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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 反撃の為の第一歩 ラーゼ市街地戦

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第223話 指揮官フュンの口撃

 互いの軍の先頭の人物が会話となる。


 「と。止まれ。貴様ら、何者だ」

 「いや。あなたたちが止まりなさい。土足で人の大陸に足を踏み入れるなど。失礼ではないですか?」


 バルバロッサの言葉を跳ね返すのは、フュン。

 戦いは、口から始まる。


 「土足だと。私は最初に警告をしたぞ」

 「最初に警告? ん、何の事でしょうか?」


 とぼけた声で返答した。


 「私は声を届けたはずだ。砲撃の宣言までしているぞ」

 「さあ、何の事でしょうかね」


 知らないふりをした。


 「くっ。話を聞いていないだと、失礼な奴だ。礼儀のなっていない奴め。さすがは原始人だ。私は戦争の宣言をしていると言っている。白旗を出せと言っていたのだ」

 「あれがですか。一方的な言い分で?」

 「話を聞いているではないか」


 聞いていて無視をしたのだ。


 「ああ、あれが警告だったんですね。しかも、あんなのが宣言だったんですね。へえ」

 「あたりまえだ。他に何に聞こえるというのだ」

 「え? いや、あれはね。あなたの独り言に聞こえていましたよ。あなたがあんまりにも悦に入ってお話されていて。それと、話の中身が、あんまりにも自分勝手だったのでね。こちらとしては、一人でお話しているだけにしか聞こえないです。ええ。ええ。あれは独り言だ。うんうん」

 「き・・・貴様」


 フュン・メイダルフィアと口で戦う。

 そいつは無理な話だ。

 こちとら、ミランダの最高傑作の弟子なのだ。

 もし勝ちたかったら、ジークか、ミランダを連れてこい!

 と、アーリア戦記の人物紹介の文にも書いてある。

 

 「それに・・・貴様、何者だ。私と会話するなど、野蛮人が勝手に会話してもいいわけがない。位の高い者をここに呼べ。貴様程度が私と話すな」


 こんな奴が偉い身分なわけがない。

 バルバロッサの個人的感想である。


 「へえ。そうですか」

 

 思いっきり馬鹿にした言い方だった。

 だから、バルバロッサは、怒った口調に変化する。


 「な!? おい貴様。何者なんだ。さっきから私に失礼だぞ。どうせ、どこの馬の骨とも分からない奴だろ。私に話しかけるな。邪魔だ。上の者を出せ」


 実は、バルバロッサに立ちはだかっている男こそが、この大陸で一番偉い人物なのだ。

 でも仕方ない。

 実際にそうは見えないから、周りは困っている。

 本人は困っていない。


 「何者? え、僕の名前を知りたいんですか」


 この馬鹿にした言い方が、また相手の頭に血をのぼらせる結果となる。


 「そう言っているだろう! 気付け!」

 「だったら、そちらから名乗ってくださいよ」

 「・・・な、何を言って」

 「だって、僕がね。礼儀のなってない奴なんでしょ。それにあなた。自分から名乗らない方が、礼儀がなってないんじゃないですか。さっきあなたが言ってましたよ。どうなんですか。そこのところは?」


 先程の言葉を蒸し返す。

 相当な嫌がらせである。


 「下の者から名乗るべきだ」

 「へえ。下ね・・・あなた。上なんですか」

 「当り前だ。レガイア王国の軍隊長だぞ」

 「それはどのあたりの位置で?」

 「それは、かなり偉い方だ」

 「へえ。そうですか。その答え方だと、知性を感じなくて、なんだか偉く感じませんね。あなた、大した事ないのでは?」


 フュンの言い回しが、いちいち癇に障る。

 バルバロッサは、怒りを隠しきれなくなっていた。


 「なんだと!」

 「だって、かなり偉い方って。上から数えた場合ですか? 下から数えた場合ですか? どっちか分からないですよ。ほら、下から数えて、三個くらい一般兵より上でも、そう答えられるじゃないですか。僕は偉いですよ~。って自慢できますよね。よかったですね。それはそれで」


 この言い方もまた、彼の怒りに燃料投下の爆弾発言である。


 「き、貴様・・見ればわかるだろうが。一軍を指揮しているだろ」

 「一軍? 一万くらいの数が?」

 「そうだ。貴様らを蹂躙するのに、一万で十分だ」

 「はぁ。そうですか。でもこちらだったら一万の軍の指揮官なんて、ゴロゴロいますよ。かなり偉い方とは言えませんね」

 「我々を貴様ら野蛮人と同じにするな。私たちは貴様らの数段高みにいる」


 フュンはここでタツロウが作戦を上手く実行してくれているんだと思った。

 野蛮人。田舎者。

 文明の違いをしっかり伝えてくれているから、これほどの舐めた態度でいてくれるのだと思った。


 「いやいや、こちらに来たら、そんな考えは、関係ないですよね。ここに来たら、ワルベント大陸の事なんてどうでもいいでしょ。こっちとしては関係ないですもん。だから対等だ。人は平等で対等。役職は上下があっても、対等なんですよ。だから、自分から名乗りなさいよ。僕の名を知りたければ、自分からいいなさい。あなた、駄々をこねる子供みたいですね」


 名乗らせようとするも、逆に返される。

 これは、完全にフュンのペースであった。

 バルバロッサだって、別に馬鹿じゃない。

 でも、この問答の間は、馬鹿に思えるくらいに、フュンの手のひらの上で、コロコロと感情を転がされていた。

 人の心をコントロールする怪物がフュンなのだ。


 「なんだと貴様。私と貴様が対等だと。野蛮人で原始人の分際で私と同じなわけが・・・」

 「ああ、はいはい。あなたね。こうしてね。野蛮人で原始人の分際に、腹を立てている。そんなあなたはですよ。同じ野蛮人じゃないんですかね? こっちが下の者なんでしょ。そんな奴に、そうやって、いちいち腹を立てていたら、あなたも下の者と同等の価値なんじゃないですか? そうですよ。あなたは僕らと一緒だ。だって、上の者なら、今の言葉の応酬でも腹を立てませんもん。心が狭い狭い。肝が小さい小さい。ね、野蛮人仲間さん!」

 「ぐっ。き、貴様!!!」


 言葉遊びが過ぎる。

 しかし、バルバロッサは会話の勝利の糸口が見いだせない。 

 ああいえば、こういう。

 天才的な返しでやられてしまう。


 「それで、結局あなたは何者です? あなたのお名前を知らずにですよ。僕らが、あなたに勝ってしまうのはね。それはそれで失礼かなって思うので、一応名前を知りたかったんですけどね。教えてくれないという事で、こちらとしては、名も知らぬ者を倒しますよ。まあでも、別にいいでしょうね。あなたが望んだことですしね。ねえ、名無しさん」

 「・・・・」


 馬鹿にされ過ぎて、言葉が出ない。

 バルバロッサはここまで誰かにコケにされたことが無かった。

 怒りで敵全体を見れていない。

 先頭に立っているフュンと、その付近の軍中央しか見えていないのだ。

 視野がどんどん狭くなっていた。


 「じゃあ、こちらからも宣言しましょうかね。これは、独り言なんで、気にしないでください。野蛮人の言葉ですからね。聞かされても、覚えないでしょ。あなたたちはね」


 皮肉の後に、フュンの声色が変化した。


 「では、ワルベント大陸のレガイア王国軍に告ぐ」


 突如として、ビリビリと空気が震えた。

 フュンの言葉だけでの威圧が始まった。


 「私は、アーリア大陸の統一王。フュン・ロベルト・アーリアである」


 彼の力は、ワルベント大陸の人々を威圧できた。

 レガイア国の兵士たちの手が震えはじめた。


 「私が愛するアーリア大陸。そしてアーリア王国・・・ここを無断で攻撃をしようとしてくる賊共よ」


 フュンの言葉は相手への威圧。 

 そして味方への鼓舞である。

 ゼファー軍の兵士たちの手の方には、どんどん力が入っていく。

 

 「貴殿らは、死を覚悟して、こちらにやって来たのだろうな。もしや、誰も死なないで、こちらを占領出来るだろうという。甘い考えで、こちらに攻めてきたわけではないだろう」


 立ち寄った程度の考えであれば帰れ。

 要約するとこうである。


 「我々は手加減をせんぞ。すまないが、貴殿らはここで決死の覚悟で戦わねば、ただ、死を待つのみになるぞ。よいな。レガイア王国軍! 我々の前に立つ。それは、死を持って戦う覚悟があるのだとみなすぞ。だから、我々は最後まで貴殿らと戦うぞ。いいな。最後までとは、貴殿らが全滅するまでだ!!!」


 一人残らず倒し尽くす。

 野蛮人らしい考えだろう。

 フュンの言葉に込められた裏の意味だ。


 「では、ゆくぞ。アーリアが誇る最強の軍で、貴殿らを殲滅する」


 フュンは、味方に言い放つ。


 「進軍せよ。ゼファー軍。究極武装歩兵(オランジュウォーカー)出撃だ!!」

 「「「おおおおおおおおおおおおおおお」」」  

 

 アーリア最強の軍が、歩兵部隊となって進軍を開始した。

 フュン・メイダルフィアの人生最大の戦いの一つ。

 ラーゼ市街地戦の最終局面へと向かう。


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