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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 アーリア大陸編

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第252話 援軍到着

 アーリア歴5年12月27日の深夜。


 王都アーリアの北。

 水門によって固く閉じている北の門。

 ここが突如として開いた。

 アインからの指示がないのに、勝手に北の門が開いた理由は、小舟が四隻、フーラル川から王都へと流れてきたからだ。


 でも、その船はこちら側が手配していない船たち。

 だからこれは、王都アーリアにいる反乱軍の仲間が手招いたようなのだ。

 この船に乗る部隊を中心にして、王都内部を乱していく。

 それが、この計画の始まり。

 ・・・のようなのだ。

 これは彼がいなければ、成功していたのかもしれない・・・・。




 ◇


 水門を開ける装置を動かしていた男は、赤い鉢巻をしていた。

 味方の船に向かって、小声で呼び掛けている。

 聞こえもしないのに指示を出している。


 「早く行け。早く。今は誰にも気付かれていない。急げ」


 フーラル川から、フーラル湖に到着すれば、あとはもう城壁内の内陸部に入れる。

 しかし意外とこれが遠い。

 フーラル川下流から湖までちょっとだけ距離があるのだ。


 「ええ。急いだほうがいいですよね。王都の者に知られない内にね」


 応援していた男の横に目の鋭い男が現れた。

 鷹のように鋭くて、ただ見つめられるだけでも少々怖い印象がある。


 「そうだ。当然だろ」

 「ええ、計画だと。このままお城に行き、アイン様を殺すでしたか。もしくは南門あたりを開けるですね」

 「ああ。そうだ。お前知らないのか。この計画を・・・って、誰だお前」


 赤い鉢巻の男は驚いてのけ反った。

 知らない男が隣にいたからだ。


 「私はあなたにお聞きしてますが、そういう計画ですよね」

 「貴様、亡国の赤隊(メラロード)じゃない」


 赤い鉢巻がないので、味方じゃない。

 鉢巻きの男は、味方を区別するためにおでこを見ていた。


 「へえ。それが組織の名ですか」

 「だ。誰だ」

 「いや、あなたのお仲間を捕まえ、情報を聞く者ですね。それで、このあと、皆殺しにしますよ。当然ね」

 

 目の鋭い男は、淡々と恐ろしい事を言う。


 「は?」

 「いや、あなた以外は処理してます。ほら・・・どうぞあちらをみてください」

 「あ。なに!?」


 その鋭い目の男の背後には、自分の仲間がいたはず。

 しかし、全員がもれなく地面に平伏していた。


 「それで、あちらもどうぞ」

 

 鋭い目の男が、船を指差すと。


 『ドカ―――――――――――ン』

 

 大爆発が起きて、船が木っ端みじんになっていた。


 「ええ。あなた方が来ることはわかっていましたよ。反乱軍が、南付近で待機し続ける事がそもそもおかしい。私なら転々と、位置をずらす。北西、西、南西。南。南東。東。北東とかね。そこを移動するように囲んで、この北を警戒させないのが正解。なのに馬鹿正直に一か所にいればね。開けたいのは、ここの北となりますよね・・・あなたたち、亡国の赤隊(メラロード)でしたっけ。知能指数が低そうな組織名ですね」

 「貴様・・・」

 「ええ。では失礼します」


 ここでなぜか、丁寧にあいさつをしたファルコだった。


 「え? う、い、いつのまに!?」


 鉢巻の男は自分の腹を見た。

 ダガーが突き刺さっていた。


 「あなたはしばらく眠っていなさい。しかし、これで死ねたら楽でしたね。のちの拷問が大変ですよ」

 「し、死ねたら・・・だと?」


 ファルコは、戦えるのである。

 それはクリスの子供ではありえない。でもソロンの子供だからありえるのだ。

 ただし、彼はどちらかと言うとナボル寄り。毒使いである。


 倒れた男を一瞥して、言葉を吐き捨てる。


 「全身を痺れさせました。あなたを死なせるわけないでしょ。これから情報を得ないといけません。血祭りにするためにね」

 

 全てを見通して、二代目が二代目として生きるためにあらゆる手を尽くす。

 ファルコ・サイモン。

 とても恐ろしい男なのだ。

 

 

 ◇


 28日明け方。

 

 敵を牢にぶち込んだ後に、緊急の連絡が北門から来た。


 「この速度での援軍!? ハスラ・・・急いできたということか。ユーナさんの連絡も早かったみたいですね」


 ファルコはユーナリアの仕業だと気付いた。



 玉座の間にて。

 アインが椅子の脇に立ち会話に入ろうとすると、援軍に来てくれた人物が、最初から声を荒げた。


 「お母さんは! アーちゃん!」

 「フィア。母さんは、今はいない。リンドーアで捕まっているみたいで・・・敵からの交渉がまだないから予測でしかないんだ」

 「みたい?? どういうこと」

 「これこれ。アインが困っている。フィア。少し待っていろ。この場面、当主は冷静にならねばならんよ」


 フィア・ダーレーとジークが来てくれたのだ。

 ハスラから船で援軍二万を連れてきたのである。


 「どういうことだい。アイン」


 大切な妹が攫われているとの情報は、さきほどファルコからの伝令兵の連絡で聞いている。

 でも無事であるとの連絡でもあったので、ジークは冷静でいられた。


 「それは、ファルコの方がいいでしょう」

 「ファルコ?」


 ジークは、アインの隣にはいない下段の家臣の位置に立っていたファルコを見た。

 

 「君があの連絡の」

 「はい。私がファルコ・サイモンです」

 「サイモン・・クリスの子か」

 「はい。私の予測をお話します。しかし確定でよいでしょう。それに今から拷問をしますので、情報を手に入れる予定です」

 「・・・わかった。予測でいい。教えてくれ」


 ファルコは、自分の持ちうる情報と、予測の全てをジークに説明した。


 「なるほどな。たしかにその筋でいくなら、妹は無事だな」

 「はい。主となる敵は正統性の権化ですから、元貴族しかありえない・・・それと私の予想ですが、敵は前回のネアル王の兄弟決戦を参考にしていると思います。あれは、王を別にして行われた戦い。王子同士が玉座を巡る決戦をした戦いなので。戦いの後に、前回の王が次回の王を指名するやり方を真似たのでしょう。だから、王妃様が無事だと思うのです。他の者を殺す必要がない。それがイーナミアの兄弟決戦でした。敵がやりたいことは、王妃様が次の王ネアル様を、大々的に指名する形に持っていきたい。おそらくは、その形を大切にしている可能性があります」


 つまり、イーナミア王国の貴族が主流の組織だと仮定できた。

 ファルコは常に予想をしていくのだ。


 「・・・うん。俺もそう思う。しかし、まどろっこしいな。俺だったら、妹も、アインも殺す。それとネアルもな。迷わずやる。それで、勝っ手に王を名乗る。そうした方が楽だ。なのに、遠回しでネアルを据える気なんだよな。あくまでも、奴らは、自分が王にならないわけだ! 反乱をやりきる・・・その覚悟がない奴だな。でも反乱をしたわけだ。変な奴らだ・・・あと責任はどこにある。その組織・・・どうやって繋がってるんだ。まさか不満だけでか・・・そうだとしたら・・・」


 ジークは、そうだとしたら、組織としての繋がりも、それに共通意識も、驚くほど弱いぞと思った。

 フュンを中心としたアーリア王国の強固な絆に勝ちたい組織とは到底思えなかったのだ。

 こちらに勝ちたければ、これ以上の絆を持たねば勝てない。

 それは誰が見ても明らかなはず・・・。

 

 「「・・・・」」


 アインとフィアが、ジークの言葉にある迷わず殺すに黙っていた。

 でも、ファルコはさすがのジーク様だと唸っていた。

 冷静に自分が敵だとしたらと考えられる人間は強い。 

 ジークがここにいる事が、皆の安心感につながるはずだと思ったのだ。


 「まあいい。敵の事情は後回しだ。それでファルコ。王都アーリアを攻撃した理由はアインだな・・・それと壊滅が重要か。この国の象徴だもんな」

 「はい。そうです。アイン様を殺せば、王の継承は、ネアル様になるとでも、敵は思っている。と言う事は、大方の予想ですが、元イーナミア王国の貴族が敵の主な者。亡国の赤隊(メラロード)とか言っていましたよ。赤い鉢巻をした男がそう言っていました」


 これは確定情報だった。


 「亡国の赤隊(メラロード)・・・亡国か・・・」

 「はい。亡国の復活とでも思っているのでしょうね」

 「そうだね・・・よし。俺はここにいよう。君たちにやらせる」


 ジークは、ここで表に出ない事にした。

 子供たちに託したのであった。


 「え? ジーク様。僕らと一緒にでは・・・」

 「アイン。お前がやりなさい。次期王。この困難を突破しなければ、フュン君の次の王は任せられない。頑張りなさい」

 「い、え?」

 「困難を乗り越えて、君は王となる。大丈夫だ。周りには優秀な味方が多いようだ。自分の力と仲間の力を合わせる事を考えるんだ。いいね。アイン」

 「・・は、はい。頑張ります」


 アインが返事をした後、ジークは隣にいるフィアを見た。


 「よし。フィア。君もここに置く。俺はちょっと出る」

 「わかった。ジークお父さんはどこに行くの?」

 「城門を見て来る。ファルコ。南西だね。敵は」

 「はい。そうです」

 「じゃあ、そこに行ってくる。あとは君たちが話し合いをしなさい」


 ジークは去っていった。


 ◇


 南西にて。


 「ほう。まあまあいる」

 「ジーク様」「旦那」

 

 影にいたナシュアとフィックスが表に出てきた。

 もしかしたら王都内にも敵がいるかもしれないと、影を念のために潜ませていた。


 「援軍がちょこちょこやって来るのは確かだな、陣形がそんな感じだ・・・さて、リンドーアにどれほどの軍を持っているかを知った方がいいか・・・もしくは潜在的な兵を雇っているかもだな」

 「ジーク様。私がお嬢の所にいきましょうか。フィックスと一緒に」

 「それもありだな。とりあえず、見て来てほしいかな。ここは子供たちにまかせられそうだしな。裏側だけは、俺たちがやっておくか」


 影を使った戦いで、先手を取る。

 ジークは援護の方に回ろうとしていた。


 「旦那。敵に影っているんですかね」

 「そうだな。可能性はあるな・・・。光信号を禁じた。ユーナの考えは合っている。そうなると、影もいてもおかしくない。慎重に行こう」

 「わかりました。あまり深くは・・・」

 「ああ。わかってる。深くいけば刺激になるかもしれないからな。危険は冒すな。意外と影にならずの偵察がいいかもしれない」

 「うっす。いってきます。姉御いきましょう」

 「ええ。ジーク様。いってきます」

 「ああ。頼んだ」


 ナシュアとフィックスの二人が、リンドーアを調べに行ったのだ。



 ◇


 その移動中。

 ナシュアとフィックスが、警戒しながら馬で南西方面へ進むと。


 小さい小隊のような部隊を、遠くの方でちらほらと見かける。

 その中で、だいぶ遅れてやって来た小隊の中に。


 「あれは・・・ネアル!?」


 馬車に乗るネアルがいた。

 御者の隣にいるのも珍しい。

 夜目が聞くフィックスが見つけた。


 「まずいですね。まさかここでネアルを投入ですか・・・しかし両手が縛られているのですか?・・・あれはどうです。フィックス」


 ナシュアではやや夜目が効かないだから、フィックスに聞いた。


 「繋がっていますね。やはり捕まっている状態だ」

 

 二人がいち早くネアルたちの状態に気づいたのだ。


 「じゃあ、敵はリンドーアにお嬢たちを置いていった? しびれを切らしたから、ネアルだけ連れて前に出てきたのか」

 「姉御。急ぎましょう。リンドーアに」

 「はい」


 フィックスとナシュアは、敵に気付かれないように遠回りして、リンドーアを目指したのである。

 


 ◇


 その朝から、ファルコらは情報収集していた。

 薄暗い牢屋にて。


 「さて、あなたは、どこの誰ですかね」

 「・・・・」

 「話さないのですか? 良いのでしょうかね。命が助かるかの瀬戸際ですけども?」

 「・・・・」


 最初に捕まえた男に対して、意外と普通に迫ったのが、ファルコ。

 そして彼とは違う態度の女性が一人。


 「てめえ。いい加減にしろや。黙っとったら殺すぞ。われぇ」

 「・・あ・・は・・・え・・・」

 「はいなのか。それとも、いいえなのか。どっちだ。われぇい。ハッキリせんかい」

 

 凄まじい剣幕で迫ったのがフィアだった。

 普段怒る時は理性的なのに、今回ばかりは、実の母親の命が掛かっている。

 だから、取り繕う事をやめている。


 「殺すぞ。われぇ。あぁ!?」

 「・・・あ・・あ」


 泡を吹いて気絶しそうなくらいにビビっている男の前で、目の鋭いファルコが淡々と話す。


 「さて、どうしましょうかね。殺すのもいいですね。どうせ話してくれないのなら、ここに閉じ込めて、生かすのもお金がかかりますからね・・・それにこの状態・・・あまり生かす意味がないですね。こんな奴に消費する食費すらももったいないし。見張りの兵士殿の給料も虚しいものになってしまうな」


 別な観点から話すファルコの方が恐ろしい。


 「え・・え・・・ええ・・」


 味わいたくない脅しのサンドイッチ。

 迫力のある脅迫か。言葉攻めでの脅迫か。

 どちらを受け入れようとも、怖いものだった。


 「少し待ってください」


 遠くから見ていたアインが乗り込んできた。

 さすがに非人道的であると見たのだ。


 「この人が話さないのも事情が・・・・あれ・・・この人。見た事があるな・・・」


 アインは、敵の顔を見た。


 「・・・・・・・・・」


 敵もアインの顔を見て、目を伏せた。


 「・・・ドルドノー? これは学校の時かな。そうだ、一期生の名簿を見ましょう!」


 アインは相手の顔を見て思い出した。

 一期生の卒業名簿をメイドに持ってこさせた。


 五千名を一人ずつ見る。

 すると一人だけ顔が一致した。


 「シャオラ・ドルドノーだ!」 

 「・・・・」

 

 アインの発言直後に、男が目を伏せた。

 その瞬間をファルコとフィアが見逃さなかった。

 名前を知る。

 それは一歩目では大きいものだった。


 

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