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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変の前触れ

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第240話 太陽王を巡る会議

 アーリア歴3月2日。


 首都リーズにて。

 会議は開かれた。

 苛立つミルスは、最初に聞く。

 

 「イバンク。どういうことだ」

 「なにがでしょうか」

 「遅すぎる。なぜここに未だに来ない。それに貴様とライブックだけここに来て。どういうことだ」


 怒りを隠しきれていない。

 ミルスのこめかみの血管が切れそうだった。


 「ええ。まだあちらが見学をしたいとのことで・・・」

 「なんだと。まだ??? いい加減にしろっと言ったのか!」

 「ええ、そうは思いますよ。でも、さすがにそんな事は言えませんわ。相手は王様ですよ」


 あくまでも、レガイア王国の立場で、ジェシカは話していた。

 ここではスラスラと話さないといけない。

 こんなところで返答に迷うようでは、この場の敵を騙せない。

 あくまでもフュンとは、秘密同盟なのだ。

 協力関係を知られてはいけない。


 「あちらは、シャッカルから移動はしない。そう約束してくれています。それに、捕虜もしっかり管理してあって、無事でありました。だから下手な刺激を与えなければ、無事にここでの交渉が出来るのです。それにです。あちらが連れていたのは、こちらの将軍と隊長ですよ。どうやって、こちらの言う事を聞けと強制できるのですか。私には無理です。もちろんライブックにもです」


 当然、言う事を聞けと強引に命令できるわけがない。

 なぜなら、将軍二人と偵察部隊長は敵の手にあるのだから。

 もっともらしい言い訳だった。


 「な!? いや、そうだとしても。早く連れてくるのは可能だろ」

 「ええ。でしたら、あなたがやってください。あちらの方は我儘なのです。連れてくるのも難しかったのですよ」

 「なんだと。原始人の分際で。我儘だと」

 「ええ。あれをしろ。これをしろと。招待するのも大変でした」

 「・・・くそ。ここに来たら、引きずり回してやる」


 青の手紙には、こう書かれていた。

 『とにかく、フュン・ロベルト・アーリアはとんでもない奴。我儘な奴なんだと思わせてくれ』

 会議の最中に、全体に周知せよとの指令だった。


 「イバンク。それでいつ来ると」

 「もう少し、ラーンローを見学して、美味しいものを食べてからこちらに来ると・・・」

 「ば・・・馬鹿な。何を暢気に!? ありえん。下が上に歯向かう気か」

 「下とは言えませんよ。ミルス殿。あちらは完全にシャッカルを治めているのです。それに捕虜が四万。これは確実におりましたわ」

 「・・・ちっ・・・なぜだ・・・なぜ負けているのだ」


 その理由は、ジェシカにも分からない。

 ここで分かるのはライブックのみだ。


 「シャッカル・・・攻めるべきか。今の交渉の最中に・・・」

 

 ミルスの言葉に、ライブックが返答する。


 「それはやめておいた方がいいかと」

 「なに。どうしてだ。ライブック!」

 「あちらは、四万の捕虜を無事に返すと言っているのです。現に四万の兵は普通に過ごせていました」

 「・・・そうか」

 「それを無視して、こちらから攻撃をする。ということは、四万の捕虜が死んでも良いとする事と同義です」

 「それはそうだ。勝てるのなら良いだろ」

 

 こいつは馬鹿か。

 と思ったのが、ジェシカとライブックだった。

 話しているライブックは顔の表情に気をつけていた。

 馬鹿にしたい気持ちを前に出してはいけない。


 「交渉の最中にシャッカルを攻めて勝つ。それでもいいでしょう。どうせ、弱小の大陸の兵どもです。殺しても、我々はなんとも思わない。ですが」


 敵を殺すのはいい。しかしその後がよろしくない。

 

 「その後。四万の捕虜を見逃したと思われるのは、あなた様ですぞ。よろしいのですか。その汚名を背負いながら、その座を維持するのですか。出来ますでしょうか。その名を汚すような行為をして、その大宰相の地位を維持することが・・・」


 ライブックは丁寧に説明した。 

 殺すのは良い。 

 ただ、味方も同時に殺すのである。

 捕虜を捨てるという判断は、味方殺しと等しい。

 その汚名を背負い生きる覚悟があるのなら、やりなさい。

 それがライブックの進言だった。


 「・・・そうか。だとしても、どうして交渉をしようとするものが遅い! ライブック。お前がいて、どういうことだ」

 「私には、彼らの気持ちはわかりません。ですが、あちらはあまりにもこちらの事情を知りませんからね。もしかしたら、こちらを知るために徐々にリーズに来ているのでは? 失礼のない位の知識を手に入れてから、向かっているのかもしれませんぞ」 

 「お。なるほど。そういうことか」

 「ええ。列車。工場。これらを知りませんでしたぞ」

 「は、さすがは原始人。知らんか」

 「ええ。まったく知りませんでした」


 実物を知らないだけで、フュンは言葉としては説明を受けていた。

 それは以前にタツロウが来てくれていた時に説明を受けているし、そもそもミュウとハリソンがいるので、話を聞いているのだ。

 でも実際には見ていないから、フュンは楽しかったのだ。

 旅も面白かったが、未知なるものに出会ったことで、意外とこの旅を満喫している。


 「ライブックの言う事が正しい気がするな」


 ライブックはこの時、驚愕していた。

 それは、この進言内容は事前にフュンが考えたからである。

 ライブックとジェシカは、協力関係になっていない。

 ライブックとフュンが裏で繋がっていることはジェシカは知らないのである。

 それで、ジェシカの言動パターンから、ミルスの言動パターンまで予測したフュンが、こう言えば、必ず納得するはずであると、事前に教えていたのだ。


 だから今、まさに上手くいっているのが恐ろしい。

 フュンは、会ってもいない人間をコントロールしたのだ。


 「で、それでいつ来るのじゃ。儂らもそんなに長くは待てないだろう」

 「ええ。それはそうです。なので、私がもう一度迎えに行く時に連れて来ようと思っていますが、どうでしょうか」


 グロッソの質問に答えたのは、ジェシカであった。

 彼女は聞かれた相手ではなく、王の隣にいるミルスを見る。


 「・・・それは、ライブックでいいだろ。イバンクは十分仕事をした」


 ミルスが答えた。


 「そうですか。では大人しくします」

 「ああ。ご苦労だった。もういい」

 「ミルス殿。これでいいのですね。後の私の責任は無しで」 

 「命令を守ったことにしよう」

 「はい」


 勅書の通りに仕事をした。

 これを言ってもらわねば、身の安全は確保されない。

 ジェシカは強かな意見を出して、身を引いていった。


 「それでは、ライブック。貴様が迎えに行け。すぐに連れてこい」

 「わかりました。そのようにします。見張りにしている兵にも連絡しておきます」

 「わかった。そうしろ。では解散だ」


 会議が終わった後。

 皆が廊下に出て、それぞれの職場に向かう途中。


 ジェシカは、グロッソを呼んだ。


 「グロッソ」

 「なんじゃ」

 「これを」

 「なんじゃ?」

 「渡されたので、あなたに渡します。では」


 手紙を渡したらすぐにジェシカは颯爽と消えていった。

 グロッソは封を開けて手紙を取り出す。

 書かれていた中身は。


 『到着早々。あなたにお会いしたい。よろしいですか』


 「なに!?」

 

 儂に会うだと。

 グロッソは疑問に思った。

 事前に会うなら、大宰相だろう。

 それを先に会うとはどういうことだ・・・そして。


 『あなたが一番上だと思いますので、よろしくお願いします』


 紙の裏側にそう書いてあった。


 「ほう。儂が一番・・・面白い男だ。会ってみようか」


 グロッソを焚きつけたのだ。

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