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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 世界異変の前触れ

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第232話 レガイア王国に激震が走る

 アーリア歴5年1月上旬。


 リナの下で働いている仲良し二人は、書類に埋もれていた。


 「うわん。終わらないよぉん」


 キリが泣いている横で、ルライアは黙々と資料を見て、何かメモを取っていた。


 「どうしよう。これも・・・それも・・・あれも・・・終わらない~」


 キリが嘆いている横で、ルライアはメモを書き終えたと万歳した。


 「出来た!!!」

 「ん、どうしたの? ル~ちゃん」

 「うん! 出来た!!!」

 「え? まだ終わってないよ」

 「キリちゃん、これ見て変なんだよ」

 「え? うん。見るよ」


 キリが、ルライアが書いたメモを見る。


 「なにこれ? 鉄の移動について???」


 メモ用紙には、題名がついていた。


 「うん。これさ。微妙に南西側にも鉄が移動してる。ほら、ここのロベルトに鉄需要があるのは分かるけどさ。ここのウルタスとミコット辺りの鉄需要も微増しているんだよね。ほんとに極僅かなんだけど。しかも、二大国の戦いが終わってから微増している。なんでだろ」

 「え? ちょっと」

  

 キリが、メモ用紙から、ルライアの顔の方を見た。


 「なに?」

 

 彼女に見つめられて、ルライアは不思議そうな顔をした。

 

 「ねえ。なんで、こっちの資料を片付けようとしないの。これはただの物の移動でしょ」

 「うん」

 「私たち。今。計算してたよ」

 「え? 何のだっけ」

 「ちょっと。ル~ちゃん!!! 私たち、輸送の話してないよ。計算の話だと、次の武闘大会の運営費の話だよ」

 「え・・・そうだっけ」

 「もう!!!!! ちゃんと仕事して!!!」


 キリの怒りを目の当たりにしても、ルライアはへっちゃらだった。

 輸送関連の事を一つ。

 趣味として計算できたからである。


 しかし、このルライアの気づきは、とても大切な事だった。

 これがのちに起こる大事件の前兆だとは、誰も思わないだろう。

 それも彼女らの上司たちでも気づきはしない事だ。




 ◇



 アーリア歴5年1月28日。

 この日衝撃的な展開となる。

 ワルベント大陸に激震が走った日だ。



 首都リーズにとんでもない連絡が入る。

 無線でのやり取りもおかしい点だらけであった。

 とにかく両方の兵士は慌てていた。


 「こちら、ラーンロー。ラーンロー。シャッカルからの緊急連絡が入りました。ただし、この連絡は、この国の連絡じゃありません」

 「こちら、リーズ。何を言っている? ラーンロー?」

 

 ラーンローとは、リーズまでの無線中継点の都市。

 下から順にワルベント大陸の無線中継点を紹介すると。

 

 シャッカル。

 マクスベル。

 ピーストゥー。

 ラーンロー。

 そしてリーズとなる。

 これが南から中央までの無線連絡の中継だ。


 「ラーンローも、確認が取れず。定かではないのですが、シャッカルが占領されました」

 「は!?」


 あまりの出来事に無線のやり取りでは使わない言葉で聞き返してしまった。


 「敵による占領事件が起きました。その連絡がピーストゥーから来ました」

 「いや・・え?」

 「私共も、その反応をしましたが・・・どうやら本当の事の様で、緊急でミルス様たちにお伝えください。こちらの連絡はそれと」

 「あ・・・ま、待って。め、メモをする」


 あまりの出来事にメモをすることを忘れていた。

 もう一度最初から聞く。


 「では最初から整理しますと、シャッカルが占領されました。敵はアーリア大陸だということです」


 アーリア大陸からの襲撃。

 寝耳に水である。


 「そして、この無線は敵からの情報なんです。敵からの無線が来たのです。それがマクスベルに入って、その相手がアーリア大陸のアーリア王国の王。フュン・ロベルト・アーリアからの連絡だということです」

 「は? え?」

 「これに疑問を持ってはいけません。私どもも正確に伝えていますが、主観が入ると、正確にお伝え出来ません」


 占領なんて、出来るわけないだろ。

 こう思ったら、どこかで無線が正確に伝わらない。

 ラーンローの無線兵の心持ちは、プロであった。

 だが、ラーンローの兵も慌てていた。

 話が最初に戻ったりして、整理がついていない話し方になっていたので、その慌て具合で分かるのだ。


 「そして、詳しい説明をします。シャッカルが占領されました。そして、アーリア王が連絡を入れてきました。内容は、捕虜の解放を基準にした交渉だそうです。ですから、交渉人をこちらに寄越して欲しいとの事。それかシャッカルとマクスベル間に置いての無線同士での交渉でも良いとの事です。これを、ミルス様たちにお伝えください。緊急です」

 「わ。わかった・・・必ず伝える」

 「はい。折り返しの連絡を待っています。あちらにも折り返し早く伝えねばなりません」


 シャッカルに折り返しの連絡を入れなければ、この事態を収める事は出来ないのである。


 「わかった。暫しの間。待っていてくれ。必ず折り返しを出す」


 ここから、重要人物たちの緊急招集となった。



 ◇


 レガイア王国の重要人物たちだけが、王の前に集まる。


 「何の事だ・・・どういう事だ」


 ミルスの言葉に返すのは、報告したマキシマム。

 

 「それが、そういう事です。その連絡が入りました」

 「はぁ。馬鹿な?・・・」


 ミルスは信じられないと、返事をした。


 「それで、何か要求は?」


 最も冷静なのは、ジェシカ・イバンクだった。

 淡々と聞いた。

 

 「はい。捕虜の解放を条件に、交渉して欲しいと」

 「交渉ですか。具体的な内容は?」

 「それは分かりません・・・」

 「そこは聞いておきなさいよ・・・まあ、兵士も慌てていたのね」

 

 内容は分からずであった。


 「ライブック。あなたはどう思いますか。外務大臣なのです。そういうことが得意でしょう」


 ジェシカが聞いた。話がミルスを抜いて進んでいった。


 「私だったら・・・停戦が主だと思います」

 「停戦」

 「はい。大陸間での戦いを辞めたい。これだと思いますね。捕虜の解放条件は・・・」

 「なるほど。強大な我々と、延々と戦い続けるのは愚策。そう見積もっていると・・そのフュン・ロベルト・アーリアという男は・・・」

 「はい。私だったらそう考えるかと」


 ライブックの答えに、納得しているのはジェシカだけだった。

 他の者たちは、そもそも占領されたことを信じていなかった。


 そして、ライブックは。

 『アーリア王』『フュン・ロベルト・アーリア』

 この二つに聞き覚えがないから、話を完全に信用できなかった。

 当然だった。

 彼が知っているのは大元帥フュン・メイダルフィア。もしくは太陽の人、フュン・ロベルト・トゥーリーズだけだったからだ。

 

 でも、その名にフュンとついているのならば、その人が太陽の人であるのだと考えを変えて。

 ここは、援護するべきであると、進言内容をフュン寄りに考えて、言葉を発していた。

 この時に、この場にライブックがいて助かった。 

 そしてしかも優秀な男でよかった。

 それがアーリア戦記に書かれている内容である。

 


 「それで、ミルス殿。どうするのです。私とライブックしか発言してませんけど」


 停止しているミルスに言った。

 嫌味な発言だが、嫌味ぽくなく言っていた。

 そこが、ジェシカの口が上手い所である。


 「あ。ああ。そうだな。しかし。それが本当のことだと」

 「儂も信用できんぞ」


 ミルスに続いたのは、グロッソ・サイリン。

 目の敵にしているジャルマ家と、同意見になるのは珍しかった。


 「でも、あなたたち。その男の要求を飲まないとなると。どうなるかお分かり?」

 「なんじゃ。ジェシカ」

 「グロッソ。気持ちだけで事が上手くいくのなら、あなたの今は、その立場じゃなくて?」

 

 そう気持ちだけで言えば、あなたはあのミルスの立ち位置にいるでしょ。

 凄く嫌味な言い方である。

 今度は嫌味攻撃を明確にした。


 「ぐっ・・・ジェシカ・・・小娘が」

 「怒っても無駄よ。それで、私はすぐさま交渉に入った方が良いと思うわ」

 「なぜだ。イバンク!」


 ミルスが聞いた。


 「ええ。占領されたのでしょ。という事は、現在のシャッカルの二万の兵は捕まっているか、殺されている。そうだとするとね。あちらに、二万を倒す力があると仮定できるわ・・・いい。ここで大事なのはマクスベル。あそこの兵も二万よ。そしたら、マクスベルも占領されちゃうでしょ。あちらは背後を心配しなくていいのよ。全軍で進軍出来るわ。シャッカルは南の端ですもの」

 「「「!?」」」


 ライブックとマキシマム以外が驚く。

 気付いていたのは、三人だけだった。


 「だから、すぐに交渉の連絡を入れないと、あっちはこちらに向かって進軍してくるって事よ。いいの? 私たちは、シャルノーで休戦状態に入ってないのよ。じゃあ、このままだと二正面。それでも戦う気?」

 「・・・それは・・・」


 ジェシカは次々と意見を言って来た。


 「マクスベル。シャッカル。ここ二つ。防衛設備が完璧じゃないわ。特にマクスベルの方がよくない。だって、攻撃が想定される場所じゃないもの。私たちの領土ですからね。だから敵が来たら、負けが確定するわよ」

 

 ジェシカの意見は、正しいものだった。


 「だからね。急がないとね。駄目よ」

 「・・・たしかに」

 「でしょ。だから進軍を止める意味合いで、交渉すると返答した方が無難じゃなくて。そしたら、敵がシャッカルで止まるわ。その間にせめてピーストゥー辺りに軍を配備しておけば、万が一でも敵が進軍をしてきても止められるわよ。どう?」

 「なるほど」


 ジェシカ・イバンク。

 天才的な戦略家である。

 彼女が大宰相であったのなら、レガイア王国のこの時代は別次元のものであったと言われている。


 「さあ、決めないといけない事はたくさんあるわよ。急ぎ連絡を入れるためにもね」

  

 そう、この年から、世界には異変が始まっていたのだ。

 太陽王フュン・ロベルト・アーリアが動くことによって・・・・。

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