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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 アーリア大陸編

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第253話 次代の総力戦

 「シャオラ・ドルドノーですか・・・ドルドノーと言えば」


 ファルコは気付いた。


 「ファルコ知っているの」


 フィアが聞いた。

 

 「ええ。私は主要人物はすべて記憶していますのでね」

 「主要人物?」

 「はい。この人の父は、クシャラですね。二大国の戦いの時に、ウルタスの担当だった大貴族。王国の貴族でも、役割があった珍しい人物。ブランカ家との双璧にもなりますが・・・ブランカ家の方が優秀でしょう。ドリュース殿はエクリプス殿ほどではありませんが、素晴らしい将です」

 「な、なるほど・・・そういうことか」


 フィアも落ち着いてきた。

 情報が整理できてくると本来の彼女に戻っていた。


 「そうですね。クシャラであればこの計画を立ててもおかしくない。ああ。そうか。ウルタスを担当した貴族だから、ウルタスの流れをいじれるわけで・・・あの情報自体、誤魔化しが少々入っているのでしょう。だからあのルライアさんがそこに違和感を感じたんだ。計算が微妙におかしいと思うのは、年々で狂わせていた可能性がある。そこに彼女が違和感を持って、何度も計算をしている。そういうことか」


 ファルコは、ルライアの違和感の正体に気付いた。

 人の流れと鉄の流れ、そして生産の流れがおかしいのは、ウルタス自体が、数値をいじって報告してきたから。

 そこを何度も計算して、そこに違和感が生じているとなんとなくで気付いたルライア。

 全てが、もっと移動しているんじゃないのかと、おそらく彼女の勘がそう思ったのだ。

 輸送の事ならばルライア。

 偽りを感覚でも見破った輸送管理の天才である。


 「では、あとは簡単か。やはり」

 「一人で納得するな。ファルコ。私にも教えて。駄目。みんなで知らなきゃいけないよ」


 厳しい口調のフィアは、だいぶ落ち着いてはいるが、まだ少々怒っている。


 「はい。フィア様。こいつの父が関与しているのは確定。ならば、その周辺も調べれば、大体が終わりますね。これは、この戦いが簡単になりましたね」

 

 ファルコは立ち上がった。


 「キリさんにお願いしましょう、彼女なら瞬間的に調べられるはず」

 「な、なぜキリさん?」

 

 アインが聞いたが。


 「いきましょうか」


 ファルコはすぐに移動を開始して、アインとフィアを連れていった。


 ◇

 

 王都の内政の執務室、資料室と隣り合わせの場所。


 「キリさん」

 「あ、ファルコ君だ。久しぶりだね」

 「ええ。お久しぶりです。それでいきなりですが、こいつから情報を洗いざらい出せますか」


 名簿に書いている名前を見せた。


 「シャオラ・ドルドノー? 誰です? 知りませんね」


 指で示されている人の名を見ても、顔を見ても、キリはピンと来ていなかった。

 彼の事を覚えてすらいなかったのだ。

 だからアインが覚えていたのが凄いのである。


 「こいつの関連する資料はどこにあります?」

 「シャオラですね・・・それならあそこら辺ですね」


 キリが左右に揺れる独特の歩行で、図書館のようになっている資料の中を進んでいった。

 ここは、情報全般を網羅した総務の職場。

 人物情報も管理されていてるので、当然に学校関係の情報もここで管理されている。

 全ての情報が繋がっているのだ。


 「これですね。この人の情報は」


 キリは、一瞬でシャオラの情報を抜いた。


 「さすがです」


 キリは、整理整頓が得意。だから内政でも総務に来たのだ。

 修行期間であるが、こちらに抜擢された理由の一つである。


 「ではここにこいつが関連していそうな人を羅列してもらってもいいですか。そこから派生した人間もです」

 「はい? 今からですか。ファルコ君。それは私に、書類に埋もれて死ねと・・・」


 一人から派生する情報ならいいが、それらから派生した人を網羅せよはキツイ。

 キリは、涙目だった。


 「キリさん。すみません。今、非常事態のは分かってます?」 

 「ええ。わかります。ですが、私、一応ですよ。通常のこともしているんですよ。忙しいんですよ。わかってくれます」


 戦時中でも、日常業務は外せないのだ。

 通常の業務をこなしつつ、残業ですか。

 キリは、涙が二粒流れた。


 「ええ、でもこれをせねば、敵を特定できない。これのおかげで、敵の本隊と呼ぶべき人間たちを調べる事になるのです」 

 「敵ですか・・・こんな事で分かるんですか。私が全面的に・・網羅的に・・その人を調べれば・・・・」


 そんなことしたら何時間どころじゃない。

 仕事が一日で終わるのもありえない。

 数日間はその戦いになるんだよ。

 そうなると通常の仕事はたまる一方に・・・。

 キリの両目から涙が流れた。


 「はい。資料から情報を調べやすくするためです。あなたの力で、敵を特定できます」

 「・・はぁ。私は忙しさの中にいつもいないといけないんですね・・・はぁ。ル~ちゃんもいないし。忙しい」

 「そういえば。ルライアさんは?」

 「それがさっきからいなくて。ファルコ君見てないんですか」

 「見ていませんね」


 ルライアがこの場にいなかった。

  

 「サボりですかね? いっつも私が仕事してますか・・・ら・・・あ、いた」


 資料の部屋の奥の奥に、彼女はいた。


 「ル~ちゃん」

 「キリちゃん。これ見て。これ、この計算とこの計算が合った。それで、こっちの計算が・・・だからこれがこうなると・・・本当の計算はこれだ」


 ルライアはまだあの計算をしていた。 

 わからない事があるのが悔しい。

 だから、彼女は資料の奥の部屋から、ウルタス関連の資料を何でもかんでも引っ張り出して、計算をしていた。


 「鉄は武器で換算すると、八千個分。人は、三千五百の移動。職人は年二で、金で引き抜いて、六だ。これが本当の計算だ。嘘の情報だったね、やっぱり!」

 「あ。ルライアさん」

 「ファルコ君。ここに来てたの。学校は?」

 「ええ。お久しぶりです」


 ファルコはルライアとも知り合い。

 彼女たちと知り合いなのは、二期生のファルコだからである。

 学校が一年被っているから、その時に知り合っているのだ。


 「これ。ユーナちゃんに見せた資料の改良版。もしかして、ファルコ君も見てた。ユーナちゃんからさ」

 「ええ。送られてきましたよ」

 「そう。じゃあ今のも必要?」

 「ええ。見ますね」


 新しい情報を手渡されたファルコが瞬間的に確認した。


 「これを見るに、やはり敵の数は大体そのくらいであったという事だ。でもそれだけじゃない。だからキリさん。名簿を出してください。そうすれば内部にまだいる敵を始末できる」

 「内部に敵?」

 「この都市の中に敵はまだいます。下手をすれば、今も地下牢にいる奴を脱出させようとする者は現れる。それなら都合はいいですが、上手くやられると困るので、敵を洗いざらい出したい」

 

 ファルコの意見にアインが気付く。


 「なるほど・・・そういうことですか。敵の目星を付ける意味は、目の前の敵じゃなくて、内部の敵・・・ですね」

 「そうです。アイン殿下」


 殿下に話してから、ファルコは二人に言う。


 「それじゃあ、キリさん。ルライアさん。ここにいる他の方とも協力してやってもらいたい。お願いします」

 「え・・・はい」

 「わかりました。いいですよ」


 キリは戸惑い、ルライアは返事をした。

 意外だが、ルライアの方がこういう場面では腹を括りやすかった。


 その後、二人を軸に仕事をしてもらっている間に、敵の援軍が到着した。

 その中に衝撃の人物がいた。


 ネアルである。


 ◇


 ネアルから言葉が来る。


 「王都アーリア。民を解放せよ。ネアル・ビンジャーが来たのだ。この門を開ければ、それでよしだ」

 「ビンジャー卿が・・・ついに!?」


 アインが戸惑っていると、フィアが出た。


 「ネアル。何を血迷った。どうしたのだ。貴様ともあろう者が。何かあったのか! 急な攻撃をするとは、ありえんぞ」

 「フィア・ダーレーか。()()の王の子よ。この()()がわからぬか。()()()()

 「そうか。そう来るのか・・・」


 フィアは、ネアルが言いたいことを瞬間的に理解した。

 人を操る事に長けている彼女ならではの気付きである。

 こちらの気持ちをコントロールしたい。

 その思いをネアルから読み取った。


 「じゃあ貴様は、何の権利で来た。敗北した王よ」

 「不当な王の子アインを渡せば、許す。大人しくしていることが、()()()だ」


 フィアは、ネアルからの合図を受け取り、会話をここで組み立てた。

 

 「そうか。でもどうせ。こちらのアインを渡しても、戦争は止まらないだろ。だったら、ここは正直に話してみろ。お前らの無意味な事情を聞いてやるわ。()からな」


 フィアは、願いを込めて、頭に意味を出せと言った。


 「()()からの王では、この大陸の覇者は務まらん」

 「そうか。それで」


 「()()()()()が正統な王が住まう場所だ。それと、偽りの王は・・・」

 「なるほど、それで」


 「()()を誑かしただけで王となったのだ。その・・・」

 「はあ。そうか。で。言いたい事はそれだけか」


 「()()を殺せば、偽りの王からこの国は解放される」

 「わかった。そういうことで、兄アインを殺したいという事だな。他に言いたい事はあるか。敗北した王よ。まだまだ聞いてやるぞ。私は寛大だからな、別にくだらん理由でも聞いてやるわ。いいぞ話しても!」

 「・・・・・」


 ネアルの言葉が止まった。

 フィアは、誘導から答えを聞いた。

 小声で、アインとファルコに話す。


 「アーちゃん。ファルコ」

 「なんですか」「はい」

 「人質はリンドーア。王妃と息子。やはり、ネアル・ビンジャーは操られている。脅されているね」

 「ええ。そうでありますね」

 「え? 今の会話で、何かわかると」


 ファルコもフィア同様に気付いていた。

 フィアの言葉の誘導から始まり。

 誰にも気づかれずにネアルとフィアが会話を組み立てていた事にだ。


 この優秀なアインでも、今ので気付かないので、おそらく敵も気付かないだろう。 

 抑揚の僅かな変化。それと文章に注意して、上手く組み立てていかないといけない。

 ファルコの頭脳が、処理能力として高すぎるのだ。


 「つまり、敵の狙いは予想通り。そして行動も予想通りだ」


 ファルコは今までの予測が完全に一致したと思った。

 なので、さらに予測が加速する。


 「敵は、この王都内部が崩壊しないから、しびれを切らして。今ここにビンジャー卿を持ってきた・・・本物の王は、こっちだ。これを王都アーリアにいる不満分子に当てにきたのでしょう。内部の裏切りを加速させようとしている」


 内部にまだいる同志たちに向けてネアルを連れてきたというわけだ。

 

 「でも。私が昨夜の水門で敵を成敗したものだから。ここの内部の反乱者が二の足を踏んでいる。だからこそ、名簿が必須だ。敵が仕掛けてこないならこちらから仕掛けたい。ルライアさん。キリさん。やはりここは、お二人の力が重要です」

 「うん。二人の仕事を私もやって来る。アーちゃん。ファルコ。ここは任せるよ。いいかい」

 「はい。フィア、気をつけて」

 「フィア様」


 ファルコからは返事じゃなかった。指示であった。


 「ん?」

 「フィア様は資料を調べるよりも分析をお願いしたい。そちらの方が進みそうです。二人から出てくる情報を精査してください」

 「・・・わかった。つまり、二人の調べ。それを見守れってことだね」

 「そうです」

 「うん。いってこよう。まかせたよ。ここをね。ファルコ」

 「はい。おまかせを。フィア様」

 

 フィアは、裏方に回った。

 分析能力も高いフィアは、戦闘よりもそちらの方が役に立つのだ。

 

 「では私が、この戦場をコントロールします。殿下。皆に伝える命令を間違いないでください」

 「わかりました」

 「殿下が間違えなければ、勝ちます。完璧にです」


 ファルコが戦闘を担当する。

 次世代は全体で役割を全うしていた。


 

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