第231話 必ずアーリアを守ってみせましょう
ラーゼ市街地戦争。
それは二度に渡るアーリア大陸での大決戦の名称。
この戦争は、フュンたちにとっては、大決戦で運命の分かれ道でもあった。
それは、ここで船を入手しなければならない事。
それと、究極武装歩兵である。
この二つが上手く機能するかどうかが重要な事だった。
そして見事に上手くいったことで、作戦は第三段階にまで進める事が出来る。
第二次ラーゼ市街地戦争で捕らえる事になったのは、一万と少しの兵。
二つ合わせると二万弱の人間が捕まったことになる。
この内で数千は、捕虜というよりも、食客のような形になっていた。
それは、技術者たちは優遇されたのだ。
この結果、絆されていった者が多数となり、協力関係になっていたのだ。
フュンの巧みな話術に、アーリアの接待が良かったらしい。
アーリア料理。
これが極めて美味しいらしく、ワルベントでは食べられないようなご馳走が目の前に運ばれてくるのだ。
彼らの大陸では、上層部の人間くらいしか美味しい食べ物が食べられないらしい。
戦争することが当たり前で、いつも物資も厳しく、食糧事情も厳しく、物価も高騰気味。
その点。
アーリア大陸は戦争が終わり、サナリアの食糧事情が大陸を支えている状況なので、そこらへんは豊かである。
武器などの性能に差があろうとも、最も肝心な食事は、アーリアが上であった。
◇
アーリア歴4年9月11日
ロベルトの大会議室。
ここに皆を集結させた。
王妃や、ウィルベルやサティなどの幹部もである。
アーリア大陸で、フュンが行った最後の作戦会議であるからだ。
「フュン」
「ええ。シルヴィア。どうしました」
「どうして皆を?」
「はい。ここからですね。僕があちらに行きます。なので、最後に、色々と残しておこうとね」
「え?」
シルヴィアは、最後の言葉も気になるが、あちらに行くとの言葉の方が気になった。
「はい。ワルベント大陸に乗り込みます」
「いや、あなたが直接ですか」
「もちろん。だからですね。アイン!」
「は、はい」
初めてアインが参加した会議。
それが、ロベルト大会議であった。
「僕が死亡した場合。あなたが王です。よいですね」
「な!? え・・・」
「よいですね」
フュンの顔がいつになく真剣だった。
いつもの笑顔は一切見られない。
「・・・わかりました。アーリア王」
「はい。よろしい。僕が死亡した場合の引き継ぎは、シルヴィア。あなたに頼みます」
「フュン・・・あなた」
死ぬ気ですか。
と聞かなくても、シルヴィアの言いたい事を理解していた。
「死にませんよ。僕は、アーリアを守るためには死んでられません。僕が死んだら。誰が大陸を守ってくれますか?」
「・・・たしかに」
「これは、儀式のようなもの。念のためみたいなものです。僕だって、譲位するなら、生きて渡したいですもん。ハハハ」
エイナルフ皇帝陛下のように。
あなたが勝手に渡してきたように。
自分も我が子が王になるのを見たい。
フュンの思いはしっかりと、シルヴィアとアインの二人に伝わった。
「わかりました。安心しましたよ」
「ええ。大丈夫。僕は生きてここに帰ってきます」
フュンの言葉に安心したのは、この場にいた全員となった。
緊張感から解放された『ホッ』としたため息もちらほらと聞こえてくる。
「それじゃあ、指示を出します。僕と共にあちらに行くことになるのは、ゼファー」
「はっ。殿下」
「あなたには苦労を掛けますね。いいですか。また遠くに行くことになりますよ。サナリアから帝国よりもね」
「ええ。我に異論などあるわけがない。我は最後まで共にいます」
「ありがとう。いきましょうか。また、敵の中枢へ」
「はい」
英雄の半身ゼファーは当然についていく事になる。
「それに伴って、ゼファー軍全軍。それとタイム。リアリス。カゲロイもです。ミシェルは置いていきます。いいですか」
「「「わかりました」」」
ミシェルが立ち上がった。
「なぜ。フュン様。私は・・・」
「あなたは、ここに残って欲しい」
「いや、でも」
「残るって言ってもロベルトで、次の部隊としてですね。来てほしいから、今回はここにいて欲しいだけなんですよね。要は、第二陣を任せたいんですよ」
「第二陣?」
「ええ。今、僕といくのは第一陣となります。僕の計画が上手くいけば、そんな感じになると思うんですよね」
「・・・は、はあ。私が次という事ですか」
「ええ。それにあなたは調整も上手いので、頼みたい。僕らの主力があちらに行きますので、その懸け橋になるには、これまた強い人をここに置きたいんですよ。こうなると、あなたしかいない。それに第二陣はすぐだと思います。それとシャニもいますので、手綱を握っていて欲しい。サナさんと共にお願いします」
「わかりました。私におまかせを」
「ええ。頼みます」
ミシェルは、第二陣用の将であった。
彼女が率いるのはサナ、シャニの双方の将である。
「次、レベッカ」
「はい。父上」
「あなたも連れて行きます。ウインド騎士団もです。四隊長もいいですか」
「「「「はっ。アーリア王」」」」
ウインド騎士団全てを連れていく事になっていた。
「レベッカ。あなたたちにも究極武装歩兵を装備させます。いいですね」
「もちろんです。あれが、私たちにも配備されるのなら、あっという間に敵を蹴散らします」
「ええ。お願いする時が来るでしょう」
「はい。父上」
フュンは次々と指示を出していく。
「では、次。ロベルトの戦士。あなたたちもです。ウインド騎士団と同じく、装備も込みであちらに行きます。タイローお願いします」
「はい、アーリア王」
三軍団をそのままワルベント大陸へ。
アーリアの総力戦となっていた。
「そこで、こうなるとアーリアに残された側が、かなり厳しくなります。ぽっかり戦力が抜ける形になります。そこで気を引き締める面でも、まず北側の防衛強化をしなければなりません。特に、ルコットとロベルト。この二つの都市に兵を配置せねばならない」
フュンはここで、もしものための防衛の戦力を投入する。
「アイス! デュランダル!」
「「はい」」
「アイス。あなたはルコットの将です。デュラ。あなたはロベルトの将です」
「「わかりました」」
「ええ。二人にしか頼めない。たぶん、ここを死守できるのは君たちだけだ。守り切って欲しい。僕が帰って来るまでの間は、ここをお願いしたい」
「はい。もちろんです」
「了解です。王」
アイスとデュランダルは承諾した。
太陽がいつでも帰って来られるように、大陸の北西と北東の港を守護する。
だから、この二人が、太陽の双璧と呼ばれたのだ。
「大体、軍の配置はこんな感じで、ビンジャー卿」
「なんでしょうか」
「中央を頼みます。あなたが重鎮として、そこにいてくれれば、アーリアは安泰かと」
「やはり。私もそちらにはいけないと」
ワルベントに行ってみたかった。
ネアルも冒険心の強い男だった。
「いや、本当はですよ。こっちに欲しいです。でも、シルヴィアのみで王都を守り、アーリア大陸を見守るのは厳しい。ビンジャー卿の力が、アーリア王国のど真ん中に欲しいんですよね」
「・・・ええ、わかりました。私がなんとかしましょう」
「はい。大将軍の地位が、ビンジャー卿しかいなくなるので、厳しいですけどね」
「おまかせを。それで厳しくなろうとも。王からの命令ですから、私は絶対に守ってみせますよ」
「ありがとうございます。助かりますね」
「アーリア王。あなたの方が偉いのですよ。私に敬語は」
「いえいえ。僕、偉いから、こんな感じでも、誰も怒らないでしょ!」
とフュンが皆の顔を見ると、ちょっと怒っていた。
威厳を保ってくれとの視線だと感じる。
「あれ。駄目だったか」
苦笑いのフュンは話を続ける。
「あとは、前と同じでありまして。内政関連もウィルベル様を相談役としてリナ様と・・・」
内政関連は前回とほぼ同じの配置であった。
配置換えは軍事関連のみであった。
「ふぅ。では、大体の配置は完了かな」
「フュン。あなたはあちらでどういう動きをするのですか。私は聞かされていません」
「そうですね。僕の計画ですね」
「はい」
フュンは、会議の最後に作戦を発表した。
「僕は、外交してきます」
「は?」
「その前に、まずはシャッカルにいきますね。ここです」
世界地図を壁に広げたフュンは全体に説明し始めた。
「ここを落とします。タツロウさんが言うには、ここは常時兵がいたとしても二万強ぐらいが最大との事でして。ならば、ここを落とすのは簡単だろうと推測します。それでこの軍事拠点は、敵の状況によって、守りやすくなっています。艦隊をここに呼べない。今の戦争状態で、南の端を気にするとは思えないので、ここを占領します。逆侵攻の足掛かりのように見せます。実際はしません」
大胆な計画に皆の口が開いたままだった。
「奪ったら、ここから無線というものを使って呼び掛けます。僕らはアーリア大陸から来た者だ。交渉に応じて欲しいとね」
「ん? 何の交渉をするつもりですか」
「停戦です」
「停戦?」
「無期限停戦を仕掛けてみます。しかし、それが無理でもいい。手はいくらでもあるけど、これが最初の段階の攻撃です」
停戦交渉が最初の攻撃。
フュンが言った意味を理解しているのは、この場の端の席にいるユーナリアだけだった。
「・・・停戦・・・でも、何を材料に・・・フュン」
「ええ。僕らは、シャッカルでの勝利。それと二万弱の捕虜ですね。これが材料です」
「な!? それらの解放ですか」
「はい。将二人。タツロウさん。そして兵。これはかなり貴重だと思いますね。今のあちらの前線の現状で、彼らを失うのは痛いはずだ」
「たしかに・・・」
シルヴィアも納得していた。
「でも、アーリア王。上手くいくのですか。連れて行く方法など・・・」
アインが当然の質問をした。
「大丈夫。僕らは逆に奪いました」
「奪った?」
「これですよ。銃です」
「え?」
「大体、二万強。船にもあったのを合わせると、四万くらい。結構集まったので、彼らも大人しく僕らについてきてくれますよ」
銃を確保した。
これが大きい事だった。
逃げても撃って殺す。
そして近接で奪おうとしても、こちらは完璧な武人集団なので無理がある。
捕虜を連行しても逃がさない体制を持っていた。
「それで、あちらには列車というものがあるらしくて、大移動も可能だと。向こうに用意してもらいましょうかね。交渉する。こちらとしてはね。それで、ここのシャッカルの北に鉄道が走っているらしいんで」
「なるほど」
「ええ。でも、まあ。こんな計画を立てていたとしても、たぶん行き当たりばったりになるでしょう。そこで、僕はその都度計画を細かく変えるので、連絡はこちらに出します。定期船のように、潜水艇でこちらに連絡を行き来させますので安心してください。シャッカル。ロベルト間でですね。頻繁に連絡をやりとりします」
修繕を込みで、潜水艦を二。輸送艦を三。そして潜水艇を一。
これらが、ラーゼ市街地戦で勝ったことで、もらえた褒美である。
捕虜から、整備できる人も得ているので、確実にそれらを扱えるのだ。
フュンは、敵の物を完璧に利用する気であった。
「よし。この後。僕はあちらに行きます。来年の一月くらいまでに行かねば、援軍が来るかもしれませんからね。その前に、こちらからの強襲攻撃・・・違うか。得意の騙し討ちですね。見事に敵を騙しましょうかね。僕らで、巨大詐欺を働きますよ。あははは」
「「「騙し討ち?」」」
フュンの会議の最後の言葉に、会議に参加した幹部たちは引っ掛かった。




