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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 アーリア大陸編

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第255話 索敵

 ミコットの戦いは、歴史に一ページもない分量で紹介されている。


 『ユーナリアの初陣。ユーナリアとリースレットの勝利』


 アーリア戦記の記述以外でも、大体がこれで終わっているものが多い。

 なぜなら、彼女の戦いはあまりにも楽勝過ぎて、説明もいらなかったのだ。

 

 ユーナリアの巧みな戦術により、リースレットが裏に回っていることを敵が知らず。

 さらに、彼女の口の上手さにより、リースレットが突撃した頃には、戦ってくる兵士が半分以下になっていたのだ。

 二万いた兵士は、六千程に減少。

 その他は武器を持たずに白旗を持って移動。

 それで、リースレットが率いた軍が八千だったので、数でも勝てずに、門の裏からの襲撃であるから、門の存在の意味もなく、ほぼ野戦決戦と同じ条件となってしまい、反乱軍には、あの歴戦の戦士であるリースレットを止められないという状態が、戦いの始まりから起きていたのだ。


 リースレットの軍もほぼ無傷の形で、全ての敵を淘汰した。


 そして。



 ◇


 「いや。なんだか楽だったね。ユーナちゃん」

 「はい。リースレット閣下のおかげです」

 「いやいや。あなたの作戦通りだよ」

 「いえ。たまたま上手くいっただけですよ」 

 「違うよ。謙遜しない。謙遜しない。上出来だよ。初陣だよ。上手く出来ないらしいんだよ。初陣ってさ」

 「え・・・そうなんですか。リースレット閣下も?」

 「え?・・・どうだったかな・・・私の初陣・・・」


 ただのメイドから、戦いに出た時。

 それはいつだったか。

 リースレットは思い出せない。

 でも当たり前である。

 彼女の初陣は、フュンが出した試験の時。

 デュランダルと楽しんで戦った時が、彼女の初陣である。

 楽しいから、その時のことを全然覚えていないのだ。

 それと、まったく緊張していないから、なにも覚えていないのである。


 「それで、ユーナちゃん。どうするのここから」

 「はい。偵察を二つ。回しています」

 「ん、偵察を回している? え、もう!?」

 「はい。ここと戦う前からですね。ウルタスと、ルクセントに出しています」

 「は、早いね」

 「はい。ここと同じ条件なら、そこはもう国を建国しようとする賊がいると確定で判断して良いですとの指示を偵察の人たちに出したので、リンドーア付近で集合して、どこかに勝負に行きます」

 「・・・え・・・そ、そうなんだ」


 リースレットの頭では展開が追い付かない。

 この子の戦略に全部従おうと思ったのだった。


 ユーナリアが言う同じ条件とは、封鎖をした都市と言う意味だ。

 ミコットは、敵によって完全封鎖がされていた。

 都市間の人の移動を封じて、都市内の人を掌握していく目的があったらしい。

 しかしその作業中にユーナリアの軍に好き勝手されてしまったようだ。



 この戦いの始まりは、ミコットから西に少し離れたジャスル川の下流に船を到着させた事から始まっている。

 ユーナリアはそこに軍本隊を置いて、二千の兵だけを連れて、自分と共にミコットの陸地側に配置。

 敵との会話後。

 信号弾を出すと、彼女の移動中に置いておいた連絡兵が連携して、短い距離の光信号を繋げて、リースレットがいる川まで連絡、そこから軍本体が、船でミコットの海側に現れたのだ。


 この見事な戦略で敵を欺いたのがユーナリア。

 フュンらしい、ありとあらゆる手を使い敵を倒す。

 この考えが根付いているのだ。



 「ですから、敵がいたら、いきます。でもその二か所に敵がいないのであれば、リンドーア。ここが一番怪しいです。そこで戦いましょう」 

 「リンドーア?」

 「はい。あそこが貴族たちの総本山にしなければなりません」

 「・・・え? どうして?」

 「一番偉そうだった人。イーナミア王国を目指しているような言い分をしていました。だから、王都は、あそこに設定するしかない。元王都であるリンドーア。ここに人が集まらないと、気持ちが昂らないでしょう。人をまとめるのにも、権威・・・いいえ。決起するための象徴が欲しいんだと思うんです」

 「そ、そうなんだぁ」


 とにかくユーナリアについていこうと思うリースレットであった。

 難しい事を考える事を放棄したのだった。



 ◇


 フィックスとナシュアは、リンドーアに到着した。

 しかし、ここは封鎖されている。

 四方の門が閉じていて、誰も行き来が出来ない形であった。

 

 「駄目だ。門が閉じている」

 「強引に行くべきでしょうか」

 「姉御。もう少し調べましょう。完全に封鎖するという事はないでしょう。この都市、どうやって食べていくんですか。どこかのタイミングで開きますよ」 

 「ええ。どこかで補給物資ですよね」


 二人はどこかのタイミングで、門が開くと思っていた。

 そこからしばらくすると南の門に人が集まっていた。

 赤い鉢巻をした連中である。


 「姉御。俺、実験してみます」 

 「なにを」

 「あいつらのそばで影になってみます」

 「それは、危険では。敵かもしれないのに」

 「ですから、姉御がここで見ていてください。俺がバレて死んでも、姉御に情報として残る」


 フィックスが珍しくも真剣な表情だった。

 いつものように厳しい口調で指摘が出来ないナシュアだった。


 「フィックス・・・あなた」

 「今、お嬢が死にそうなんですよ。そんなの。許せねえ。だから姉御。頼みます」

 「・・・フィックス。わかりました。お願いします」 


 フィックスは影となり、敵に近づく。

 だが赤い鉢巻の連中はフィックスに気付いていない。

 影の適性もない連中だった。


 『いけます』

 

 そのイメージで、フィックスが手を振った。

 するとナシュアも高速で影移動していった。


 ◇


 内部に入り込んだ二人は、ネアルの屋敷を目指す。

 都市の中央に行き、屋敷を全体調べあげて、地下牢を発見するが、そこの地下牢前にいる兵士を見て、二人は止まった。

 壁の影に隠れる。


 「フィックス。危険です。少し離れます」

 「は、はい」


 ナシュアがその兵士二人組と距離を取った。 


 「まずい」

 「どうしました。姉御」

 「ええ。あの兵士たちだけ。おかしいです」

 「ん?」

 「ここに来るまでの二人の兵は、私たちに気付いていない。でもあの兵士の一人。私を見ましたよ」

 「今の俺たち・・・影ですよ」


 フィックスは念のために自分たちを確認した。


 「いいえ。見ましたよ。この感覚・・・あの時に似ている」 

 「あの時?」

 「はい。ナボルと戦っていた時・・・ヌロの時と同じです。サブロウに見られた時の感覚に似ています」

 「まさか・・じゃあ、あの兵。影を見破った」


 敵に影適性アリ。

 二人は、危険な状態だった。


 「そうです。影使いだ」

 「でも、知らないですよ。あんな奴」

 「はい。だから恐ろしい。ここから先はまずい」

 「・・・でもお嬢があの先ですよね。絶対」

 「ええ。声が聞こえていましたからいるでしょう。でも生きていました。確認は取れたので」

 「たしかに・・・無事ではあると」 

 「いったん下がります。武器などを調達して、決戦に挑みましょう」

 「了解です。やりましょう」


 二人は、ここで引いたのであった。



 

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