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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 反撃の為の第一歩 ラーゼ市街地戦

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第220話 最初の動き

 アーリア歴2年12月。

 

 この時期からすでに、フュンたちはロベルトに入っていた。

 会議室に幹部を招集。

 ここでの幹部は、ゼファー軍のウォーカー隊出身者たちと、レベッカの騎士団の隊長たち。

 そしてロベルトの戦士たちである。


 「では、点呼を取ろうかな。集まったばかりですし、結束の意味を込めて、一回目なのでやりますね! 返事はしなくていいですよ。それぞれが、僕の目を見て頷いてください」

 

 フュンは優しく全員に話しかけた。


 「ゼファー。ミシェル。タイム。リアリス。カゲロイ。ニール。ルージュ。リョウ」


 ゼファー軍の幹部である。


 「レベッカ。ダン。リティ。ランディ。ルカ」


 ウインド騎士団の隊長たちである。


 「タイロー。メイファ。マイマイ。ショーン。ジーヴァ。ママリー。ナッシュ。ハル」


 ロベルトの戦士の戦士長たちである。


 「そして、司令部ですね。クリス。ギルバーン。イルミネス」


 この三人は全体の指揮を見る男たちであった。

 ロベルトの監視塔で、戦いを見守る役目である。


 「うん。アーリアの精鋭がここに集まりました。かつては共に戦っていたり。敵同士でもあったりと、色んなことがありましたが、今は仲間。アーリアを守るために戦う仲間であります。さあ、僕らは勝ちにいきますよ。ここの一年ないし二年ですね。ここで心を引き締めていきます。油断や慢心をしてはいけません。僕らは確実に武器などの力が劣っていますから、ここは団結力で上回るのです。いいですね」

 

 フュンの言葉に皆が頷いた。

 心ひとつに、我らは立ち向かう。


 「では、まず。来年から監視塔は三交代制にして、警戒をします。そして、ロベルトの宿舎に、三軍団が入る予定です。休息もしっかりとって普段から体を動かしておきましょう。いつでも戦争に入れるようにしないといけません。たぶん。ここの警戒部分がこの戦争の重要部分だと思っています。ここを怠らなければ、僕らは勝てる。そう思ってもらって結構です。準備を頼みますね。みなさん!」


 言葉で返事をせずにただ頷く。

 でも力強い返事に思うのは、皆の首振りが強かったからだ。


 「では今日は解散。時々総隊長を呼びますので、各々の軍をしっかり管理してください。ゼファー。レベッカ。タイロー。この三人をたまに呼びますからね」

 「「「はい」」」


 名指しであったので、三人は返事をした。


 「はい。では自由にしてくださいね。それぞれの軍の所に帰ってもいいですよ」


 最初のフュンは、油断だけはするな。

 その指示だけを与えていた。



 ◇


 そしてその後も、ちょくちょく隊長たちを呼んで各軍の引き締めに掛かり、準備万端状態を継続させていた。

 1月、2月、3月と、警戒は続き。4、5、6と進んでも全く衰えない警戒。

 油断や慢心はなかった。

 

 そして10月。

 問題の敵がやってきた。

 最初に発見したのはギルバーンの部下たちである。

 三交代制のギルバーンの番で敵が来た。


 「来ました。ギル様。海の向こうに異変が・・・」

 「どれ」


 超大型望遠鏡。 

 サブロウと、ハリソンが開発した望遠鏡で、水平線近くまでの船をとらえる事が出来る。 

 そんな望遠鏡を、ここでは二台も使っていた。

 

 「来たな。本当だ。フュン様。そしてクリスとイルをここに」

 「了解です」


 司令部に集まる。


 ◇


 「来ましたか。ギル」

 「はい。でもゆっくりです。フュン様、ほぼ動いていません。あれはどういう事でしょうか」

 「・・・見せてください」


 フュンは望遠鏡で敵の動きを見た。


 「・・・・なるほど。これは船でしょうか。あの大きいのは、潜水艦じゃないですよね?」


 潜水艇を見ていたフュンは、潜水艦の仕組みと形を知っている。

 あれの巨大バージョンだとタツロウが言っていたので、形が違う事に気付いていたのだ。


 「・・・んんん。潜水艦は恐らく、あの巨大な三隻の船の前と後ろにある二隻。タツロウさんが残してくれたメモにあった二隻ですね。と言う事は輸送艦一隻が、三隻になっている?」


 フュンはこの時点で敵の数の違いに気付いた。

 情報のズレがある。


 「タツロウさんが嘘をつくとは思えない・・・これは、タツロウさんが情報を知らせてくれた時とは違う予定に入ったとみていいでしょうね。三隻の輸送艦か・・・それだと兵数は一万じゃなくなるのか? もっと多いのか。少なくなるのはありえない」


 ここも肝だった。兵数が多いのはまずい。

 フュンの作戦が上手くいくかの瀬戸際である。


 「どうでしょうかね。タツロウさんにはこちらを思いっきり馬鹿にしてほしいとお伝えしたのですがね・・・相手は僕らを馬鹿にしてくれてませんかね・・・んん」


 楽勝ムードでこちらに来てくれないかな。

 フュンは相手の心をそちらに傾けたかったのだ。


 「フュン様。私の部隊で連絡を入れましたが、よろしかったでしょうか」

 「ん? イル。どうしました」

 「あの。光信号をここであげるのはまずいので、部下に指示を出しました。ロベルトを南下してから、光信号での連絡をさせるようにしました。元帝都へ向けてやったので、すぐにでも王都アーリアに連絡がいくかと思います」

 「ああ。ありがとうございますね。さすが、イル。王都への気配り、ありがとうございますね」

 「いえ」


 褒め称えるのがフュンの基本。

 嬉しくなっているイルミネスの口角は珍しくも上がっている。

 その間、ギルバーンの最初の疑問に答えたのが、クリスである。


 「フュン様。あの船の速度が遅くなっている原因。それは、もしや休息では?」

 「ん?・・・ああ、なるほど・・・そうか。あの輸送艦は、海上で進んでいるのか。海中を進めないなら揺れが激しいに決まっている。あの海域の嵐を、乗り越えた。それでは、兵士たちが大変な状態だから、回復のための休息ですね。なるほど」

 「そうだと思うのですが。どうでしょうか。フュン様」

 「ええ。クリスの考えが正しいかと思いますね。それなら、ギル。あなたが全体の軍に連絡を。ラーゼ南の例の場所に集合させてください。そして、イル。あなたは他の都市との連絡を取り合ってください。もしかしたらですけど。他の都市にも攻撃が来るかもしれませんからね。他の都市も警戒させましょう」

 「「はっ」」


 二人が承諾すると、フュンはクリスにも指示を出す。

 

 「クリス。あなたはここで、監視をお願いします。何かあったら、僕に連絡を! 影を使ってください。僕は下に降りて、戦争準備をします。ゼファー軍に入ります」

 「わかりました。おまかせを」


 敵が休息期間に入っている頃には、フュンは戦争準備を始めていたのだ。



 ◇


 敵が休息をとっている時、フュンは三人と会議を開いた。


 「いいですか。もうすぐ戦いが始まります。敵がどのような形で攻撃するか、わかりません。ですが、おそらく最初は呼びかけをすると思います。それをしないとね。どこの誰が攻撃してきて、恐ろしい結果を生んだのだという証拠が残りませんからね。なので、その呼びかけの時に、タイローさん。レベッカ。二人の軍を配置します。いいですね」

 「はい」「はい。父上」

 「タイローさん。出来たらでいいんですが、敵の顔を見てください。もしかしたら、タツロウさんもいるかもしれませんから、タイローさんなら判別が出来る」

 「わかりました。見てみます」

 「でも見るだけでいいです。いたらいいなくらいで。あなたの命が第一優先です」

 「わかりました」

 「では、みなさん。お願いします。交代で休息に入りながら敵の到着を見極めます」


 タツロウを知るのは、フュン。タイロー。ヒルダ。サブロウ。ミランダ。ゼファー。アン。サティ。

 それくらいの極少数しか、彼を知らないのだ。

 機密事項にして、多くの人間に触れさせないようにしていた。


 「ゼファー。軍はここに呼んでいますね」

 「はい。二万を待機状態にしてます。この裏です」


 城壁の裏に二万の軍を配置。

 ゼファー軍は最初市街地に兵を配備しなかった。


 「よし。では待ちます。僕らは敵が侵入してきてからが、本番だ!」

 「「「はい!」」」

 

 ◇


 アーリア歴3年10月10日


 警告が流れる。


 『こちら、ワルベント大陸から来たレガイア王国の艦隊である。アーリア大陸のラーゼ王国よ。我らは今から力を示す。降伏してくれれば、この力を見せはしないのだが、今より30分。白旗をあげて、こちらに港を使わせてくれれば、何もしない。いいな。今から30分だけ待つぞ。2時までは、回答を待つ! 回答のない場合砲撃をする』


 敵将の声がこちらにも響いてから、フュンは静かに全体に指示を出すために、三軍団の長に指示を出していた。

 

 「レベッカ。タイローさん。配置についてもらってもいいですか。それと、戦いの時に無茶は駄目です。ですが、最初は、確実に敵を倒していきますよ。こちらの命が大切ですからね。それと、引く指示もこちらが示しますので、サブロウの音球。こちらが出す音を聞き逃さないでください」

 「了解です」「わかりました」

 

 二人に指示を出し、二つの部隊は配置に着いた。


 ◇


 そして、敵が砲撃して上陸してからすぐ。

 カゲロイの部下のロロがやってきた。

 

 「フュン様」

 「ロロ!?」

 「クリス様からの連絡です」

 「なんですか」

 「数が大体一万でいいそうです」

 「なるほど。それならいけるか」


 もっと敵が来てるのかもしれないと思っていたので、フュンは予定通りの数に安心した。


 「それにしても、この短時間で、よく数えましたね」

 「はい。クリス様の部隊が、高速で数を数えたらしくて。輸送艦から出てくる数をざっと計算したらしいです」

 「そうですか。一万くらい。たしかにその数なら、前後をしても。急に三万とかにはならない・・・それなら一万勝負で決定ですね。よし。僕らの数が有利だ。いけるな」


 パッと見てからの計算であったって、そこから数が爆増するわけがない。

 フュンは勝利をこの手にしようと動き出した。


 「レベッカ。タイローさん。お願いしますよ。開幕は二人の部隊が重要です!」


 ラーゼ市街地戦の初戦が始まる。

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