第247話 帰郷
調査出立前。
ジルバーンは、ガイアの元に来ていた。
「ジョー。ここに来たのって、あれを取りに来たの?」
ガイアは職人らしくなって、前よりもハキハキ話せるようになった。
ジュリアンの影響を受けたらしく、彼女から影響を受けるにしては、好影響だ。
粗暴にならなくてよかった。
「ああ。そうよ。あれよ。ガイア、出来ているか?」
「うん・・まあ、出来たけど、こんなのでいいの?」
完成品を二つ提示した。
「ああ。サンキュ。これよ。これ。こいつらを作れるガイアは天才だな」
「・・・ジョー。使えるの。これ太陽の戦士の武器だよね」
「ああ。そうだぜ。太陽の戦士の武器だ!」
竜翼と竜爪。
ガイアの腕前だと二つとも完成させることが出来る。
「いや・・・だから・・・なんでジョーが」
「もう言っても良いと思うけど。俺さ。ジョーじゃないんだよね」
「へ?」
「ガイアには伝えておくわ。俺はジョー・モルゲストじゃなくてさ。ジルバーン・リューゲンなんだよね。悪い。騙してたみたいになってさ。任務だったのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ガイアの時が止まったので、ジルバーンが彼の目の前で手を振った。
「おい。ガイア?」
「リューゲン・・・・・え????・・・・リューゲン」
リューゲンを二回繰り返した。
さすがのガイアでも気付く。
十三騎士の人間だと。
「そうなんだよ。俺、ギルバーンの息子なの」
「うえええええええええええええ」
「ま。そういうことで、俺は任務に行くわ。よろしく!」
驚いているガイアを置き去りにして、ジルバーンは最初に王都アーリアに向かった。
◇
王都アーリア。
「王妃様。こちらを」
「珍しい。ユーナからですか」
「はい」
ジルバーンはユーナリアから貰った手紙をシルヴィアに手渡した。
「なんでしょうね。どれ・・・」
資料を読むと。
『物資の移動の調査をしたいので、ジルバーンを派遣します。そこで、ラグゴ村も調べておきたいので、ヘンリーをお貸しください』
と書いてあった。
「なるほど。ヘンリーをですか」
玉座の間の後ろにヘンリーがいた。
シルヴィアの弟子として、いつもそばで警護していたヘンリーは田舎の青年の雰囲気は消えて、立派な護衛兵になっていた。
「ヘンリー。どうです。いってもらえますか」
「はい。王妃様のご命令ならば」
「じゃあ。ジルについていってください」
「わかりました」
二人の会話の直後にジルバーンが軽い口調で言う。
「ヘンリーよろしく」
「ああ」
◇
二人はとりあえずラグゴ村に向かうに当たって、都市間で移動をしていた。
王都アーリアから南西へ。
リンドーアに到着して、そこから更に南西へ。
物の移動が変だとされているウルタスに到着した。
「ジル。何がおかしいんだ。俺の目には、全然変わらなく映るんだけど」
「そうだな。ヘンリーも、ウルタスには来たことがあるんだよな」
「ああ。何回かある。ラグゴ村で、何か買い物をしようとするなら、まずここだからな。特に、生活用品はこっちの方が優れてるからさ。便利よ」
「そうか。だよな。俺も何回かある。ババンよりは、来ないけどな・・・だよな。同じだよな。雰囲気は・・・」
ウルタスの都市の雰囲気は、変わらずである。
どこもかしこも昔と変わらずである。
二人の印象もそんな感じで一致していたのだ。
「それで、何が変なんだよ」
「ああ。鉄らしい。ここは鉄の移動があるみたいなんだ。それとババンの職人が金でこっちに移動しているとか・・・でも鍛冶師なんて、増えてねえよな。店もさ」
「ああ。お店の数も、そのままだと思うよ。俺の記憶でも・・・」
ヘンリーの記憶の中のウルタスと、今見えているウルタスの職人通りは、数が変わらない。
変化なしである。
「わからん!」
「中に入るか。ジル」
「そうだな。一通り見るか」
お店をとりあえず回る。
でも何も変わっていない。
鉄が増えていると言われているのに、売っている武器が増えているわけでもない。
通常通りの数の販売であった。
「わからん・・・なんだこれは」
「ジル。この問題、あの子が言っていたんだよな。変な子」
「変な子じゃない。ルライアちゃんだ。ちょっと。輸送関連になると話が熱くなる子だ」
「だからそれが変なんじゃ・・・」
と思うヘンリーの方が正しい。
ジルバーンは女性に甘いのである。
◇
異変ナシ。
その結論が出た二人はラグゴ村を目指した。
ラグゴ村は、ウルタスから西へ行きジャスル川に到着して、そこから船で真横に移動する。
すると、ラグゴの森に入るので、そこから更に方向を失わないように、西南西に進むと、辿り着く。
秘境中の秘境、それは森に囲まれている場所だからだ。
「ここか。ほとんど木と共に暮らしてんのかよ」
「そうだよ。それで、千くらいの人数の村だ」
「すくな!」
「そう言うなよ。俺も思ってるけどさ。あらためて言われると寂しくなるぜ」
「いや、俺らもそんなに変わりねえか。月の戦士もな」
「そうなのか」
「ああ。そんくらいだわ。三千くらいか」
「結構多いじゃねえか」
「大体だよ。大体。規模は変わらねえ」
「そうか」
村の規模は、里の規模と違いがない。
ジルバーンとヘンリーは似たような環境で育った。
「じゃあ、爺ちゃんに会いに行くわ」
「それがいい。この村に精通した人がいいもんな」
「ああ」
ヘンリーのお爺さんに会いに行った。
◇
「爺ちゃん。帰って来たよ」
「なに!?」
玄関の前でヘンリーが叫ぶと、家の奥から男性の声が聞こえた。
ドアを開けると同時に。
「おう! ヘンリー。とお!」
元気なお爺さんがドロップキックしてきた。
「ぐおっ」
ヘンリーの腹に突き刺さって、吹き飛んだ。
「なんだ。受け止めねえのか。ヘンリー!」
「わ、忘れてた。爺ちゃんの攻撃・・・」
「攻撃じゃないぞ。愛情だ」
「いらねえよ。そんな愛情!」
「嘘つけ。もらえてうれしいだろ。ガハハハ」
豪快な爺さんだなっと思うジルバーン。
これを改めて考えてみると、自分の親が変わり者だと思っていたが、そうでもないのかもと思い直し始めたのである。
特に親父の方は普通かもと思った。
「って。誰だこれ」
お爺さんは、隣にいたジルバーンに気付いた。
「俺はジルバーンです。まあ、ヘンリーとは友人みたいなもんです」
「そうかそうか。村の外で友人が出来たか。よかったよかった。ジルバーン君、まあ入ってくれ」
「うっす。失礼します。お邪魔します」
ジルバーンだけを入れて、家の扉がしまった。
「ちょっとまって。爺ちゃん。なんで俺を置いていくんだよ・・・おい。クソジジイ!」
という言葉の直後、扉が開いた。
「クソジジイじゃない!!!!」
ドロップキックが再び。
ヘンリーのお腹に突き刺さり、気絶した。
「仕方ない。口の悪い孫も家に入れてやるか」
「・・・・・・」
お爺さんに引きずられて、ヘンリーは実家に帰った。
◇
ヘンリーが気絶中。
ジルバーンとお爺さんの会話。
「ヘンリーのお爺さん。俺たち、お話を聞きに来たんすよ」
「儂のか。いいぞ。話せ」
「ええ。それが・・・・」
端的な爺さんとやりとりするのは結構楽。
ジルバーンは人付き合いが上手かった。
「それでどうです。ここらに人って流れてきますか」
「んんん。そうだな。たまに人が来るな。知らん人」
「知らない人ですか。どんなの?」
「赤い鉢巻をしているな」
「赤い鉢巻???」
「毎度顔が違うからな。何か同じ仕事でもしている集団かもしれんな」
「そうですか・・・それって、村のどこにいます」
「いや、たまに来るんだぞ。一人か二人でな」
あまり人の行き来がない村だから目立つ。
お爺さんはその人たちを覚えていた。
「そうですか。なるほど。気になるな・・・おい。ヘンリー。それ探しに行くぞ。起きろよ」
ジルバーンは、ヘンリーを起こそうとした。
「・・・あ・・・おお。ジルか。なんだ。俺はなにが・・・って爺ちゃん!?」
「おい。どこまで記憶がぶっ飛んでんだよ。お爺さんの家に帰って来ただろうが」
「・・・ああ。記憶が・・・やべえ。爺ちゃんのキックもらったか」
「思いっきりな」
「それのせいだな。たまにやべえのをもらって記憶が飛ぶ」
「やべえな。それ」
「やべえだろ。このクソジジイ」
この言葉は引き金である。
「クソジジイじゃない!」
「そう簡単にいくか!」
両腕をクロスさせて、お腹をガード。
ヘンリーはお爺さんを受け止めた。
「む。なかなかやる。孫よ」
「当り前だ。クソジジイ。毎度毎度寝かされてたまるか」
トンデモ祖父と、孫の戦いを見届けて、ジルバーンは調査に挑んだのであった。




