あなた方、お疲れじゃないのですか。顔色が良くありませんよ。三日間。走りっぱなしでは?」

 「う、うるさいわ。そんな事関係ないわ!」


 自身の疲れは、怒りで振りきれているが、仲間たちの疲れが、癒されていない。

 パルルークの周りは、息が切れている者で溢れている。

 でも、彼は、怒り任せに宣言した。


 「かかれ。殺せ。奴を引きずり落とせ。突撃だ」

 「「「おおおお」」」


 声の反応がよろしくない反乱軍が突進してきた。


 ユーナリアはニヤリと笑って、隣のリースレットを呼ぶ。

 

 「計画通りですね・・・リースレット閣下」

 「うんそうだね」

 「閣下、あの男とその側近だけを残してリンドーアに追いやってください。あとは全て倒していいです」

 「あれ? 残すの?」

 「はい。残します」

 「なんで」

 「無能な者ほど。いてもらった方が次が楽です。あんな指揮官。こちらにとってはありがたい存在ですよ。大事にしたいです」

 「ふふっ・・・ユーナちゃん・・・」

 「なんです?」

 「怖い子だね」

 「そうですか」 

 「うん。じゃあ、鼓舞お願い。あたしが突撃する」

 「わかりました」



 ◇


 ユーナリアは敵が走ってくる中で声を上げた。


 「アーリア軍に告ぐ。私たちは賊を打倒するために戦っています。この戦いは、アーリア王に対する反逆ですから、敵は殲滅で良いです。そこに慈悲は要りません。彼らは、アーリア王の恐ろしさを知らないようなので、我々が教えてあげる事にしましょう」


 自信のある声に仲間たちが頷く。


 「こちらはゆっくりお休みしましたから、体力も万全です。しかし、あちらはどうやらお疲れのよう。もしかしたら、三日間寝ずに走っていたのかもしれません。可哀想ですね。ですから、ここでもう走らなくてもいいように、お休みにしてあげましょう・・・では、進軍開始。殲滅で良いです。突撃!」

 「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」


 迫力のある声が、戦場に響く。

 ユーナリアが率いる軍は、元気一杯である。


 「さあ、いくよ。あたしについてきて。突撃だああああ」


 リースレットを先頭にして、アーリア軍は初撃から敵を粉砕した。


 体力全開と、体力が尽きかけた者たち。

 騎馬兵と歩兵。

 その差は、埋まらない。

 埋めようのない差なのだ。

 それすら判断できないのか。

 ユーナリアはそう思いながら戦場を眺めた。


 戦いは、言うまでもなく、ユーナリアの圧勝であった。

 一万の兵は一瞬で消えて、泣く泣く逃げるパルルークであった。


 


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