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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変の前触れ

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第238話 旅 一つ目の都市

 フュンは、シャッカルを出立する際に連れて行く仲間を選抜していた。


 ゼファー。タイロー。ギルバーン。メイファ。

 この四名を軸に。

 ウインド騎士団各隊長。それとルイルイ。

 ロベルトの戦士の重要人物を少々、マイマイ。ショーンなど。

 あとは、戦闘の強さを持つシャーロット、カゲロイにリアリスである。

 第二陣としてミシェルと共にシャッカルに来ていたので彼女らが間に合った。


 それと、最も重要なのがサブロウであった。


 ◇


 マクスベルに到着した後。

 『案内をするので、お時間をください』

 とジェシカに言われて、待機している時間。


 フュンは、マクスベル駅の出口にあった噴水広場のベンチに座り、サブロウを影で呼ぶ。


 「サブロウ。影は?」

 「おうぞ。50連れているぞ。光の方もだぞ」

 「よし。じゃあ、6配置で、他の周辺地域に分散で」

 「わかったぞ」

 「影への指令はこれ。レガイア王国では民を殺さない限りは何をしてもいいです。ここで働いても、何でもいいです。とにかく影には、ここで生きていてくださいと伝えてください。あと基本は情報収集です。クリス又はタイムに連絡を入れる。これを忘れない事と。それと、サイリン家。ジャルマ家の領土は破壊するかもしれない事を伝えておいて」

 「了解ぞ」

 「僕らは、この大陸の裏に潜むことも忘れない・・・いいですね」

 「わかっているぞ。まかせろぞ」

 「はい。この人たちは、僕らを虫けら以下だと思っている。奴隷にしてもいいとも思っていたでしょう。ええ、この人たちは。僕らを・・・・アーリア人の心を踏みつぶそうとした! じゃあ、その逆もまたありえるのかもしれないと。ひとまずは、一瞬だけでも味わってほしい。誰かに踏みにじられる恐怖を。そうすることで、二度としないと思ってほしい」


 誰かの心を踏みつぶす。

 従属させるとはそういう事だ。

 フュンの実体験から来る言葉だった。


 「ふっ。フュンじゃないみたいぞな」

 「いえいえ。僕は僕ですよ。ただ、僕の大切なものを・・・この人たちは、完全に破壊しようとしたんだ。その報いは同じ・・・いや、それは、ジャルマ家! 僕はとにかくここだけは潰す。必ずだ!」


 今まで淡々としていても、やはりフュンの心に怒りがあった。

 心の底に眠る強い怒りだった。


 『大切のもの。大切な人。それを壊そうとしてきた』

 

 その報いはなにかと考えると。

 フュンの結論は一つ、同じ事である。

 奴が大切にしている事を破壊する。

 ミルス・ジャルマの全てを奪っていく気なのだ。


 「よし。ではサブロウ。引き続き、僕の影に」

 「了解ぞ」


 サブロウの役目。それは護衛の影じゃない。

 暗躍するための切り札となる。影たちの統率である。

 ここからワルベント大陸に影が配置されていくのだ。

 

 ワルベント大陸は、その技術を過去に失った。

 サブロウたちは旧時代の技術を持つ者たちである。

 

 失われた技術に怯えろ。

 その恐ろしさを思い知れ。

 それが、昔アスタリスクの民を殺した報いだ。

 ワルベント大陸よ。

 今から起きる大戦乱。それをゆっくりと味わえ。

 アーリア大陸の真の力を思い知れ!!!


 それがフュンの裏の顔である。


 

 ◇


 表の顔のフュンはニコニコしている。

 ジェシカと同じ歩幅で歩き、会話を楽しみながら都市の様子を窺っていた。


 「でっかい建物ですね・・・これなんです?」

 「これは、新しい技術で、マンションですね。まだ実験段階ですから、六階建てにしています」

 「へえ。六も・・・こんな形でね」

 

 城じゃないのに大きい建物。

 フュンは面白いものを見たと満足していた。

 

 「こういう所でも、技術に差がありますね」 

 「そうですか」

 「ええ。差があります。しかし、これを埋める努力をせねば、追いつく努力をね」

 「追いつく?」

 「いや、こっちの話ですよ。ええ」


 見学の意味はある。

 フュンは行き当たりばったりでこちらに来たわけじゃない。

 自分たちはモノを知らない。世界を知らない

 百年遅れの技術は、何も武器や兵器だけじゃない。

 日常生活にも違いがあった

 この街灯や、建物。無線や列車。

 色々なところに違いがある。

 タツロウから、言葉でこういう情報を教えられていても、実物を実際に見るとでは全く違う景色に見えた。


 しかし、フュンは差があっても悲観はしていない。

 なぜなら、技術や物なんていつでも追いつく。

 自分たちに追いかける意思があれば、絶対に追いつく。

 そう思っている。

 常に工夫をしてきた人生だった。

 だから、また工夫すればいいだけ。

 フュンはいつでも前向きなのだ。

 

 「さてさて、他も回りましょう。楽しみですね」

 「はい。わかりました。いきましょうか」


 ◇


 マクスベルは標準的な大都市らしい。

 ワルベント大陸の南地域最大クラスの市町村であるけども、標準らしいのだ。

 周辺の村や町を一括管理している。


 街中には、至る所に商人がいて、そういう周辺地域の農作物を販売していたり、逆にお店の物を買っていたりする。

 物資管理は、都市がするというよりも商人たちがコントロールしているようだ。

 だからこそ、商人たちが物資を渋っている面があるのだそう。

 戦時中の現在。

 物価の高騰に加えて、食糧などの需要は、後方地帯よりも前線地帯にある。

 だから、商人たちはここで買い付けを行い。そちらへ持っていって、高く売りつけていたりするのだ。

 なのでこちらで販売する商人も物を渋る傾向がある。

 売らないということで、お金を吊り上げて、儲けようとしているのだ。

 そもそも大事な食糧は国がコントロールすれば、こんな価格高騰などは起きないのだが、この国は、商人たちで独自でやっているようだ。

 つまり、ジャルマがそこを重要視していない事が分かる。


 「ということはですね。戦争できれば良し。あとは民がどうなろうが知ったこっちゃないという事だ」

 

 国が、国民の生活を視野に入れていない。

 それは、国の方針として最悪だろうとフュンは思った。

 民が食べられなくなるほどに戦争するなど悪手すぎる。


 「マクスベルは・・・ジェシカさんの領土ですか?」 

 「いいえ。違います。全ての主要都市はジャルマです」

 「・・・王ではなく?」

 「はい」

 「そうですか。やはり歪だな」


 主要都市を全て押さえるという事は富の独占。

 それはもう王ではないか。

 フュンは、少しずつレガイア王国の情報を頭に入れこんでいった。


 「ジェシカさん。一旦宿でもいいですか。そこでお話をしたいです」

 「え。ええ。いいですよ」

 

 ◇


 マクスベルの宿。

 

 「ジェシカさん。本来ここは、ジェシカさんの領土でしたか?」

 「え? な、なぜそれを・・・」


 知るわけない情報をなぜ知っている。

 ジェシカは驚いていた。


 「いや、アルミース村。あそこがあなたの家のものなら、ここも地理的にイバンク家のものかと思いましてね。想像です」

 「な、なるほど。そ、そうですね。四十年前。私が生まれたばかりの頃に奪われました」

 「奪われた?」

 「はい。パルス・ジャルマにです」

 「・・・なるほど。前大宰相ですね」

 「そうです」


 敵情を知る。

 フュンの旅の目的の一つだ。


 「まさか。そのパルスという男が、この国をいいようにしてきた?」

 「いえ。その前から、ジャルマ一強です。ですが、その男の代で、権力が爆発しています。あれは、すでにこの国の王でした」

 「・・・なるほど。あなたはどうやって生きて?」

 「父がですね。なんとか下に潜り込んで生きていました」

 「なるほど」


 意に反しても、敵に下った。

 ジェシカの父もまた優秀な人物だと推察できる。


 「それで、お父様は何かを言っていましたか。僕なら大切な娘に何かを伝えているはずだ」

 「ええ。負けるなと。それだけを言い残して死にましたね」

 「・・・なるほど。負けるな。そうですか・・・」

 

 ジェシカ・イバンクが優秀な理由。

 それは若くして当主を継いだからじゃない。

 この父の意思を継いだからだと、フュンは想像していた。


 「あの・・・今、地図を持っていますか?」

 「え。ワルベントのですか」

 「はい」 

 「こちらにありますよ。ほら。こちら側です」

 「おお。いい宿なんですね」


 宿の壁に地図があった。

 現在地であるマクスベルが赤く示されていた。


 「あなたの領土はどこ?」

 「リーズを中心に南全体。そしてそれを半分に割って西側が私で、東側がサイリンです」

 「つまり、三分の一があなた」

 「いえ。これだと四分の一ですね」


 三宰相だが、領土支配は三分の一じゃない。

 ここでもジャルマ一強なのだ。


 「リーズの北から全部がジャルマ。そしてすべての大都市がジャルマなので、ほとんどジャルマになります」 

 「なるほど・・・・よし。これだと、大戦乱に突入してしまった場合。僕が乱した場合ですね」

 「だ、大戦乱ですか?」

 「はい。あなたは、マクスベルを奪ってください。次にラーンローもです」

 「え? 奪うですって?」

 「はい。そしたらここ、ピーストゥーはあえて、サイリンに取らせてください。ここは無視でいいです。それにここは価値が薄いと思いますね」

 「いえ。そこは大都市でも、かなりの兵士がいますよ。それに工場がある場所で。あなた方が攻めてきているから更に他の都市の物資が運ばれていて」

 「ええ、いいです。地理上ね。ここにそんなに兵がいてもですよ。何の意味も持たない。ラーンロー。マクスベル。この二都市をあなたがもらえたら、そこを取られても問題がありません。そこに、サイリンを閉じ込めればいいだけです」

 「は、はぁ」


 重要な気がするのだが。

 そこは、無線連絡の中継都市でもあるのに。

 ジェシカは首を捻っていた。


 「それで、無線というのはチャンネルがあるんですよね」

 「あります」

 「秘密回線ってあります」

 「ありますね。作った際に設定できます」

 「それじゃあ、アルミース村とシャッカル。ここに作ってもらえます」

 「え、はい。いいですよ」

 「それで、マクスベルを奪えた時にはそのチャンネルで僕らと連携をお願いします」 

 「わかりました。やりましょう」


 この男には何が見えているの。

 ジェシカはそう思った。


 


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