表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変の前触れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

570/741

第244話 大事件発生

 「な・・・ば、馬鹿を言うな。貴様。何を言っている! 不敬極まりないぞ。貴様がトゥーリーズを語るな。異国の王の分際で!」


 ミルスが反論をしてきた。


 「本当のことだ。ここで嘘を言ってもしょうがない。この国から追われたソルヴァンスの末裔。それが私。フュン・ロベルト・トゥーリーズである」

 「そ・・・ルヴァンスだと」


 その歴史は、ここにいる者ならば知っている。

 この国を追われた太陽の人の名だ。


 「そうだ。この国の王となるはずだった男ソルヴァンス。その末裔であるのがこの私だ」


 正統後継者になるはずだった男。

 その末裔がフュン・メイダルフィアである。


 「き、貴様が・・・トゥーリーズ・・・だと」

 「だから私は、ウーゴ王のお話を聞きたい。お気持ちを聞きたい。元を辿れば、同じ血を持つ者だからだ。私は、そこの出来損ないには話を聞いていない。それと貴様いい加減にしろ。貴様は黙っていろ。話し合いも碌に出来ない奴が、私とウーゴ王の邪魔をするな。この場に貴様は必要ない。ここから出ていけ」

 

 フュンはここで初めてミルスを見た。

 直接的な挑発をここで初めてして、じっくりと見つめる。

 言われたことのない誹謗中傷に、顔全体が怒りで震えていた。


 「私が出来損ないだと」

 「ああ、そうだ。いちいち話が進まんではないか。貴様が話す度に、ウーゴ王が困っておられる。だから邪魔だ。退()け」


 フュンは顎でどけろと合図を出した。

 その姿は傲慢にも見える。


 「な、なんだと。貴様」

 「私は同族であるウーゴ王の話を聞きたい。貴様のキンキンやかましい声を聞きたいわけじゃない。黙っていろ」

 

 冷たく言い放ち、一瞥した後に、フュンはウーゴにだけは優しく語り掛ける。


 「ウーゴ王。あなたは、同盟を考えてくれないだろうか」

 

 話をウーゴにさせる。

 それがこの場での最善手。

 フュンの外交手腕が爆発していた。


 「私は・・・・あなたは・・・本当にアーリア王は・・・トゥーリーズなのか」

 「そうです。今は亡き母。その人が太陽の人でありました」


 フュンの態度がガラリと変わる。

 ウーゴとの話になると穏やかな表情で、優しく会話をしてくれる。


 「た、太陽の人。そ、それは本当ですか」


 その雰囲気を感じ取り、ウーゴも少し子供っぽくて、柔らかい態度になった。


 「はい。そしてこの私も、太陽の人らしいです。自分ではわかりません。ですが、皆からはそう呼ばれます」

 「太陽の人・・・本当なのか・・す、凄い・・・いたんだ・・・」


 ウーゴも伝承は知っている。 

 太陽の人は、人々を照らす太陽だと。

 たしかにこの人物が部屋に入って来た瞬間、輝いていたのは確認が取れたが、この人物が太陽の人かどうかは分からない。

 でも嘘を言っているようには思えない。

 ウーゴは若いながらも、人を見極める目を持っていた。


 「世迷言を。貴様、いい加減にしろ。その口を閉じろ。嘘ばかりを言いおって。何がトゥーリーズだ。何が太陽の人だ。それ以上話せば、殺すぞ。嘘ばかりの偽物が! 何がアーリア王だ。こんな男、偽物に決まっている」

 「若造は黙っていろ。さっきから、いちいちやかましい」


 普段のフュンでは、あまり使う事のない刺々しい言葉たち。

 言いなれない言葉だから上手くいくか不安でもあるが、ミルスには刺さりまくっていた。

 顔が真っ赤で怒り狂う姿が面白いとフュンは内心で思っている。


 「それと貴様との会話に実りがない。大した言葉も並べられないしな。いいか、大宰相の分際で、私に話しかけてくるな! 私とウーゴ王の間に入るな! ここは王と王の会話だ。貴様程度がしゃしゃり出てくるな。黙れ!」


 フュンの一喝に、ミルスが止まる。

 言われたことのない侮辱の言葉の数々。

 彼の言葉を受け止める度量がなくて、一瞬置いてけぼりにあった。


 「ミルス・ジャルマ! 貴様は、この国の癌だ。この部屋に、いや・・・この国にいてはいけない男だ。国に、王より上がいてはいけない。王より上がいるのなら、それが王となるしかない。なのに、貴様は王のように、ここにいる。王でもないのにだ!」


 フュンの言葉はなぜか、大臣たちの方に突き刺さった。

 王でもない者を王のようにしてきた罪を感じ始めたのだ。


 「わ、私は大宰相だ。この国を仕切るのに十分な力を・・・」


 『持っている』の一言すらも、フュンは言わせない。

 被せるようにして威圧する。


 「だから、王ではない者が、国を仕切るのではないと言っている。王は王でなければならない」


 ハッキリ言いきった後、フュンは後ろの大臣らにも言い放つ気持ちで声を出す。


 「それにだ! だったらせめて、貴様が大宰相として、摂政として、王をお支えするのが筋というもの。なのに、なぜ貴様が国を決める。国家の指針を確定させている。そこは王が決めねばならん事だ!」

 「う、うるさい。私は大宰相だぞ」

 

 子供のような言い方をした事で、完全にフュンが上を取った瞬間が訪れた。


 「それがどうした。若造! 大宰相など、王の下にあるただの役職の一つだ! 王ではない。この場は王と王の話し合いの場だ。我儘な子供がいていい場所じゃないんだ。無駄に体だけが大人になってしまった。精神が子供の貴様は、出ていけ。家にでも帰って大人しくしていろ。子供は子供らしく留守番でもしていろ」


 ここに、フュン・メイダルフィアに口で勝つ者はいない。

 この場にミランダもジークもいないのだから、ここはフュンの独壇場になるしかない。

 ここでは当然のことなのだ!


 だから、口で勝てなければ。

 あとはもうやる事は一つである。


 「こ、殺せ。やれ。近衛兵! こ、こいつは、アーリア王なんかじゃない。偽物だったのだ。こんな男は消せ!!! 殺せええええええ」


 ミルス・ジャルマは、この部屋に兵を潜ませていた。

 部屋の両側にいる大臣の後ろ。

 王の後ろ。

 部屋の隠し部屋。

 総勢100の兵士がいた。

 200の内の100は兵士。

 でもそれは最初からフュンたちが知っている事。

 すでに数えている事だったのだ。


 敵が攻撃をしようと動き出している。

 しかしこんな事は、相手の考えを読まなくてもわかりきっている事。

 フュン・メイダルフィアは数々の修羅場を潜り抜けてきた化け物だ。

 人の心を読む怪物で、人の心を誘導するのだ。

 むしろ、この事態に追い込むようにして、口撃を展開してきた。


 「サブロウ! タイロー!」


 二人の名を呼んだ瞬間。

 耳が壊れるくらいの大きな音が鳴り。

 敵兵が出てくるよりも先に部屋に煙が充満した。

 黙々と出る煙は真っ黒で、何も見えない。

 部屋の中にいた人間は何が起きたか分からなかった。


 ◇


 煙が消えていくと、ミルス・ジャルマが一番最初に気付く。


 「い。いない!? な、王もいない。なに。連れ去られた!?」

 

 扉が開く音が聞こえて、前を向く。

 すると、フュンの右後ろにいた男が、ウーゴを抱えていた。


 「い、急げ。王を。王を取り戻せ。早く!」


 ミルスからの指示が出た。

 しかし、あちらは既に走り始めていて、こちらは、一歩どころか、十歩以上出遅れている。

 そんな近衛兵たちでは、追いつくはずがなかった。


 ◇


 音と煙が出る前。


 天井にいるサブロウとギルバーンとメイファ。

 

 「サブロウ殿。そろそろだと思います」


 ギルバーンがフュンのタイミングを見ていた。 

 演説に近い彼の独壇場の会話を聞き逃さないようにしていた。


 「そうかぞ。ギル、なんでわかるぞ」 

 「まあ、勘ですね」

 「私も思いますよ。サブロウ殿」

 「メイファもかぞ。じゃあ行こうかぞ。左をギル。右をメイファ。合図を任せるぞ。一発目はおいらがやるぞ」

 「「わかりました」」


 サブロウたちが煙玉と、音球の両方を投げていた。


 ◇


 天上から床に。

 彼らの弾が着弾してから、本格的に煙が出始める前。

 

 タイローはフュンに呼ばれて移動を開始。

 地上最速の動き。

 タイローは真っ直ぐ移動するだけなら、誰よりも速い。

 それはレベッカよりも速いのだ。

 彼女は戦闘の動きで速くて、横も縦も斜めに関して速いのである。


 「失礼します」


 小声で伝えた相手は、ウーゴ。

 彼を強奪したのはタイローであったのだ。

 

 座っている彼を持ち上げて、一瞬でフュンの元に行き、それをゼファーに渡す。

 だから、ミルスが見た時はゼファーがウーゴを持っていたのである。



 ◇


 部屋から出たフュン一行は、城の外に出ようと走っていた。


 「いやあ、なかなか上手くいきましたね。ゼファー」 

 「そうですな殿下」


 逃亡中の一行の真ん中に配置されているフュンとゼファー。

 並んで走っている。


 「まあね。あの時もこういう風に出来たらね。僕らの大切なゼクス様を失いませんでしたね」

 「そうですな。悔しかったですな。あの時は」

 「ええ。まったく。あの時は僕が人質だったから・・・情けない事ですね・もっと偉ければね」


 あの時も、本音を言えば暴れたかった。

 暴れ回って、サナリアの大臣たちを皆殺しにしてでも、ゼクスを助けたかった。

 それが二人の本音である。でも出来なかった。

 あの時に無茶をすれば、サナリアが消滅していたからだ。

 大元帥の地位に、いやせめて、辺境伯くらいの地位にいれば・・。

 もしかしたらゼクスは救えたのかもしれない。


 「でも、全部の決定権が、僕にある今。いやあ、何でも出来ますね。驚きですね」

 「ハハハ。そうですな。今は殿下が一番上ですからな。なんでもできますぞ」

 「ええ。ゼファーが一緒ならね。僕は、何でも出来るんですよ」

 「そうですな。我は、殿下の為ならば、命を懸けます」

 「ええ。それはいりません」

 「「ハハハハ」」


 なんで、ここで笑いあっているんだ。

 緊迫した場面での二人の肝っ玉の大きさに、一緒に走る仲間たちは驚いている。

 でもその笑える理由は一つ、この程度はまだ二人にとって死地じゃないのだ。

 これ以上は幾つも経験してきた。


 一行の隊列は。

 レベッカとダン。 

 フュンとゼファー。

 タイロー。

 この五人に加えて、背後。脇に影がいる。

 ギルバーン。メイファ。サブロウ。そして影10である。


 前から来る敵はレベッカとダンで瞬殺。 

 敵は銃を撃つ前に、斬られるという不思議体験をしていた。

 彼女と彼は風よりも速いのだ。

 神の子と、疾風である。


 そしてここに・・・


 ◇


 音球が鳴る直前まで。

 

 別室にいた仲間たちは大人しく待機していた。

 ウインド騎士団隊長たちと、マイマイ。ショーン。ルイルイ。シャーロット。カゲロイ。リアリス。

 それと、影10である。

 影は潜んでいるので、敵には数名が待機しているだけに見えている。


 監視役は、中に一人。外に一人。

 アーリア王国の人間たちが、皆静かにしていた事で、何も警戒なんてしていなかった。

 だが、音が鳴った瞬間。 

 皆立ち上がって、外に出始めた。

 それで呆気に取られてしまい、兵士は出遅れたのだ。


 移動中。

 ショーンが先頭を行くのだが、彼はフュンたちを追いかけようとした。

 玉座の間の方に向かおうとしたが、ここでシャーロットが話しかける。


 「ショーン!」

 「なんだべ?」

 「拙者。それだと駄目だと思うだよ。敵が玉座の間よりも、出入り口を固めると思うだよ。なんか外の音がこっちに来ていると思うだよ。入り口に集まってるかも・・・だから、拙者らが掃除しようだよ。フュン様の為にだよ」

 「・・・なるほど。脱出路が城の正面しかないからだべ」

 「そうだよ。やろうだよ」

 「わかったべ。おらたちは、そっちにいこう」


 ここで方向転換して、城の正面に向かった。

 

 ◇


 フュンたちは、出口まで進んでいくと、ショーンたちが先回りでいた。


 「あらま。もう片づいている。皆は追いかけてきたんじゃないのですね」


 フュンが気付くと、向こうも気付く。


 「フュン様だよ~。お~い」

 「シャニ!」

 「いこうだよ。逃げるだよ~」

 「ええ。いきますよ。西への道は他の影たちで出来ているはずです。急ぎますよ」


 フュンたちは、全員で城を脱出した。



 ◇


 こうして起きた事件が、世界に変革が起きるきっかけの最初の大事件。

 ウーゴ王強奪事件である。

 これが、世界が変わる衝撃の事件の全容である。


 ワルベント大陸全土では、『フュン・ロベルト・アーリア』が犯人であるとされた。

 アーリア大陸の王が犯人という前代未聞の事件だった。


 フュン・メイダルフィアが生み出す混沌が始まろうとしていた。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ