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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 アーリア大陸編

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第254話 破軍星ユーナリア

 ファルコ・サイモンには勝てない。

 

 ネアルはこの日の戦い終わりの天幕の中で思った事だった。

 アーリア防衛戦争で、反乱軍の後ろにいたネアルは、戦争全体がハッキリと見えていた。

 だから分かる。

 ありえないほどの完敗だった。


 自分が指揮をしているわけじゃない反乱軍。

 でも彼らも別に悪い手で戦っていたわけじゃない。

 しかし、その攻撃が通用していない。

 定石通りの攻城戦でも、反乱軍は手も足も出せない状態に陥っていた。


 こちらが総勢八万。それに対して、あちらが半分の四万くらい。


 王都アーリアを攻めるには、十万が必要である。

 しかし現在の王都アーリアの兵士の数が、相手の半分。

 二倍差があるので、落とせなくはない。

 

 でも、反乱軍には不可能なのだ。

 あのファルコ・サイモンがいる限り・・・。


 ネアルは独り言を言った。


 「強いな。若いのにな・・・」


 現在は半捕虜のような形で、天幕にいる。 

 監視役が三人。

 通常状態のネアルであれば、その武で、この監視役くらいならば、瞬殺できるが手錠をかけられた状態では抜け出せない。

 

 それに、人質もリンドーアにいるために下手に暴れられない。 

 だから大人しくしていた。


 「何を言っている。ネアル。貴様は黙っていろ」


 監視の兵が独り言に反応した。

 剣を突き付けようとしていた。


 「誰だ。貴様は。さっきから睨んでいるな。私に恨みであるのか」

 「・・・・」

 「ほう・・・」


 自分が、廃家にしてきた貴族の子。

 顔を見た感じであると、そのくらいの年頃だと思う。

 ネアルはここに若い子や、自分くらいの年代が多くいる事に気付いていた。

 だから、自分が王子から王になった際の粛清対象に入った貴族。

 それか、その子供かと思った。


 処遇に納得していない貴族の子ならここまでの恨みを抱いてもおかしくない。

 でも、恨んでいても、殺すことはできない。

 ここの組織のトップが、ネアルを王にする気だからだ。

 復権は、ネアルから行おうとしているから、ネアルの命が助かっている。

 不思議な状態で、ネアルは命の保証をされているのだ。


 『これでは、無理だろう。原動力が恨みでは・・・あのファルコ・サイモンの策を見破る事は不可能だ・・・全てが罠だぞ。貴様ら・・・彼は甘くない。あの配置だけで分かる。私と思考が似ているが。いや、それ以上に冷たい気がするな。あれはこの反乱軍を一人も生かすつもりがない。恐ろしいくらいに、人に容赦がないぞ』


 ネアルは戦いを見守りながら気付いている。

 ファルコ・サイモンは、ただ守っているのではない。

 油断を誘う。守りが薄い位置があるのだ。

 あれを見れば、あそこを狙いたくなる。

 明日にでもだ。

 そしてあそこには地獄の罠が設置されているだろう。

 おそらく、あそこに向かった人間は生きて帰れない。

 ファルコは、最初からこちら側の人間を生かすつもりがないのだ。

 

 『・・・ふっ・・・ダンテもあの中に入れるのだろうか・・・あそこは優秀だな。アイン様を筆頭に・・・入って欲しいな。私の息子も・・・彼らの仲間になって欲しい。ここで私が死んでも。汚名を背負っても。息子だけは・・・・』


 次代の力強さをネアルが一番早く感じたのだ。



 ◇


 アーリア歴5年12月29日。


 この日反乱軍から勝利を手にした女性がいた。

 アイン世代で、いち早く勝利を手にしたのが、ユーナリアである。

 船で移動していた彼女は、アーリア大陸南西の港の都市ミコットに陸地側で到着していた。

 ルコットから、船で移動していたのに、何故か彼女は、陸地から攻めたのである。


 「王都軍です。ミコット、この門を開けなさい。あなたたちもこの国の兵なはず。なのになぜ開けないのでしょうか?」


 王都から来た軍と強調することで、王都は勝ったのだと偽の情報を与える。

 不安を装う言葉だ。


 「ここは我らが占拠した。ミコットは我が新生イーナミアの領土である。王都軍は入れない」

 

 ユーナリアは敵のその考えを読んでいた。

 ぼそっと呟く。


 「新生イーナミア・・・やはり。狙いは復権。元貴族で連合かな。基本の形が貴族。これでいいですね」


 ユーナリアはここで、語り掛ける。


 「では、その兵士たちは、新たな国の兵であるのですか」

 「そうだ。イーナミアの兵だ」

 「そうですか・・・アーリア王国の兵ではない・・そう解釈して、いいのですね」

 「そうだと言っている!」

 「わかりました。では全部倒しますよ。反逆者なのでね。遠慮はしません」

 「ん?」


 自分が思った話の展開じゃない。

 会話をしていた兵士は戸惑った。


 「そちら、雇われている兵士さんたちもいますでしょ。傭兵。元兵士。その方たちも、全滅でいいのですね。そちらの鉢巻きをしている方々を全面支援しているという事は、そういうことにしてもいいのですね」

 「・・・・」


 ユーナリアは門にいる隊長らしき人物に話しかけていなかった。

 周りにいる兵士たちに語り掛けていた。


 「貴様。兵が二千しかいないのに。どうやって我々に勝つ。こちらは、この数だぞ」


 その語り掛けはこちらにとって良くない。

 一番偉そうな男が、話を変えてきた。


 「え? どの数ですか。そちらの数がどれほどなのかわかりませんよ。この下の位置からでは、あなたたちの全体が見えません。今は、あなたの中心にいる。鉢巻きの人たちしか見えませんね」


 鉢巻をした男性。それとその付近で同じ鉢巻をしている兵士たち。

 それが仲間の雰囲気があるとユーナリアは睨んでいる。

 つまり、明確な敵は、万は存在していない。

 ここに真の敵の数が少ないと見た。


 「ここには、二万がいる。これに、どうやって勝つ気だ。その十分の一の数でな」

 「へえ、二万。ずいぶんいますね。烏合の衆が」


 ユーナリアは、これで敵の数を確認した。

 ここは敵の情報を引き出す戦いだった。

 労せず、数を教えてくれるなんて有難いと思う。


 「なんだと貴様」

 「ええ。命を懸けて、新生イーナミアのために。戦える人はそこに何人いますか?」

 「な。何を言っている。皆に決まっている」

 「そうですかぁ。その周りにいる人たち。そんな志じゃないように思いますよ。お金で集まった人では?」

 「・・・ち、違うぞ。何を言っている」

 「ふ~ん」


 貴様らは、この女性を誰の弟子だと思っている。

 あの太陽王の愛弟子なのだ。

 口で勝てるわけがない。

 彼女の影にいるムーイは思った。


 「そうですね。じゃあ、二つ。助言します」


 ユーナリアは、声を拡大した。

 皆に声を届ける君を使用する。

 ちなみにこれもサブロウ丸シリーズである。


 「じゃあ、いきます。ひと~つ。降伏すれば命は助ける。ですが、一回でもこちらと武器を交えれば、倒します!」


 軽い声で宣言した。


 「ふた~つ。ここにいるのは、アーリア王国の王。フュン・ロベルト・アーリアの一番弟子。ユーナリアであります。太陽王の戦略を知り尽くし、そして、太陽王から知恵を授かったこの私が・・・あなた方の様な無策な人たちに負けるわけがありません。これを覚えて、第一の助言を大切にしてくださいね。では」


 ユーナリアが空に向かって信号弾を撃ちあげようと構えた。


 「いきます。アーリア軍、突撃です。はい!」


 曇り空に、オレンジの光が撃ち上がる。


 すると何も起こらずであった。


 「ハハハハ。こけおどしか。それで騙そうとでも。貴様らが突撃もしてこないではないか」

 「ええ。しませんよ。この私が、突撃するとは何も言ってません。待ちなさいよ。突撃するまでね」

 「は?」


 ユーナリアの言葉の意味が分からずである。

 でも敵は、その言葉を警戒してしまい。

 最大警戒に切り替えるべきだとして、二万の兵士たちを陸側の城壁に集まってしまった。


 そこから、二時間後。

 事態は急変する


 ◇


 「「「あああああああああああああああああああ」」」


 陸地側の門とは反対側から声が響いた。

 隊長らしき男が慌てる。


 「な、何が起きた」

 「敵襲です。海側から来ています。急いでください。今兵士たちもそちらに回しています」

 「なんだと。海? ど、どこから。だ、だってここに敵が・・・いるじゃないか!」


 ユーナリアは慌てている男に向かって、笑顔で手を振っていた。


 「貴様。騙し討ちか」

 「騙し討ち? 何の話です?」

 「意識をこちらに向けておいて・・・さっきのは連絡か。そういうことか」

 「おお。よく分かりましたね。でも騙してません。突撃って。私、言いましたよね。二時間後ですけど」

 「・・・・・き、貴様」


 突撃は、自分じゃなくて海に回った味方。

 言葉としては合っている。ただ戦い方としては合っていない。


 そして、ユーナリアは指摘する。

 

 「それがあなたの限界だ。無能な元貴族よ。今、貴族となれないのは、お前が無能だからだ」

 「な、なんだと」

 「ありとあらゆる手を使い。勝利を目指す。それが我が師。太陽王フュン・ロベルト・アーリアだ。太陽王を甘く見たな。名も知らぬ者よ。私に名を名乗っておけば、お前の名がアーリアの歴史に反逆者として残っていただろうに。惜しかったな。もう少し早く名を教えていればな!」

 

 ユーナリアは、渾身の言葉で、人の気持ちを動かす。


 「さあ、選ぶのは今だぞ、兵士たち。死ぬか。生きるか。選択するのは自分自身。そこの無能な元貴族共じゃない。あなた方が、自分で選ぶのだ。武器を置くか。置かないかをだ!」


 雇われた兵士たちの心が揺れ動く。


 「今、武器を持っていれば。まさに死あるのみ! 今、あなた方の後ろから迫るのは、王国でも、歴戦の戦士である。あのリースレット将軍が、背後から迫っているのだ」


 アイスの懐刀リースレット。

 その名はアーリア大陸の全土に轟いている。

 たとえ、イーナミア王国の方の領土であっても、彼女の武は轟いている。


 「いいのか。戦えば、ひとたまりもないはずだ。突撃しているのは、ここにいるひ弱な小娘なんかじゃない。後ろにいる猛将リースレット将軍だぞ」


 兵士たちの心がさらに揺らいでいく。


 「さあ、選択できる時間が少なくなっていくぞ。ここで、武器を降ろして、白旗をあげるか。それとも、武器を握りしめて、リースレット将軍と戦うか。あなたたちは、どうする。生か死か。選択するのはあなた自身だ。そこにいる元貴族が決めるんじゃない! 自分の人生を決めるのは自分だけなんだ」


 自分の人生は、自分で自由に選択する。

 フュン・ロベルト・アーリアの最大の教えが今発動した。


 「さあ、自由に選べ。兵士たちよ! 自分の気持ちで、自分の命を選ぶんだ!」

 

 太陽王の愛弟子ユーナリア。

 人は彼女のことを破軍星ユーナリアと呼んだ。


 人を知り、人を読み、人の心を動かす星を持つ女性。

 偉大な太陽の光によって照らされた。

 輝く星を持つ女性である。

 

 

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