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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 反撃の為の第一歩 ラーゼ市街地戦

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第221話 とても怖い仕組まれた戦場

 この街は、明らかにおかしい。

 ラーゼに来たことのない人間が、足を踏み入れても分かる事だった。

 だからこそ、ラーゼに来たことのあるタツロウには、違和感だらけであると感じている。


 港に人がいない。

 でも、それはいいだろう。

 なぜなら、最初の砲撃で、民が逃げまどったってなにもおかしいことはない。

 当然だ。

 一般人は、兵士じゃないので普通は逃げる。


 ただ、そこから市街地に進んでいけば、少なからず人間がいるはず。

 なのに、気配がない。 

 家から出る煙があっても、人の気配がない。

 そう煙はあるのだ。

 だから生活はしているはず。

 なのに誰もいないのは、なぜだ。


 この疑問を解決しようにも、誰かと出会う事が無いから解決しようがない。

 街の中の人間の一人くらいは腰を抜かしたり、女子供や老人がいて、逃げ出すのに遅れて、この場にいてもおかしくない。

 三十分しか時間がなかったんだ。

 なのに誰もいないのはおかしい。


 「変だ・・・どういうことだ・・・」


 タツロウもすっかり心がワルベント側にいた。

 今の見えている情報。

 感じている違和感を整理できずにいたから、フュン側に気持ちが傾いていなかった。


 「タツロウ殿。どうしますか」

 「いや・・・どうすれば」


 先発隊の千人長は、タツロウに聞いてみたが、タツロウが曖昧な返事をした事に少々怒り気味になった。

 

 「これは、家も捜索しましょうか」

 「家か・・・危険じゃないのか。誰もいないのが変だぞ」 

 「だから家を調べるのでしょう」

 「いや、家は」

 「いても、どうせ住民しかいませんよ」

 「待て。危険じゃ・・・」


 タツロウの静止を振り切り、先発隊千名はラーゼの市街地の中央の家々を同時に調べ回った。タツロウも後から追いかけるが彼らはどんどん進んでいく。


 だが、そこが罠である。

 フュンはこの考えを読み切っている。

 どこかに人がいないかと。

 しらみつぶしに家に侵入してくることを読んでいたのだ。

 

 そこは地獄の入り口。

 ラーゼの家の中には、アーリアが誇る最強の戦士、そして騎士団が潜んでいる。

 そんなことも知らずに、レガイア兵は普通の家の中に入るだけだと、ズカズカと中に入っていった。



 ◇


 ラーゼ中央やや南側の一般家庭の家。

 二階の寝室。


 「ふぅ。敵が来たら、私が出て行く。そしたら、お前たちは敵を逃がさない方向で頼む。処理は私がする」

 

 レベッカが率いるウインド騎士団は五名。

 気配を消して、敵が来るのを待ち構えていた。


 「はい」


 五名は、静かに返事をした。


 「外の音を拾うと。まあまあいるな。十。だが、その中で、全てがこの家に入るとは思えない・・・ここと同数か」

 

 敵が玄関のドアを開けた。

 レベッカの耳は、その音を捉えている。


 「来た。足音は、四・・・・他の音は感じられんな・・・四でいいか?・・・いいか。四で決定する」


 部屋に伝わる反響音で、数を数える。

 二階の廊下に来る瞬間を待つ。


 音が二つ。

 上に上がってきた。

 階段を登る音が聞こえ、廊下を歩く音が聞こえて、敵は部屋を開けようとした。


 自分がいる部屋のドアが開いていく。

 警戒もせずに敵は無造作に開けていた。

 武器も持たずにいるので、こいつは馬鹿なのかとレベッカは思った。

 せめて銃を構えながら、部屋に入って来いよと思う。

 それと死角を作らないように侵入して来い。

 レベッカは若干の怒りがあった。

 敵が一歩、部屋の内側に入った瞬間に、レベッカは天井から降りて一閃。


 敵は叫び声もあげられずに絶命した。


 「よし。次だ」


 廊下側に敵が倒れると邪魔なので、レベッカは蹴り飛ばして、寝室のベッドに敵を配置した。

 そして廊下に出て、別な部屋を探索している敵を静かに斬った。

 敵二人はレベッカを視認できずに、ひっそりと死亡したのである。

 

 そして、レベッカは続けて一階を探索する敵に近づくが無音。

 武器や体が壁に擦れることもなく、歩行にも音が無い。

 レベッカの移動は影に近いものだった。


 「お~い。上はどうなった!」


 下の階にいた兵士は、台所周りで声を出した。

 自分の所は安全だけど、上はどうだろうかと確認の声だった。

 その声を聞いているのはレベッカであるとも知らずに暢気な兵士であった。


 廊下からのドアは開けっ放し。

 だから、レベッカはドアを開けずにそちらの部屋に侵入できた。

 音もたてずに静かに高速移動をして敵の正面に入る。

 動きが速すぎて、敵はレベッカが目の前に現れているのに、ほとんど姿を確認できなかった。

 

 「悪いな。私の所に来てしまった。それが運の尽きだ」


 声を聞いて、そして斬られてから、気付く。

 さっきまでは、そこに誰もいなかったのに、今は目の前に刀を振り切った女性がいた。

 それが信じられない。

 兵下は、こんなことはありえないと思いながら亡くなっていく。


 そして、最後の一人は、お風呂の方を確認していた。

 廊下に出てくると同時に、レベッカと鉢合わせになる。


 「さらばだ。名も知れぬ。兵士たちよ。私に出会ったのが、運の尽き。いや、幸運だと思え。いずれアーリア一の剣士となる私に斬られるのだからな」


 レベッカの一閃に、慈悲はない。

 この家に侵入した四名の兵士は、全て声をあげる事も出来ずに、静かに始末されたのである。

 彼女のカバーをしようとしていた部下は、何もせずとも仕事が終了したのだった。


 「よし。片づけるぞ。敵がもう一度入ってくる可能性がある」

 「「「わかりました」」」 

 

 レベッカの戦いは終わった。


 ◇


 同刻。

 別な民家。

 副長メイファは、敵を踏んづけていた。

 

 「あらあら。オイタはいけませんよ。そちらの方々。私たちの大陸に、勝手に侵入するなんて、許されるわけがないでしょ。まったくねえ」

 「き。貴様! なんだこの重さは・・・女か・・・貴様は!」

 「はい。失礼な人ね。背骨でも折ってやろうかしら」

 「ぐはっ」


 苦しい状態からでも、銃を取り出そうとしたので、更に踏みつける。

 メイファの重たい一撃は敵の呼吸すらも止める勢いだった。

 

 「それで、この人と同時期に入った人は・・・捕まえているわね」


 メイファの部下たちは生け捕りにしていた。

 彼女の部隊は、獲物が打撃系である。

 だから敵を捕える事が出来た。

 それに、メイファのメイン武器が三節棍なので、敵をかなり痛めつけていた。

 刃物じゃない分、即死はありえない。

 ただ、メイファが操る竜牙は、死んだほうが楽かもと思うほどに、重たい一撃らしい。

 恐ろしい女性である。


 「それじゃあ、あなたたちは、私たちの大切なフュン様の元にお連れしましょうかね」


 生け捕りに出来たら、連行する。

 それが決まりであった。

 

 ◇


 同刻。


 「私たちに挑むには準備が足りんな。歯ごたえが欲しいな。敵にな」


 銃を取り出して、構える前に、兵士は惨殺された。

 円雷のリティは、廊下に敵を追い込んで一気に斬っていった。


 同刻。


 「ふぅ。悪いな。あんたらに恨みはないが。ここは取り逃がしちゃ、どやされるのは間違いないからな。あんたらの武器よりも、うちの団長の方が怖いからな」


 灼熱のランディは、銃よりも団長の方が怖いと思っていた。


 同刻


 「おい。ルイルイ。やりすぎだわ」

 「だって、この人たちさ。勝手に来たんだよ。もう少しさ。お邪魔しますとかないの。礼儀知らないんじゃないの」

 「だからってな・・・まあいいや」


 静水のルカの部下であるルイルイは、誰よりも早く敵を粉砕していた。


 ◇


 家に入って来た敵を把握したロベルトの戦士長タイローは、自分の近くに来た男に向かって、拳を振り被った。

 タイローの部隊は、タイローだけが相手を始末するのではなく、部下たちと同時に攻撃を仕掛けることにしていた。

 しかし、タイロー自体は、皆の行動の後に敵を始末しようと動いていた。

 全体のカバーが出来るようにである。 


 「ごめんなさいね。他の方も倒れているので、あなたもこれで・・・って、なに!?」

 「・・あ・・速い」


 タイローは、拳を振り抜いた時に敵の正体に気付いた。


 「タツロウさん!?」


 タツロウに気付いても、拳は止められず、タツロウのお腹にめり込む。


 「ぐはっ・・・い・・意識が・・・・」


 タイローの龍舞。

 それはレベッカの剣技。ゼファーの槍技。メイファの竜牙。ギルバーンの竜翼。ネアルの盾。

 これらの技と、威力が等しいのだ。

 だから、彼の拳は凶器である。


 「うわ。ごめんなさい。タツロウさん。大丈夫ですか」

 「・・・・」


 返事がない。

 意識を完全に失っていた。


 「まずい。まさか、あなたが潜入しているとは・・・これは、私が裏にお連れしていった方がいいな」


 運よくタツロウはタイローの元に来ていた。

 だから、タイローは部下に指示を出す。

 部下には、捕虜を収める場所の方に行かせて、自分はタツロウと共に司令部に行ったのである。


 ◇


 「タツロウさん。タツロウさん」

 「ん・・・あ・・ああ・・・あれ。タイロー王!?」


 この時点のタツロウは、タイローがまだ王だと思っている。


 「ああ。よかった。私があなたを殺してしまったらと、心配しましたよ」 

 「ここは・・・」

 「こちらの司令部です。あとで、あなたが疑われないように一般の捕虜の部屋にお連れしま

す。でもここでは情報を知りたい。今はそちらはどうなっていますか」

 「ああ。そうだ。こっちはですね」


 タツロウは持ちうる情報を、包み隠さずに全て提示した。

 

 「なるほど。敵は本気ではないと」

 「はい。片手間の戦力でこちらに来ています。舐めていますよ。完全にね」

 「そうですか。なるほど、わかりました。それだと、フュンさんの作戦通りですね」

 「はい。俺的には上手くいったかと思ってます」

 「ええ。ここまでは、ですね。このあと。フュンさんたちが仕上げをします」

 「え? どういうことで」

 「それは、今からタツロウさんと別れた後の説明をしますね・・・」

 

 タイローはタツロウに情報を提示した。

 それは、アーリアが一つになり、偉大な王が誕生したのだという事を説明したのだ。

 

 フュン・ロベルト・アーリアの誕生。

 アーリア大陸の偉大な太陽王の名である。


 「なるほど。フュンさんが王になっていたのか・・・そうか。先に偵察隊を始末したいから、この作戦」


 陸上にあえて敵を招いた理由はいくつかあるのだが。

 この偵察兵の実力を試す意味合いで、フュンは家の中に誘い込んだ。

 これが重要。

 なぜなら、敵に影がいるかの確認。

 それと、偵察兵とこちらの部隊の力関係を測る意味合いもある。

 フュンはあらゆる想定をしていた。


 「だったらこの戦い。もしかして、そちらの完勝になるのでは」

 「ええ。もちろん。そのつもりで、私たちは戦っていますよ」

 「ははは。さすがだ・・・」


 フュンを信じる者たちは、彼のすることも信じている。


 「それで、フュンさんがあなたに会えたらの場合での、作戦がありましたので、お伝えします」

 

 タツロウに会えた場合。

 それはタツロウには、『引き続きレガイア兵になりきってもらう』であった。

 フュンの考えでは、まだ敵の中にいて欲しいとの事だった。


 「わかりました。あ。そうだ。これを!」

 「なんですか。これは?」


 タイローは、タツロウから紙の資料をもらった。

 彼の胸の中。

 服の内側に、資料は縫い付けて、誰にも見せないための配慮である。


 「これは俺がまとめた資料です。あちらの情報を書き記しました」

 「ああ、あれですね。フュンさんが考えていた」

 「そうです。あちらの人物たちが記されています」


 敵の話をまとめている資料だった。


 「それじゃあ、タイローさん。俺をそこに連れて行ってください。演技はしてみせますよ。敵の中にまだ入っていましょう」

 「はい。お願いします。タツロウさん」


 タツロウの名演はまだ続くのであった。


 

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