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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 名優タツロウの工作

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第219話 戦いは意外にも静かに始まる

 アーリア歴3年 10月9日。


 魔の海域『ディヘキサ』を突破した潜水艦二隻は、輸送艦三隻を導きながら航行していた。

 ラーゼへと向かう艦の中にいるのはタツロウ。 

 それと、今回の攻略軍の隊長バルバロッサの隣に立っていた。


 しかしここで想定外。

 タツロウがもたらした情報は間違いとなってしまったのだ。

 だから彼も、内心は焦り散らかしている。


 それは・・・。


 現在。アーリア大陸へと向かう艦隊数が変わった。

 潜水艦二隻はそのままで、輸送艦が三隻となっていた。

 巨大輸送艦を作成したレガイア王国。

 一隻に乗れる数は、一万を確保できていた。

 だが、その一万を乗せても、食糧を多く乗せられない事に実験で気付く。

 計算上は作れていたのだが、実際に乗ると上手くいかずに、それに、1,2か月分じゃなくて、敵地から奪うとしても、もっと多くの食料が念のためにあった方が良いとの軍部の指摘により、作戦の改良が始まったのだ。


 念のための三隻で、食糧、水。人。

 これらを万全な状態で運びつつ、アーリア大陸を占領をしようとレガイア王国は動き出した。

 

 だから、その移動中。

 別な意味でタツロウはドキドキしていた。


 『情報を伝えたのはいいが、中身が違うぞ・・・兵数は一緒だけど。大丈夫だろうか。フュンさん・・・いや。どうなんだろう・・・どう戦うんだ。俺はもう教えられないぞ・・・どうしよう・・・濃霧砲? あれで戦うのか? どうなんだ!?』


 モヤモヤ砲から濃霧砲になる。

 それだけは聞かされていたタツロウ。

 だから、戦う際の情報として、フュンたちの武器の種類しか情報がない。

 それでどうやって勝つ気なんだと思う。


 でも更に思うことがある。

 こちらは輸送艦だけになってしまったぞ。

 輸送艦に配備するはずの砲弾も一発ずつしか持って来ていない。

 なぜなら、レガイア国は砲弾すらも節約に入ったのだ。

 今のシャルノーの戦いで、砲弾を使いたいとして、アーリア大陸との戦いを完全に舐めていたのだ。

 ラーゼを威嚇するためだけに使用する。

 そこから上陸で占領する。

 それが、ワルベント大陸の強襲上陸作戦だった。

 かなり舐め腐っているが、ルヴァン大陸とアーリア大陸では、文明の違いがありすぎると思っていて、ここではそのレベルで確実に勝てるだろうと踏んでいる。


 『これはアーリアの方が上手くいくのか。フュンさん。陸上戦で戦うのか。いや、船を奪うつもりだったんだ。でもだ。そのモヤモヤ砲だっけ。濃霧砲だっけ。どっちかが重要だったんじゃ。あれは砲弾封じの戦いをする奴で、俺たちの船をカウンターで焼き切る。作戦なんじゃ? だから一発しか持ってないのが、逆にまずいんじゃ。・・・おい。どうなるんだろう。大丈夫なのか。フュンさんたちは・・・どうなんだ・・・不安だ』


 タツロウは色々考えて不安になっていた。

 自分が乗る艦の心配よりもフュンたちの戦いの方を心配していた。


 「タツロウ。どうした。そわそわしているぞ」

 「あ。いえ。バルバロッサ軍隊長。大丈夫です」

 「そうか。お前の偵察によれば、あと少しだろ」 

 「そうですね。もう少し先で、ラーゼが見えてくるかと」

 「よし。その前に休息に入るか。輸送艦の方は揺れが大きいだろうからな。兵士たちの疲れをとっておこう」

 「そうですね。それがいいかと・・・」


 輸送艦は海上で、ディヘキサを突破したのだ。

 潜水艦にはない激しい揺れがあっただろう。

 この事を予測して、輸送艦の揺れからの回復措置が取られていたのだが、さすがにその揺れの回復には時間が掛かるはず。

 バルバロッサは的確な判断をしていた。

 マキシマムの部下の一人で、優秀な指揮官であった。



 ◇

 

 翌日。

 

 「よし。再び進軍を開始しよう。休憩は十分だろうからな。それに大陸も見えているしな」

 

 遠くに見えている大陸を、目指す。

 ゆっくり進めていた船を急速展開させて、ラーゼへ向かう。

 兵士たちの英気を養わせて、十分な体力にしてから戦いに臨もうとしていた。


 10月10日の午後1時。

 ラーゼの近海に到着した潜水艦二隻。それと輸送艦三隻は、ラーゼを観察する。


 「人は・・・港にはいそうだな。この時間でも仕事をしているわけか」

 「そうみたいですね。朝も昼もということですね」

 「なかなか働き者が多いようだ」

 

 港で働く漁師たちを見て、バルバロッサは感心していた。


 「軍隊長。どうしますか」

 「そうだな。ラーゼに仕掛けるか。最初から一発ずつ発射で終わりだろう。あとは慎重に上陸すればいいだけだろうな。まず港に弾を落とそう。定石通りだろう」

 「そうですか・・・」


 タツロウは、淡々と答えた。

 でも、内心は不安で一杯である。


 ◇


 10月10日の午後1時30分。

 ラーゼの港に、警告が流れた。


 「こちら、ワルベント大陸から来たレガイア王国の艦隊である。アーリア大陸のラーゼ王国よ。我らは今から力を示す。降伏してくれれば、この力を見せはしないのだが、今より30分。白旗をあげて、こちらに港を使わせてくれれば、何もしない。いいな。今から30分だけ待つぞ。2時までは、回答を待つ! 回答のない場合砲撃をする」


 この最初の言葉だけはバルバロッサで、この後数回ある警告は彼の部下がしていた。

 何度か流れる警告の言葉。

 ラーゼにまで届いているはずなのに、ラーゼからは白旗が揚がらない。

 港にいた漁師たちくらいが退避して、それ以外は動きが無かった。

 ラーゼの煙は相変わらずあり、人々が退避することもない。


 「やはり。我々の力も分からんとは・・・噂通りに原始人か。ミルス様が言っていたからな」


 バルバロッサは、ミルスから直接指令を受けた。

 その時にも彼は、アーリア人を馬鹿にしていたのである。

 

 『返答をしない? 油断させて誘いこむんじゃないのか・・・どういうことだ。フュンさん』


 タツロウはフュンたちの行動に疑問を持っていた。

 今この警告であれば、白旗を挙げた後に、こちらの軍を上陸させて奇襲するのが一番の良い手ではないのか。

 タツロウの考えは、オーソドックスな騙し討ちであった。

 

 「タツロウ。あと少しだが。お前はどう思う。現地の人々と触れ合ったのだろう」

 「・・あ、はい。そうですね。彼らは一昔前の我々ですから・・・今の状況を飲み込めない。現実を受け止められないのでは? 艦隊も持っていませんし。潜水艦なんて知らないでしょうし。ましてやこの巨大輸送艦だって、鉄の塊にしか見えないのでは?」

 「そうだな。原始人にはそうとしか見えないか」

 

 タツロウの回答は満点である。油断を誘うには十分な効力を発揮するだろう。

 だがしかし、フュンの考えが分からない今。

 これを言って、バルバロッサを勢いづけるのは正しいのか。

 そこが分からなかった。

 でもフュンは、とにかく馬鹿にしてほしいとの指示を出していたのだ。

 ここを忠実に守って、フュンを信じるしかなかった。


 「よし。二時になるな・・・いくぞ。港に射撃だ。脅しの一撃で、そこから上陸だ」


 バルバロッサの開戦の指示が出た。

 

 ◇

 

 ラーゼの港に落ちた砲弾はたったの三発。

 しかし、威力はとてつもなく、一発がアーリアの砲弾の五発分の威力であった。

 港は壊滅に近い形となり、そして、レガイア国の船が到着する。


 バルバロッサは、アーリアの大地を踏みしめると、上陸がすんなりいくことに疑問を覚える。


 「抵抗しないのか。どういうことだ。それに静かだ。兵士は。三万はいるのでは。それに住民は・・・逃げたか?」


 さすがに警戒した。

 無抵抗。それに返事もないし。人もいないように思う。

 輸送艦にいる兵士たちを上陸させてからも慎重を貫いた。

 港で待機させて、街の中には進軍しなかった。

 少し時間が経ってから。


 「偵察するか・・・いや、ひとまず先発隊とも行った方が良さそうだな・・・タツロウ」

 「はい」

 「偵察部隊と先発部隊の混合で進軍せよ」

 「わかりました」

 「慎重にいけ。なんだかおかしいぞ」 

 「はい」


 偵察部隊と、先発隊がラーゼの市街地に入った。

 大体千人ほどの人間が、市街地を探索する。

 それが、ラーゼ市街地戦の始まりである。

 しかしその動き、フュン・メイダルフィアだけは読んでいた。

 おかしな状況の敵地では、レガイア兵たちは慎重に動くはず。

 先に少ない数の先遣隊が動いて、本隊が動くはず。

 だから、それを分かっていたフュンの手の中にあった戦いなのだ。

 

 アーリア大陸の人間は。

 原始人。田舎者。

 そんなわけがない。

 彼らは戦乱の世を乗り越えてきた歴戦の英雄たちなのだ。

 ワルベント大陸と比べて武器などの性能に差があったとしても。

 フュンの策略は、ワルベント大陸の頭脳を越えていたのだ・・・。


 世界の運命を変える一戦。

 ラーゼ市街地戦。

 その詳細が分かるのは、アーリアの歴史だけである。

 他の大陸の書物には一切内容が書かれていない。

 秘密の決戦。

 それが、この大陸間戦争の初戦であるのだ。

 



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