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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 反撃の為の第一歩 ラーゼ市街地戦

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第225話 僕がナボルとなる

 ロベルトの監視塔。

 クリスの隣の位置にある望遠鏡から目を離したのはミュウ。


 「あれ。ビビっただろうな」


 後ろにいたハリソンが聞く。


 「どうした。ミュウ?」

 「うん。ゼファーさんの槍。銃弾・・・斬ったよね。あそこでたぶん」

 「ああ。あれだな。そうだな」


 ここまでの訓練で、二人は、ゼファーとゼファー軍に付き合っていた。

 ワルベントの戦い方を教える為である。

 そして、その時に、銃が煩わしく進軍スピードを落としたくないからと言って、盾や籠手じゃなくて、そのまま武器でも斬りたいと言ってきたゼファーの頭のおかしさを体験していた。

 二人はこの時、『こんな危ない人がいるんだ。世界には常識が通用しない人がいる』と思ったらしい。

 二人の手記に同じような事が書かれている。


 「うん。人間技じゃないもん。なんで弾が見えるの? ハリちゃん見える?」

 「見えるわけないだろ。ゼファーさんにしか出来ないだろ」

 「うん。結局ね。でも他の人だって、籠手で防御できるんだよ。みんな。この大陸の人。強すぎ~~~」

 「ふっ。そうだな」


 ハリソンとミュウは司令部で戦いを見学していた。

 この二人も表に出ても良くなったから、フュンたちと行動を共にしていた。


 「武の達人たちって、凄いよね・・・みぃらの力なんて大したことないもん」

 

 身体能力が段違い。

 動体視力なんてありえないほど違う。

 見えている世界が別世界。

 それがアーリア大陸の人々の見えている景色だとミュウは思う。

 それにここの人たちは、この戦いを数百年続けてきたから。

 安全距離からの射撃とは違う、命と命のやり取りをして、死と隣り合わせの戦いをしてきた人間は、極限の強さにまでなるのだと。

 ミュウは、ワルベントの兵士としてその違いを感じていたのだ。


 「こちらの戦い方・・・これが見事に嵌ってしまえば、ワルベント大陸は無残に負けるしかない・・・銃が主体では、勝てるわけがない。あの究極武装歩兵(オランジュウォーカー)がある限り・・・無理だよ。レガイア王国! 戦うの諦めた方がいいもん。みんな、強いんだもん」

 「そうだな」


 ミュウの感想に、全面的に賛成したハリソンだった。

 二人は、戦いの終わりを見つめていた。



 ◇


 ゼファーが大将を倒した後。

 フュンが前線へやってきた。


 「あれま。僕が来たんですけど。終わりですか」

 「殿下。大将は、こいつらしいです」


 ゼファーが、気絶しているバルバロッサの首根っこを掴まえて無造作に持ち上げた。

 可哀想な感じで、まるで物のような扱い。

 でもまだ物の方が大切に扱われているかもと、フュンは思った。


 「僕が前に出た時に倒そうとしたんですがね。やっぱりゼファーを止められないと。うん。そちらには武の人間がいないか。そうですね。いなさそうですよね」


 フュンの予定は、ゼファーを止めてもらって二人で前進する予定であった。

 でも、ゼファーが止まるわけないとも思っていた。


 それとフュンは、武人がいるか。

 これを確かめたかった。

 しかし、ワルベントにはいないようだ。

 指揮官はいても武人はいない。

 ならば、この先も戦い方次第で勝てる可能性がある。

 ここでフュンは、この戦いの最大の収穫を得ていた。


 「よし。では」


 フュンは、全体に話しかける。


 「聞け。レガイア兵。銃を地面に落とした者から、助ける。今から、10数える。その間に落とさない者は、命が無いと思え。我らは、最後まで戦うと宣言したからな。武器を持つ者よ。10秒後は、死を覚悟せよ」

 

 カウントダウンによる。

 フュンの脅しが始まった。


 「10・・・9・・・8・・・」


 10秒は短い。

 判断するにはもう少し時間が欲しいと思う兵士たちだが、バルバロッサの近くにいた兵士たちは、鬼の強さを目の当たりにしてしまい、何も迷わずに銃を落とした。

 それが、徐々に波及される形となり、結構な数の兵士が銃を落とし始めた。


 「7・・・6・・・5・・・」


 数を数えるたびに、銃は落ちていく。


 「4・・・3・・・2・・・1・・・0」


 しかし全部が落ちたわけじゃない。

 だから。


 「ゼファー軍。持っている奴を蹴散らせ。進め!」

 

 フュンの指示は、武器を持っている奴の排除。

 ゼファー軍は各々がバラバラに行動を開始。

 銃を落とした兵士たちは無視されて、持っている奴らが叩きのめされていく。

 その異様な光景を前にして、持っていた人もまた銃を落とし始めた。


 全面降伏を強制的に実行させる。

 フュンの完璧な戦争の運びである。


 第一次ラーゼ市街地戦。

 フュンの完全勝利であった。



 ◇


 その後。

 こちらの港に来た潜水艦。輸送艦を拿捕。

 その乗組員も捕虜とした。 

 ただし、兵士じゃない乗組員たちは、捕虜よりは緩く扱われた。

 一括管理は同じだが、監視が厳しくなく、そちらの方には、何よりも美味しい食事を提供した。

 それと、明るい場所で、普通の家の様な場所を与えて、気持ちとしてはお客さんのような感じであった。


 それに対して、兵士たちは地下室。

 牢屋での投獄に決まっていた。


 捕虜となった兵は、四千。

 六千が死亡するという。

 半数以上が死亡する戦いなど。

 当時のワルベント人では、なかなか経験のない事だった。



 「さてと。拷問でもしますかね。前にここに入ってくれた兵士さんたちよりも、より詳しい情報を知りたい」

 

 暗殺時の兵で捕まえた者から、あなたたちの情報は頂いた。

 タツロウからではない情報であると強調していた。


 「あなたがバルバロッサですよね。そして隣が、偵察隊長。タツロウだ。そうだな。こっちを連れて行けばいいか」


 フュンはタツロウの方を指名した。

 軍隊長バルバロッサ。その直属の部下二名と、タツロウを同じ部屋に監禁していたのだ。


 「き。貴様。タツロウをどうする気だ。殺す気か」

 「え? 拷問するって、言ったじゃないですか。偵察隊長なら、情報があるはず。あなたが話してくれないみたいなので、彼から先に話を聞きますよ。では、じゃあまた。あ、それと次にあなたですからね。その時はよろしくお願いします」


 軽い感じで脅すのが、また怖い。

 バルバロッサは、フュンの前では威勢があったが、いなくなると恐怖した。


 タツロウを地下牢とは別の場所に移動させる。


 ◇


 タツロウを連れて行った部屋は、会議室であった。

 アーリア王国の幹部たちもいる中で、フュンとタツロウは再会を喜んだ。


 「いや。よかった。タツロウさん。無事でしたか」

 「あ。はい。いや、もう少しでタイロー王に殺される所でしたけどね」

 「え? な、なんで???」


 フュンが驚くと、後ろにいるタイローが、申し訳なさそうに前に出てきた。


 「すみません。フュンさん。タツロウさんだと思わずにですね。思いっきり腹を殴ってしまって・・・」

 「えええええ。タイローさんの拳をお腹に!? まずい。どうなってますか。僕に見せてください」


 フュンは心配になって、タツロウの服をめくりあげた。


 「ぐおっ。腫れてる~~~。サナリアの傷薬を!」

 「フュンさん。もう塗りましたよ」

 「あ。そうですか。じゃあ、治るか」


 タイローが手当てをしてくれていた。

 

 「「タツロウ」」


 二人がやってきた。


 「ハリ。ミュウ。元気だったか」

 「よかった。生きてたか」

 「みぃは元気だよ」

 「ああ。二人とも無事で元気だな。よかった。心配してたぜ」


 二人は思った以上に元気だった。

 見知らぬ大陸でも、寂しい思いをしていなくて安心した。

 フュンが約束を守ってくれていたと、タツロウは感謝した。


 「それで、今から偽装工作をしながら話し合いに入りますね・・・サブロウ!」

 「おうぞ」

 「タツロウさんにメイクをお願いします。ボコボコメイクですね」

 「了解ぞ」


 フュンは、サブロウに偽装工作を頼んだ。

 体中に青あざを作る。

 それはあのナボルの変装技術を駆使して、ボディメイクをするのだ。

 ボコボコに殴られて、痛そうな傷をタツロウに施していき、拷問されたタツロウを作り上げていく。


 その間。会話は続く。


 「タツロウさん。帰ってからどんな感じで話が進みました」

 「はい。こちらへの攻撃は今のでいけると思っていましたよ。雑魚の大陸なんて。簡単だろう。この考えに仕向けました。俺って演技派ですよね」

 「ええ。ええ。それは名演ですね。助かります。舐めてもらっていた方がいい。次も戦いやすい」

 「まだ戦うんですよね」

 「はい。でも次はどの程度の規模で来るのか。この予測が立たない。ここでタツロウさんたちを解放してそちらに返すわけにもいかないですからね」


 フュンの第二段階の計画。

 それは、この戦いの結果を敵に伝えないである。

 バルバロッサが率いた軍は、ここで音信不通になる。

 

 そうなると、ワルベント大陸としては、勝ったのか。負けたのか。

 本土で情報を取れないのだ。

 そこを狙うのがフュンである。

 考えとしては、もう一度、アーリアを屈服させるための戦いに、敵が来るはずなのだ。

 帰ってこない兵士たちの為。

 または面子の為にもう一度兵を送り込んで来る。


 そこをフュンたちは叩いていく。

 二度の戦争の勝利。

 その戦果を持って、アーリア大陸は、ワルベント大陸に乗り込む。

 それがフュンの第三段階の計画だった。

 この先もあるらしいが、その計画はフュンの中にしかない。

 あまりにも難しいミッションなので、皆には知らせずにいた。

 出来るかどうかも、見当がつかないようなのだ。

 だから黙っている。


 「・・・そうですね。僕としては、もう一度決戦ですね。しかし、こちらへの量は・・・どの程度で。どうなってるんでしょうかね。向こうの海軍などの情報が知りたいな」

 「そうですね。俺の予測でもいいですか」


 サブロウが、肩のメイクを完了させた。

 次はと、お腹を作ろうとしたが。

 タツロウのお腹だけは、ボディメイクをしなくてもよかった。

 みぞおちからやや下が、思いっきり紫色に腫れている。

 『じゃあ、ここはこれでいいや』と思ったサブロウは、タツロウの太ももに取り掛かった。


 「いいです。タツロウさん、お願いします」

 「俺はたぶんですよ。同程度だと思います。実は、こちらの今の状況。シャルノーでの戦いが激化しているらしくてですね。アーリアに今の倍。そこはいけたとしても、三倍以上の兵力を、こちらに向かわせるのはありえないと踏んでいます。兵も無理ですが、何より兵器が難しい」

 「シャルノー?」

 「はい。地図を・・そうだ。タイロー王にお渡した資料の中に地図があります」

 「タイローさんに?」


 フュンはタイローを見た。

 すると、笑顔のタイローは資料を持っていた。


 「フュンさんにお会いした時に渡そうと思っていて、ここにありますよ」

 「そうでしたか。ありがとうございます。タイローさん」

 「ええ。どうぞ」

 「はい」


 資料を開くと、別紙に地図がある。

 それを早速フュンが開いた。


 「これは・・・これが世界地図の詳細か。やっぱり大きいな。ワルベントとルヴァンは・・・」


 詳細な地図になると、ますます二大大陸が大きくみえる。

 子供の頃。

 サナリアから見たアーリアは、あんなに大きいと思ったのに・・・。

 今のこの二つの巨大大陸を見ると、あの大きかったアーリアでさえ、とても小さく見えた。


 「それで、ワルベントの西の端。そこがシャルノーです」


 メイク中だから、地図の近くにいけないので、タツロウは口頭で地図を説明した。


 「なるほど。このブーメランみたいな形の。西の端ですね」

 「はい。そうです」

 「・・・はぁ。なるほど。大陸間が・・・ここで近いんですね。もしかして、これ、相手の大陸が見えていますか」

 「はい。そうです。水平線の向こうにある感じじゃないです。見えています」

 「なるほど。だから戦闘激化地域なのか・・・」

 

 フュンは地図から、戦争を想像していた。

 互いの大陸が近いから、互いの国家が争う。

 それはまるで、かつてのガルナズン帝国と、イーナミア王国の関係だと思った。


 そして、それはワルベントとアーリアの関係も・・・。


 「これは。やっぱり背後の憂いの為。僕らの大陸を支配下に置きたいんですね。それも出来る限り戦力を使わないで落としたい。まあ、文明が違うんだ。そう思うに決まっているか・・・蛮族に思う。田舎者に思う・・それはまるで・・・僕の故郷・・・」


 口で説明されるよりも、詳細な地図を見るとそういう事だった。

 アーリアを手に入れれば、あとは本腰を入れて、目の前の強大な敵と戦うだけ。

 これはまるで、ガルナズン帝国と、サナリアの関係だった。


 「・・ふふふ・・・ハハハハ」


 フュンは思いっきり笑った。

 周りにいた幹部たちも心配になる。


 「殿下? だ、大丈夫ですか」

 「ええ。ゼファー心配しないで。少し面白かったのですよ」

 「な。何がでしょう」

 「これはまるで・・・そうですね。神様が僕に挑戦しろ・・・と言って来たんですね」

 「挑戦しろ?」

 「はい。そうですよ。見てください。この位置。このアーリアの位置。レガイア王国の位置。これは、昔のサナリアとガルナズン帝国だ」


 フュンは昔を思い出した。

 それは、父が苦悩していた時代である。


 「これは、父を越えろという事ですね・・・」

 「ん? 殿下。それは・・・どういうことでしょう?」

 「従属の道を選んだ。それが僕の父アハトだ。でも僕は選ばなかった。従属は絶対にしない。あんな悔しい思いは絶対にしたくない。だから、その決断を僕がした。だったら、この状況をどうするんだ。っていう風に地図から質問されましたね。これは僕にどうするんだ。答えてみせろと、神様は言って来てますね」


 苦しい状況は、あの時のサナリアと一緒。

 でも、これを打開するには、切り札がある。

 それは・・・。

 

 「でも大丈夫。僕らは一つだ。あの時のサナリアは、弟。ラルハン。これらが邪魔な分子で、バラバラになった原因。それと、それに付け込むナボルがいたんだ。あれのせいでサナリアは死んだ。でも今のこの味方の環境に敵がいない。そんな素晴らしい状態に加えて。むしろですよ。敵方に僕らの味方がいる。それがタツロウさん。それと、ライブックさん。それにアスタリスクの民たち・・・つまりこれは・・・」


 フュンは不敵に笑った。


 「僕がナボルになればいいんだな」

 「「「!?!??!?!?!」」」


 フュンの言葉に全員が驚く。

 言っている意味が分からなかった。


 「相手の国を崩す。それは暗躍が一番だ。それと僕の口が重要となる。裏と表の外交戦術だ。勝負はここからだな」


 フュンは顔を上げて皆を見た。


 「みなさん、僕を信じてくれますか。ここから、かなり非道な事をしますがね。アーリア大陸だけは守ってみせます。信じてもらえますか」

 「何を言って。殿下。我はあなたしか信じていませんぞ」

 「そうですか? でもゼファー、それは駄目ですよ。ミシェルを信じないと。僕よりもね」

 「あ。そうですな・・・そうでした。申し訳ない」


 ゼファーは、怒られるかもとミシェルをちらっと見たが、ミシェルは全然気にしていなかった。

 ミシェルも同じ気持ちだからである。


 「ええ。では、みなさん。第三段階までの僕の戦略を教えます。でも、その先は少しだけ待ってください。僕も計画を練り直しますから。よろしいですか」


 フュンは皆に優しく呼び掛けた。


 「「「はい。太陽王」」」

 

 フュン・メイダルフィアがナボルとなる。

 それが、アーリアを守る事に繋がる。

 フュンは、敵の表と裏側に潜り込もうとしていたのだ。 

 暗躍をして世界を動かす。

 ここからが新たな戦い。

 アーリアの英雄の新しい戦略である。

 

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