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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変 アーリア大陸編

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第248話 異変のひとかけら

 「ほれ。あそこだぞ」


 ヘンリーのお爺さんが指差した。

 赤い鉢巻の男性が村をウロウロと歩いていた。

 目的がありそうな感じではなく、とにかくうろついている。

 村人には関心がなさそうだ。


 「本当だ。赤い鉢巻・・・ダセえ!」


 ジルバーンもそれに気付いた。


 「あの人を知りたいんだろ。儂が言ってやろう。お・・・」


 お爺さんが『おーい』と大声で言いそうになったので、ジルバーンが両手でお爺さんの口を封じた。


 「ん?」

 「お爺さん。ちょっと待ってください。なんか増えたっす・・・」


 赤い鉢巻の男性の反対側から、もう一人同じ赤い鉢巻の人がやってきた。

 同じものを着用する二人。

 衣装合わせにしては、ピンポイント過ぎてジルバーンが怪しんだ。


 「あれを追いかけるので、お爺さんは黙ってて。今は知らせないでほしいです」

 「・・・・」


 ヘンリーのお爺さんが頷いているので、手を離す。

 

 「どういうことだ」

 「あいつらが怪しいんで。俺らが、後をつけます。おい、ヘンリー。お前、影使えるか」

 「あれか。多少は出来る。でも、二時間は持たないな」

 「それだけあれば十分だろ。いくぞ」 

 「おお」


 二人が瞬時に消えると、ヘンリーのお爺さんがキョロキョロする。


 「あれ、ジルは? あれ、孫まで消えた!?」


 この出来事に唖然とするかと思ったが。


 「まあ、いいか」


 あっけらかんとしたお爺さんであった。

 細かい事は気にしないタイプの面白いお爺さんである。



 ◇


 赤い鉢巻の二人は、村を一周してから移動をし始めた。

 ラグゴ村から南に移動していく。

 しかもなかなかの速度である。


 「速いな」

 「ああ。でもジル。俺たちだったら、別に楽勝だよな」

 「まあな。あの程度ならな」


 超人の域にいる二人にとっては余裕。

 それでも、一般兵に比べたら結構速い。

 衣装を同じにしている二人組は、体を鍛えている者たちだった。

 敵かどうかはわからないが、警戒はしていた方がいい。

 武芸を嗜んでいるのは間違いないからだ。

 

 二人が移動した先。

 それは、ラグゴ村から南に一時間。

 森の中に砦の様な場所があったのだ。

 

 「は!? こんなのがここに?」 

 「ヘンリー。シっ。声が聞こえちまう」

 「悪い」


 赤い鉢巻の二人は、扉の向こうの人に話しかける。


 「我ら、亡国の赤隊(メラロード)。栄光をこの手に取り戻す」

 

 扉が開いて、赤い鉢巻の二人は入っていった。



 ジルバーンと、ヘンリーは、その砦の前で待機する。

 怪訝そうな顔つきのジルバーンから会話が始まる。


 「なんだ。今の?・・・クソ出せえ」

 「ジル、亡国の赤隊(メラロード)ってのは?」

 「知らんよ。ヘンリーこそ知らないのか。王宮の方でさ。情報とかないのか」

 「いいや、俺はまったく知らない。たぶん、王妃様の耳にも入っていないと思う」

 「そうか。王妃様と一緒のお前が知らないんだから、王宮も分からないか。う~ん。亡国の赤隊(メラロード)っか・・・」

 「なんかな。嫌だな。亡国って部分がさ」

 「ああ。嫌な感じがするぜ」


 亡国。それが何処を指している言葉なのか。

 直近でも、過去でも。

 今のアーリアにはよろしくない。

 不安が増す二人だった。

 

 「よし。入るぞ。影のまま突入するぞ」

 「ああ。いいぜ」


 ジルバーンとヘンリーは、砦の壁を蹴って登っていった。

 木の砦なので、容易く登れるのだ。



 ◇


 砦の上に潜入した二人は、中の様子に驚く。


 「兵士訓練所だ。これは・・・」


 物陰に隠れた影状態のジルバーンが小声で言った。


 「おい。ジル。あれ、鉄ってあれか」

 「ん?」

 「鍛冶だぜ。簡易だけど」

 「あ!? ほんとだ。鍛冶場か!」


 砦の隅に屋外型の鍛冶が出来る場所があった。

 トンテンカンと、職人が武器を鍛えていた。

 

 「あれか。僅かな鉄の移動。そして僅かな人の移動。そして、ラグゴ村。これがルライアちゃんの違和感の正体か!」


 ジルバーンの次にヘンリーが言う。


 「ここ。どれくらいいるんだ。なあ。ジル。結構人がいるぞ。それにあれ、あそこで指示を出してる」

 「どれ・・・聞くか」


 中央にいる数名の話に耳を傾けた。遠くから音を拾える二人の五感は優れている。


 ◇


 「いよいよだぞ。気を引き締めろ」

 「「「はっ」」」


 偉そうな口ぶりで会話する男は、数名に指示を出していた。


 「あの方は、ここには来ない。我々が各地に配置される予定だ」 

 「はい」

 「私たちはどこに」

 

 一名が聞いてきた。

 

 「最初はウルタス。そこから、移動だ。貴様らはもしかしたらミコットかもしれん。リンドーア組は既に準備が整っているからな」

 「「「わかりました」」」


 指示に具体性がないが、都市の名前がちらほら出て来る。

 何かをする気かもしれない。


 ◇


 「なんだあれ・・・クソ。もう少し近づいて聞きたいんだけど・・・そうだ。おいヘンリー。お前、あと影はどのくらいいけるんだ・・あ!?」

 「そうだな。もうすこ・・・」


 影状態だったヘンリーが、力切れを起こし始めていた。

 徐々に姿が見えてくる。

 まずいと思ったジルバーンが指摘しようとすると、ヘンリーの背後に、赤の鉢巻きを着けた武装した兵士がたまたまこちらにやってきた。


 「だ、誰だ。我らの証がない。鉢巻きがない。こいつらは、侵入者だ!」

 「しまった。へ、ヘンリー。躱せ」

 「え? やばっ」


 振り向きざまでも、事態を把握。

 敵の刃が腹に来ていた。

 身を捻じって、躱そうとするも、敵の振りが意外に鋭い。


 「ぐはっ・・・ちっ、しまった」


 ヘンリーが腹を斬られて、血が噴き出る。


 「クソ。俺が反応できてれば、竜爪!」

 

 反応が遅れてしまったジルバーンが鉄の糸を巧みに操って、目撃者を倒した。

 

 「逃げるぞ。今の声で気付かれた」

 「すまない。これはやばいかも。このままだと血がまずいわ・・・ジル、俺を置いてけ。お前だけでも逃げて、王妃様に知らせるんだ。こいつら危険だと思う。知らせを出せ」

 

 血の跡で追跡される。


 「馬鹿野郎。そういう自己犠牲系は嫌だ。勘弁してくれ。俺は絶対に置いてかねえ。急ぐぞ。肩を貸す」


 二人は緊急事態が国に迫っていることは想像できた。

 でも、ジルバーンは、自分だけ助かる道は選ばない。

 ヘンリーを捨てる事なんてありえない。

 いくら、ヘンリーが自分を捨てて、お前だけは助かれと言ってもだ。

 二人で逃げるしかないと思っている。


 協力して脱出する中で、敵の声が響く。


 「ここだ。殺されてる。追え。二人組だ。血を追え」


 偵察から一転して、逃走劇が始まった。



 ◇


 ラグゴ村へ行くように北へと向かった二人。

 だが途中で。


 「悪い。ジル。村はヤバい」 

 「ん? どうした。ヘンリー?」

 「頼む、迷惑を掛けたくねえ。この治療をするにも・・・奴らに・・・村を荒らされるかも」

 

 腹の傷を治すにも、どこかで休みたい。

 でも村に迷惑を掛けたくないし、爺ちゃんの負担になりたくない。

 その思いを受け取ったジルバーンは。


 「ああ。わかった。それじゃあ、一旦焼くか」


 傷口の止血に入った。


 「焼く?」

 「ああ。村で治療しねえなら。焼くしかねえ。そんなだらだら血を流しちゃまずい。手では出血を止められねえしな。だから焼いて止めるぞ。時間がねえ」

 「わかった。火はどうすんだ」

 「こいつだ。竜翼を温める! 一瞬でな。こいつでどうだ」


 木々に傷をつけて、最後に竜翼同士を何度もぶつけた。


 「高熱になったはず。これを押し当てる。すまねえ。やけどを起こすぞ」

 「わかった。たのむ!」

 「ああ。いくぞ」


 逃走中で、治療をする。

 走りながらで、傷に押し当てた。

 

 「ぐお。あっつ。おおおおおおお」

 「す。すまん。それで止まるはずだ。我慢してくれ」


 ジルバーンは治療も出来る万能型の戦士である。


 「でも、ちゃんとした所で治療をしたい・・・って、来た。やるか。戦うしかねえ」


 今の一瞬で走る速度が落ちた。

 敵が追い付いてきた。


 「数は・・・10。全力で行く。ヘンリーは無理すんな。そこにいろ」

 「いや。俺も」

 「休め。俺に任せろ」


 ジルバーンが1対10の戦いに入った。


 ◇


 「くそ。結構強い。なんだこいつら」

 「俺もやる」

 「下がってろ。傷のせいでまともに動かねえはず」

 「それでもだ。俺も、負けてられねえ」


 二人で全力で敵を斬る。

 ヘンリーの銀閃を援護するために、ジルバーンは、竜爪に持ち替えた。

 糸で、ヘンリーの行き先を指定。彼に攻撃が来ないように、敵を竜爪で止める。

 足を止めた敵を、ヘンリーが切り裂く。

 見事な連携を披露した。


 「これが、王妃様の剣技だ!」


 全身がバネのようにして動く剣技。

 それが、シルヴィアの剣技。

 相手を斬る際も、全身を使ったフルスイング系の攻撃が彼女の持ち味だ。

 レベッカよりも、全体重を移動させて、渾身の一振りをする。

 回避と攻撃に特化した剣技である。

 

 「ぐはっ。血が、あれ・・・・出て来てるか?」


 やけどが甘く、激しく動いたことで傷が開く。

 じんわりと血が出てきていた。

 膝をついたヘンリーの元に敵の刃が降り注ぐ。


 「血、出てるわ。やっぱ完全じゃなかったか・・・クソ、ヘンリー、無理すんな。俺の竜翼。間に合ええええ!!」


 竜爪と竜翼を切り替えて、ジルバーンは攻撃を仕掛けた。

 ナイフの部分で、敵を刺すようにして斬る。

 敵を三人切り裂いた。

 

 この見事な連携で、敵八を斬ると、数の不利を帳消しにしたのである。

 同数対決ならば、こちらが圧倒的だ。


 「やっば。目が霞んできたぞ。ジル。俺を置いて・・・」


 ジルバーンは竜爪に持ち替えた。


 「うっさい。それはもう言うな。俺は絶対に見捨てねえんだからな。それに言わんこっちゃない。その腹の傷。いいから下がれ。ヘンリー。俺がやる。青波竜撃(せいはりゅうげき)

 

 青波竜撃(せいはりゅうげき)

 十本の糸を上空に集めてから、それを一つずつバラバラに真下に揺らしながら落とす技。

 糸がバラバラに落ちてくるので敵に防御をさせない。


 マイマイの得意武器である竜爪。

 ジルバーンは彼女から技を習っている。

 ちなみにジルバーンは、火竜爪も扱える。

 

 「やったかって、何まだ音が聞こえる。やべえな。数が多いわ」


 聞こえてくる音が多い。

 ジルバーンは逃走を続けることを決断した。


 「・・・ジル・・・限界かも。っやべ・・・俺を置いてけ」

 「もうそれは言うなって言っただろ。この馬鹿野郎! 俺はお前を置いてかねえって言ってんだわ。もう決めてんの。俺の意思に変更なしだ!!!・・・・っておい。ヘンリー。ヘンリー!! しっかりしろ!」


 ヘンリーが気絶した。

 血が足りないのに、動いたからだった。


 「くそ。ここで無茶するから・・・よし、俺が運ぶ。絶対助けるからな」


 ヘンリーをおぶって、ジルバーンは全力で走った。

 ラグゴ村に戻るわけにはいかないので、わざと足を左に寄らせて、北西に向かったようにした。

 

 ラグゴ村を通り過ぎた形になったら、ジルバーンは、目指す位置をウルタスにはせずにそのまま北へ、シルリア山脈に向かったのだ。

 遠回りではあるが、ウルタスでは足が付きやすい。

 そして、シルリア山脈に入った理由はもう一つ。


 「ここからなら、足跡を消せる。この山々は俺たちの庭だ。逃げ切れる。それに・・・俺の実家に戻れば治療が出来るぜ。おい。ヘンリー。しっかりしろよ。絶対助けるからな」

 「・・・あ・・・ああ」

 「クソ。熱持ってんのか。早く連れていってやらねえと。待ってろよ。里まで行きゃあ。なんとかなる。あそこには・・・バケモン爺さんもいる。ハッシュさんがいるはずだ」


 ジルバーンは味方を捨てずに、逃げ切った。

 最後までヘンリーを救う事を諦めない。

 冷静、淡々とした性格。でも熱い心を持った男。

 それがジルバーン・リューゲン。

 トリックスターとして、次世代の知を司る場面が多い。

 皆にはひた隠しにする彼の本当の熱い姿だった。


 しかし、大切な情報を持っていた二人が、遠回りをしてしまった。

 シルリア山脈から里。

 そこでのヘンリーの回復を優先。

 その間に、事件は進んでいたのだ。

 彼らは異変に気付きながらも、止める事が出来なかった。


 アーリアの異変は徐々に王都アーリアにも届いていく。


 



 

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