表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 反撃の為の第一歩 ラーゼ市街地戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

552/741

第226話 先回り

 敵は暫く来ない。

 おそらく、本国の敵は、この地で圧勝でもしていると信じている。

 今の時間は、このアーリアを占領して、掌握する期間だと計算しているはず。

 だから敵が来ない。


 敵が考えそうなことを、フュンは紙に書いて並べていた。

 一つ一つ精査していく。

 ここが、フュンの力の真骨頂である。

 


 敵の思考を読む化け物フュンは、タツロウの資料を熟読していた。

 レガイア王国の主となる人物たちの性格を想像して、考えられることを予測していくと先程の結果に辿り着く。


 「つまり、僕の予想だと一年近くで、再度の攻撃・・かもしれませんね」


 敵の行動予測を立てていた。

 

 こちらを舐めているのは確実。

 タツロウの名演のおかげで、敵たちはアーリアなんていつでも落とせる。

 と考えて、だから戦闘艦を送り込まずにこちらを攻めた。 

 そして、これで勝ったと思っている。


 しかし、いくらアーリア大陸を馬鹿にしていたとしても、次第におかしいと気付く。

 それは連絡が来ないことだ。

 やり取りがない事を不審に思うはず。

 ラーゼを落としたら少なからず本国に連絡をすることになるはず、その日程に前後があったとしても必ずだ。

 

 なので、連絡が来ない事をおかしいと思えば、あちらから連絡船がこちらに向かって来るはず。

 だから、これも叩く。

 こちらに来た者を全て消していき。

 段々と違和感に気付いてもらうわけだが、それでもアーリアに割ける兵力は少ないと予想していた。

 それと並行して、戦闘艦をこちらに送り込む余裕もないはず。

 ビクストン・シャルノー間の戦いが、段々と激化しているようであり、そちらに全精力を注ぎたいのは間違いない。

 艦隊だって、作るのに値段も高いし、すぐには出来ない。

 だから無駄にしたくないだろう。

 タツロウが知りえた情報では、そちらの現在の戦いが、艦隊20の大激戦。

 ワルベント側が9で、ルヴァン側が11らしい。

 この差は小さいが、数の少ないワルベントが、ここから戦闘艦を減らすなど考えられない。

 それとここの数値が曖昧なのは、タツロウがアーリア担当の偵察部隊長で、北方面の偵察隊長じゃないからだ。

 正確なものは、向こうの戦いに入っている兵士たちと、大将軍のマキシマムしか知りえない。

 意外と役割をしっかり分けて考えている国なようだ。


 だからここから、こちらに来られる艦隊数は。


 「敵の用意できる数。輸送艦が六。潜水艦が四だな。倍だ。これが限度なはず。それ以上はこちらに割けない。絶対に戦闘艦はない。その現状で・・・」


 敵が倍となる。これがフュンの最終的な予想だった。


 「ならば第二次も勝てる。だが、僕はそれで勝ちたくないな・・・船の勝負で勝ちたい。ヴァンで勝ちたい。もしかしたら今後、向こうとの戦いは海戦がメインになるかもしれない。アーリアを守るためには・・・・一度海で勝ちたい」


 フュンは、あらゆる計算をしていた。



 ◇


 ラーゼ市街地戦後のアーリア歴3年の間は、敵はやってこなかった。

 これもフュンの予想通りであって、フュンもあらゆる問題は4年で出てくると思っていた。


 そして、アーリア歴4年の1月。

 ここで、潜水艇がやってきたことを感知した。

 これはただのこちらの様子を窺う敵で、ラーゼの様子を見に来ていた。

 現在のラーゼには、レガイア王国の旗が飾ってある。

 だから、レガイア王国が、ラーゼを占領はしていると勘違いはしてくれたはず。

 なので、1月の部隊は、すぐに帰っていった。

 上陸もせずにワルベントへと帰る。様子見であったようだ。


 次の3月。

 ここでも似たような事が起きるが、今回は上陸しようとこちらに動いてきた。

 より情報を知りたいと思ったのだろう。

 だから、フュンは、ヴァンの海軍で勝負したのである。

 彼の海軍は、小型の船の群れであった。

 釣り船が少し大きくなった程度の船を、沖に出して、漁船のような動きで、漁をしているように見せかける。

 それで徐々に潜水艇に近づいていく。

 向こうも事を荒立てるのはしたくないので、隠れていた。

 しかし、これは拿捕するための罠だ。

 小型船の中に、大きな網があった。


 それを、連携して投下。

 潜水艇を捕まえるのではなく、意味なく上から被せるだけである。

 これの意図は、目標物の視認である。

 その網を目安に、サブロウ丸を投下するためだ。

 船体にぶつかると、爆発していく。

 対水中超小型爆弾『サブロウ丸姑息砲』である。

 ハリソンと改良した。

 対潜水艇の切り札だった。


 と、このように敵の連絡船も沈める事に成功していく。


 これが、次に5月に一件。 

 計三件の連絡船を発見したのだ。

 ちなみに5月には加減が分かったので、敵の船の拿捕にも成功している。

 これで、フュンも思う。


 「これからが本格的でしょう。本物の潜水艦。輸送艦が来るはず。さすがに、半年経っても、何も音沙汰なしでは、許せないはずだ。それに送ってきた連絡船が帰らないのもおかしいと思うはず」


 原始人にいいようにされているなんて想像がつかないけど、帰ってこないのはもっとおかしい。

 そう考えてくれるはず。

 それになにより、ミルスという男のプライドが傷ついているはずだ。

 気に障るはずなのだ。

 フュンは、実際に会っていないのに、ミルスの性格を掴んでいた。

 だから、会ってしまえば、もっと相手を手玉にとれると思っていた。


 「さて・・・まずは、こちらの準備も必要だ・・・クリス」

 「はい」

 「ジュリさんをこちらに」 

 「わかりました。お連れします」

 「ええ。お願いします」


 ◇


 フュンがいる作戦会議室に、ジュリアンが来た。


 「おう。オレだ。どうしたフュン」

 「ジュリさん」


 フュンは立ち上がって、彼女を出迎えた。


 「座ってください」

 「悪いな。茶まで」

 「いえいえ」


 二人でお茶を飲む。


 現在、ジュリアンはドラウドを完全引退して、鍛冶師の方で働いていた。

 しかも、アンは王都にいるので、ジュリアンがロベルトで製造業をしている。

 バルナガンにいた職人たちを、ロベルトで束ねているのだ。


 「で? オレに何用よ?」

 「ジュリさん。究極武装歩兵(オランジュウォーカー)の増産は? どうなっています」

 「ん? あれか。あれは2万でいいんだろ。この間、納期通りに・・・あれ? え、足りてねえのか?」

 

 ジュリアンにしては歯切れの悪い言い方だった。

 

 「はい。今回のゼファー軍の数ですね。足りてますよ」

 「そうだよな。だからそれっきりだな。今はあれを爆増させたのに疲れて何も作ってねえ。職人の連中もお休みよ!」


 ジュリアンたち鍛冶師は、あの武装を手作業で作った。

 工場のないアーリア大陸では、武装も手作りである。

 でもそのおかげで、敵よりも優れている武装を手に入れている。


 二万の究極武装歩兵(オランジュウォーカー)を、構想から四年で作り上げたのだ。

 それはそれは・・・大変な作業であったらしい。

 あのジュリアンが根をあげるほどであった。


 「すみません」

 「ん?」

 「あと三万。いや、もう少しお願いします。とりあえず直近では三万を、お願いしたい」

 「ば!?・・・あれをか」

 「はい。僕らは向こうでも決戦するかもしれませんので、あの武装を装備する人間を増やしたい」

 「・・・・おい・・・死ぬぞ。こっちの誰かがな」

 「ですよね」

 「・・・何か、製造過程に革命が起きない限りな・・・きついぞ。厳しい」

 

 あと三万。

 職人の誰かが死ぬぞと脅すジュリアンは、あながち嘘じゃないと思っている。

 あれを作成するのに一個でも数日かかる。

 それは、様々な工程に時間がかかってしまうのだ。

 仕事を分担させても、職人たちも多くいるわけじゃないので、過労死するだろう。


 「やべえな。でも必要なんだよな。フュン」 

 「はい。必須です」

 「・・・・じゃあ、他の都市から貰えるか。職人が欲しい。そうだな。サナリア。ババン。あそこらへんのが欲しいな。そしたら何とかロベルトで回せるかもしれん。それと普段の物は製造停止にして、それだけを作り込めば・・・なんとか。三万は確保できるかもしれない」

 「じゃあ、お願いしたいです。国庫から出します。お金は心配せずでお願いします」

 「わかった。やってみよう。限界を超えてな」

 「お願いします」


 フュンの顔色を見て、ジュリアンは察した。

 相当困っている。

 おそらく、敵地での陸上戦をするに、二万じゃ足りないと予測が立ったのだ。

 本当は、これ以上の数の武装が必須だと思っているのだ。


 それにジュリアンたちは、銃を作れなかったので、武装で役に立とうとしていた。


 「フュン」 

 「はい」

 「あまり根詰めるなよ。体調も整えとけ。お前に倒れられたら、こちとらあぶねえ気がする。お前抜きじゃ、ワルベント大陸はおろか・・・アーリアもまとめられねえかもな」

 「それはないでしょう。僕の代わりなんていくらでも」

 「いや、今はお前が頼りなはず。だから生きろよ。なんとしてでもだ。オレも頼りにしてんぜ」

 「・・・ええ、わかりました。肝に銘じておきますよ。ジュリさん」

 「おう。そうしとけ」


 フュンとジュリアンは、ここで先の為に、武装増産の計画を立てたのである。

 これはいずれ来る大決戦の為の準備ともいえる行為だった。



 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ